ビデオ 中編-3-
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | berry | 7365 | 光 | 7.5 | 97.7% | 622.5 | 4695 | 110 | 86 | 2024/09/25 |
2 | daifuku | 3620 | D+ | 3.8 | 93.8% | 1237.0 | 4791 | 313 | 86 | 2024/11/16 |
関連タイピング
-
プレイ回数10万歌詞200打
-
プレイ回数4044かな314打
-
プレイ回数96万長文かな1008打
-
プレイ回数3.2万歌詞1030打
-
プレイ回数3847長文1069打
-
プレイ回数799歌詞かな200打
-
プレイ回数221歌詞938打
-
プレイ回数289長文526打
問題文
(どうやらきのうとおとといのよるにみたまぼろしとおなじものだとかんじた。)
どうやら昨日と一昨日の夜に見た幻と同じものだと感じた。
(すぐにでんわをとりだし、ししょうのいえにでんわをすると、とうにんがでた。)
すぐに電話を取り出し、師匠の家に電話をすると、当人が出た。
(いまからよるけど、いいですかときいてからじてんしゃにまたがる。)
今から寄るけど、いいですかと聞いてから自転車に跨る。
(あんがいれいせいだ。やっぱり、こわいことはひるまおこるにかぎる。)
案外冷静だ。やっぱり、怖いことは昼間起こるに限る。
(などとひとりごちても、ぺだるをこぐあしがはやくなるのはとめられない。)
などと一人ごちても、ペダルをこぐ足が速くなるのは止められない。
(ししょうのあぱーとのまえにじてんしゃをとめ、へやにあげてもらう。)
師匠のアパートの前に自転車を停め、部屋に上げてもらう。
(「かくかくで、しかじか」と、このへやでびでおをみてからこっち、)
「かくかくで、しかじか」と、この部屋でビデオを見てからこっち、
(たいけんしたできごとをはやくちでせつめいした。)
体験した出来事を早口で説明した。
(じっときいていたししょうは、こちらのせつめいがひとだんらくついたのをみはからって)
じっと聞いていた師匠は、こちらの説明が一段落ついたのを見計らって
(いきなりかおをちかづけてきた。そしてあたまをかかえるようにして、)
いきなり顔を近づけてきた。そして頭を抱えるようにして、
(おれのひだりめをゆびでひらいてのぞきこむ。つづいてみぎめ。)
俺の左目を指で開いて覗き込む。続いて右目。
(しばらくしげしげとおれのめをみていたが、ようやくはなすと)
しばらくしげしげと俺の目を見ていたが、ようやく離すと
(「なんともないとおもうがな」とくびをひねった。)
「なんともないと思うがな」と首を捻った。
(「それにそんなうわさきいたことがないな。さとういちろうのしたいをかたづけたら)
「それにそんな噂聞いたことがないな。サトウイチロウの死体を片付けたら
(のろわれるってか。いながわじゅんじのおはこにほっかいどうのはなよめってはなしがあるけど、)
呪われるってか。稲川淳二の十八番に北海道の花嫁って話があるけど、
(あれもおなじしたいがなんどもあらわれるはなしだな。でもけっていてきにちがうぶぶんがある。)
あれも同じ死体が何度も現れる話だな。でも決定的に違う部分がある。
(はなよめのしたいがよみがえるなぞのしょうたいは、まあいわばにんげんしんりのやみにあるわけだが、)
花嫁の死体が蘇る謎の正体は、まあ言わば人間心理の闇にあるわけだが、
(そのしじたいにはなんのぎもんもない。)
その死自体にはなんの疑問もない。
(しかしうわさがほんとうならさとういちろうは、だれもいきてうごいているところを)
しかし噂が本当ならサトウイチロウは、誰も生きて動いているところを
(みていないのだから、よしださんがいったとおり、さいしょからさいごまでししゃだ。)
見ていないのだから、吉田さんが言った通り、最初から最後まで死者だ。
(はたしてそいつは、いきているものがしんだあとにのこしたむくろなのか、)
はたしてそいつは、生きている者が死んだあとに残した骸なのか、
(それともさいしょからしたいとしてこのよにあらわれたのか・・・・・・」)
それとも最初から死体としてこの世に現れたのか……」
(ししょうはうでぐみをしてぼそぼそとつぶやく。)
師匠は腕組みをしてぼそぼそと呟く。
(なんだかずれているきがする。きにするばしょが。)
なんだかズレている気がする。気にする場所が。
