古い家-6-

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古い家-5-
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 じゅん 4577 C++ 4.7 96.3% 743.5 3536 133 65 2024/09/25

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問題文

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(おりかえしのかべにそってからだをはんてんさせようとしたししょうが)

折り返しの壁に沿って身体を反転させようとした師匠が

(たちどまってみぎがわをみている。ぼくもそのよこからくびをのばして、)

立ち止まって右側を見ている。僕もその横から首を伸ばして、

(かいちゅうでんとうのひかりのさきをみる。かいだんはもうなかった。)

懐中電灯の光の先を見る。階段はもう無かった。

(しほうをかべにかこまれたきゅうくつないたばりのろうかがすいへいほうこうにのびている。)

四方を壁に囲まれた窮屈な板張りの廊下が水平方向に伸びている。

(いきをひそめながらししょうがゆっくりとあしをふみだしていく。)

息を潜めながら師匠がゆっくりと足を踏み出していく。

(ぼくはめをとじてしまいたかった。)

僕は眼を閉じてしまいたかった。

(それでもししょうのせなかにかくれるようにあとをつづく。)

それでも師匠の背中に隠れるように後を続く。

(かいちゅうでんとうのまるいひかりが、くちはてたようなきどをやみのなかにてらしだす。)

懐中電灯の丸い光が、朽ち果てたような木戸を闇の中に照らし出す。

(「きをつけろよ」そうささやきながらししょうがかるくひだりてでおす。)

「気をつけろよ」そう囁きながら師匠が軽く左手で押す。

(きぃというおととともにとはおくへひらいていった。)

キィという音とともに戸は奥へ開いていった。

(「なんだここ」ししょうがすりあしでしんちょうになかにあしをふみいれる。)

「なんだここ」師匠がすり足で慎重に中に足を踏み入れる。

(そこはたたみじきのへやだった。はちじょうまくらいだろうか。)

そこは畳敷きの部屋だった。八畳間くらいだろうか。

(ししょうがはちのじになみうつようにかいちゅうでんとうをうごかし、)

師匠が8の字に波打つように懐中電灯を動かし、

(へやのなかをすこしづつてらしていく。)

部屋の中を少しづつ照らしていく。

(せのひくいわだんすがかべぎわにぽつんとあるのがみえた。)

背の低い和箪笥が壁際にぽつんとあるのが見えた。

(そしてそのとなりにはさびついたしょくだい。)

そしてその隣には錆付いた燭台。

(かべのひょうめんのいちぶがくずれて、つちくれがゆかにぽろぽろところがっている。)

壁の表面の一部が崩れて、土くれが床にぽろぽろと転がっている。

(さっぷうけいなへやだった。ひとのけはいはない。せいかつのけはいも。)

殺風景な部屋だった。人の気配はない。生活の気配も。

(たたみからはかびのにおいがたちこめてくる。てんじょうにはくものす。)

畳からは黴の匂いが立ち込めてくる。天井には蜘蛛の巣。

(ちかにへやがあるとしったじてんで、ざしきろうのようなところをそうぞうしていたぼくは)

地下に部屋があると知った時点で、座敷牢のような所を想像していた僕は

など

(むしろここちのわるいずれのようなものをかんじた。)

むしろ心地の悪いズレのようなものを感じた。

(まるでこのいえのじゅうにんのひとりにあてがわれた、)

まるでこの家の住人の一人にあてがわれた、

(ただのへやのようなたたずまいだったからだ。あのながいかいだんさえなければ。)

ただの部屋のような佇まいだったからだ。あの長い階段さえなければ。

(ふいにししょうのこきゅうがとまった。ぼくのほおをなまあたたかいかぜがなでていく。)

ふいに師匠の呼吸が止まった。僕の頬を生暖かい風が撫でていく。

(ときがとまったように、かぜのふいてくるほうこうをししょうはみつめている。)

時が止まったように、風の吹いてくる方向を師匠は見つめている。

(しょうめんのかべに、しかくくくりぬかれたあながある。)

正面の壁に、四角く刳り抜かれた穴がある。

(りょうてをひろげたくらいのはばのそのあなのがいしゅうにはきでできたわくがある。)

両手を広げたくらいの幅のその穴の外周には木で出来た枠がある。

(まどだ。)

窓だ。

(そうおもったしゅんかん、からだのなかをむすうのてがはいのぼっていくような)

そう思った瞬間、身体の中を無数の手が這い登っていくような

(きもちのわるいかんかくにおそわれる。まどにはこうしどがかかっている。)

気持ちの悪い感覚に襲われる。窓には格子戸がかかっている。

(そのこうしとこうしのあいだのせまいすきまから、むこうのけしきがかすかにのぞいている。)

その格子と格子の間の狭い隙間から、向こうの景色が微かに覗いている。

(ししょうがゆっくりとちかづいていく。)

師匠がゆっくりと近づいていく。

(ゆらめくかいちゅうでんとうのひかりが、こうしとそのすきまとにあやしいしまもようをうつしだしている。)

