『からすとかがし』小川未明1【完】

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バカと利口(賢い)は紙一重だという話
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

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問題文

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(たきちじいさんは、のうみんがぼうしをかぶって、)

タキチじいさんは、農民が帽子をかぶって、

(てにゆみをもってたっている、かかしをつくるめいじんでした。)

手に弓を持って立っている、カカシを作る名人でした。

(それをみると、からすやすずめなどが、そばへよりつきませんでした。)

それを見ると、カラスやスズメなどが、そばへ寄りつきませんでした。

(それもそのはずで、おじいさんはわかいころからゆみをいるのがとくいで、)

それもそのはずで、おじいさんは若い頃から弓を射るのが得意で、

(どんなちいさなとりでも、ねらえばかならずいおとしたものです。)

どんな小さな鳥でも、ねらえば必ず射落としたものです。

(よく、ばんのそらをとんでいくかりをいおとしたり、)

よく、晩の空を飛んでい射落とした落としたり、

(はたけであそんでいるすずめをいとめたりしていました。)

畑で遊んでいるスズメを射止めたりしていました。

(だからおじいさんをみると、ことりたちはなくのをやめて、)

だからおじいさんを見ると、小鳥たちは鳴くのをやめて、

(どこかへすがたをかくしていました。)

どこかへ姿を隠していました。

(しかし、このごろはめがわるくなって、ねらいがきかなくなりました。)

しかし、この頃は目が悪くなって、ねらいがきかなくなりました。

(けれどとりたちは、ゆみをもってたっているかかしをみると、)

けれど鳥たちは、弓を持って立っているカカシを見ると、

(やはりおじいさんのような、おそろしいひとだとおもうのです。)

やはりおじいさんのような、恐ろしい人だと思うのです。

(おやどりは、ことりにこのようなことをいいました。)

親鳥は、子鳥にこのようなことを言いました。

(「あの、たんぼのなかにたっているひとがてにもっているものは、)

「あの、田んぼの中に立っている人が手に持っているものは、

(おじいさんやおばあさんからきいた、おそろしいゆみというものだよ。)

おじいさんやおばあさんから聞いた、恐ろしい弓というものだよ。

(いつとんできてささるかわからないから、そばにはゆかないほうがいい」)

いつ飛んできて刺さるか分からないから、そばにはゆかないほうがいい」

(ことりたちはたびたびいいきかされたので、よくまもっていました。)

子鳥たちは度々言い聞かされたので、よく守っていました。

(そしてらいねん、またいねがみのるころになると、)

そして来年、また稲が実る頃になると、

(たきちじいさんは、あたらしいかかしをつくりました。)

タキチじいさんは、新しいカカシを作りました。

(きょねんのことりたちはおやどりになって、おなじようにそのこどもたちにむかって、)

去年の子鳥たちは親鳥になって、同じようにその子供たちに向かって、

など

(「あれはゆみというものだよ」と、じぶんたちがきいたおそろしいはなしをしました。)

「あれは弓というものだよ」と、自分たちが聞いた恐ろしい話をしました。

(こうしてとりたちは、なるべくおじいさんのたんぼに、)

こうして鳥たちは、なるべくおじいさんの田んぼに、

(ちかよらないようにしていました。)

近寄らないようにしていました。

(ところが、ものわすれをするからすがおりました。)

ところが、物忘れをするカラスがおりました。

(きいたはなしをぜんぶわすれて、かかしのうえにきてとまりました。)

聞いた話をぜんぶ忘れて、カカシの上に来て止まりました。

(そして、かあかあとなきながら、かかしのあたまをつつきました。)

そして、カアカアと鳴きながら、カカシの頭をつつきました。

(これをみたすずめたちは、びっくりしてどうなるのかと)

これを見たスズメたちは、びっくりしてどうなるのかと

(めをまるくしていましたが、やがて「なんだ、からすがとまっても)

目を丸くしていましたが、やがて「なんだ、カラスが止まっても

(なんでもないじゃないか」といって、どっとおしよせてきました。)

なんでもないじゃないか」と言って、どっと押し寄せてきました。

(そして、ながいあいだじぶんたちをだましていたしょうたいをみやぶってしまいました。)

そして、長いあいだ自分たちをだましていた正体を見破ってしまいました。

(「こんなまがったたけが、なんになるんだ」といって、)

「こんな曲がった竹が、なんになるんだ」と言って、

(すずめたちはゆみにとまりました。)

スズメたちは弓に止まりました。

(たびからかえった、おじいさんのむすこがこのはなしをきくと、)

旅から帰った、おじいさんの息子がこの話を聞くと、

(「いまどき、ゆみなんかをもったかかしなんてあるものか。)

「今どき、弓なんかを持ったカカシなんてあるものか。

(どこのたんぼやはたけでも、てっぽうをもった、いさましいかかしをたてている」と)

どこの田んぼや畑でも、鉄砲を持った、勇ましいカカシを立てている」と

(いいました。これをきいてたきちじいさんは、「なるほどそうだな、)

言いました。これを聞いてタキチじいさんは、「なるほどそうだな、

(ゆみなんて、なにをするものかむかしのとりはしっていても、)

弓なんて、なにをするものか昔の鳥は知っていても、

(このごろのとりたちはしるわけがないか」となっとくして、)

この頃の鳥たちは知るわけがないか」と納得して、

(おじいさんはゆみのかわりに、てっぽうをもってたっているかかしをつくりました。)

おじいさんは弓の替わりに、鉄砲を持って立っているカカシを作りました。

(「みてくれ、これならいいだろう」と、おじいさんはむすこにいいました。)

「見てくれ、これならいいだろう」と、おじいさんは息子に言いました。

(「ああ、よくできています」と、むすこはこたえました。)

「ああ、よくできています」と、息子は答えました。

(このかかしをみたすずめたちは、ふるえあがりました。)

このカカシを見たスズメたちは、震え上がりました。

(「あれはてっぽうだよ。ちかよるとずどんといって、みんなころされてしまうよ」と、)

「あれは鉄砲だよ。近寄るとズドンといって、みんな殺されてしまうよ」と、

(おやすずめはこすずめにいいきかせました。)

親スズメは子スズメに言い聞かせました。

(ところが、またものわすれをするからすがやってきて、)

ところが、また物忘れをするカラスがやって来て、

(かかしのうえにとまりました。)

カカシの上に止まりました。

(「なぜとまっているのだろう」と、おじいさんはくびをかしげました。)

「なぜ止まっているのだろう」と、おじいさんは首をかしげました。

(するとそのからすは、「しっていますよ、なにをもっていたとしても)

するとそのカラスは、「知っていますよ、なにを持っていたとしても

(うてないことを。ばか、ばか」といって、わらいました。)

うてないことを。バカ、バカ」と言って、笑いました。

(ほかのとりたちは、からすのゆうきあるげんどうにかんしんしました。)

ほかの鳥たちは、カラスの勇気ある言動に感心しました。

(いままでばかにされていたからすが、)

今までバカにされていたカラスが、

(いちばんりこうなとりといわれるようになりました。)

一番利口な鳥と言われるようになりました。

(そしてすずめたちは、かかしをみくだしていねをあらしましたが、)

そしてスズメたちは、カカシを見下して稲を荒らしましたが、

(あるひ、おじいさんのむすこがうった、ほんとうのてっぽうにより、)

ある日、おじいさんの息子が撃った、本当の鉄砲により、

(みんなころされてしまいました。)

みんな殺されてしまいました。

(いつのじだいであっても、ばかとりこうはみわけがつきにくいものです。)

いつの時代であっても、バカと利口は見分けがつきにくいものです。

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