ビデオ 中編-5-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(おもわずたちあがった。なんどもしぬ。さとういちろうはなんどもしぬ。)

思わず立ち上がった。何度も死ぬ。サトウイチロウは何度も死ぬ。

(しょうわきからつづくしょうたいふめいのよみがえるししゃが、めのまえにひろげたふるびたかみのなかに)

昭和期から続く正体不明の蘇る死者が、目の前に広げた古びた紙の中に

(たしかにいた。めだたないちいさなかつじとなって。)

確かにいた。目立たない小さな活字となって。

(おれはえたいのしれないかんじょうにふるえる。いるんだ。こんなものがほんとうに。)

俺は得体の知れない感情に震える。いるんだ。こんなものが本当に。

(おそれともたっせいかんともつかないこうふんじょうたいにおちいったおれはむちゅうでかんぽうをめくりつづけ、)

恐れとも達成感ともつかない興奮状態に陥った俺は夢中で官報を捲り続け、

(ひるのさんじをまわるころにはさとういちろうのなまえをよっつはっけんしていた。)

昼の三時を回るころにはサトウイチロウの名前を四つ発見していた。

(きのうのとあわせていつつ。びみょうなものもあわせるともうすこしふえそうだし、)

昨日のと合わせて五つ。微妙なものも合わせるともう少し増えそうだし、

(みおとしたものもあるかもしれない。)

見落としたものもあるかも知れない。

(しょうわさんじゅうねんだいもぜんはんにきて、まったくそれらしいものが)

昭和三十年代も前半に来て、まったくそれらしいものが

(みあたらなくなったのでさぎょうをおえることにした。)

見当たらなくなったので作業を終えることにした。

(もっともふるいさとういちろうはしょうわさんじゅうななねんじゅうにがつ。)

最も古いサトウイチロウは昭和三十七年十二月。

(こしやまえきというまえばらえきからかぞえてにしへむっつめのえきで、ちずでみるかぎり、)

越山駅という前原駅から数えて西へ六つ目の駅で、地図で見る限り、

(かなりのいなかまちにあるとおもわれる。)

かなりの田舎町にあると思われる。

(そこでよるはちじごろ、とっきゅうれっしゃにひかれているのをはっけんされた。)

そこで夜八時ごろ、特急列車に轢かれているのを発見された。

(こーとすがたで、かおはぼうしとますくでおおい、てにはてぶくろそしてしょじひんのなかに)

コート姿で、顔は帽子とマスクで覆い、手には手袋そして所持品の中に

(さとういちろうのなまえいりのさいふ。)

サトウイチロウの名前入りの財布。

(まるでびでおでまきもどしさいせいをしたように、おなじじょうきょうがくりかえされている。)

まるでビデオで巻き戻し再生をしたように、同じ状況が繰り返されている。

(ほんとうにおなじじんぶつなのかもしれない。そんなぶきみなそうぞうがわいてくるのを)

本当に同じ人物なのかも知れない。そんな不気味な想像が沸いてくるのを

(とめられなかった。おれはとしょかんをでてししょうのいえへむかった。)

止められなかった。俺は図書館を出て師匠の家へ向かった。

(はらがへっているのもすっかりわすれて。)

腹が減っているのもすっかり忘れて。

など

(とうちゃくし、どあをのっくすると「あいてるよ」といらえがある。)

到着し、ドアをノックすると「開いてるよ」といらえがある。

(「しってます」といいながらあがりこむ。)

「知ってます」と言いながら上がりこむ。

(ししょうはどあにかぎをかけないので、いつもながらばかばかしいぎしきだとおもうが、)

師匠はドアに鍵を掛けないので、いつもながらバカバカしい儀式だと思うが、

(いぜんのっくせずにあけるとなかがたいへんなじょうきょうだったことがあり、)

以前ノックせずに開けると中がたいへんな状況だったことがあり、

(それいらいいちおうぎれいてきにこえをかけるようにしているのだった。)

