怪物 「起」-1-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(きょうすけさんからきいたはなしだ。こわいゆめをみていたきがする。)

京介さんから聞いた話だ。怖い夢を見ていた気がする。

(うすっすらとめをあけて、しーつのしろさにまためをとじる。)

薄っすらと目を開けて、シーツの白さにまた目を閉じる。

(とりのなきごえがきこえない。いきをはいてから、べっどからからだをおこす。)

鳥の鳴き声が聞こえない。息を吐いてから、ベッドから体を起こす。

(しずかなあさだ。どんなゆめだっただろうとおもいだしながらきおくをたどろうとする。)

静かな朝だ。どんな夢だっただろうと思い出しながら記憶を辿ろうとする。

(すると「すずめはたましいをみることができる」というはなしがふとあたまにうかんだ。)

すると「スズメは魂を見ることができる」という話がふと頭に浮かんだ。

(どこかのくにのでんしょうで、すずめはうまれてくるまえのにんげんのたましいを)

どこかの国の伝承で、スズメは生まれてくる前の人間の魂を

(みることができるという。)

見ることができるという。

(あさ、すずめがさえずるのはそのうまれてくるたましいにはんのうしているのだと。)

朝、スズメがさえずるのはその生まれてくる魂に反応しているのだと。

(そのたましいがやってくるばしょがからっぽになっていると、)

その魂がやってくる場所が空っぽになっていると、

(たましいをもたないこどもがうまれてくる。)

魂を持たない子どもが生まれて来る。

(そんなこどもがうまれるあさにはすずめはさえずらない。)

そんな子どもが生まれる朝にはスズメはさえずらない。

(だから、すずめのこえのきこえないあさはふきつさのしょうちょうだ。)

だから、スズメの声の聞こえない朝は不吉さの象徴だ。

(かーてんをあけるとにかいのまどからみえるいえなみはいつもとかわらないすがたで、)

カーテンを開けると2階の窓から見える家並みはいつもと変わらない姿で、

(あわただしいいちにちのはじまりのいぶきがそこかしこにみちている。)

慌しい一日の始まりの息吹がそこかしこに満ちている。

(そういえばきょうはなんようびだっただろう。)

そう言えば今日は何曜日だっただろう。

(めをとじて、いちびょうかぞえたら、たわいもなくありふれた)

目を閉じて、一秒数えたら、他愛もなくありふれた

(どようびのあさでありますように。そのひ、つまりゆううつなるげつようび。)

土曜日の朝でありますように。その日、つまり憂鬱なる月曜日。

(がっこうへのつうがくろのとちゅう、みちいくひとびとのむれのなかでふとあしをとめた。)

学校への通学路の途中、道行く人々の群れの中でふと足を止めた。

(しかくでも、ちょうかくでも、きゅうかくでもなく、まだどれにもわかれない)

視覚でも、聴覚でも、嗅覚でもなく、まだどれにも分かれない

(みぶんかのかんかくが、まちのかすかないわかんをとらえたきがした。)

未分化の感覚が、街の微かな違和感をとらえた気がした。

など

(わたしにぶつかりそうになったさらりーまんがしたうちをしながらそでをかすめていく。)

私にぶつかりそうになったサラリーマンが舌打ちをしながら袖を掠めていく。

(いろとりどりのたくさんのくつが、それぞれのすてっぷでわたしをおいこしていく。)

色とりどりのたくさんの靴が、それぞれのステップで私を追い越していく。

(そのざっとうのなかでわたしは、ぎぎぎぎぎ・・・・・・というふるいかぐがきしむようなおとを)

その雑踏の中で私は、ギギギギギ……という古い家具が軋むような音を

(きいたきがした。うごめきつづけるにんげんのむれのなかでみをかたくする。)

聞いた気がした。蠢き続ける人間の群れの中で身を固くする。

(なつがいっしゅんでおわったようなはださむさをかんじたきがした。)

夏が一瞬で終わったような肌寒さを感じた気がした。

(あすふぁるとからたちあがる、ふりもしないあめのにおいをかいだきがした。)

アスファルトから立ち上る、降りもしない雨の匂いを嗅いだ気がした。

(けれどそのどれもがまぼろしだということもまたどうじにかんじた。)

けれどそのどれもが幻だということもまた同時に感じた。

(なにかほんしつてきなものがそれらのヴぇーるのむこうにひそんでいるような、)

なにか本質的なものがそれらのヴェールの向こうに潜んでいるような、

(えたいのしれないけんおかんがからだにまとわりついてくる。)

得体の知れない嫌悪感が身体にまとわりついてくる。

(みちばたのごみすてばにあつまっていたからすがないた。)

道端のゴミ捨て場に集まっていたカラスが鳴いた。

(いちわがなくとほかのからすたちにもでんぱするようになきごえがなみのようにひろがる。)

一羽が鳴くと他のカラスたちにも伝播するように鳴き声が波のように広がる。

(そばをとおるなんにんかのにんげんがそちらをみた。)

そばを通る何人かの人間がそちらを見た。

(そのこえはきゅうあいでも、なわばりをしゅちょうするものでもなく、)

その声は求愛でも、縄張りを主張するものでもなく、

(ただ”なにかをけいかいせよ”というきんぱくしたひびきをもっているきがした。)

ただ"何かを警戒せよ"という緊迫した響きを持っている気がした。

(けれどだれもそれにひつよういじょうのかんしんをしめさず、あしをとめるひとはいない。)

けれど誰もそれに必要以上の関心を示さず、足を止める人はいない。

(わたしもまたかたちにならないどこかとおくにあるようなふあんかんをむねにいだきながら、)

