人形-6-(完)

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってしまっていたので、作成しました。

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問題文

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(「あなたがみいられたげんいんは、じつにはっきりしている。)

「あなたが魅入られた原因は、実にはっきりしている。

(なくなったはずのにんぎょうがこのよにえいきょうをおよぼすよりしろとしたもの。)

なくなったはずの人形がこの世に影響を及ぼす依り代としたもの。

(それはまんなかでうつったもののじゅみょうがちぢまるといううわさと)

それは真ん中で写ったものの寿命が縮まるという噂と

(おなじくらいぽぴゅらーで、えどまっきからめいじにかけてにほんじんのせんざいいしきに)

同じくらいポピュラーで、江戸末期から明治にかけて日本人の潜在意識に

(すみつづけたことば。「しゃしんにうつしとられたものは、たましいをぬかれる」)

棲み続けた言葉。「写真に写し撮られたものは、魂を抜かれる」

(というれいのあれだ」ししょうはおれのてからもぎとったしゃしんのにんぎょうのあたりを)

という例のあれだ」師匠は俺の手からもぎ取った写真の人形のあたりを

(てのひらでおおいかくすようにしてつづけた。)

手のひらで覆い隠すようにして続けた。

(「あなたがおばあちゃんからもらったというこのしゃしんこそがげんきょうだよ。)

「あなたがおばあちゃんから貰ったというこの写真こそが元凶だよ。

(にんぎょうのけいがいはほろんでも、たましいはぬかれてここにうつしこまれている」)

人形の形骸は滅んでも、魂は抜かれてここに写し込まれている」

(そういいながられいこさんのかおをあげさせた。)

そう言いながら礼子さんの顔を上げさせた。

(めはなみだでぬれているが、そのひかりにきょうきのいろはないようにおもえた。)

目は涙で濡れているが、その光に狂気の色はないように思えた。

(「これはぼくがもらう。いいね」れいこさんはふるえながらなんどもうなずいた。)

「これは僕が貰う。いいね」礼子さんは震えながら何度も頷いた。

(ししょうはぼうぜんとするみかっちさんにもおなじようにこえをかけ、)

師匠は呆然とするみかっちさんにも同じように声を掛け、

(「あのえはおかないほうがいい。あれもぼくがもらう」とせんこくする。)

「あの絵は置かない方がいい。あれも僕が貰う」と宣告する。

(そうしてさいごにおれにわらいかけ、「おまえからはとくにもらうものはないな」)

そうして最後に俺に笑い掛け、「おまえからは特に貰うものはないな」

(といっておれのせなかをおもいきりばんとたたいた。)

と言って俺の背中を思い切りバンと叩いた。

(いきなりだったのでむせこんだが、そのせなかのいたみが)

いきなりだったのでむせ込んだが、その背中の痛みが

(おれのからだをこうちょくさせていた”いやなかんじ”をいっしゅんわすれさせた。)

俺の体を硬直させていた”嫌な感じ”を一瞬忘れさせた。

(ひきあげようと、ししょうはしずかにつげた。)

引き上げようと、師匠は静かに告げた。

(そのあと、れいこさんはいとがきれたようにぐったりときゃくまのそふぁーによこたわった。)

その後、礼子さんは糸が切れたようにぐったりと客間のソファーに横たわった。

など

(そのかおはしかし、きりょくとともにつきものがとれたようにおだやかにみえた。)

その顔はしかし、気力と共に憑き物が取れた様に穏やかに見えた。

(おれたちはれいこさんにこころをのこしつつもそのおおきないえをじきょした。)

俺たちは礼子さんに心を残しつつもその大きな家を辞去した。

(みかっちさんがあおざめたかおで、それでもしゅしょうにはんどるをにぎり)

みかっちさんが青ざめた顔で、それでも殊勝にハンドルを握り

(もときたみちをぎゃくにたどっていった。「あんたなにものなのよ」ちいさなこうさてんで)

元来た道を逆に辿っていった。「あんた何者なのよ」小さな交差点で

(いちじていししながらかすれたようなこえでそういって、よこのししょうをのぞきみる。)

一時停止しながら掠れたような声でそう言って、横の師匠を覗き見る。

(かのじょのなかで、「gekoちゃんのかれし」いがいのいちづけが)

彼女の中で、『gekoちゃんの彼氏』以外の位置づけが

(うまれたのはまちがいないようだ。)

生まれたのは間違いないようだ。

(そのいちづけがどうあるべきか、まよっているのだ。)

その位置づけがどうあるべきか、迷っているのだ。

(それはおれにしても、であったころからのかだいだった。)

それは俺にしても、出会った頃からの課題だった。

(「さあ」ときのないへんじだけしてししょうはまどのそとにめをやった。)

「さあ」と気の無い返事だけして師匠は窓の外に目をやった。

(くるまはまちなかのちゅうしゃじょうについて、おれたちはぐるーぷてんのおこなわれている)

車は街なかの駐車場に着いて、俺たちはグループ展の行われている

(ぎゃらりーにまいもどった。「ちょっとまってて」といってみかっちさんは)

ギャラリーに舞い戻った。「ちょっと待ってて」と言ってみかっちさんは

(てんないにきえていった。と、いっぷんもたたないうちに「えがない」)

店内に消えていった。と、1分も経たない内に「絵がない」

(とわめきながらとびだしてきた。おれたちもあわててなかにはいる。「どこにもないのよ」)

