怪物 「結」上-3-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(そんなことをかんがえながらかどをまがるまでせなかにたかのしほのははおやのしせんを)

そんなことを考えながら角を曲がるまで背中に高野志穂の母親の視線を

(かんじていた。あのいえは、ちがう。ちぇーんのこともそうだが、)

感じていた。あの家は、違う。チェーンのこともそうだが、

(えきどなのけはいはない。こんきょのないじしんだが、えきどなのははおやであれば)

エキドナの気配はない。根拠のない自信だが、エキドナの母親であれば

(たぶんいちどかおをみればわかるはずだ。さあこれからどうしよう。)

たぶん一度顔を見れば分かるはずだ。さあこれからどうしよう。

(ちずをもういちどとりだしてながめると、ぼーるぺんでまるをつけたぶぶんは)

地図をもう一度取り出して眺めると、ボールペンで丸をつけた部分は

(いっけんちいさくみえるが、げんじつにそのばにたってみるとかなりひろいことにきづく。)

一見小さく見えるが、現実にその場に立ってみるとかなり広いことに気づく。

(じゅうたくがいであり、そこにたっているいえだけでもふたけたけたではきかない。)

住宅街であり、そこに建っている家だけでも二桁ではきかない。

(もうすこしはんいをしぼれないだろうかとかんがえてあたまをふるかいてんさせるが、)

もう少し範囲を絞れないだろうかと考えて頭をフル回転させるが、

(いかんせんあまりせいのうがよくない。)

いかんせんあまり性能が良くない。

(やむをえず、かんでぶつかってみることにした。)

やむを得ず、カンでぶつかってみることにした。

(それっぽいいえ(なにがそれっぽいのかきじゅんがじぶんでもよくわからないが))

それっぽい家(なにがそれっぽいのか基準が自分でも良く分からないが)

(のよびりんをならしてまわった。)

の呼び鈴を鳴らして回った。

(ひょうさつにでているこどものなまえをつかおうかとかんがえたが、)

表札に出ている子どもの名前を使おうかと考えたが、

(ほんにんがいたばあいはなしがややこしくなるとかんがえ、)

本人が居た場合話がややこしくなると考え、

(「しほさんはいますか?」といってたずねてみた。)

「志穂さんはいますか?」と言って訪ねてみた。

(するとたいていのいえではははおやがでてきて「しほさんって、)

するとたいていの家では母親が出て来て「志穂さんって、

(ひょっとしてたかのさんのところのおじょうさんじゃないかしら」といいながら、)

ひょっとして高野さんの所のお嬢さんじゃないかしら」と言いながら、

(たかのけのばしょをこうとうでおしえてくれる。)

高野家の場所を口頭で教えてくれる。

(そしてわたしは「いえをまちがえてしまってすみません」といいながらたちさる。)

そして私は「家を間違えてしまって済みません」と言いながら立ち去る。

(なんのもんだいもない。すむーずすぎて、なんのひっかかりもないことが)

なんの問題もない。スムーズ過ぎて、なんの引っ掛かりもないことが

など

(ぎゃくにもんだいだった。どあにちぇーんのあるいえもなかにはあったが、)

逆に問題だった。ドアにチェーンのある家も中にはあったが、

(えきどながいるようなけはいはまったくかんじなかった。)

エキドナがいるような気配は全く感じなかった。

(おうたいしてくれるしゅふもごくありふれたふつうのおばさんばかりだ。)

応対してくれる主婦もごくありふれた普通のおばさんばかりだ。

(もっとつっこんで、いえのなかでぽるたーがいすとげんしょうがおこっていないかとか、)

もっと突っ込んで、家の中でポルターガイスト現象が起こっていないかとか、

(かていないでこどもとなにかもんだいがおきていないかなどと)

家庭内で子どもとなにか問題が起きていないかなどと

(きいたほうがよいのだろうか、とかんがえたがどうしてもそれはできそうになかった。)

聞いた方が良いのだろうか、と考えたがどうしてもそれは出来そうになかった。

(くらすめーとならともかく、しょたいめんのにんげんにそんなへんなことを)

