ともだち-2-(完)

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 tetsumi 5685 A 5.8 97.1% 648.3 3796 110 71 2024/10/23

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問題文

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(へやのそとにいても、てれびがついているのがわかる。)

部屋の外にいても、テレビがついているのがわかる。

(おとなのかなんなのかよくわからないが、とにかくわかる。)

音なのかなんなのかよくわからないが、とにかくわかる。

(しゅういのひとにきいても「あ、わかるわかる」とどういしてくれるので)

周囲の人に聞いても「あ、わかるわかる」と同意してくれるので

(たぶんおれだけではないはずだ。だからそのときも、ただわかったから)

たぶん俺だけではないはずだ。だからそのときも、ただわかったから

(わかったとしかいいようがないのだった。)

わかったとしか言いようがないのだった。

(ようちえんからにげだしたそのひのよるである。)

幼稚園から逃げ出したその日の夜である。

(そのころかんぜんにでんきをけしてねるくせがついていたので、)

そのころ完全に電気を消して寝るくせがついていたので、

(ふいにめをさましたときもくらやみのなかだった。)

ふいに目を覚ましたときも暗闇の中だった。

(じぶんのへやのみなれたてんじょうが、うっすらとみえる。)

自分の部屋の見慣れた天井が、うっすらと見える。

(べっどのうえ、あおむけのままなかばゆめごこちでぼーっとしていると、)

ベッドの上、仰向けのまま半ば夢心地でぼーっとしていると、

(てれびがついているのにきがついたのである。)

テレビがついているのに気がついたのである。

(へやのなかのてれびではない。うすいどあをへだてた、むこうのだいどころで)

部屋の中のテレビではない。薄いドアを隔てた、向こうの台所で

(どうやらてれびがついているようだ。そちらにめをむけるが、)

どうやらテレビがついているようだ。そちらに目を向けるが、

(どあについているちいさなこまどのりんかくがかすかにわかるていどで、)

ドアについている小さな小窓の輪郭がかすかにわかる程度で、

(そのこまどのむこうにはひかりさえみえない。おとでもない、ひかりでもない。)

その小窓の向こうには光さえ見えない。音でもない、光でもない。

(けれどてれびがついているのがわかるのである。)

けれどテレビがついているのがわかるのである。

(もちろんだいどころにてれびなどない。)

もちろん台所にテレビなどない。

(おれははんかくせいじょうたいのまま、ただただふしぎなきもちで)

俺は半覚醒状態のまま、ただただ不思議な気持ちで

(べっどからのそりとおきあがり、ふらふらとてさぐりでどあにむかった。)

ベッドからのそりと起き上がり、ふらふらと手探りでドアに向かった。

(でんきをつけるというはっそうはなかった。つけたらまぶしいだろうなと)

電気をつけるという発想はなかった。つけたら眩しいだろうなと

など

(ねぼけたあたまでかんがえたのだとおもう。)

寝ぼけた頭で考えたのだと思う。

(ゆっくりとどあののぶにてをかけ、むこうがわへおしあける。)

ゆっくりとドアのノブに手をかけ、向こう側へ押し開ける。

(うすくらやみのなか、くうちゅうにおんなのかおがうかんでいるのがみえた。)

薄暗闇のなか、空中に女の顔が浮かんでいるのが見えた。

(いや、かおだけではなかった。じょうだんのようなちいさなどうたいとてあしが)

いや、顔だけではなかった。冗談のような小さな胴体と手足が

(ねんどざいくのようにくっついている。)

粘土細工のようにくっついている。

(それがふわふわとだいどころのあるくうかんにただよっているのだった。)

それがふわふわと台所のある空間に漂っているのだった。

(そのとき、こわいとおもったのかはおぼえていない。)

そのとき、怖いと思ったのかは覚えていない。

(ただきがつくとおれはじぶんのべっどにもどっており、)

ただ気がつくと俺は自分のベッドに戻っており、

(あおむけのいつものしせいであさのめざめをむかえたのだった。)

仰向けのいつもの姿勢で朝の目覚めを迎えたのだった。

(よるのできごとをはんすうして、とりはだがたつようなきもちわるさにおそわれ、)

夜の出来事を反芻して、鳥肌が立つような気持ち悪さに襲われ、

(”つれてきてしまった”んじゃないかとみぶるいした。)

”連れて来てしまった”んじゃないかと身震いした。

(あさからししょうのへやにころがりこんで、そのことをはなすと「そんなはずない」)

朝から師匠の部屋に転がり込んで、そのことを話すと「そんなはずない」

(といってわらうのだ。ゆうれいじゃないんだから。)

と言って笑うのだ。幽霊じゃないんだから。

(あのおんなのこのみているまぼろしを、そのこがいないばしょで)

あの女の子の見ている幻を、その子がいない場所で

(どうしてべつのだれかがたいけんできるっていうんだ。ゆめでもみたんだろう。)

どうして別の誰かが体験できるっていうんだ。夢でも見たんだろう。

(ししょうはそんなことばをならべたて、おれもだんだんとそんなきになりかけていた。)

師匠はそんな言葉を並べ立て、俺もだんだんとそんな気になりかけていた。

(おもいつきで、そのおんなのかおが、あるげいのうじんににていたことをくちにするまでは。)

