エレベーター-1-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってしまっていたので、作成しました。

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問題文

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(だいがくいっかいせいのあきだった。ごごのけだるいこうぎがおわって、)

大学1回生の秋だった。午後の気だるい講義が終わって、

(ざわつくおとのなかのーとをかばんにおさめていると、)

ざわつく音のなかノートを鞄に収めていると、

(どうきゅうせいであるゆうじんがこえをかけてきた。)

同級生である友人が声を掛けてきた。

(「なあ、おまえって、なんかかいだんとかとくいだったよな」)

「なあ、お前って、なんか怪談とか得意だったよな」

(いきなりだったのでおどろいたが、じょうけんはんしゃてきにうなずいてしまった。)

いきなりだったので驚いたが、条件反射的に頷いてしまった。

(「いやちがう、そうじゃなくて、かいだんばなしをするのがとくいとかじゃなくて、)

「いや違う、そうじゃなくて、怪談話をするのが得意とかじゃなくて、

(あ~、なんつったらいいかな」)

あ~、なんつったらいいかな」

(ゆうじんはじょうだんじみたわらいをうかべようとしてしっぱいしたような、)

友人は冗談じみた笑いを浮かべようとして失敗したような、

(こわばったひょうじょうをしていた。「・・・・・・こわいのとか、へいきなんだろ?」)

強張った表情をしていた。「……怖いのとか、平気なんだろ?」

(ようやくなにがいいたいのか、わかった。)

ようやくなにが言いたいのか、わかった。

(かれのしゅういでなにかへんなことがあったらしい。)

彼の周囲で何か変なことがあったらしい。

(だがうなずかなかった。へいきなわけはない。)

だが頷かなかった。平気なわけはない。

(「そとできく」まだひとののこったきょうしつでは、あまりしたくないはなしだ。)

「外で聞く」まだ人の残った教室では、あまりしたくない話だ。

(おれはそのころはまだ、できるだけふつうのがくせいであろうとしていた。)

俺はその頃はまだ、できるだけ普通の学生であろうとしていた。

(ゆうぐれのちゅうりんじょうで、じてんしゃにもたれかかるようにしてけいいをきく。)

夕暮れの駐輪場で、自転車にもたれかかるようにして経緯を聞く。

(かれはこうがいのまんしょんにひとりですんでいるのだといった。)

彼は郊外のマンションに一人で住んでいるのだと言った。

(えれべーたーかんびの10かいだてでみとおしのよいりっちばしょなのだとか。)

エレベーター完備の10階建てで見通しの良い立地場所なのだとか。

(おやがべんごしで、しおくりにはふじゆうしていないのだそうだ。)

親が弁護士で、仕送りには不自由していないのだそうだ。

(くちぶりからじまんげなふんいきをかぎとったおれが、「かえっていい?」というと、)

口ぶりから自慢げな雰囲気を嗅ぎ取った俺が、「帰っていい?」と言うと、

(ようやくそのまんしょんできみのわるいことがおこっているというほんだいにはいった。)

ようやくそのマンションで気味の悪いことが起こっているという本題に入った。

など

(「えれべーたーでいっかいにおりようとしたらさ、はこのげんざいちのひょうじらんぷが)

「エレベーターで1階に降りようとしたらさ、箱の現在地の表示ランプが

(うえのほうのかいからさがってくるわけよ。それでじぶんとこのかいまできたら)

上の方の階から下がってくるわけよ。それで自分トコの階まで来たら

(ひらくとおもうじゃない?それが、なんでかそのままつうかするんだよ。)

開くと思うじゃない? それが、なんでかそのまま通過するんだよ。

(ちゃんとしたむきやじるしのぼたんおしてるのに」)

ちゃんと下向き矢印のボタン押してるのに」

(それがひんぱんにおこったので、かれはかんりにんにでんわしたのだそうだ。)

それが頻繁に起こったので、彼は管理人に電話したのだそうだ。

(こしょうしているのではないかと。しかし、すうじつご「ぎょうしゃにみてもらったが)

故障しているのではないかと。しかし、数日後「業者に見てもらったが

(せいじょうにさどうちゅう」だとのへんとう。ほかのじゅうみんに「さいきん、えれべーたーのちょうし)

正常に作動中」だとの返答。他の住民に「最近、エレベーターの調子

(わるくないですか」ときいてもみたが、「さあ」とかえされただけだった。)

悪くないですか」と聞いてもみたが、「さあ」と返されただけだった。

(「はこのげんざいちがしたのほうのかいにあるときだっておなじことがおこるんだ。)

「箱の現在地が下の方の階にある時だって同じことが起こるんだ。

(ぼたんおしてまってても、ひらかずにとおりすぎるんだよ。)

ボタン押して待ってても、開かずに通り過ぎるんだよ。

(それでらんぷみてるとうえのほうのかいでていししてるだろ。)