(「びでおをみてからなんですよ。へんなことがおこりはじめたのは。)
「ビデオを見てからなんですよ。変なことが起こり始めたのは。
(さとういちろうののろいのうわさはびでおにうつっていた)
サトウイチロウの呪いの噂はビデオに映っていた
(えきのしゅうへんにひろがっているんです。)
駅の周辺に広がっているんです。
(それでもってそのびでおはおてらからてにいれた、のろいのびでおなんですよ」)
それでもってそのビデオはお寺から手に入れた、呪いのビデオなんですよ」
(まくしたてるおれへ、ししょうはれいせいに「のろいのびでおだなんて)
捲くし立てる俺へ、師匠は冷静に「呪いのビデオだなんて
(おっさんはいってないよ」とつっこむ。)
オッサンは言ってないよ」と突っ込む。
(「とにかく、おれたちはみてるんです。だれもきづいていない、)
「とにかく、俺たちは見てるんです。誰も気づいていない、
(とびこみのしゅんかんを。もしあれが・・・・・・」)
飛び込みの瞬間を。もしあれが……」
(さとういちろうなら、ということばをかろうじてのみこんだ。)
サトウイチロウなら、という言葉を辛うじて飲み込んだ。
(「そうか、ぼくたちはみていることになるな。)
「そうか、僕たちは見ていることになるな。
(だれもみていないはずのいけるししゃを」)
誰も見ていないはずの生ける死者を」
(ししょうはおもしろそうにうなずいた。けれどすぐにためいきをつく。)
師匠は面白そうに頷いた。けれどすぐにため息をつく。
(「でも、びでおにうつっているじんぶつと、さとういちろうのうわさをかさねるのは)
「でも、ビデオに映っている人物と、サトウイチロウの噂を重ねるのは
(とっぴにすぎるな。ただのじさつのしゅんかんのびでおかもしれない」)
突飛に過ぎるな。ただの自殺の瞬間のビデオかも知れない」
(「だったらどうして、にじゅうまんもくようりょうをはらうんです」)
「だったらどうして、二十万も供養料を払うんです」
(「しらないよ。それはまだわからない」)
「知らないよ。それはまだわからない」
(おれはじっさいにこわいめに、とわめきかけてししょうにとめられる。)
俺は実際に怖い目に、と喚きかけて師匠に止められる。
(「そこだ。おまえがたいけんしたひかりのまぼろしは、いまのところただのまぼろしだ。)
「そこだ。おまえが体験した光の幻は、今のところただの幻だ。
(げんえい。げんかく。そんなにびびることはないんじゃないか」)
幻影。幻覚。そんなにビビることはないんじゃないか」
(びびってるとおもわれるのはしゃくだった。でもじじつだ。)
ビビッてると思われるのは癪だった。でも事実だ。
(おれはすわりこんでむっつりとだまった。)
俺は座り込んでむっつりと黙った。
(ししょうはやれやれとてをふって、「そんなにむくれるな」といった。)
師匠はやれやれと手を振って、「そんなにむくれるな」と言った。
(「きになるなら、しらべてみるといい。でんしゃにとびこんでしんだ)
「気になるなら、調べてみるといい。電車に飛び込んで死んだ
(みもとふめいのにんげんは、こうりょしぼうにんとしてあつかわれる」)
身元不明の人間は、行旅死亡人として扱われる」
(「え?なんですって」「こうりょしぼうにん」)
「え? なんですって」「こうりょ・しぼうにん」
(ししょうがちらしのうらにかんじをかいてくれる。こうりょしぼうにん。)
師匠がチラシの裏に漢字を書いてくれる。行旅死亡人。
(あまりききなじみのないことばだ。)
あまり聞きなじみの無い言葉だ。
(「ようするにゆきだおれとか、みしらぬとちでじさつしたにんげんなんかを)
「ようするに行き倒れとか、見知らぬ土地で自殺した人間なんかを
(さすみもとふめいしゃのことだ。まあたいていはほーむれすだな。)
指す身元不明者のことだ。まあ大抵はホームレスだな。
(こうりょしぼうにんはそのしたいがはっけんされたばしょのじちたいのかんかつになり、)
行旅死亡人はその死体が発見された場所の自治体の管轄になり、
(だびにふされたあとはもよりのおてらにいこつをほかんされて、)
荼毘に付された後はもよりのお寺に遺骨を保管されて、
(いりゅうひんはじちたいでほかんする。)
遺留品は自治体で保管する。
(そのときにやくしょのけいじばんにこうじされるけど、はっけんじのしょうさいは)
その時に役所の掲示板に公示されるけど、発見時の詳細は
(かんぽうにもけいさいされる。ひきとりてをさがすためだ」)