クラスメートならともかく、初対面の人間にそんな変なことを

(きいてまわるだけのずぶといしんけいをわたしはもちあわせていないのだった。)

聞いて回るだけの図太い神経を私は持ち合わせていないのだった。

(ひがくれたころ、わたしはつかれはててこんくりーとべいにせなかをもたれさせていた。)

日が暮れたころ、私は疲れ果ててコンクリート塀に背中をもたれさせていた。

(だめだ。なんのてがかりもえられなかった。)

駄目だ。なんの手掛かりも得られなかった。

(はんいがひろすぎてどこまでまわっていいのかもわからない。)

範囲が広すぎてどこまで回っていいのかも分からない。

(なれないことをしているせいか、からだがすこしねつっぽくなってるきもする。)

慣れないことをしているせいか、身体が少し熱っぽくなってる気もする。

(「もうかえろ」そうつぶやいてよろよろとたちあがる。)

「もう帰ろ」そう呟いてヨロヨロと立ち上がる。

(じてんしゃのはんどるをにぎりながら、なにかべつのあぷろーちを)

自転車のハンドルを握りながら、なにか別のアプローチを

(かんがえないといけないとおもう。どんなほうほうがあるのかまったくめいあんがうかばないままで)

考えないといけないと思う。どんな方法があるのか全く名案が浮かばないままで

(つかれたあしをしったしながらぺだるをこぐ。)

疲れた足を叱咤しながらペダルを漕ぐ。

(かえりみち、ひのおちたじゅうたくがいにぱとかーのあかいひかりがみえた。)

帰り道、日の落ちた住宅街にパトカーの赤い光が見えた。

(ひきぬかれたでんしんばしらのあるあたりだ。)

引き抜かれた電信柱のある辺りだ。

(ふと、このすうじつのあいだまちでおこったおかしなできごとをけいさつは)

ふと、この数日の間街で起こったおかしな出来事を警察は

(はあくしているのだろうかとかんがえた。)

把握しているのだろうかと考えた。

(でんしんばしらやなみきがひきぬかれたじけんはあきらかにきぶつそんかいだろう。)

電信柱や並木が引き抜かれた事件は明らかに器物損壊だろう。

(とうぜんはんにんをさがしているはずだ。)

当然犯人を捜しているはずだ。

(もしわたしが、じぶんのしっているじょうほうをすべてけいさつにつたえたらどうなるだろう。)

もし私が、自分の知っている情報をすべて警察に伝えたらどうなるだろう。

(ききこみのぷろであるかれらがじんかいせんじゅつであのえんのちゅうしんのじゅうたくがいをまわったならば、)

聞き込みのプロである彼らが人海戦術であの円の中心の住宅街を回ったならば、

(おそらくはんにちとかからずにえきどなをみつけだせるはずだ。)

恐らく半日とかからずにエキドナを見つけ出せるはずだ。

(ははおやにさついをいだくしょうじょを。)

母親に殺意を抱く少女を。

(でもだめだ。けいさつはこんなことをしんじない。とりあわない。)

でも駄目だ。警察はこんなことを信じない。取り合わない。

(それだけははっきりとわかる。)

それだけははっきりと分かる。

(わたしだってしんじられないのだから。まちじゅうのすべてのかいげんしょうが、)

私だって信じられないのだから。街中のすべての怪現象が、

(たったひとりのしょうじょによってひきおこされているなんて。)

たった一人の少女によって引き起こされているなんて。

(ぱとかーのせきしょくとうとやじうまたちのざわめきをしりめにわたしはそのみちをさけて)

パトカーの赤色灯と野次馬たちのざわめきを尻目に私はその道を避けて

(すこしとおまわりしながらきろについた。)

少し遠回りしながら帰路に着いた。

(いえにつくと、ははおやが「ごはんは?」ときいてきた。)

家に着くと、母親が「ご飯は?」と聞いてきた。

(しんしんともにつかれているせいかしょくよくがわかず、せいふくをぬぎながら)

心身ともに疲れているせいか食欲が湧かず、制服を脱ぎながら

(「あとで」とへんじをする。なにかこごとをいわれたが、てきとうにききながした。)

「あとで」と返事をする。なにか小言を言われたが、適当に聞き流した。

(まともにおうたいしたくないきぶんだった。)