それでランプ見てると上の方の階で停止してるだろ。

(うえのかいのひとがさきにぼたんおしてはこをよんでても、)

上の階の人が先にボタン押して箱を呼んでても、

(とちゅうのかいであとからぼたんおしたらちゃんととまるよなあ。)

途中の階で後からボタン押したらちゃんと止まるよなあ。

(でぱーととかだと。まあでもせっていがちがうのかもとおもってさあ、)

デパートとかだと。まあでも設定が違うのかもと思ってさあ、

(いらいらしながらまってたらやっとらんぷがおりてきて、)

イライラしながら待ってたらやっとランプが降りてきて、

(じぶんとこのかいでとまるわけよ。それでどあがすーっとひらいたら・・・・・・」)

自分トコの階で止まるわけよ。それでドアがスーッと開いたら……」

(かれはそこでことばをきって、かすかにふるえるこえでいった。「だれもいないわけよ」)

彼はそこで言葉を切って、微かに震える声で言った。「誰もいないわけよ」

(ちょっとぞくっとした。たしかになにかへんだ。)

ちょっとゾクッとした。確かになにか変だ。

(じぶんのかいをするーしてうえのかいでとまったはなんなのだ。)

自分の階をスルーして上の階で止まったはなんなのだ。

(だれかがのろうとしてえれべーたーをよんだのではないのか。)

誰かが乗ろうとしてエレベーターを呼んだのではないのか。

(「そんなことがつづいてさあ。もうなんか、きみわるくて」)

「そんなことが続いてさあ。もうなんか、気味悪くて」

(おれのへや、よんかいなんだ・・・・・・)

俺の部屋、4階なんだ……

(それがさもいんねんめいているかのように、かれはいう。)

それがさも因縁めいているかのように、彼は言う。

(しかも、ごごうしつ。てことは、ひぃふぅみぃよぉの、よっつめのへやなんだ・・・・・・)

しかも、5号室。てことは、ひぃふぅみぃよぉの、4つ目の部屋なんだ……

(「さいあくだよ」そういってためいきをついた。)

「最悪だよ」そう言って溜息をついた。

(かれはそういうすうじてきなものをきにするたいぷらしい。)

彼はそういう数字的なものを気にするタイプらしい。

(さっかーぶにぞくしているかれにかいかつないめーじをもっていたおれは、)

サッカー部に属している彼に快活なイメージを持っていた俺は、

(そのうなだれるすがたをいがいにおもった。)

そのうなだれる姿を意外に思った。

(おれはうでどけいをみた。みたところで、きょうはもうなんのよていもないことにきづく。)

俺は腕時計を見た。見たところで、今日はもうなんの予定もないことに気づく。

(「いまからそこにいってもいいか?」ゆうじんもおれにならってか、)

「今からそこに行ってもいいか?」友人も俺に習ってか、

(ぎしきてきにうでどけいをみたあと、「いいよ」といった。)

儀式的に腕時計を見た後、「いいよ」と言った。

(おれがいったところでもんだいがかいけつするとはおもえないが、)

俺が行ったところで問題が解決するとは思えないが、

(すくなくともなにかこわいめにはあえるかもしれない。)

少なくともなにか怖い目には遭えるかも知れない。

(ゆうじんがこのはなしをおれにしたのもあんがいかいけつというもくてきではなく、)

友人がこの話を俺にしたのも案外解決という目的ではなく、

(ばくぜんとした”きょうゆう”のためかもしれないじゃないか。)

漠然とした”共有”のためかも知れないじゃないか。

(こうきしんねこをころす。おもわずそんなつぶやきがじちょうぎみにこぼれでた。)

好奇心猫を殺す。思わずそんな呟きが自嘲気味にこぼれ出た。

(きのうのよる、まんがをよんでいてそんなことばがでてきたのが)

昨日の夜、漫画を読んでいてそんな言葉が出て来たのが

(まだあたまにこびりついていたらしい。おれにぴったりのかくげんだとおもう。)

まだ頭にこびりついていたらしい。俺にぴったりの格言だと思う。

(けれどそのころのおれは、てにとどくきょりにあるおかるとじみたはなしを)

けれどその頃の俺は、手に届く距離にあるオカルトじみた話を

(むしできるしんりじょうたいになかったのはたしかだ。)

無視できる心理状態になかったのは確かだ。

(「こっきしんじゃなかったっけ」というゆうじんのあいだのぬけたこえがきこえた。)

「克己心じゃなかったっけ」という友人の間の抜けた声が聞こえた。

(ゆうぐれがふかまるなかを、じてんしゃでかけた。)

夕暮れが深まる中を、自転車で駆けた。

(みっしゅうしたじゅうたくがいからすこしはなれたこうがいにゆうじんのまんしょんはあった。)

