追跡-1-
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | tetsumi | 5547 | A | 5.7 | 97.3% | 772.2 | 4402 | 118 | 78 | 2024/10/30 |
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問題文
(だいがくいっかいせいのふゆ。)
大学1回生の冬。
(あさっぱらからさーくるのぶしつでこたつにはいったままうごけなくなり、)
朝っぱらからサークルの部室でコタツに入ったまま動けなくなり、
(おれはそうそうにきょうのこうぎのさぼたーじゅをきめこんでいた。)
俺は早々に今日の講義のサボタージュを決め込んでいた。
(なんにんかがいれかわりたちかわりこんびにのびにーるぶくろをてにあらわれては)
何人かが入れ替わり立ち代りコンビニのビニール袋を手に現れては
(こたつであたたまったあとにさっていった。やがてひとりだけになってしまい)
コタツで暖まったあとに去って行った。やがて一人だけになってしまい
(おれもやっぱりこうぎにでようかなぁとかんがえてはまどのそとをながめ、)
俺もやっぱり講義に出ようかなぁと考えては窓の外を眺め、
(そのふゆぞらにくびをすくめてもういちどこたつにふかくしずみこむのだった。)
その冬空に首をすくめてもう一度コタツに深く沈みこむのだった。
(うとうとしていたことにきづき、かるくのびをしてそのままうしろへたおれこむ。)
うとうとしていたことに気付き、軽くのびをしてそのまま後ろへ倒れ込む。
(そのしせいのままてをのばしてあたまのうえのほうにあるらっくをごそごそとあさり、)
その姿勢のまま手を伸ばして頭の上の方にあるラックをゴソゴソと漁り、
(むかしのさーくるのーとをひっぱりだしてはよみふけっていた。)
昔のサークルノートを引っ張り出しては読み耽っていた。
(ふと、らっくのすみにのーとではないしょうさっしをみつけた。ずるずるとひきぬく。)
ふと、ラックの隅にノートではない小冊子を見つけた。ズルズルと引き抜く。
(「ついせき」というだいがひょうしについている。なにかのはなをかたどったきりえのような)
『追跡』という題が表紙についている。何かの花を象った切り絵のような
(いらすとがそえられているそれは、どうやらこじんでつくった)
イラストが添えられているそれは、どうやら個人で作った
(ほっちきすどめのどうじんしのようなものらしい。)
ホッチキス止めの同人誌のようなものらしい。
(a4のさいせいしで60ぺーじほどのあつさだ。)
A4の再生紙で60ページほどの厚さだ。
(ぱらぱらとめくってみると、なかはかつじばかりだった。)
パラパラとめくってみると、中は活字ばかりだった。
(・・・・・・まよなかわたしのへやのうえを、きょじんがまたいでいきます。)
……真夜中わたしの部屋の上を、巨人がまたいでいきます。
(きょじんはおもさもなく、においもなく、おともださず、とうめいでけしてめにみえず、)
巨人は重さもなく、匂いもなく、音も出さず、透明でけして目に見えず、
(てにふれることもできません。)
手に触れることもできません。
(そしてうらのもりから、まちのあかりがうっすらとひかるほうへ)
そして裏の森から、街の明かりがうっすらと光る方へ
(しずしず、しずしずとあるくのです。・・・・・・)
しずしず、しずしずと歩くのです。……
(たんぺんしょうせつのようだ。「きょじん」というだいめいがついている。)
短編小説のようだ。『巨人』という題名がついている。
(おれはなんまいかぺーじをとばした。)
俺は何枚かページを飛ばした。
(・・・・・・こうえんであそんでいたおんなのこをさらったのはぺっとのいぬをなくしたからだった。)
……公園で遊んでいた女の子を攫ったのはペットの犬を亡くしたからだった。
