怪物 「起」-2-
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問題文
(かるいじこけんおにさいなまれながらわたしはいそいだ。どこに?どこか、ひとのいないところに。)
軽い自己嫌悪に苛まれながら私は急いだ。どこに?どこか、人のいない処に。
(そのひのよる、わたしはひまつぶしにいもうとのへやにあったろーかるじょうほうしをはいしゃくし、)
その日の夜、私は暇つぶしに妹の部屋にあったローカル情報誌を拝借し、
(じぶんのへやにねころがってよんでいた。)
自分の部屋に寝転がって読んでいた。
(てーぶるのうえのらじおからはしらないようがくがながれている。)
テーブルの上のラジオからは知らない洋楽が流れている。
(そのざっしをてきとうにとばしよみしていると、せいざうらないのこーなーで)
その雑誌を適当に飛ばし読みしていると、星座占いのコーナーで
(てがとまった。じもとではゆうめいなうらないしがもっているぺーじだ。)
手が止まった。地元では有名な占い師が持っている頁だ。
(いったことはないけれど、まちなかにうらないのみせもだしているらしい。)
行ったことはないけれど、街なかに占いの店も出しているらしい。
(そのじょうほうしはげっかんなので、ひとつきぶんのうんせいがせいざごとにならんでいる。)
その情報誌は月刊なので、ひと月分の運勢が星座ごとに並んでいる。
(せいざごとで、しかもいっかげつつうじてのうんせいだなんて、)
星座ごとで、しかも一ヶ月通じての運勢だなんて、
(けつえきがたうらないとおなじくらいうさんくさい。)
血液型占いと同じくらい胡散臭い。
(とりあえずじぶんのせいざをかくにんして、それからもうひとつのせいざをよむ。)
とりあえず自分の星座を確認して、それからもう一つの星座を読む。
(こんなところがどうしようもなくじょしこうせいっぽくてじぶんでもいやになる。)
こんなところがどうしようもなく女子高生っぽくて自分でも嫌になる。
(そのあと、てきとうにぜんごのせいざのうんせいをよんでいると、)
その後、適当に前後の星座の運勢を読んでいると、
(どれもあんまりよくないかかれかたをしているのにきがついた。)
どれもあんまり良くない書かれ方をしているのに気がついた。
(「じっとしているがきち」「がいしゅつはひかえて」「だいじなものをうしなうあんじ?」)
『じっとしているが吉』『外出は控えて』『大事なものを失う暗示?』
(「もういちどかんがえて」・・・・・・せいざのなまえのすぐよこにいつつのほしがならんでいて、)
『もう一度考えて』……星座の名前のすぐ横に5つの星が並んでいて、
(そのうちくろいほしのかずがおおいほどうんせいがよいということらしいのだが、)
そのうち黒い星の数が多いほど運勢が良いということらしいのだが、
(わたしのせいざはほしひとつ。ほかのせいざもひとつとかふたつばかりで、みっつというのが)
私の星座は星1つ。ほかの星座も1つとか2つばかりで、3つというのが
(さいこうだった。どういうことだろう。てんじょうをみながらすこしかんがえる。)
最高だった。どういうことだろう。天井を見ながら少し考える。
(きゅうにどあをのっくするおとがきこえて、どきっとした。てきとうにへんじをすると)
急にドアをノックする音が聞こえて、ドキッとした。適当に返事をすると
(いもうとがろうかからにゅっとかおをだし、いきなりこちらをゆびさした。)
妹が廊下からニュッと顔を出し、いきなりこちらを指さした。
(「やっぱりここだ。かえしてよ。まだよんでないんだから」)
「やっぱりここだ。返してよ。まだ読んでないんだから」
(ざっしをもぎとられそうになるのをちからずくでおさえこんで、)
雑誌をもぎ取られそうになるのを力ずくで押さえ込んで、
(「このうらないのぺーじって、いつもこんなほしのあべれーじ?」ときく。)
「この占いのページって、いつもこんな星のアベレージ?」と聞く。
(いもうとはじっとそのぺーじをみつめ、「いつもはそんなひくくないよ」とこたえた。)
妹はじっとそのページを見つめ、「いつもはそんな低くないよ」と答えた。
(ほしみっつとか、よっつとかがふつうとのことらしい。)
星3つとか、4つとかが普通とのことらしい。
(「えー、なにこれ、やなかんじ。このほしうらないのおばはん、)
「えー、なにこれ、やな感じ。この星占いのオバハン、
(なんかいやなことでもあったんじゃない?」)
なんか嫌なことでもあったんじゃない?」
(いもうとはそんなことをいいながら、ちからをゆるめたわたしのてからだっしゅした)
妹はそんなことを言いながら、力を緩めた私の手から奪取した
(ざっしをまじまじとよみはじめた。「じぶんのへやでよめ」とおいだすと、)
雑誌をまじまじと読み始めた。「自分の部屋で読め」と追い出すと、
(なにかもんくをいっていたがむししてべっどにねころぶ。)
なにか文句を言っていたが無視してベッドに寝転ぶ。
(”いやなことがあったから、はらいせでどくしゃのうんせいをわるくかいてみた”)
"嫌なことがあったから、腹いせで読者の運勢を悪く書いてみた"
(やはりどこかちがうきがする。)
やはりどこか違う気がする。