密集した住宅街から少し離れた郊外に友人のマンションはあった。

(じょうくうからみたとすればそれはおおきなlのじのようなこうぞうをしているようだ。)

上空から見たとすればそれは大きなLの字のような構造をしているようだ。

(ちゅうしゃじょうにじてんしゃをとめ、ゆうひにきょだいなかげをのばすそのいようをみあげる。)

駐車場に自転車を止め、夕日に巨大な影を伸ばすその威容を見上げる。

(とうていがくせいむけのぶっけんにはみえない。)

とうてい学生向けの物件には見えない。

(じっさい、しきちないにはちいさなぶらんこやこんちゅうのかたちをしたゆうぐがさんけんできた。)

実際、敷地内には小さなブランコや昆虫の形をした遊具が散見できた。

(ここにはちいさなこどものいるおおくのかぞくがすんでいるのだろう。)

ここには小さな子どものいる多くの家族が住んでいるのだろう。

(「いいとこすんでんなあ」ともらしながら、ゆうじんのあとをついてげんかんへむかった。)

「いいとこ住んでんなあ」と漏らしながら、友人の後をついて玄関へ向かった。

(いっかいのふろあにはいると、すぐまともにえれべーたーがあらわれる。)

1階のフロアに入ると、すぐ正面にエレベーターが現れる。

(えるじのちょうどおれているあたりだ。)

L字のちょうど折れているあたりだ。

(みぎてがわと、ふりかえるはいごにかくへやのどあがならんでいる。)

右手側と、振り返る背後に各部屋のドアが並んでいる。

(「かいだんもあるけど、あっちのはしなんだ」とゆうじんははいごの、)

「階段もあるけど、あっちの端なんだ」と友人は背後の、

(えるじのみじかいほうのはしをゆびさした。)

L字の短い方の端を指差した。

(「ちょっとふべんなかんじ」そういいながら、ゆうじんはおもったよりあっさりと)

「ちょっと不便な感じ」そう言いながら、友人は思ったよりあっさりと

(えれべーたーのうわむきやじるしぼたんをおした。)

エレベーターの上向き矢印ボタンを押した。

(げんざいのかいすうひょうじではごかいのらんぷがてんとうしている。)

現在の階数表示では5階のランプが点灯している。

(あまりまつことなくすぐにらんぷがおりてきて、)

あまり待つことなくすぐにランプが降りてきて、

(いっかいのそれがいっしゅんてんとうするかしないかのうちにとびらがあいた。)

1階のそれが一瞬点灯するかしないかのうちに扉が開いた。

(「なんか、まえぶりあったぶん、きんちょうするな」)

「なんか、前振りあった分、緊張するな」

(そんなことをいって、ゆうじんはなかにのりこんだ。)

そんなことを言って、友人は中に乗り込んだ。

(おれもあとにつづく。「よん」のぼたんをおしてから、「しめ」のぼたんをおす。)

俺も後に続く。「4」のボタンを押してから、「閉」のボタンを押す。

(とびらがしまる。しまるしゅんかん、しょうめんのはいいろのかべにかおのようなもようが)

扉が閉まる。閉まる瞬間、正面の灰色の壁に顔のような模様が

(みえたきがしてどきっとする。)

見えた気がしてドキッとする。

(おともなくえれべーたーはじょうしょうする。いきが、つまる。)

音も無くエレベーターは上昇する。息が、詰まる。

(「いまも、めにみえないだれかがのってたりすんのかな」)

「今も、目に見えない誰かが乗ってたりすんのかな」

(ゆうじんはかるいくちょうでそういう。かすかに、ごびがふるえている。)

友人は軽い口調でそう言う。かすかに、語尾が震えている。

(なにごともなく、えれべーたーのはこはよんかいについた。)

何ごとも無く、エレベーターの箱は4階についた。

(とびらがあき、おれたちはそとにでる。)

扉が開き、俺たちは外に出る。

(ゆうじんはかるくかたをすくめて、りょうほうのてのひらをかえした。)

友人は軽く肩を竦めて、両方の手の平を返した。

(「のぼるときは、だいじょうぶなんだよ」)

「昇る時は、大丈夫なんだよ」

(ゆうやけがたちならぶへやのどあをふろあのはしまであかくそめている。)

夕焼けが立ち並ぶ部屋のドアをフロアの端まで赤く染めている。

(ゆうじんはそのひとつをゆびさして「おれんちだけど、よってくか」という。)

友人はその一つを指さして「俺んちだけど、よってくか」と言う。

(かすかなきどうおんとともにはいごのえれべーたーがしたによばれ、)

微かな起動音とともに背後のエレベーターが下に呼ばれ、

(らんぷがひとつ、ふたつ、とおりていく。)

ランプが一つ、二つ、と降りていく。

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