怪物 「結」下-5-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(わたしもしんこきゅうをしてからそれにつづく。こうえんのしきちをでてから、)

私も深呼吸をしてからそれに続く。公園の敷地を出てから、

(すぐにあすふぁるとをするくつのおとがやけにおおきくひびくことにきづく。)

すぐにアスファルトを擦る靴の音がやけに大きく響くことに気づく。

(めがねのおとこのかわぐつだ。みんなあしおとをころしているのに。)

眼鏡の男の革靴だ。みんな足音を殺しているのに。

(ふくすうのにらむようなしせんにきづきもしないようすで、)

複数の睨むような視線に気づきもしない様子で、

(かれはせんとうをきってこうえんにめんしたどうろをみぎほうこうへとすすむ。)

彼は先頭を切って公園に面した道路を右方向へと進む。

(つきのひかりにてらされるだれもいないよるのみちを、いつつのかげがはしりぬける。)

月の光に照らされる誰もいない夜の道を、5つの影が走り抜ける。

(いつつ?ふりむくと、ちいさなしょうじょがあつでのふくをひらひらさせながら、)

5つ? 振り向くと、小さな少女が厚手の服をヒラヒラさせながら、

(すこしはなれてついてきている。あおいめがげっこうにぬれたように)

少し離れてついて来ている。青い眼が月光に濡れたように

(あやしくかがやいてみえる。あれもにくたいをもったにんげんなのだろうか。)

妖しく輝いて見える。あれも肉体を持った人間なのだろうか。

(なんだかこのよるのまちではすべてがぎがのようにおもえる。)

なんだかこの夜の街ではすべてが戯画のように思える。

(そしてこれから、なにかもっとおそろしいものをみてしまうようなきがして)

そしてこれから、なにかもっと恐ろしいものを見てしまうような気がして

(あしをとめたくなる。それは、ひるとじつづきのよるをいきるひとには)

足を止めたくなる。それは、昼と地続きの夜を生きる人には

(けっしてみえないもの。)

けっして見えないもの。

(ひきぬかれたどうろひょうしきなどとはまたちがう、じぶんのなかのりょうしきをいちぶ、)

引き抜かれた道路標識などとはまた違う、自分の中の良識を一部、

(そしてかくじつにていせいしなくてはならないような、そんなものを。)

そして確実に訂正しなくてはならないような、そんなものを。

(わたしはいつのまにかげんじつとうりふたつのいかいにまぎれこんでいるのではないだろうか。)

私はいつのまにか現実と瓜二つの異界に紛れ込んでいるのではないだろうか。

(しんちょうにあしをうごかしながらそんなことをかんがえる。)

慎重に足を動かしながらそんなことを考える。

(ほそながいりょくちがじゅうたくちのくかくをわけていて、そのいちだんたかいほそうれんがの)

細長い緑地が住宅地の区画を分けていて、その一段高い舗装レンガの

(ほどうのうえにおおきなきがえだをしほうにはっていた。)

歩道の上に大きな木が枝を四方に張っていた。

(おいしげるはがつきをおおいかくし、そのましたにできたやみにまぎれるように)

生い茂る葉が月を覆い隠し、その真下に出来た闇に紛れるように

など

(しょうどうぶつのうごめくかげがみえた。たちどまるわたしたちのめのまえでぎゃあぎゃあという)

小動物の蠢く影が見えた。立ち止まる私たちの目の前でギャアギャアという

(ふかいなこえをあげ、そのかげがふたつとびたった。からすだ。)

不快な声を上げ、その影がふたつ飛び立った。カラスだ。

(にわはどんじゅうなつばさをふりみだして、あっというまによるのそらへきえていく。)

2羽は鈍重な翼を振り乱して、あっというまに夜の空へ消えて行く。

(わたしたちはいきをひそめてからすたちがいたばしょをのぞきこむ。くらがりに、それはいる。)

私たちは息を潜めてカラスたちがいた場所を覗き込む。暗がりに、それはいる。

(ああ。やはりこちらがゆめなのかもしれない。わたしのしっているせかいでは、)

ああ。やはりこちらが夢なのかも知れない。私の知っている世界では、

(こんなことはおきない。)

こんなことは起きない。

(「えええええええ・・・・・・」よわよわしいこえをしぼりだすようにして、みをねじらせる。)