(いえのちかしつでかいはじめたものの、ちっともなつかないので)
家の地下室で飼いはじめたものの、ちっとも懐かないので
(めをつぶしてみた。するとしょうじょはすっかりじゅうじゅんになり、)
目を潰してみた。すると少女はすっかり従順になり、
(ぺっととしてふさわしいたいどをみせはじめたのだった。)
ペットとして相応しい態度をみせはじめたのだった。
(しょくじはいちにちにかい。しごとにいくまえとかえったあとにあたえた。)
食事は一日2回。仕事に行く前と帰った後に与えた。
(でいりぐちはひとつだけ。わたしがあらわれそしてきえる、かぎのかかったどあ。)
出入り口は一つだけ。私が現れそして消える、鍵の掛かったドア。
(しょうじょになまえはない。わたしはぺっとになまえをつけない。)
少女に名前はない。私はペットに名前をつけない。
(にねんがたった。ふとおもいついてちかしつのかべにはめごろしのまどをうちつけた。)
2年が経った。ふと思いついて地下室の壁に羽目殺しの窓を打ちつけた。
(もちろんただのかざりだ。むこうにはなにもない。しょうじょにはこういった。)
もちろんただの飾りだ。向こうには何もない。少女にはこういった。
(「まどのむこうはうみだよ」・・・・・・なんだかきもちがわるくなってさっしをふせた。)
「窓の向こうは海だよ」……なんだか気持ちが悪くなって冊子を伏せた。
(さっきとはべつのはなしのようだったが、このあとゆかいなてんかいが)
さっきとは別の話のようだったが、このあと愉快な展開が
(まっているようにはおもえない。またぺーじをとばす。)
待っているようには思えない。またページを飛ばす。
(きょうもにんげんもどきをさがしてあるく。にんげんもどきはにんげんのつもりなのだ。)
今日も人間もどきを探して歩く。人間もどきは人間のつもりなのだ。
(にんげんのようにたべて、にんげんのようにはたらいてにんげんのようにわらったりないたりする。)
人間のように食べて、人間のように働いて人間のように笑ったり泣いたりする。
(ぼくはにんげんもどきをみちばたで、こうえんで、とんねるで、こうしゃで、)
ぼくは人間もどきを道端で、公園で、トンネルで、校舎で、
(びるでぃんぐのなかで、そしてときどきひとのいえのなかでみつけては)
ビルディングの中で、そして時々人の家の中で見つけては
(そいつのみみもとでこうささやくのだ。「あなたはにんげんじゃないよ」)
そいつの耳元でこうささやくのだ。「あなたは人間じゃないよ」
(そうするとにんげんもどきはとろとろととけるようにきえていく。)
そうすると人間もどきはトロトロと溶けるように消えていく。
(あとにはなにものこらない。ぼくのまちはずいぶんかんさんとしてきた。)
あとには何も残らない。ぼくの町は随分閑散としてきた。
(あとなんびきのにんげんもどきがいるのだろう。はやくぼくはひとりになりたい。)
あと何匹の人間もどきがいるのだろう。はやくぼくは一人になりたい。
(そうすればだれもぼくのみみもとにひみつのことばをささやくことはないから。)
そうすれば誰もぼくの耳元に秘密の言葉をささやくことはないから。
(これはみじかかったのでぜんぶよんだ。「にんげんもどき」というだいがついている。)
これは短かったので全部読んだ。『人間もどき』という題がついている。
(いずれもきみのわるいはなしばかりだ。)
いずれも気味の悪い話ばかりだ。
(こんなさっしをじぶんでつくろうなんてにんげんは、さぞかしねのくらいやつだろう。)
こんな冊子を自分で作ろうなんて人間は、さぞかし根の暗い奴だろう。
(おれはさいごのぺーじをひらいておくづけをみた。)
俺は最後のページを開いて奥付を見た。
(ひづけはにねんまえだ。はっこうしゃは「かい=ろあなーく」とある。)
日付は2年前だ。発行者は「カヰ=ロアナーク」とある。
(「ろあのーくじまのかい」をもじっているらしいが、)