(なぜなら、わるくしないためのけいくばかりならんでいたからだ。)
何故なら、悪くしないための警句ばかり並んでいたからだ。
(ろーかるしか・・・・・・つぶやいて、それからめをとじる。)
ローカル誌か……呟いて、それから目を閉じる。
(いつのまにかうとうとしていたらしい。らじおのおとにめがさめた。)
いつの間にかウトウトしていたらしい。ラジオの音に目が覚めた。
(「・・・・・・え?どんなゆめだったかなぁ。わすれたけど。)
『……え? どんな夢だったかなぁ。忘れたけど。
(こわいゆめだったってのだけはおぼえてんだけどね。まあいいか。ははは。)
怖い夢だったってのだけは覚えてんだけどね。まあいいか。ははは。
(じゃあ、おれもおなかまだったということで、つぎのはがきね。)
じゃあ、俺もお仲間だったということで、次のハガキね。
(え~と、うちのおかんさいあくです、まるまるほんせいりされました、)
え~と、うちのオカン最悪です、〇〇本整理されました、
(っていきなりだなおい」らじおにとびついてぼりゅーむをあげる。)
っていきなりだなオイ』ラジオに飛びついてボリュームを上げる。
(けれどまるまるほんだんぎのつぎはこのなつこんさーとでやってくるおおものがいじんのわだいで、)
けれど〇〇本談義の次はこの夏コンサートでやって来る大物外人の話題で、
(そのあともにどとゆめのはなしはでなかった。やがてこまーしゃるがながれはじめ、)
その後も二度と夢の話は出なかった。やがてコマーシャルが流れ始め、
(じもとのかじゅあるしょっぷのなまえがれんこされているのをききながらわたしは、)
地元のカジュアルショップの名前が連呼されているのを聞きながら私は、
(このまちでなにかがおこりつつあるというしょうたいふめいのよかんに、)
この街で何かが起こりつつあるという正体不明の予感に、
(あしもとをゆらされているようなきょうふをかんじていた。こわいゆめをみていたきがする。)
足元を揺らされているような恐怖を感じていた。怖い夢を見ていた気がする。
(めざましどけいをとめ、あくびをひとつしてからからだをべっどのうえにおこす。)
目覚まし時計を止め、あくびを一つしてから身体をベッドの上に起こす。
(いつもはえんじんのかかりがおそいわたしのあたまが、いまはきゅうそくにかいてんをはじめる。)
いつもはエンジンの掛かりが遅い私の頭が、今は急速に回転を始める。
(おもいだせ。どんなゆめだった?くらいいめーじ。いやな。いやないめーじ。)
思い出せ。どんな夢だった?暗いイメージ。嫌な。嫌なイメージ。
(こわいいめーじ。てーぶるにおいてあったのーとをひろげ、ぺんをもつ。)
怖いイメージ。テーブルに置いてあったノートを広げ、ペンを持つ。
(こつ、こつ、こつ、とたたいてからやがてがくりとそのうえにつっぷす。)
コツ、コツ、コツ、と叩いてからやがてガクリとその上に突っ伏す。
(だめだ。わすれてしまった。やけにしずかなあさだ。いらいらする。りずむがない。)
駄目だ。忘れてしまった。やけに静かな朝だ。イライラする。リズムがない。
(りずむさえあればおもいだせたのに。すずめだ。すずめはどうしてなかないんだ。)
リズムさえあれば思い出せたのに。スズメだ。スズメはどうして鳴かないんだ。
(いきなりどあをのっくするおとがきこえた。どきっとする。)
いきなりドアをノックする音が聞こえた。ドキッとする。
(するよりはやく、むねのなかに、さっとあかぐろいあんまくがかかったきがした。)
するより早く、胸の中に、サッと赤黒い暗幕が掛かった気がした。
(「うるさいな、いまおきるよ!」じぶんでもおもわぬおおきなこえがでた。)
「煩いな、いま起きるよ!」自分でも思わぬ大きな声が出た。
(そのむこうで、わずかにひらいたどあからははおやのおどろいたかおがのぞいていた。)
その向こうで、わずかに開いたドアから母親の驚いた顔が覗いていた。
(そのひのあさごはんどき、ははおやにらんぼうなことばづかいをせっきょうされて)
その日の朝ご飯どき、母親に乱暴な言葉遣いを説教されて
(いっそうふきげんになったわたしは、がっこうでもあさからむかむかしてきぶんがわるかった。)
一層不機嫌になった私は、学校でも朝からムカムカして気分が悪かった。
(こちらにはなしかけたそうなたかのしほのえんりょがちなしせんにもいらいらさせられた。)
こちらに話しかけたそうな高野志保の遠慮がちな視線にもイライラさせられた。
(すいようびのにじかんめはびじゅつだ。)
水曜日の2時間目は美術だ。
(さっそくえすけーぷしたわたしは、ひとのこないこうしゃうらにちょっこうした。)
さっそくエスケープした私は、人の来ない校舎裏に直行した。
(たばこでもすわないと、やってられない。)
煙草でも吸わないと、やってられない。
(ふかくいきをはいて、しろいけむりがあおいそらにとけていくのをみていると)
深く息を吐いて、白い煙が青い空に溶けていくのを見ていると
(ようやくきぶんがおちついてくる。)
ようやく気分が落ち着いてくる。
(きのうからけさにかけておこったことをひとつひとつじゅんばんにかんがえてみた。)
昨日から今朝にかけて起こったことを一つ一つ順番に考えてみた。