思いつきで、その女の顔が、ある芸能人に似ていたことを口にするまでは。

(それをきいたとたんにししょうのかおつきがかわり、そのなまえを)

それを聞いたとたんに師匠の顔つきが変わり、その名前を

(もういちどおれにかくにんした。)

もう一度俺に確認した。

(どうやらししょうのみていたかおとおなじいんしょうをおれがもったことに、)

どうやら師匠の見ていた顔と同じ印象を俺が持ったことに、

(なっとくがいかないらしい。)

納得がいかないらしい。

(「そうか、わかった」ししょうはにやりとわらうと、せつめいした。)

「そうか、わかった」師匠はニヤリと笑うと、説明した。

(あのようちえんのおんなのこも、そのげいのうじんのおもかげにわずかににているらしい。)

あの幼稚園の女の子も、その芸能人の面影にわずかに似ているらしい。

(ということはつまり、じぶんじしんのいまじなりーこんぱにおんに)

ということはつまり、自分自身のイマジナリーコンパニオンに

(にているということだ。おんなのこはそうぞうじょうのともだちとしてじこをとうえいした)

似ているということだ。女の子は想像上のともだちとして自己を投影した

(りそうてきおとなをしたてあげ、じぶんをあいさないははおやのかわりにいつも)

理想的大人を仕立て上げ、自分を愛さない母親の代わりにいつも

(そばにいてくれるそんざいとしたのだ。ははおやのようにはならない、)

そばにいてくれる存在としたのだ。母親のようにはならない、

(というはんぱつしんからははおやとはちがうおとなにせいちょうしたじぶんをいめーじして。)

という反発心から母親とは違う大人に成長した自分をイメージして。

(そして”ともだち”としてふさわしいとうしんにして・・・・・・)

そして”ともだち”として相応しい等身にして……

(そんなかせつをすらすらとくちにするししょうに、おれはいった。)

そんな仮説をスラスラと口にする師匠に、俺は言った。

(「おれ、そのこのかおなんてみてないですよ。あんなきょりじゃ、ぜんぜん。)

「俺、その子の顔なんて見てないですよ。あんな距離じゃ、全然。

(めがわるいのしってるでしょ」おれがおんなのこのかおから、そのげいのうじんを)

目が悪いの 知ってるでしょ」俺が女の子の顔から、その芸能人を

(れんそうしたということをいいたかったらしいししょうはちんもくした。)

連想したということを言いたかったらしい師匠は沈黙した。

(それからしばらくして、ゆっくりとかおをあげ、しんけんなめをしていうのだ。)

それからしばらくして、ゆっくりと顔を上げ、真剣な目をして言うのだ。

(「あれが、いまじなりーこんぱにおんなんかじゃなく、)

「あれが、イマジナリーコンパニオンなんかじゃなく、

(れいてきなものだとするなら、おまえのへやにでたってことが)

霊的なものだとするなら、おまえの部屋に出たってことが

(どういうことかわかってるのか」)

どういうことかわかってるのか」

(そのことばをきいたしゅんかん、おかんがぜんしんをかけぬけた。)

その言葉を聞いた瞬間、悪寒が全身を駆け抜けた。

(あからさまにおびえはじめたおれをみて、ししょうはひざをたたいていう。)

あからさまに怯え始めた俺を見て、師匠は膝を叩いて言う。

(「よし、なんだかわかんないものはとりあえずぶっころそう」)

「よし、なんだかわかんないものはとりあえずブッ殺そう」

(やたらたのもしいことばにうなずきそうになるが、おんびんにおねがいします)

やたら頼もしい言葉に頷きそうになるが、穏便にお願いします

(というじぇすちゃーでかえす。)

というジェスチャーで返す。

(「じょうだんだ」わらっているが、どこまでほんとうかわからない。)

「冗談だ」笑っているが、どこまで本当かわからない。

(まあほっとこう。どうせとりつかれてるのは、あのこだ。)

まあ放っとこう。どうせとり憑かれてるのは、あの子だ。

(なんならここにに、さんにちとまってけばいい。たいていのやつならにげてくよ。)

なんならここに2、3日泊まってけばいい。たいていのヤツなら逃げてくよ。

(そんなはったりめいたことをいう。まるでこのやすあぱーとが)

そんなハッタリめいたことを言う。まるでこの安アパートが

(れいじょうのようないいぐさだ。けれどすこし、きがらくになった。)

霊場のような言い草だ。けれど少し、気が楽になった。

(けっきょくそのにとうしんのおんなのばけものは、にどとおれのまえにあらわれなかった。)

結局その2頭身の女のバケモノは、2度と俺の前に現れなかった。

(ししょうも、そのしょうたいをけつろんづけるまえにけいさつをよばれてしまい、)

師匠も、その正体を結論付ける前に警察を呼ばれてしまい、

(にどとそのようちえんにはちかづけなかったらしい。)

2度とその幼稚園には近づけなかったらしい。

(けいさつはれいなんかよりずっとこわい、とあとにかれはかたっている。)

警察は霊なんかよりずっと怖い、と後に彼は語っている。

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