『教師と子供』小川未明1【完】

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ツバメに救われた物覚えの悪い子どもは、その後…
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

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問題文

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(それはふしぎなはなしであります。)

それは不思議な話であります。

(あるところに、よくせいとをしかるきょうしがおりました。)

あるところに、よく生徒をしかる教師がおりました。

(そして、ひじょうにものおぼえがわるいせいともおりました。)

そして、非常に物覚えが悪い生徒もおりました。

(きょうしは、そのこどもをたいへんにくみました。)

教師は、その子供をたいへん憎みました。

(「こんなによくおしえてやるのに、どうしてそれがおぼえられないのか」といい、)

「こんなによく教えてやるのに、どうしてそれが覚えられないのか」と言い、

(きょうしははぎしりをしておこりました。)

教師は歯ぎしりをして怒りました。

(けれど、そのこどもはおしえたあとからわすれてしまうのです。)

けれど、その子供は教えたあとから忘れてしまうのです。

(「おまえみたいなばかはすくない。ほかのこどもはこうしておぼえるのに、)

「おまえみたいなばかは少ない。ほかの子供はこうして覚えるのに、

(それをわすれるというのは、たましいがくさっているからだ。)

それを忘れるというのは、魂が腐っているからだ。

(おまえみたいなこどもは、ふつうのことではこんじょうがなおらない」といって、)

おまえみたいな子供は、普通のことでは根性が直らない」と言って、

(あたまのなかでそのこどもをくるしめる、いろいろなほうほうをかんがえました。)

頭の中でその子供を苦しめる、色々な方法を考えました。

(いままでは、ばんまでのこらせたり、たたせたり、むちでうったことは、)

今までは、晩まで残らせたり、立たせたり、ムチで打ったことは、

(たびたびあったけれど、なんのやくにもたちませんでした。)

度々あったけれど、なんの役にも立ちませんでした。

(あるなつのひのことです。いえのそとは、やきつくようなあつさでありました。)

ある夏の日のことです。家の外は、焼きつくような熱さでありました。

(きょうしは、ふとまどのそとをみましたが、あることをあたまのなかにおもいうかべました。)

教師は、ふと窓の外を見ましたが、あることを頭の中に思い浮かべました。

(そのものおぼえがわるいこどもに、みずのはいったかなだらいをもたせて、)

その物覚えが悪い子供に、水の入ったカナダライを持たせて、

(そとにたたせることにしました。)

外に立たせることにしました。

(「このみずがあつくなるまで、こうしてじっとたっておれ」といいました。)

「この水が熱くなるまで、こうしてジッと立っておれ」と言いました。

(こどもは、きょうしのしうちをうらめしくおもいました。)

子供は、教師の仕打ちを恨めしく思いました。

(そしてたいようがあたるちじょうで、かなだらいをもってたちながらかんがえました。)

そして太陽が当たる地上で、カナダライを持って立ちながら考えました。

など

(「ほんとうに、じぶんはばかだ。ほかのものがみんなおぼえることを、)

「本当に、自分はばかだ。ほかの者がみんな覚えることを、

(なんでじぶんばかりおぼえられないのだろう」といって、なみだぐんでいました。)

なんで自分ばかり覚えられないのだろう」と言って、涙ぐんでいました。

(そのこどもは、しょうじきでやさしいこどもだったのです。)

その子供は、正直で優しい子供だったのです。

(がっこうのやねにとまって、じっとこのありさまをみまもっていた)

学校の屋根に止まって、ジッとこのありさまを見守っていた

(つばめがおりました。つばめは、たいそうのどがかわいておりました。)

ツバメがおりました。ツバメは、大層のどが渇いておりました。

(つばめは、そのこどもがやさしいせいかくであるのを、よくしっておりました。)

ツバメは、その子供が優しい性格であるのを、よく知っておりました。

(「どうしたんですか。みんながきょうしつにはいっているのに、)

「どうしたんですか。みんなが教室に入っているのに、

(あなただけ、なぜここにたっているのですか。)

あなただけ、なぜここに立っているのですか。

(わたしはたいそうのどがかわいております。このみずをのましてください」と、)

私は大層のどが渇いております。この水を飲ましてください」と、

(つばめはとんできて、かなだらいにとまっていいました。)

ツバメは飛んできて、カナダライに止まって言いました。

(こどもは、いっそうかなしくなったのであります。)

