ともだち-1-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(だいがくにかいのふゆ。ひるさがりにじてんしゃをこいでようちえんのまえをとおりがかったとき、)

大学2回の冬。昼下がりに自転車をこいで幼稚園の前を通りがかった時、

(みおぼえのあるうしろすがたがめにはいった。)

見覚えのある後ろ姿が目に入った。

(しろのぺんきでぬられたせのひくいかべのそばにたって、)

白のペンキで塗られた背の低い壁のそばに立って、

(むこうがわをじっとみている。すんでいるあぱーとのちかくだったので、)

向こう側をじっと見ている。住んでいるアパートの近くだったので、

(まさかとはおもったが、やはりおれのおかるとどうのししょうだった。こどもたちが)

まさかとは思ったが、やはり俺のオカルト道の師匠だった。子どもたちが

(えんていであそんでいるようすをいっしんにみつめている20だいなかばのおとこのすがたを、)

園庭で遊んでいる様子を一心に見つめている20代半ばの男の姿を、

(いったいどうひょうげんすればいいのか。こちらにきづいてないようなので、)

いったいどう表現すればいいのか。こちらに気づいてないようなので、

(まがりかどのあたりでじてんしゃをとめたままようすをうかがっていると、)

曲がり角のあたりで自転車を止めたまま様子を伺っていると、

(やがてせんせいにみつかったようで「ちがうんです」ときこえもしないきょりで)

やがて先生に見つかったようで「違うんです」と聞こえもしない距離で

(いいわけをしながらこっちににげてきた。)

言い訳をしながらこっちに逃げてきた。

(めがあったしゅんかん、じつにみごとなばつのわるいかおをして「ちがうんだ」といい、)

目があった瞬間、実に見事なバツの悪い顔をして「違うんだ」と言い、

(そしてもういちど「ちがうんだ」といいながらまがりかどのへいのむこうにみを)

そしてもう一度「違うんだ」と言いながら曲がり角の塀の向こうに身を

(かくした。おれもつられてそちらにひっこむ。)

隠した。俺もつられてそちらに引っ込む。

(「あのこをみてただけなんだ」)

「あの子を見てただけなんだ」

(とおくのえんていをゆびさしているが、ここからではうまくみえない。)

遠くの園庭を指差しているが、ここからではうまく見えない。

(「あのあおいたいやのところでじめんにえをかいてるおんなのこ」)

「あの青いタイヤの所で地面に絵を描いてる女の子」

(くびをのばしても、かくどてきにきやらかべやらがじゃまでさっぱりわからない。)

首を伸ばしても、角度的に木やら壁やらが邪魔でさっぱりわからない。

(なにより、なにもちがわない。「いつからみてたんですか」とのといに)

なにより、なにも違わない。「いつから見てたんですか」との問いに

(「ん、いっかげつくらいまえから」とあっさりこたえ、)

「ん、1ヶ月くらい前から」とあっさり答え、

(ますますおれのこしをひかせてくれた。)

ますます俺の腰を引かせてくれた。

など

(「そんなにかわいいんですか」ことばをえらんできいたつもりだったが、)

「そんなにかわいいんですか」言葉を選んで聞いたつもりだったが、

(「かわいいかととわれればいえすだが、<そんなに>ってあたまにつけられると)

「かわいいかと問われればイエスだが、<そんなに>って頭につけられると

(すごくひっかかる」と、ふかいそうなかおをする。)

すごく引っ掛かる」と、不快そうな顔をする。

(「いっかげつまえ、さいしょにあしをとめたのはあのこじゃなく、)

「1ヶ月前、最初に足を止めたのはあの子じゃなく、

(あのこのそばにいたきみょうなぶったいのためだよ」)

あの子のそばにいた奇妙な物体のためだよ」

(ぶったいというひょうげんが、なんだかきもちわるい。)

物体という表現が、なんだか気持ち悪い。

(「それはみるからにこのよのものではないんだけど、あのこはそれを)

「それは見るからにこの世のものではないんだけど、あの子はそれを

(にんしきしていながらおびえているようすはなかった。)

認識していながら怯えている様子はなかった。

(ほかのこやせんせいにはみえてすらいないようだった」)

他の子や先生には見えてすらいないようだった」

(そのこは、いつもひとりであそんでいたという。)

その子は、いつもひとりで遊んでいたという。

(すなばあそびのなかまにさそわれることもなく、かといってほかのえんじから)

砂場あそびの仲間に誘われることもなく、かといって他の園児から

(からかわれることもなく、ただひたすらひとりでえをかいている。)