と喚きながら飛び出して来た。俺たちも慌てて中に入る。「どこにもないのよ」

(そういってかんさんとしたぎゃらりーのかべにりょうてをひろげてみせた。)

そう言って閑散としたギャラリーの壁に両手を広げて見せた。

(たしかにない。おくの、しょうめいがすこしくらいところにかざってあったはずのにんぎょうのえが)

確かにない。奥の、照明が少し暗い所に飾ってあったはずの人形の絵が

(どこにもみあたらない。「ねえ、わたしのにんぎょうのえは?どこかにおいた?」)

どこにも見当たらない。「ねえ、私の人形の絵は? どこかに置いた?」

(とみかっちさんはうけつけにいたふたりの、どうねんれいとおぼしきじょせいにこえをかける。)

とみかっちさんは受付にいた二人の、同年齢と思しき女性に声を掛ける。

(「にんぎょうのえ?しらない」とふたりともかおをみあわせた。)

「人形の絵? 知らない」と二人とも顔を見合わせた。

(「あったでしょ、よんごうの」)

「あったでしょ、4号の」

(たたみかけるみかっちさんのひっしさがあいてにはつたわらず、)

畳み掛けるみかっちさんの必死さが相手には伝わらず、

(ふたりともとまどっているばかりだ。)

二人とも戸惑っているばかりだ。

(おれとししょうもえがあったはずのあたりにたってしゅういをみまわす。)

俺と師匠も絵があったはずのあたりに立って周囲を見回す。

(にんぎょうのえのとなりはなんのえだったか。)

人形の絵の隣はなんの絵だったか。

(びんとりんごのえだったか、にそくのくつのえだったか・・・・・・どうしてもおもいだせない。)

瓶とリンゴの絵だったか、2足の靴の絵だったか……どうしても思い出せない。

(しかし、かべにかざられたさくひんがならんでいるようすをみると、)

しかし、壁に飾られた作品が並んでいる様子を見ると、

(ほかのえがはいりこむすきまなどないようにおもえる。)

他の絵が入り込む隙間など無いように思える。

(うすらさむくなってきた。やがてみかっちさんがそばにきて、)

薄ら寒くなって来た。やがてみかっちさんが傍に来て、

(「はんにゅうのときのりすとにもないって、どうなってんの」と)

「搬入の時のリストにもないって、どうなってんの」と

(うちひしがれたようにかたをおとす。)

打ちひしがれたように肩を落とす。

(「なんかだめ、あたし。あのにんぎょうがらみだと、ぜんぜんきおくがあいまい。)

「なんかダメ、あたし。あの人形がらみだと、全然記憶があいまい。

(なにがほんとなのかぜんぜんわかんなくなってきた」それはおれもおなじだ。)

何がホントなのか全然わかんなくなってきた」それは俺も同じだ。

(ついすうじかんまえにこのめでみたはずのえが、そのそんざいが、)

つい数時間前にこの目で見たはずの絵が、その存在が、

(こつねんときえてしまっている。)

忽然と消えてしまっている。

(「ねえ、このへんからへんなこえがしたり、くろいかみのけが)

「ねえ、このへんから変な声がしたり、黒い髪の毛が

(いっぱいおちてたりしたよね」とみかっちさんはふたたびなかまのほうへこえをかけるが、)

いっぱい落ちてたりしたよね」とみかっちさんは再び仲間の方へ声を掛けるが、

(「えー、なにそれしらない。あんたなにへんことばっかりいってんの」)

「えー、なにそれ知らない。あんたなに変ことばっかり言ってんの」

(とかえされた。「そのかみのけはひとりでそうじしたのか」)

と返された。「その髪の毛は一人で掃除したのか」

(なっとくいかないようすながらも、ししょうのことばにうなずく。)

納得いかない様子ながらも、師匠の言葉に頷く。

(そんなみかっちさんはともかく、おれたちまでまぼろしをみていたというのか。)

そんなみかっちさんは兎も角、俺たちまで幻を見ていたというのか。

(ししょうにそのそんざいをひていされてから、あのにんぎょうのこんせきがきえていく。)

師匠にその存在を否定されてから、あの人形の痕跡が消えていく。

(おれはめのまえのくうかんがゆがんでいくようないわかんにつつまれていた。)

俺は目の前の空間が歪んで行く様な違和感に包まれていた。

(まるでこのよをしんしょくしようとしたいぶつがおのれにかかわるすべてを)

まるでこの世を侵食しようとした異物が己に関わるすべてを

(からめとりながらやみにきえていくようだった。)

絡めとりながら闇に消えていくようだった。

(「まさか」とおれはししょうがわきにかかえるぬのをみた。)

「まさか」と俺は師匠が脇に抱える布を見た。

(きわくにおさめられたあのしゃしんをぐるぐるにまいているぬのだ。)

木枠に納められたあの写真をグルグルに巻いている布だ。

(これまで、どうにかなっているようだと、)

これまで、どうにかなっているようだと、

(それこそあたまがどうにかなりそうだった。「これは、みないほうがいいな」)

それこそ頭がどうにかなりそうだった。「これは、見ない方がいいな」

(ししょうはこわばったひょうじょうでしっかりとそれをかかえこんだ。)

師匠は強張った表情でしっかりとそれを抱え込んだ。

(そのあとししょうがそれをしょぶんしたのかどうかはしらない。)

そのあと師匠がそれを処分したのかどうかは知らない。

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