「エエエエエエエ……」弱弱しい声を搾り出すようにして、身を捩じらせる。

(それは、まるですからおちてしまったからすのひなのようにみえた。)

それは、まるで巣から落ちてしまったカラスの雛のように見えた。

(さっきのにわがしんぱいしてのぞきこんでいたりょうしんだろう。)

さっきの2羽が心配して覗き込んでいた両親だろう。

(けれどあのひめいのようななきごえは、わがこをあんじるおやのそれではなかった。)

けれどあの悲鳴のような鳴き声は、我が子を案じる親のそれではなかった。

(けいかいせよ。けいかいせよ。このいぶつを、けいかいせよ。そういっていたようなきがする。)

警戒せよ。警戒せよ。この異物を、警戒せよ。そう言っていたような気がする。

(「えええええええ・・・・・・」そんなちからないうめきが、ありえないほどちいさな)

「エエエエエエエ……」そんな力ない呻きが、ありえないほど小さな

(にんげんのかおからもれる。あかんぼうのようなそのかおのしたには、うすよごれたうもうに)

人間の顔から漏れる。赤ん坊のようなその顔の下には、薄汚れた羽毛に

(つつまれたからすのひなのどうたいがくっついている。)

包まれたカラスの雛の胴体がくっ付いている。

(それはいきていることじたいがたえられないくつうであるかのように)

それは生きていること自体が耐えられない苦痛であるかのように

(ちいさなからだをくねらせて、れんがのうえをはいずっている。)

小さな身体をくねらせて、レンガの上を這いずっている。

(それをみおろしているだれもがいきをのみ、うごけないでいた。)

それを見下ろしている誰もが息を呑み、動けないでいた。

(かすれながらうめきごえはつづく。わたしのしるそれより、はるかにちいさいあかんぼうのかおは、)

掠れながら呻き声は続く。私の知るそれより、はるかに小さい赤ん坊の顔は、

(とじられためからなみだをながしながらくしゃくしゃとゆがんで)

閉じられた目から涙を流しながらクシャクシャと歪んで

(こきざみにふるえている。やがてそのうめきごえがすこしずつへんちょうし、)

小刻みに震えている。やがてその呻き声が少しずつ変調し、

(きこえるぶぶんときこえないぶぶんがうまれはじめる。)

聞こえる部分と聞こえない部分が生まれ始める。

(「こ、これは、おい、なんだ、これは・・・・・・」)

「こ、これは、おい、なんだ、これは……」

(めがねのおとこがくちをおさえてふるえている。)

眼鏡の男が口を押さえて震えている。

(「だまりなさい」そのとなりでおばさんがみじかく、しかしつよいくちょうでいう。)

「黙りなさい」その隣でおばさんが短く、しかし強い口調で言う。

(かぜがふいてずじょうのはがざわめいた。こえがきこえなくなり、)

風が吹いて頭上の葉がざわめいた。声が聞こえなくなり、

(わたしたちはしぜんとかおをちかづける。)

私たちは自然と顔を近づける。

(「・・・・・・か・・・・・・い・・・・・・に・・・・・・」)

「・・・・・・か・・・・・・い・・・・・・に・・・・・・」

(あかんぼうのとうぶをもつそれは、うめきながらおなじことばをくりかえしはじめた。)

赤ん坊の頭部を持つそれは、呻きながら同じ言葉を繰り返し始めた。

(なんといっている?みみをすますけれど、めにみえないだれかのてが)

なんと言っている? 耳を澄ますけれど、目に見えない誰かの手が

(そのみみをふさごうとしている。)

その耳を塞ごうとしている。

(いや、そのてはわたしのなかのきけんをさっちするびんかんなぶぶんから、)

いや、その手は私の中の危険を察知する敏感な部分から、

(のびているのかもしれない。でももうおそい。きこえる。)

伸びているのかも知れない。でももう遅い。聞こえる。

(かわいそうに。そういっているのが、きこえる。)

か・わ・い・そ・う・に。そう言っているのが、聞こえる。

(なみだをながし、くつうにみをもだえさせながらそれは、)

涙を流し、苦痛に身を悶えさせながらそれは、

(かわいそうに、かわいそうに、ということばをくりかえしているのだ。)

かわいそうに、かわいそうに、という言葉を繰り返しているのだ。

(「くだん、だ」めがねのおとこがぼうぜんとしてつぶやいた。)

