怪物 「結」上-4-
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問題文
(いらないものをどうしてかったんだろう?)
要らない物をどうして買ったんだろう?
(きゅうにあたまのなかにゆめのきおくがふらっしゅばっくしはじめた。)
急に頭の中に夢の記憶がフラッシュバックし始めた。
(ゆめのなかでわたしはあしおとをきく。)
夢の中で私は足音を聞く。
(そしてげんかんにむかい、せのびをしてどあのちぇーんをはずす。)
そして玄関に向かい、背伸びをしてドアのチェーンを外す。
(かおをだしたははおやのくびすじにはものをはしらせる・・・・・・)
顔を出した母親の首筋に刃物を走らせる……
(はきけがして、くちもとをおさえる。)
吐き気がして、口元を押さえる。
(はものだ。あのゆめのなかでじぶんがもっているはものはなんだ?)
刃物だ。あの夢の中で自分が持っている刃物はなんだ?
(もやもやして、にぎっているかんかくがおもいだせない。)
もやもやして、握っている感覚が思い出せない。
(ただきらりとかがやいたしゅんかんだけがのうりにやきついている。)
ただキラリと輝いた瞬間だけが脳裏に焼きついている。
(あれが、はさみだったんじゃないのか。さいあくのそうぞうがあたまのなかをかけめぐる。)
あれが、鋏だったんじゃないのか。最悪の想像が頭の中を駆け巡る。
(ゆめのなかでしょうじょになったわたしははさみでははおやにきりつけた。)
夢の中で少女になった私は鋏で母親に切りつけた。
(その”おもいだせなかった”きおくがせんざいいしきのおくそこでわたしのこうどうをしばりつけ、)
その"思い出せなかった"記憶が潜在意識の奥底で私の行動を縛り付け、
(なかばむいしきのうちにあたらしいはさみをこうにゅうさせたのだろうか。)
半ば無意識のうちに新しい鋏を購入させたのだろうか。
(だとしたら・・・・・・わたしはたちあがり、はさみをてにへやをとびだして)
だとしたら……私は立ち上がり、鋏を手に部屋を飛び出して
(「ちょっとそと、いく」といまのほうにひとことさけんでからげんかんをでた。)
「ちょっと外、行く」と居間の方に一声叫んでから玄関を出た。
(じてんしゃにのってかけだす。とちゅうとおりすぎたごみすてばにはさみをなげすてる。)
自転車に乗って駆け出す。途中通り過ぎたゴミ捨て場に鋏を投げ捨てる。
(「ちくしょう」じぶんのばかさかげんにしんそこはらをたてていた。)
「ちくしょう」自分のバカさ加減に心底腹を立てていた。
(そとはくらい。なんじだ?まだみせはひらいているじかんか?)
外は暗い。何時だ? まだ店は開いている時間か?