私もまた形にならないどこか遠くにあるような不安感を胸に抱きながら、

(それをふりはらい、がっこうへのみちをいそぐのだった。なにかがこのまちにおこりつつある。)

それを振り払い、学校への道を急ぐのだった。何かがこの街に起こりつつある。

(はっきりそうかんじたのはつぎのひ、かようびのがっこうのひるやすみだった。)

はっきりそう感じたのは次の日、火曜日の学校の昼休みだった。

(「わたし、きのうこわいゆめみた~」ひるのおべんとうをそうそうにたべおわり、)

「わたし、昨日怖い夢見た~」昼のお弁当を早々に食べ終わり、

(どこかすずしいところでひるねでもしようかとたちあがりかけたときに)

どこか涼しいところで昼寝でもしようかと立ち上がりかけた時に

(そんなことばをみみにした。きょうしつのまんなかあたりでつくえをよっつならべて)

そんな言葉を耳にした。教室の真ん中あたりで机を4つ並べて

(おひるごはんをたべているぐるーぷだった。)

お昼ご飯を食べているグループだった。

(そのことばにはんのうしたのは、なにかりゆうがあったわけではない。)

その言葉に反応したのは、なにか理由があったわけではない。

(いわばかんだ。けれどそのこのつぎのことばをきいたしゅんかん、)

いわばカンだ。けれどその子の次の言葉を聞いた瞬間、

(わたしのなかでなにかがかちりとおとをたてた。)

私の中で何かがカチリと音を立てた。

(「でもなんか~、どんなゆめだったかわすれちゃった」)

「でもなんか~、どんな夢だったか忘れちゃった」

(そのおとはかぎあながたてるおとなのか、それともとけいのはりが)

その音は鍵穴が立てる音なのか、それとも時計の針が

(きれいなすうじをさしたおとなのか。)

綺麗な数字を指した音なのか。

(わたしはどっどっどっ・・・・・・とすこしずつはやくなるこどうをじっときいていた。)

私はドッドッドッ……と少しずつ早くなる鼓動をじっと聴いていた。

(「なんでわすれたのにこわいゆめってわかんのよ」「そういや、そっか~」)

「なんで忘れたのに怖い夢って分かんのよ」「そういや、そっか~」

(たわいのないかいわがつづき、かのじょたちのわだいはなんのひっかかりもなく)

他愛のない会話が続き、彼女たちの話題は何の引っ掛かりもなく

(みるまにかわっていった。)

見る間に変わっていった。

(きのうこわいゆめをみたどんなゆめかわすれたけどそのことばを、)

昨日・怖い・夢を・見た・どんな・夢か・忘れた・けどその言葉を、

(わたしはけさもきいた。たしかにきいた。きしかんではない。)

私は今朝も聞いた。確かに聞いた。既視感ではない。

(あれはあるいてとうこうするときの、つうきんらっしゅでごったがえすひとのむれのなかだった。)

あれは歩いて登校する時の、通勤ラッシュでごった返す人の群れの中だった。

(だれがはなしていたのか、かおもみていない。ただそのとき、わたしはおもったのだ。)

誰が話していたのか、顔も見ていない。ただその時、私は思ったのだ。

((そういえばわたしもだな))

(そういえば私もだな)

(いま、まるでおなじことばをみみにしてわたしのなかのどうぶつてきほんのうがふきつなものをさっちした。)

今、まるで同じ言葉を耳にして私の中の動物的本能が不吉なものを察知した。

(たちあがり、きょうしつをでる。そとのくうきがすいたい。)

立ち上がり、教室を出る。外の空気が吸いたい。

(ろうかをうわばきがたたくおとがにじゅうにきこえた。だれかがついてくるなつかしいおと。)

廊下を上履きが叩く音が二重に聞こえた。誰かがついてくる懐かしい音。

(でもわたしのいくあとをいつもついてきていたこはいま、がっこうをやすんでいる。)

でも私の行く後をいつもついて来ていた子は今、学校を休んでいる。

(ちかぢかてんこうするのだとひとづてにきいた。ちいさなはりが、むねのうちがわをつつくかんじ。)

近々転校するのだと人づてに聞いた。小さな針が、胸の内側をつつく感じ。

(「やまなかさん」というこえにふりむくと、めだたないかおだちの)

「山中さん」という声に振り向くと、目立たない顔立ちの

(こがらなこがたっている。たかのしほというなまえのくらすめいとだ。)

小柄な子が立っている。高野志保という名前のクラスメイトだ。

(すこしまえにあるじけんでかかわってからみょうになつかれてしまっていた。)

少し前にある事件で関わってから妙に懐かれてしまっていた。

(よいきぶんではない。わたしはできるだけひとりでいたい。)

良い気分ではない。私は出来るだけ一人でいたい。

(「あの・・・・・・わたしもみたよ。きのう。こわいゆめ。うらないとかとくいなんだよね。)

「あの……私も見たよ。昨日。怖い夢。占いとか得意なんだよね。

(やまなかさん。ちょっとうらなってくれないかな」わたしはたちどまり、かおをつきだした。)

山中さん。ちょっと占ってくれないかな」私は立ち止まり、顔を突き出した。

(「いそいでるんだ。またこんどね」「あ、うん。ごめん」)

「急いでるんだ。また今度ね」「あ、うん。ごめん」

(きびすをかえしてそのばをたちさる。ああ。いやなやつだ。)

踵を返してその場を立ち去る。ああ。嫌なヤツだ。

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