「くだん、だ」眼鏡の男が呆然として呟いた。

(くだん?からだくだんというのはたしか、ひとのかおとうしのしんたいをもつばけもののことだ。)

くだん? くだんというのは確か、人の顔と牛の身体を持つ化け物のことだ。

(うまれてすぐにわざわいにかんするよげんをのこしてしんでしまうという)

生まれてすぐに災いに関する予言を残して死んでしまうという

(はなしをきいたことがある。ひとのとうぶと、どうぶつのどうたいをもっているぶぶんだけしか)

話を聞いたことがある。人の頭部と、動物の胴体を持っている部分だけしか

(あっていない。そういえばさいきん、からだがにしゅるいいじょうのどうぶつでこうせいされた)

合っていない。そう言えば最近、身体が2種類以上の動物で構成された

(ばけもののことをかんがえたことがあるな。あれはなんのことだったか。)

化け物のことを考えたことがあるな。あれはなんのことだったか。

(はるかむかしのことのようにおもえる。そうだ。あれはまさききょうこのなぞかけだ。)

はるか昔のことのように思える。そうだ。あれは間崎京子の謎掛けだ。

(きょうつうてんはなに?ばけものをうんだのはだれ?しこうがぐるぐるとまわる。)

共通点はなに? 化け物を生んだのは誰?思考がぐるぐると回る。

(「なにかくる!」きゃっぷおんなのするどいこえにふりむくと、くろいかたまりがこちらにむかって)

「なにか来る!」キャップ女の鋭い声に振り向くと、黒い塊がこちらに向かって

(とびこんできた。いちばんうしろでかがんでいたあおいめのしょうじょがはじけるように)

飛び込んで来た。一番後ろで屈んでいた青い眼の少女が弾けるように

(それをさけ、いきおいあまってしりもちをつく。)

それを避け、勢い余って尻餅をつく。

(わたしをふくむほかのよにんもしゅんじにからだをはんてんさせて、)

私を含む他の4人も瞬時に身体を反転させて、

(そのたいあたりからみをかわす。くろいかたまりはあらいいきづかいをまきちらしながら、)

その体当たりから身をかわす。黒い塊は荒い息遣いを撒き散らしながら、

(はぐきをみせてわたしたちをいかくするようにうなりこえをあげる。)

歯茎を見せて私たちを威嚇するように唸り声を上げる。

(いぬだ。くびわもしていない。やけんだ。)

犬だ。首輪もしていない。野犬だ。

(めはちばしって、しょうてんがあっていないようにみえる。)

目は血走って、焦点が合っていないように見える。

(じめんにてをついていたわたしはすぐにたちあがり、いぬからはなれる。)

地面に手をついていた私はすぐに立ち上がり、犬から離れる。

(ほかのひとたちもあとずさりしながらきのしたからとおざかる。)

他の人たちも後ずさりしながら木の下から遠ざかる。

(おばさんがしりもちをついてままうごけないでいるしょうじょをだきおこしながら)

おばさんが尻餅をついてまま動けないでいる少女を抱き起こしながら

(あわててにげだす。いぬは、はなれていくにんげんにはきょうみをしめさずに、)

慌てて逃げ出す。犬は、離れていく人間には興味を示さずに、

(したをたらしながらきのねもとのくらがりへくびをのばした。)

舌を垂らしながら木の根元の暗がりへ首を伸ばした。

(そして、ぐるるるる、といううなりごえと、)

そして、ぐるるるる、という唸り声と、

(にくがそしゃくされるきもちのわるいおとがきこえてくる。)

肉が咀嚼される気持ちの悪い音が聞こえて来る。

(「く、くってる」10めーとるいじょうはなれたばしょから、)

「く、喰ってる」10メートル以上離れた場所から、

(こしのひけたじょうたいのめがねのおとこがぜっくする。)

腰の引けた状態の眼鏡の男が絶句する。

(もうそのきのしたからはひとのこえはきこえない。)

もうその木の下からは人の声は聞こえない。

(ただにくとほねがかみくだかれるおとだけがやいんにこもったようにひびいているだけだ。)

ただ肉と骨が噛み砕かれる音だけが夜陰に篭ったように響いているだけだ。

(わたしはどうしようもなくきぶんがわるくなり、そちらをせいしできないほどの)

私はどうしようもなく気分が悪くなり、そちらを正視できないほどの

(おかんにぜんしんがふるえはじめた。)

悪寒に全身が震え始めた。

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