からかわれることもなく、ただひたすらひとりで絵を描いている。

(おやがむかえにくるじこくになるまで、ずっとそうしているのだという。)

親が迎えに来る時刻になるまで、ずっとそうしているのだという。

(「ほかのこがかえっても、なかなかあのこのおやはこないんだ。)

「他の子が帰っても、なかなかあの子の親は来ないんだ。

(ひがくれそうになってからようやくわかいははおやがやってくるんだけど、)

日が暮れそうになってからようやく若い母親がやって来るんだけど、

(なんていうかまともなおやじゃないね。)

なんていうかまともな親じゃないね。

(あのこのかおをみないし、てのひきかたなんてじめんにはえたざっそうを)

あの子の顔を見ないし、手の引き方なんて地面に生えた雑草を

(ひっこぬくみたいなかんじ。)

引っこ抜くみたいな感じ。

(ぎゃくたい?まあ、ふくからみえてるぶぶんにはあとがないけど、どうだろうね」)

虐待? まあ、服から見えてる部分には痕がないけど、どうだろうね」

(きぶんのわるくなるはなしだ。)

気分の悪くなる話だ。

(だが、このいじょうなおかるとずきがこんなにしゅうちゃくするからには)

だが、この異常なオカルト好きがこんなに執着するからには

(ただごとではないのだろう。)

只事ではないのだろう。

(「いまじなりーこんぱにおんって、しってるかい」きいたことは、あった。)

「イマジナリーコンパニオンって、知ってるかい」聞いたことは、あった。

(「まあ、かんたんにいうとようじきのとくちょうてきなげんかくだね。)

「まあ、簡単にいうと幼児期の特徴的な幻覚だね。

(あたまのなかで、そうぞうじょうのともだちをつくりあげてしまうげんしょうだ。)

頭の中で、想像上の友だちをつくりあげてしまう現象だ。

(ただこどもにはまぼろしをまぼろしとにんしきするちからがなくて、ふつうのともだちにせっするように)

ただ子どもには幻を幻と認識する力がなくて、普通の友だちに接するように

(それにせっしてしまい、しゅういのおとなをこんわくさせることがある。)

それに接してしまい、周囲の大人を困惑させることがある。

(にんげんかんけいをこうちくするための、あるていどのしゃかいせいをみにつけると)

人間関係を構築するための、ある程度の社会性を身につけると

(しぜんにきえていくものだけどね」それならばおれにもけいけんがある。)

自然に消えていくものだけどね」それならば俺にも経験がある。

(といってもおぼえているわけではないが、)

と言っても覚えているわけではないが、

(りょうしんいわく「おまえはかめんらいだーとしゃべってた」のだそうだ。)

両親いわく「お前は仮面ライダーと喋ってた」のだそうだ。

(まだしもかわいいほうだ。)

まだしもかわいい方だ。

(「ゆうちゃん」とかありそうななまえをつけて、だれもいないのに)

『ゆうちゃん』とかありそうな名前をつけて、誰もいないのに

(「ゆうちゃんもうかえるって」なんていわれたひにはおやはきみがわるいだろう。)

「ゆうちゃんもう帰るって」なんて言われた日には親は気味が悪いだろう。

(もういちどみをのりだしてようちえんのにわをのぞいてみる。)

もう一度身を乗り出して幼稚園の庭を覗いてみる。

(ぼうしのいろで、ねんれいをわけているようだ。)

帽子の色で、年齢をわけているようだ。

(あおいたいやのあたりには、あかいぼうしがみえる。あかのぼうしはねんちょうぐみらしい。)

青いタイヤのあたりには、赤い帽子が見える。赤の帽子は年長組らしい。

(めをこらすと、おさげらしきかみがただけがかくにんできた。)

目を凝らすと、おさげらしき髪型だけが確認できた。

(ししょうのいう、きみょうなぶったいはみえない。)

師匠の言う、奇妙な物体は見えない。

(しかしこのいじょうにれいかんのつよいおとこにみえるということは、)

しかしこの異常に霊感の強い男に見えるということは、

(ただのそうぞうじょうのともだちではないということなのか。)

ただの想像上のともだちではないということなのか。

(「いや、れいこんなんかじゃないとおもう。)

「いや、霊魂なんかじゃないと思う。

(きみのわるいあらわれかたをしてるけど、あのこなりの)

気味の悪い現われ方をしてるけど、あの子なりの

(いまじなりーこんぱにおんなんだろう。ぼくにもみえてしまったのは、)

イマジナリーコンパニオンなんだろう。僕にも見えてしまったのは、

(なぜなのかよくわからない。)

