貯水池-1-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってしまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 tetsumi 5298 B++ 5.5 96.2% 1002.9 5531 217 98 2024/11/05
2 じゅん 4127 C 4.4 93.4% 1197.1 5315 374 98 2024/11/07
3 daifuku 3736 D+ 3.9 94.9% 1362.7 5379 287 98 2024/10/12

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問題文

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(だいがくいっかいせいのあきだった。そのころのぼくはいぜんからじぶんにあったれいかんが、)

大学1回生の秋だった。その頃の僕は以前から自分にあった霊感が、

(じわじわとしみだすようにそのりょういきをひろげていくかんかくをなかばおそれ、)

じわじわと染み出すようにその領域を広げていく感覚を半ば畏れ、

(またなかばではみのふるえるようなあやしいかいかんをおぼえていた。)

また半ばでは身の震えるような妖しい快感を覚えていた。

(れいかんはよりつよいそれにふれることで、まるできょうめいしあうように)

霊感はより強いそれに触れることで、まるで共鳴しあうように

(とぎすまされるようだ。ぼくとそのひとのあいだにはたしかに)

研ぎ澄まされるようだ。僕とその人の間には確かに

(そんなかんけいせいがあったのだろう。)

そんな関係性があったのだろう。

(それはじしゃくにふれたてつがちゃくじするのにもにている。)

それは磁石に触れた鉄が着磁するのにも似ている。

(そのひとはそうしてぼくをひっぱりあげ、またそのふしぎなかんかくを)

その人はそうして僕を引っ張り上げ、またその不思議な感覚を

(もてあますことのないようにつぎつぎとしょうかすべきたいしょうをあたえてくれた。)

持て余すことのないように次々と消化すべき対象を与えてくれた。

(しんじられないようなものをたくさんみてきた。)

信じられないようなものをたくさん見てきた。

(そのなかできけんなめにあったこともかずしれない。)

その中で危険な目にあったことも数知れない。

(そのころのぼくにはそのひとのやることすべてがおもしろはんぶんの)

その頃の僕にはその人のやることすべてが面白半分の

(ふきんしんなこうどうにみえもした。しかしまたいっぽうで、ときおりのぞくさびしげなよこがおに)

不謹慎な行動に見えもした。しかしまた一方で、時折覗く寂しげな横顔に

(そのふしぎなかんかくをきょうゆうするなかまをもとめるこどくなすがおを)

その不思議な感覚を共有する仲間を求める孤独な素顔を

(かいまみていたようなきがする。)

垣間見ていたような気がする。

(もうあえなくなって、ゆうぐれのこうさてん、てれびのぶらうんかんのまえ、)

もう会えなくなって、夕暮れの交差点、テレビのブラウン管の前、

(しんやのこんびにのひかりのなか、ふとしたときにおもいだす)

深夜のコンビニの光の中、ふとした時に思い出す

(そのひとのかおはいつもくらくしずんでいる。)

その人の顔はいつも暗く沈んでいる。

(かってなかんしょうだとわかってはいても、そんなときぼくはなにかだいじなものを)

勝手な感傷だとわかってはいても、そんな時僕は何か大事なものを

(なくしたような、とてもかなしいきもちになるのだった。)

なくしたような、とても悲しい気持ちになるのだった。

など

(「ちょすいちのゆうれい?」)

「貯水池の幽霊?」

(さしておもしろくもなさそうにあぐらをかいてからだをぜんごさゆうにゆする。)

さして面白くもなさそうに胡坐をかいて体を前後左右に揺する。

(それがししょうのくせだった。あまりじょうひんとはいえない。)

それが師匠の癖だった。あまり上品とは言えない。

(ししょうとよびはじめたのはいつからだっただろうか。)

師匠と呼び始めたのはいつからだっただろうか。

(おかるとのみちのうえでは、なにひとつかてるものはない。)

オカルトの道の上では、何一つ勝てるものはない。

(しかしおそれいってもいなかった。はんそんあいなかばするびみょうなこしょうだったとおもう。)

しかし恐れ入ってもいなかった。貶尊あい半ばする微妙な呼称だったと思う。

(「そうです。ゆうがたとかよなかにそこをとおると、ときどきたってるんですよ」)

「そうです。夕方とか夜中にそこを通ると、時々立ってるんですよ」

(そのひ、ぼくはししょうのうちにおじゃましていた。)

その日、僕は師匠の家にお邪魔していた。

(ちくなんじゅうねんなのかきくのもこわいぼろあぱーとで、やちんはいちまんえんやそこららしい。)

築何十年なのか聞くのも怖いボロアパートで、家賃は1万円やそこららしい。

(へやのなかにそなえつけのだいどころからむぎちゃをわかすおとが)

部屋の中に備え付けの台所から麦茶を沸かす音が

(しゅんしゅんときこえている。)

シュンシュンと聞こえている。

(「ちかくにちょすいちなんてあったかな」)

「近くに貯水池なんてあったかな」

(「いや、ちょっととおくなんですけど。ばいとさきからのかえりみちなんで」)