「ロアノーク島の怪」をもじっているらしいが、
(なるほど、しゅみがわかりそうなものだ。)
なるほど、趣味が分かりそうなものだ。
(こんなものをつくりそうなせんぱいをおもいうかべようとしててんじょうをみる。)
こんなものを作りそうな先輩を思い浮かべようとして天井を見る。
(するとひとりだけうかんだ。)
すると一人だけ浮かんだ。
(さーくるにはほとんどかおをださないじょせいで、たまにきたとおもっても)
サークルにはほとんど顔を出さない女性で、たまに来たと思っても
(じさんしたのーとぱそこんでひたすらぶんしょうをうっている。)
持参したノートパソコンでひたすら文章を打っている。
(なにをかいているのかとおもってのぞこうとしても)
何を書いているのかと思って覗こうとしても
(「えっち」よばわりされてみせてくれない。)
「エッチ」呼ばわりされて見せてくれない。
(なるほど、あのひとかとおもいながらもういちどぱらぱらと)
なるほど、あの人かと思いながらもう一度パラパラと
(ぺーじをめくってみる。)
ページをめくってみる。
(「ついせき」というひょうだいさくらしきものをさっしのなかほどにはっけんしててをとめる。)
『追跡』という表題作らしきものを冊子の中ほどに発見して手を止める。
(さーくるのぶしつでこうぎをさぼってごろごろしていたおとこが、ふるいさっしを)
サークルの部室で講義をサボってゴロゴロしていた男が、古い冊子を
(ほんだなにみつけててにとるというしーんがぼうとうだ。)
本棚に見つけて手に取るというシーンが冒頭だ。
(てにとったそのさっしのだいは「ついせき」。おお。めたこうぞうになってるぞ。)
手に取ったその冊子の題は『追跡』。おお。メタ構造になってるぞ。
(そうおもってよんでいたが。ひづけはにねんまえだ。)
そう思って読んでいたが。日付は2年前だ。
(ぶんしょうちゅうのこのぶぶんでぞわっとせすじをはしるものがあった。だいめいのいっちはよい。)
文章中のこの部分でぞわっと背筋を走るものがあった。題名の一致は良い。
(おれとじょうきょうがにたおとこがでてくるのもまあ、てんけいてきだめがくせいをせいさんする)
俺と状況が似た男が出てくるのもまあ、典型的ダメ学生を生産する
(さーくるのたいしつからしてぐうぜんのはんちゅうだろう。)
サークルの体質からして偶然の範疇だろう。
(だが、おくづけのひづけが”にねんまえ”というのは、いったいどういういっちだろう。)
だが、奥付の日付が”2年前”というのは、一体どういう一致だろう。
(すこしどきどきしながらよみすすめる。)
少しドキドキしながら読み進める。
(しょうせつはこのあと、しっそうしたさーくるのせんぱいのあしあとを、)
小説はこのあと、失踪したサークルの先輩の足跡を、
(さくちゅうさくの「ついせき」にみだしたしゅじんこうが、こんわくしながらもそれをたよりに)
作中作の『追跡』に見出した主人公が、困惑しながらもそれを頼りに
(まちへそうさくにでかけるというすじだ。)
街へ捜索に出かけるという筋だ。
(しっそうしたさーくるのせんぱいとはだれなのか、くわしいびょうしゃはない。)
失踪したサークルの先輩とは誰なのか、詳しい描写はない。
(さくちゅうさくである「ついせき」のぐたいてきないようにもふれられていない。)
作中作である『追跡』の具体的内容にも触れられていない。
(ただそれがしっそうしたさーくるのせんぱいのいくさきをけいじしていると、)
ただそれが失踪したサークルの先輩の行く先を啓示していると、
(なぜかしゅじんこうはしっている。)
なぜか主人公は知っている。
(そうじてせつめいぶそくで、まるでどくしゃをいしきしていないようなぶんしょうだ。)
総じて説明不足で、まるで読者を意識していないような文章だ。
(まったくおもしろくない。まったくおもしろくないからこそ、ぶきみだった。)
全く面白くない。全く面白くないからこそ、不気味だった。