官報にも掲載される。引き取り手を捜すためだ」
(どこでえたちしきなのかしらないが、ししょうはにんげんのしにからむことには)
どこで得た知識なのか知らないが、師匠は人間の死に絡むことには
(やけにくわしい。「としょかんには、ふるいかんぽうもおいてあるだろう」)
やけに詳しい。「図書館には、古い官報も置いてあるだろう」
(おれはししょうにれいをいっていえをでた。もちろんとしょかんにむかうためだ。)
俺は師匠に礼を言って家を出た。もちろん図書館に向かうためだ。
(だいがくのとしょかんへいってみたのだが、あまりふるいかんぽうはおいてないという。)
大学の図書館へ行ってみたのだが、あまり古い官報は置いてないという。
(しかたないのでじてんしゃをかってこうりつのとしょかんまであしをのばした。)
仕方ないので自転車を駆って公立の図書館まで足を伸ばした。
(さっそくししょにきいてみると、ぬけはたしょうあるもののたいしょうじだいから)
さっそく司書に聞いてみると、抜けは多少あるものの大正時代から
(こっちのかんぽうをほかんしているという。よろこんでえつらんをきぼうしたが、)
こっちの官報を保管しているという。喜んで閲覧を希望したが、
(あんないされたしょこのぼうだいなかんぽうのかずにはやくもうんざりした。)
案内された書庫の膨大な官報の数に早くもうんざりした。
(とりあえずちょっきんのかんぽうからじゅんばんにひもといていく。)
とりあえず直近の官報から順番に紐解いていく。
(「ごうがい」の「こうこく」、「しょじこう」、「ちほうこうきょうだんたい」、)
「号外」の「公告」、「諸事項」、「地方公共団体」、
(「こうりょしぼうにんかんけい」さいしょはどこにのっているのかわからずてまどったが、)
「行旅死亡人関係」最初はどこに載っているのか分からず手間取ったが、
(なれてくるとまいごうまいごうでだいたいのっているぺーじがつかめた。)
慣れてくると毎号毎号で大体載っているページがつかめた。
(ぱらぱらとまくっていく。「ほんせきじゅうしょしめいふしょう、)
パラパラと捲っていく。『本籍・住所・氏名不詳、
(ねんれい25さい~40さいくらいのじょせい、しんちょう155cm、たいかくちゅうにく、とうはつちゃぱつ、)
年齢25歳~40歳位の女性、身長155cm、体格中肉、頭髪茶髪、
(しょじきんぴんはねっくれす1ほん。じょうきのものは、)
所持金品はネックレス1本。上記の者は、
(へいせいまるねんまるがつまるにちまるじまるふんまるまるかせんしきではっけんされたものである。)
平成○年○月○日○時○分○○河川敷で発見されたものである。
(しいんはできし。みもとふめいにつきいたいはけんしのうえかそうにふし、)
死因は溺死。身元不明につき遺体は検視のうえ火葬に付し、
(いこつはほかんしています。こころあたりのかたはとうしふくしじむしょまで)
遺骨は保管しています。心当たりの方は当市福祉事務所まで
(もうしでてください。へいせいまるねんまるがつまるにちまるまるけんまるまるしちょう」)
申し出てください。平成○年○月○日 ○○県 ○○市長』
(こんなことがえんえんとかいてある。)
こんなことが延々と書いてある。
(あたりまえのことだが、ぜんこくのじちたいからじょうほうがよせられている。)
あたりまえのことだが、全国の自治体から情報が寄せられている。
(びでおでみたまえばらえきはまえばらちょうにあるから、ぼうだいなかずのこうりょしぼうにんじょうほうのなかから)
ビデオで見た前原駅は前原町にあるから、膨大な数の行旅死亡人情報の中から
(まえばらちょうちょうめいのものをさがさないといけない。)
前原町長名のものを探さないといけない。
(はじめてみるかんぽうのものめずらしさにたびだびだっせんしながらも、)
初めて見る官報の物珍しさにたびだび脱線しながらも、
(めくりつづけることすうじかん。けっきょくさとういちろうのものはおろか、)
めくり続けること数時間。結局サトウイチロウのものはおろか、
(まえばらちょうのものすらひとつもみつからなかった。へいわでなによりで。)
前原町のものすら一つも見つからなかった。平和でなによりで。
(なにかべつのさがしかたをかんがえたほうがいいようなきがしたが、)
何か別の探し方を考えたほうがいいような気がしたが、
(「あとすこし」とあきらめわるくもおれはかんぽうのおかわりにふみきった。)
「あと少し」と諦め悪くも俺は官報のおかわりに踏み切った。