「いや、ちょっと遠くなんですけど。バイト先からの帰り道なんで」

(いきにはひがあるせいかでくわしたことはない。)

行きには陽があるせいか出くわしたことはない。

(「こうこうのぷーる10こぶんくらいのめんせきに、しゅういにはつちのしゃめんがあって)

「高校のプール10コ分くらいの面積に、周囲には土の斜面があって

(そのまわりをぐるっとかこむようにふぇんすがあります。)

その周りをぐるっと囲むようにフェンスがあります。

(じてんしゃをこぎながらだとちょすいちはどうろからみおろすようなかっこうになって、)

自転車をこぎながらだと貯水池は道路から見下ろすような格好になって、

(いきにはいつもなんとなくふぇんすのそばによって)

行きにはいつもなんとなくフェンスのそばに寄って

(すいめんをながめながらとおりすぎてます。)

水面を眺めながら通り過ぎてます。

(それがけっこうたかいふぇんすなんですけど、)

それが結構高いフェンスなんですけど、

(かえりにそのこっちがわ、どうろがわにときどきでるんですよ」)

帰りにそのこっち側、道路側に時々出るんですよ」

(はじめはひとがいるとおもってさけてとおろうとしたのだが、)

はじめは人がいると思って避けて通ろうとしたのだが、

(よこぎるしゅんかんのいやなかんかくは、これまでなんどもけいけんしたどくとくのものだった。)

横切る瞬間の嫌な感覚は、これまで何度も経験した独特のものだった。

(それはくろいふーどのようなものをあたまからかぶっていておとこかおんなかもはんぜんとしない。)

それは黒いフードのようなものを頭からかぶっていて男か女かも判然としない。

(ただあしもとにはいつもみずたまりができていて、ふーどのすそから)

ただ足元にはいつも水溜りが出来ていて、フードの裾から

(しとしととみずがしたたっている。はれたひにもだ。)

シトシトと水が滴っている。晴れた日にもだ。

((かかわらないほうがいい)それはしんじるべきちょっかんだったが、)

(関わらないほうがいい)それは信じるべき直感だったが、

(かといってみちをかえるほどすなおでもなかった。)

かといって道を変えるほど素直でもなかった。

(それからはばいとがえりにはかならずみちのはんたいがわをとおるようにしている。)

それからはバイト帰りには必ず道の反対側を通るようにしている。

(といってもいっしゃせんの、あまりひろいとはいえないみちなのでいやがおうにも)

といっても1車線の、あまり広いとはいえない道なので嫌が応にも

(よこめでみるかたちですれちがうことになる。きぶんがよいはずはない。)

横目で見る形ですれ違うことになる。気分が良いはずはない。

(いちどししょうをけしかけてみようとむしのよいことをおもいついたのだが、)

一度師匠をけしかけてみようと虫の良いことを思いついたのだが、

(どうやらあまりきんせんにふれるないようではなかったようだ。)

どうやらあまり琴線に触れる内容ではなかったようだ。

(しょうじきに「なんとかして」というのもなさけない。)

正直に「ナントカシテ」と言うのも情けない。

(すこしがっかりしながら、さんかいにいっかいくらいはむこうがわにでることも)

少しがっかりしながら、3回に1回くらいは向こう側に出ることも

(あるとつけくわえたしゅんかん、ししょうのからだのゆれがぴたりとおさまった。)

あると付け加えた瞬間、師匠の体の揺れがピタリとおさまった。

(「なんていった?」「いや、だからふぇんすのこっちがわのときと)

「なんて言った?」「いや、だからフェンスのこっち側の時と

(むこうがわのときがあるってはなしです。たちいちが」)

向こう側の時があるって話です。立ち位置が」

(ししょうはくびをひねりながら、へぇえといった。)

師匠は首を捻りながら、へぇえと言った。

(ぼくはだいがくのじゅぎょうでならっているちゅうごくごのぴんいんのようだと、)

僕は大学の授業で習っている中国語のピンインのようだと、

(けんとうちがいなことをおもった。だいよんせいだったか。さがってあがるやつ。)

見当違いなことを思った。第四声だったか。下がって上がるやつ。

(「ぶつりてきなじったいをもたないれいこんにとってふぇんすというしょうがいぶつなんて)

「物理的な実体を持たない霊魂にとってフェンスという障害物なんて

(あってもなくてもおなじだから、こっちかむこうかなんてたいしたちがいは)

あってもなくても同じだから、こっちか向こうかなんて大した違いは

(なさそうにおもえるかもしれないけど・・・・・・じったいをもたないからこそ)

なさそうに思えるかも知れないけど……実体を持たないからこそ

(”うち”か”そと”かっていうのはふかぎゃくてきなようそなんだ。)

”ウチ”か”ソト”かっていうのは不可逆的な要素なんだ。

(ばについてるれいにとってはとくにね」だからじばくれいっていうんだ。)