(きがはやってぺだるをふみはずしそうになる。)
気が逸ってペダルを踏み外しそうになる。
(ひとけのすくないちかくのしょうてんがいにはまだぽつりぽつりとあかりがともっていた。)
人気の少ない近くの商店街にはまだポツリポツリと明かりが灯っていた。
(じてんしゃをとめ、こどものころからよくきていたざっかやにとびこむ。)
自転車をとめ、子どものころからよく来ていた雑貨屋に飛び込む。
(いきをきらしてやってきたわたしにおどろいたかおで、みせのおばちゃんがちかよってくる。)
息を切らしてやって来た私に驚いた顔で、店のおばちゃんが近寄って来る。
(「なにがいるの?」そのことばに、いきをととのえながらようやくわたしは)
「なにが要るの?」その言葉に、息を整えながらようやく私は
(「はさみ」という。するとおばちゃんはもうしわけなさそうなかおになって、)
「はさみ」と言う。するとおばちゃんは申し訳なさそうな顔になって、
(「ごめんねぇ。ちょうどうりきれてるのよ」といった。)
「ごめんねぇ。ちょうど売り切れてるのよ」と言った。
(そうぞうしていたこととはいえ、ぞくりととりはだがたつかんかくにおそわれる。)
想像していたこととは言え、ゾクリと鳥肌が立つ感覚に襲われる。
(「だれか、おおぐちでかってったの?」)
「誰か、大口で買ってったの?」
(「ううん。こんしゅうはぽつぽつうれててきのうざいこがなくなっちゃったから、)
「ううん。今週はぽつぽつ売れてて昨日在庫がなくなっちゃったから、
(ちゅうもんしたとこ。あしたにははいるとおもうけど・・・・・・」)
注文したとこ。明日には入ると思うけど……」
(どんなひとがかっていったのかときいてみたが、)
どんな人が買っていったのかと聞いてみたが、
(わかものもいればねんぱいのひともいたそうだ。)
若者もいれば年配の人もいたそうだ。
(「どうする?あしたくるならとっとくけど」ときくおばちゃんに、)
「どうする? 明日来るなら取っとくけど」と聞くおばちゃんに、
(「いい。いそぎだからほかをさがしてみる」といってみせをでる。)
「いい。急ぎだから他を探してみる」と言って店を出る。
(すこしあしをのばし、わたしははさみをおいてそうなみせをかたっぱしからみてまわった。)
少し足を伸ばし、私は鋏を置いてそうな店を片っ端から見て回った。
(みせじまいをしたあとのみせもあったが、とじかけたしゃったーから)
店仕舞いをした後の店もあったが、閉じかけたシャッターから
(ごういんにもぐりこみ、「はさみをさがしてるんですが」といった。)
強引に潜り込み、「鋏を探してるんですが」と言った。
(そのすべてのみせでおなじこたえがかえってきた。「うれきれ」と。)
そのすべての店で同じ答えが返って来た。『売れ切れ』と。
(さいごにわたしはいっさくじつのすいようびにはさみとほんをかったでぱーとにむかった。)
最後に私は一昨日の水曜日に鋏と本を買ったデパートに向かった。
(へいてんじかんまぎわでまばらになったきゃくのなかをはしり、まだひらいている)
閉店時間まぎわでまばらになった客の中を走り、まだ開いている
(ざっかこーなーにとびこむ。)
雑貨コーナーに飛び込む。
(なかほどにあったにちようひんのたなにはいようなこうけいがひろがっていた。)
中ほどにあった日用品の棚には異様な光景が広がっていた。
(ありとあらゆるにちようざっかがたちならぶなか、こうしじょうのらっくのいちぶだけが)
ありとあらゆる日用雑貨が立ち並ぶなか、格子状のラックの一部だけが
(すっぽりとぬけおちている。)
すっぽりと抜け落ちている。
(かったーも、えんぴつも、じょうぎも、けしごむも、しゅうせいえきも、すてーぷるも、)
カッターも、鉛筆も、定規も、消しゴムも、修正液も、ステープルも、
(こんぱすでさえふくすうひんもくがとりそろえられているのに。)
コンパスでさえ複数品目が取り揃えられているのに。
(はさみだけがなかった。ただのひとつも。わたしはそのたなのまえにたちつくし、)
鋏だけがなかった。ただのひとつも。私はその棚の前に立ち尽し、
(なまつばをのみこんでいた。はさみがまちからきえている!いや、きえているのではない。)
生唾を飲み込んでいた。鋏が街から消えている!いや、消えているのではない。
(そのふところのおくふかくにかくされて、つかわれるときをじっとまっているのだ。)
その懐の奥深くに隠されて、使われるときをじっと待っているのだ。
(それはきょうかもしれないし、あしたかもしれない。)
それは今日かも知れないし、明日かも知れない。
(ゆめをみているしょうじょがははおやをころすことをきめたひに、わたしたちはそのさついに)
夢を見ている少女が母親を殺すことを決めた日に、私たちはその殺意に
(とらわれておのれのははおやにそのはをむけることになるのかもしれない。)
囚われて己の母親にその刃を向けることになるのかも知れない。
(どうしたらいい?どうすればいいんだ?)