何故なのかよくわからない。

(ひょっとしたらかのじょのかんかくきがとらえているものを、こんせんしたように)

ひょっとしたら彼女の感覚器がとらえているものを、混線したように

(りあるたいむでぼくのあんてながひろってしまっているのか・・・・・・」)

リアルタイムで僕のアンテナが拾ってしまっているのか……」

(あのこはきょうれつなれいばいたいしつにそだつかもね。)

あの子は強烈な霊媒体質に育つかもね。

(そういってししょうはいつくしむようなめでようちえんじをみつめるのだった。)

そう言って師匠は慈しむような目で幼稚園児を見つめるのだった。

(つりそうなくらいくびをのばしても、そのおんなのこのりんかくいがいには)

攣りそうなくらい首を伸ばしても、その女の子の輪郭以外には

(なにもしゅういにみあたらない。)

何も周囲に見あたらない。

(おいかけっこをしているいちだんがたいやのまえをかけぬけて、)

追いかけっこをしている一団がタイヤの前を駆け抜けて、

(そのこのえがいているえのあたりをふんづけていった。)

その子の描いている絵のあたりを踏んづけていった。

(ここからではひょうじょうはわからないが、たんたんとえをなおしているようだった。)

ここからでは表情は分からないが、淡々と絵を直しているようだった。

(「で、そのくうそうのともだちってどんなのです?)

「で、その空想のともだちってどんなのです?

(いまもあのこのちかくにいるんですか」ししょうは、「う~ん」とうなってから)

今もあの子の近くにいるんですか」師匠は、「う~ん」と唸ってから

(「なんといったらいいのか」ときりだした。)

「なんといったらいいのか」と切り出した。

(「にとうしんくらいのばけものだね。かおはおとなのおんな。ははおやじゃない。)

「2頭身くらいのバケモノだね。顔は大人の女。母親じゃない。

(じつざいのじんぶつなのかもわからない。けどたぶんあのこに)

実在の人物なのかもわからない。けどたぶんあの子に

(なんらかのしゅうちゃくしんをもっている。からだはかみねんどみたいなのっぺりしたはいいろ。)

なんらかの執着心を持っている。体は紙粘土みたいなのっぺりした灰色。

(ちいさなてあしはあるけど、あんまりうごきがない。)

小さな手足はあるけど、あんまり動きがない。

(にこにこわらってる。あのこのえのうえでゆらゆらゆれている。)

ニコニコ笑ってる。あの子の絵の上でゆらゆら揺れている。

(いま、ぼくらのほうをみている」いっしゅんにして、とりはだがたった。)

今、僕らの方を見ている」一瞬にして、鳥肌が立った。

(だれかのしせんをたしかにかんじたからだ。)

誰かの視線をたしかに感じたからだ。

(「ふつう、ほかのこどもがおおぜいいるばしょではいまじなりーこんぱにおんはあらわれない。)

「普通、他の子どもが大勢いる場所ではイマジナリーコンパニオンは現れない。

(ほんにんにとってこどくさをかんじるばめんでしゅつげんするけーすがおおい。)

本人にとって孤独さを感じる場面で出現するケースが多い。

(だけどあのこのばあいは、ようちえんというくうかんさえきわめて)

だけどあの子の場合は、幼稚園という空間さえ極めて

(こじんてきなものになってしまっているらしい。)

個人的なものになってしまっているらしい。

(いまはあのぶったいにかんぜんにとらわれているようにみえる」)

今はあの物体に完全に捕らわれているように見える」

(いちど、むかえにきたははおやのあとをつけようとしたけどすこしはなれたところに)

一度、迎えに来た母親の後をつけようとしたけど少し離れたところに

(たかそうなくるまをとめてあってむりだった、とししょうはいった。)

高そうな車をとめてあって無理だった、と師匠は言った。

(そのとき、しろいかべのむこうがわでえぷろんすがたのわかいせんせいと、)

その時、白い壁の向こう側でエプロン姿の若い先生と、

(えんちょうせんせいらしきねんぱいのじょせいがこちらをゆびさして)

園長先生らしき年配の女性がこちらを指差して

(なにごとかはなしているのがめにはいった。)

何事か話しているのが目に入った。

(あせったおれはとりあえずじてんしゃにとびのってにげた。)

焦った俺はとりあえず自転車に飛び乗って逃げた。

(あとからししょうがてをふりながらはしってついてきているのに)

あとから師匠が手を振りながら走ってついて来ているのに

(きづいていたが、むしした。)

気づいていたが、無視した。

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