場についてる霊にとっては特にね」だから地縛霊って言うんだ。

(ししょうはようやくのりきになったようで、こえのとーんがあがってきた。)

師匠はようやく乗り気になったようで、声のトーンが上がってきた。

(「なにかあるね」からだのゆれのかわりに、ひだりめのしたをさわるくせがかおをだした。)

「なにかあるね」体の揺れの代わりに、左目の下を触る癖が顔を出した。

(そこにはうすっすらとしたきりきずのあとがある。)

そこには薄っすらとした切り傷の跡がある。

(こうふんしてきたときにはなぜかすこしかゆくなるらしい。なにのきずかはしらない。)

興奮してきた時にはなぜか少し痒くなるらしい。何の傷かは知らない。

(じっとみていたぼくにきづいて、ししょうは「よめにもらってくれるか」と)

じっと見ていた僕に気づいて、師匠は「嫁にもらってくれるか」と

(じょうだんめかしていう。とにかく、そのちょすいちによるになったら)

冗談めかして言う。とにかく、その貯水池に夜になったら

(いってみようということになった。しかしぼくにとってはおもったとおりのてんかいだと、)

行ってみようということになった。しかし僕にとっては思った通りの展開だと、

(てばなしでよろこぶわけにはいかない。なにかえたいのしれないぶきみなけはいが、)

手放しで喜ぶわけにはいかない。なにか得体の知れない不気味な気配が、

(ちょすいちのゆうれいのはなしからただよいはじめているようなきがしていた。)

貯水池の幽霊の話から漂い始めているような気がしていた。

(そのあと、ししょうがつくったゆうはんのごしょうばんにあずかったのだが、)

そのあと、師匠が作った夕飯のご相伴に預かったのだが、

(これがひどいしろもので、なにしろ500ぐらむ100えんのぱすためんを)

これが酷い代物で、なにしろ500グラム100円のパスタ麺を

(ゆでてそのうえになにかのしきょうひんでもらったというきいたこともない)

茹でてその上に何かの試供品でもらったという聞いたこともない

(ふりかけをかけただけという、りょうりともいえないようなものだった。)

フリカケをかけただけという、料理とも言えないようなものだった。

(まいにちこんなものをたべてるんですか、ときくと)

毎日こんなものを食べてるんですか、と訊くと

(「いまはだいえっとちゅうだから」というしんがんつきかねるかいとう。)

「今はダイエット中だから」という真贋つきかねる回答。

(やちんもやすいし、いったいなににかねをつかっているのやら、)

家賃も安いし、一体何に金をつかっているのやら、

(とよけいなせんさくをせざるをえなかった。)

と余計な詮索をせざるを得なかった。

(あっというまにたべおわってしまい、ししょうはみずっぱらでも)

あっという間に食べ終わってしまい、師匠は水っ腹でも

(はらすつもりなのかむぎちゃをがぶのみし、といれがちかくなったようだった。)

張らすつもりなのか麦茶をがぶ飲みし、トイレが近くなったようだった。

(「ぼくもといれかります」といって、もどってきたししょうといれちがいにへやをでる。)

「僕もトイレ借ります」と言って、戻ってきた師匠と入れ違いに部屋を出る。

(このくらすのあぱーとだとといれはふつう、)

このクラスのアパートだとトイレは普通、

(きょうゆうなのだろうがなぜかここにはせんようのといれがある。)

共有なのだろうがなぜかここには専用のトイレがある。

(ただしいちどげんかんからそとにでないといけないというけっかんをもっていた。)

ただし一度玄関から外に出ないと行けないという欠陥を持っていた。

(なまいきにようしきではあったが、これがおもちゃのようなぷらすちっくせいで、)

生意気に洋式ではあったが、これがおもちゃのようなプラスチック製で、

(なるほどだいえっとでもしていないといつかぶちこわれそうなふしんだった。)

なるほどダイエットでもしていないといつかぶち壊れそうな普請だった。

(べんざをあげてようをたしながら(ふゆはそとにでたくないだろうなあ)と、)

便座を上げて用を足しながら(冬は外に出たくないだろうなあ)と、

(すでにあきもなかばというほのかなはださむさにしばしおもいをはせた。)

すでに秋も半ばというほのかな肌寒さにしばし思いを馳せた。

(もどってくると、ししょうがうわぎをまとって「さあいくか」とたちあがった。)

戻ってくると、師匠が上着をまとって「さあ行くか」と立ち上がった。

(「あめ、ふりそうですよ」「うん。くるまでいこう」)

「雨、降りそうですよ」「うん。車で行こう」

(ししょうのけいよんにのりこんだときには、ひはすっかりくれていた。)

師匠の軽四に乗り込んだ時には、日はすっかり暮れていた。

(そしてはしりだして100めーとるといかないうちにふろんとがらすを)

そして走り出して100メートルと行かないうちにフロントガラスを

(あめのつぶがたたきはじめる。「いながわじゅんじでもきこう」)

雨の粒が叩き始める。「稲川淳二でも聞こう」

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