子供は、いっそう悲しくなったのであります。

(「ああ、たくさんみずをのんでおくれ。)

「ああ、たくさん水を飲んでおくれ。

(それにしてもわたしは、どうしてものおぼえがわるいのだろう。)

それにしても私は、どうして物覚えが悪いのだろう。

(わたしからみると、おまえはとてもかしこそうだ。)

私から見ると、おまえはとても賢そうだ。

(さむくなると、せんきろいじょうもとおいみなみのくにへゆき、)

寒くなると、千キロ以上も遠い南の国へゆき、

(またはるになると、すをわすれずにかえってくる。)

また春になると、巣を忘れずに帰ってくる。

(わたしが、もしおまえであったら、こんなにせんせいにしかられることは)

私が、もしおまえであったら、こんなに先生に叱られることは

(ないのだが」と、こどもはいいました。)

ないのだが」と、子供は言いました。

(これをきいたつばめは、だまってくびをかたむけていましたが、)

これを聞いたツバメは、黙って首をかたむけていましたが、

(「それなら、わたしがあなたのおなかのなかにはいりましょう」といいました。)

「それなら、私があなたのお腹の中に入りましょう」と言いました。

(こどもは、どうやってつばめがおなかのなかにはいるのか、わかりませんでした。)

子供は、どうやってツバメがお腹の中に入るのか、分かりませんでした。

(「どうか、おまえがわたしのたましいになっておくれ」と、)

「どうか、おまえが私の魂になっておくれ」と、

(こどもはつばめにむかってたのみました。)

子供はツバメに向かって頼みました。

(つばめは、ふいにじぶんのしたをかみきってあしもとにおち、しんでしまいました。)

ツバメは、不意に自分の舌を噛みきって足元に落ち、死んでしまいました。

(こどもは、ゆめでもみたのだろうかとばかりおどろきました。)

子供は、夢でも見たのだろうかとばかり驚きました。

(そして、そのつばめのしがいをひろいあげて、ふところのなかにかくして、)

そして、そのツバメの死骸を拾い上げて、ふところの中に隠して、

(あとからそれをがっこうのうらのたけやぶのなかへ、ていねいにうめてやりました。)

あとからそれを学校の裏の竹やぶの中へ、丁寧に埋めてやりました。

(それからというものは、きゅうにそのこどもがうまれかわったように、)

それからというものは、急にその子供が生まれ変わったように、

(ものおぼえがよくなりました。みんなはおどろくばかりでした。)

物覚えがよくなりました。みんなは驚くばかりでした。

(するときょうしはじまんをして、「こどもをきょういくするには、きびしくするにかぎる。)

すると教師は自慢をして、「子供を教育するには、厳しくするに限る。

(あんなばかですら、こんなにかしこくなったのは、だれのちからでもない。)

あんなばかですら、こんなに賢くなったのは、だれの力でもない。

(おれのちからだ」と、いいふらしました。)

俺の力だ」と、言いふらしました。

(それからきょうしは、いっそうせいとにたいして、きびしくなりました。)

それから教師は、いっそう生徒に対して、厳しくなりました。

(みぎをむいても、ひだりをむいてもやかましくいって、)

右を向いても、左を向いてもやかましく言って、

(せいとらをしかったのであります。)

生徒らをしかったのであります。

(やがて、なつがすぎてあきになりました。)

やがて、夏が過ぎて秋になりました。

(かがやかしいゆうぐれのそらのくものいろもかなしくなって、)

輝かしい夕暮れの空の雲の色も悲しくなって、

(ふくかぜがみにしみるころになると、)

吹く風が身にしみる頃になると、

(ほかのつばめはみなみのくにをめざして、かえりました。)

ほかのツバメは南の国を目指して、帰りました。

(がっこううらのたけやぶが、ひにひにかなしそうになっております。)

学校裏の竹やぶが、日に日に悲しそうに鳴っております。

(すると、こどもはまどのそとをじっとながめて、くうそうにふけりました。)

すると、子供は窓の外をジッとながめて、空想にふけりました。

(これをみつけたきょうしは、「なんで、そうよこをむくんだ」としかって、)

これを見つけた教師は、「なんで、そう横を向くんだ」としかって、

(こどもをにらみました。)

子供をにらみました。

(こどもは、またまいにちきょうしからしかられるようになりました。)

子供は、また毎日教師から叱られるようになりました。

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