どうしたらいい? どうすればいいんだ?
(みずからにくりかえしといかけながらわたしはいえにかえった。)
自らに繰り返し問い掛けながら私は家に帰った。
(するべきことがみつからない。)
するべきことが見つからない。
(けれどいまうごかなかったらとりかえしのつかないことになるかもしれない。)
けれど今動かなかったら取り返しのつかないことになるかも知れない。
(どうすればいいのか。するべきことがみつからない。)
どうすればいいのか。するべきことが見つからない。
(めぐるしこうをもてあまして、どういうみちじゅんでかえったのかもさだかではない。)
巡る思考を持て余して、どういう道順で帰ったのかも定かではない。
(とにもかくにもかえりつき、げんかんからこそこそとはいるとははおやにみつかった。)
兎にも角にも帰り着き、玄関からコソコソと入ると母親に見つかった。
(「どこいってたの。もうしらないから、かってにたべなさい」)
「どこ行ってたの。もう知らないから、勝手に食べなさい」
(だいどころにはらっぷでつつまれたりょうりがおかれている。)
台所にはラップで包まれた料理が置かれている。
(しょくよくはなかったが、むりやりにでもおなかにつめこんだ。たいりょくこそがきりょくのみなもとだ。)
食欲は無かったが、無理やりにでもお腹に詰め込んだ。体力こそが気力の源だ。
(あまりよくないあたまにもえいようをすこしだけでもまわさないといけない。)
あまり良くない頭にも栄養を少しだけでも回さないといけない。
(たべおわっておふろにはいる。)
食べ終わってお風呂に入る。
(きょうはがっこうがおわってからやすむひまがないほどかけまわっていた。)
今日は学校が終わってから休む暇がないほど駆け回っていた。
(それもなつびのうだるようなあつさのなかを。)
それも夏日のうだるような暑さの中を。
(それでもゆぶねにつかることはせず、ほとんどぎょうずいであせだけをながして)
それでも湯船に浸かることはせず、ほとんど行水で汗だけを流して
(そうそうにあがる。つぎにはいるいもうととだついじょうですれちがったとき、)
早々に上がる。次に入る妹と脱衣場ですれ違ったとき、
(「おねえちゃん、おふろでるのはやっ。おとめじゃな~い」とからかわれた。)
「お姉ちゃん、お風呂出るの早っ。乙女じゃな~い」とからかわれた。
(いっぱつあたまをどついてからじぶんのへやにもどる。)
一発頭をどついてから自分の部屋に戻る。
(どあをしめ、つくえのひきだしにいれてあったあいようのたろっとかーどをとりだす。)
ドアを閉め、机の引き出しに入れてあった愛用のタロットカードを取り出す。
(それをてにしたままじっとかんがえる。)
それを手にしたままじっと考える。
(とけいのおとがちっちっちっ、とへやにひびく。ぬれたかみがぴたりとほおにくっつく。)
時計の音がチッチッチッ、と部屋に響く。濡れた髪がピタリと頬にくっつく。
(だめだな。わたしごときのうらないがつうようするじょうきょうではない。)
駄目だな。私ごときの占いが通用する状況ではない。
(もっとはやいだんかいならば、このじたいにいたるまでにするべきことの)
もっと早い段階ならば、この事態に至るまでにするべきことの
(ししんにはなったかもしれないけれど。)
指針にはなったかも知れないけれど。
(いまひつようなのは、えきどなを、ははおやにさついをいだくしょうじょをさがしだすための)
今必要なのは、エキドナを、母親に殺意を抱く少女を探し出すための
(ぐたいてきなほうほうだ。)
具体的な方法だ。
(あるいは、さがしださずともこのじたいをかいけつするだけの”ちから”だ。)
あるいは、探し出さずともこの事態を解決するだけの"力"だ。