上海繚乱ロマンチカ

(たてばしゃくやくすわればぼたん)

立てば芍薬(しゃくやく)　座れば牡丹

(あるくならゆれるこくりこ)

歩くなら揺れる虞美人草(コクリコ)

(おどるのはきんのはすのうえ)

踊るのは金の蓮の上

(つぼみめくちいさなあし)

莟(つぼみ)めく小さな足

(きっかのりんす)

菊花(きっか)の綸子(りんす)

(まくればとかげが)

捲(まく)れば蜥蜴(とかげ)が

(ももにはうおもいわずらい)

腿(もも)に這う想い煩(わずら)い

(はにつゆのかれるまもなくて)

葉に露の枯れる間もなくて

(まねくかぜいえらいしゃん)

招く風　夜来香(いえらいしゃん)

(きなるものですであいもわかれも)

奇なるものです　出逢いも別れも

(たとえひとよでも)

たとえ一夜(ひとよ)でも

(あなたのなまえをきかせてください)

あなたの名前を聞かせて下さい

(てふてふなんなんこいのたのしみは)

喋喋喃喃(てふてふなんなん)　恋の愉しみは

(ひめやかにさくはなのいのちほどみじかいもの)

秘めやかに咲く花の　命ほど短いもの

(あいあいさんさんもえつきるように)

愛愛燦燦(あいあいさんさん)　燃え尽きるように

(たったいまをいきればいいだけ)

たった今を生きればいいだけ

(ほかになにもないのぞむべきものは)

他に何もない　希(のぞ)むべきものは

(ここはまとしゃんはいの)

ここは魔都(まと)　上海(しゃんはい)の

(くれなずむよいやみ)

暮れ泥(なず)む宵闇(よいやみ)

(かくすせなにはとぐろまいてまう)

隠す背(せな)には蜷局(とぐろ)巻いて舞う

(りゅうじんかつめでなぞれば)

龍神か　爪でなぞれば

(つややかなはだのうえ)

艶(つや)やかな膚の上

(かすかかぎとるはちのにおい)

微か嗅ぎ取るは血のにおい

(やぼなぴすとる)

野暮な拳銃(ピストル)

(まくらにしまえば)

枕に仕舞えば

(てのひらにくゆらすきせる)

掌に　燻(くゆ)らす煙管(きせる)

(なにもかもおぼろかすむころ)

何もかも朧霞(おぼろかす)む頃

(ゆきかうはひゃっきやこう)

行(ゆ)き交うは百鬼夜行

(きなるものですであいはうんめい)

奇なるものです　出逢いは運命

(あなたがあやめた)

あなたが殺めた

(おひとのなまえはおわすれでしょうか)

お人の名前はお忘れでしょうか

(ごうごうあいあいあいのかなしみを)

轟轟哀哀(ごうごうあいあい)　愛の悲しみを

(そのむねはかかえたことなどありはせぬでしょうね)

その胸は抱えたことなど　ありはせぬでしょうね

(こいこいらんらんいっしゅんたりとも)

戀戀爛爛(こいこいらんらん)　一瞬たりとも

(きえたことのないえんしゅうを)

消えたことのない怨讐(えんしゅう)を

(はたすこのときにふるえるゆびさき)

果たすこの刻(とき)に　ふるえる指先

(あとはゆめしゃんはいの)

あとは魔夢(ゆめ)　上海(しゃんはい)の

(やみにまぎれるだけなのに)

闇に紛れるだけなのに

(てふてふなんなんこいのおもいでは)

喋喋喃喃(てふてふなんなん)　恋の思い出は

(ちりいそぎさくはなのいのちほどはかなすぎて)

散り急ぎ咲く花の　命ほど儚すぎて

(あいあいさんさんかたきのあなたは)

愛愛燦燦(あいあいさんさん)　仇(かたき)のあなたは

(なぜこいしいおひとににている)

なぜ恋しい男(おひと)に似ている

(なつかしいこえでわたしをよぶのか)

懐かしい声で　わたしを呼ぶのか

(みちるまとしゃんはいの)

満ちる魔都(まと)上海(しゃんはい)の

(においたつはなやみ)

匂い立つ花闇(はなやみ)