まともに応対したくない気分だった。

(ささいなくちげんかでもそれがえすかれーとすることをおそれていたのかもしれない。)

些細な口喧嘩でもそれがエスカレートすることを恐れていたのかも知れない。

(じぶんのへやをみまわしながらくっしょんにこしをおろしためいきをつく。)

自分の部屋を見回しながらクッションに腰を下ろし溜息をつく。

(ちいさなてーぶるのうえにはすいようびにかった「せかいのかいきげんしょうふぁいる」が)

小さなテーブルの上には水曜日に買った『世界の怪奇現象ファイル』が

(ふせられている。そのしゅういにはきのうせんぱいにかりたぽるたーがいすとげんしょうに)

伏せられている。その周囲には昨日先輩に借りたポルターガイスト現象に

(かんれんするおかるとざっしのるいがらんざつにころがっている。)

関連するオカルト雑誌の類が乱雑に転がっている。

(そしてそのよこのほんだなにはちゅうがくじだいにかいあつめたうらないにかんするほんが)

そしてその横の本棚には中学時代に買い集めた占いに関する本が

(ところせましとならんでいた。)

所狭しと並んでいた。

(べんきょうしているけいせきのないべんきょうつくえのうえにはあやしげないしころ・・・・・・)

勉強している形跡のない勉強机の上には怪しげな石ころ……

(なんてへやだ。われながらかおをてでおおいたくなる。)

なんて部屋だ。我ながら顔を手で覆いたくなる。

(いまどきのじょしこうせいのへやとしては「さんじょう」ともいうべきありさまをふくざつなきもちで)

今時の女子高生の部屋としては「惨状」とも言うべき有様を複雑な気持ちで

(ながめていると、ふいにてーぶるのしたにおちているものにきがついた。)

眺めていると、ふいにテーブルの下に落ちている物に気がついた。

(かみぶくろだ。でぱーとのほうそうがしてある。)

紙袋だ。デパートの包装がしてある。

(なんだっけ、とおもいながらなんのきなしにそれをてにとり、)

なんだっけ、と思いながらなんの気なしにそれを手に取り、

(ふうをしているしーるをはがす。なかからははさみがでてきた。みどりいろの、ありふれたはさみ。)

封をしているシールを剥がす。中からは鋏が出て来た。緑色の、ありふれた鋏。

(わたしはそれをみたしゅんかん、こおりでからだをしめつけられるような)

私はそれを見た瞬間、氷で身体を締め付けられるような

(じわじわとしたふあんかんにおそわれた。なんだこれは?)

ジワジワとした不安感に襲われた。なんだこれは?

(はさみだ。ただのはさみ。いつかった?そう、あれはいしのあめがふったすいようび。)

鋏だ。ただの鋏。いつ買った? そう、あれは石の雨が降った水曜日。

(でぱーとで「せかいのかいきげんしょうふぁいる」をてにいれたときにいっしょにかったものだ。)

デパートで『世界の怪奇現象ファイル』を手に入れたときに一緒に買った物だ。

(まて、おかしいぞ。おもいだせ。そもそもわたしはでぱーとにそのほんを)

待て、おかしいぞ。思い出せ。そもそも私はデパートにその本を

(かいにいったのではない。はさみをかいにいったのだ。いしのあめのげんばをみたあと、)

買いに行ったのではない。鋏を買いに行ったのだ。石の雨の現場を見た後、

(そのちかくのしょうてんがいのざっかてんでうりきれていたので、わざわざあしをのばして・・・・・・)

その近くの商店街の雑貨店で売り切れていたので、わざわざ足を伸ばして……

(どきんどきんとしんぞうがみゃくうつ。”はさみをかわないといけないきがしていた”)

ドキンドキンと心臓が脈打つ。"鋏を買わないといけない気がしていた"

(そのときは。たしかに。なぜ?おもいだせない。)

そのときは。確かに。何故?思い出せない。

(そのはさみをかってかえったひ、わたしはそんなものをかったこともわすれて)

その鋏を買って帰った日、私はそんな物を買ったことも忘れて

(こうしてほうりだしている。)

こうして放り出している。

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