揺らめく懐中電灯の光が、格子とその隙間とに妖しい縞模様を映し出している。

(ししょうがまどべにたって、ゆっくりといきをはく。)

師匠が窓辺に立って、ゆっくりと息を吐く。

(ぼくもなにかにみいられたようにあしをはこび、ししょうのとなりにならぶ。)

僕も何かに魅入られたように足を運び、師匠の隣に並ぶ。

(こうしのすきまからかぜがはいりこんできている。)

格子の隙間から風が入り込んできている。

(そのむこうには、くらいくうかんがひろがっている。くらいけれど、やみではない。)

その向こうには、暗い空間が広がっている。暗いけれど、闇ではない。

(とおくにきいろくひかるがいとうがぽつんとたっている。しずかなあぜみちがよこにのびている。)

遠くに黄色く光る街灯がぽつんと立っている。静かな畦道が横に伸びている。

(くろぐろとしたやまなみがそのはてにみえる。かえるのなきごえがかすかにきこえる。)

黒々とした山なみがその果てに見える。蛙の鳴き声がかすかに聞こえる。

(いったいここはどこなんだ?こたえるものはなにもなく、)

いったいここはどこなんだ?応えるものはなにもなく、

(ただおぼろよのそこのこうけいがぼくらのまえにあった。)

ただ朧夜の底の光景が僕らの前にあった。

(あぜみちのむこうから、ゆれるあかりがちかづいてくるのがみえる。)

畦道の向こうから、揺れる明かりが近づいて来るのが見える。

(わずかにみおろす。ここはじめんよりもすこしたかいところにあるらしい。)

わずかに見下ろす。ここは地面よりも少し高い所にあるらしい。

(あかりとともにあぜみちをやってくるひとかげがみえた。)

明かりとともに畦道をやって来る人影が見えた。

(ここからではとおくて、にんぎょうのようにちいさい。ああ。ちかづいてくる。)

ここからでは遠くて、人形のように小さい。ああ。近づいてくる。

(そうおもったしゅんかん、ぼくはししょうのうでをつかんだ。)

そう思った瞬間、僕は師匠の腕を掴んだ。

(そしてうむをいわさずまどぎわからひきはなす。)

そして有無を言わさず窓際から引き離す。

(「もどりましょう」そういって、はいってきたへやのとにむかう。)

「戻りましょう」そう言って、入って来た部屋の戸に向かう。

(むねがどん、どん、とたかなっている。こわい。こわい。)

胸がドン、ドン、と高鳴っている。怖い。怖い。

(あたまが、それいがいのことばをつむぐのをおそれている。)

頭が、それ以外の言葉を紡ぐのを恐れている。

(とまどったようにうごきのにぶいししょうからかいちゅうでんとうをもぎとり、)

戸惑ったように動きの鈍い師匠から懐中電灯をもぎ取り、

(いたばりのろうかへさきにふみだす。)

板張りの廊下へ先に踏み出す。

(はやあしでせまいろうかをぬけ、あおぐようにそびえるかいだんにあしをかける。)

早足で狭い廊下を抜け、仰ぐように聳える階段に足をかける。

(そしておりてきたときより、もっとたかくなったようなきがするいちだんいちだんを、)

そして降りて来た時より、もっと高くなったような気がする一段一段を、

(やみくもにのぼっていく。こわい。こわい。かべにつきあたり、ひだりにまがる。)

闇雲に昇っていく。怖い。怖い。壁に突き当たり、左に曲がる。

(おりかえすとまたかいだんがうえにつづいている。どこまでもつづいている。)

折り返すとまた階段が上に続いている。どこまでも続いている。

(あしおとがひとりぶんしかきこえない。そうおもったしゅんかん、ばきぃっ、というはかいおんが)

足音が一人分しか聞こえない。そう思った瞬間、バキィッ、という破壊音が

(くうきをふるわせた。あしがとまる。したからだ。)

空気を震わせた。足が止まる。下からだ。

(ぼくはふりむくと、とぶようにかいだんをかけおりた。したまでつくと、)

僕は振り向くと、飛ぶように階段を駆け降りた。下まで着くと、

(いやなおとのするろうかをはしりぬけ、とがあいたままのへやにとびこむ。)

嫌な音のする廊下を走り抜け、戸が開いたままの部屋に飛び込む。

(ししょうがきんぞくせいのしょくだいをりょうてでふりあげ、まどのこうしどにたたきつけている。)

師匠が金属製の燭台を両手で振り上げ、窓の格子戸に叩きつけている。

(もくせいのこうしがいっぽん、にほんとくだけて、そとにおちていく。)

木製の格子が1本、2本と砕けて、外に落ちていく。

(ぼくはししょうのなまえをさけんでこしのあたりにくみついた。)

僕は師匠の名前を叫んで腰のあたりに組み付いた。

(そのころのぼくにはまだ、けっしてこえてはならない)

その頃の僕にはまだ、けっして越えてはならない

(きょうかいせんというものがたしかにあったとおもう。)

境界線というものが確かにあったと思う。

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