それ以来一応儀礼的に声を掛けるようにしているのだった。

(もっともみられたほんにんはいたってへいぜんとしてはいたが。)

もっとも見られた本人はいたって平然としてはいたが。

(「で、どうだった」おれはきょうのせんかをひろげてみせた。)

「で、どうだった」俺は今日の戦果を広げて見せた。

(かんぽうをかきうつしたのーとだ。ししょうはだまってそれをよみはじめる。)

官報を書き写したノートだ。師匠は黙ってそれを読み始める。

(「ふん。なるほど。おなじだな」)

「ふん。なるほど。同じだな」

(「どうしてそんなにおちついてられるんです。すごいことですよこれは」)

「どうしてそんなに落ち着いてられるんです。凄いことですよこれは」

(みをのりだしたおれをせいするようにてをひろげたししょうは、)

身を乗り出した俺を制するように手を広げた師匠は、

(のーとをてにとってあたまをかいた。)

ノートを手に取って頭を掻いた。

(「ここ・・・・・・、しょうわよんじゅうごねんのやつ。これ、さとういちろうってもじが)

「ここ……、昭和四十五年のやつ。これ、サトウイチロウって文字が

(でてこないけど、わざわざめもってあるのは」)

出てこないけど、わざわざメモってあるのは」

(「ええ、よしださんがそうぐうしたじけんだからです。)

「ええ、吉田さんが遭遇した事件だからです。

(ねんだいもえきめいもあってますから、まちがいないはずです。)

年代も駅名も合ってますから、間違いないはずです。

(どうしてなまえがでてこないのかわかりませんが。)

どうして名前が出てこないのか分かりませんが。

(ほかにも、なまえがでてこないけどそれっぽいのがいくつかあります」)

他にも、名前が出てこないけどそれっぽいのがいくつかあります」

(「まあ、それはそれとして。てことは、ここ、「れっしゃにひかれて」としか)

「まあ、それはそれとして。てことは、ここ、『列車に轢かれて』としか

(かいてないけど、よしださんのきおくによればこれはとっきゅうのつうかれっしゃのはずだな」)

書いてないけど、吉田さんの記憶によればこれは特急の通過列車のはずだな」

(なにがいいたいのかわからなかったが、うなずいた。)

なにが言いたいのか分からなかったが、頷いた。

(ふんふんとししょうはしきりになっとくしながらのーとをもったままたちあがり、)

ふんふんと師匠はしきりに納得しながらノートを持ったまま立ち上がり、

(へやのなかをあるきまわりはじめた。「どうしてだれもきづかないんだろう」)

部屋の中を歩き回り始めた。「どうして誰も気づかないんだろう」

(かんがえながら、おれはひとりごとのようにくちにした。)

考えながら、俺は独り言のように口にした。

(おなじじんぶつがなんどもしぬなんてふかかいなじけんなのだ。)

同じ人物が何度も死ぬなんて不可解な事件なのだ。

(けいさつだってちょうさしてるはずなのに。)

警察だって調査してるはずなのに。

(「じつはな、きのうだいいっぽうをきいてからちょっときになってしらべてみたんだが、)

「実はな、昨日第一報を聞いてからちょっと気になって調べてみたんだが、

(まえばらえきとそのりょうどなりのえきではけいさつのしょかつがちがうんだよ。)

前原駅とその両隣の駅では警察の所轄が違うんだよ。

(ええと、どれだっけ、これか。)

ええと、どれだっけ、これか。

(おれたちがびでおでみたまえばらえきのじけんのいっこまえ、たかとおえきのじけん。)

俺たちがビデオで見た前原駅の事件のイッコ前、高遠駅の事件。

(このふたつはきょりてきにはちかいけどねんすうもかなりはなれているし)

この二つは距離的には近いけど年数もかなり離れているし

(しょかつがちがうんだ。かんれんせいにはきづきにくいだろうな。)

所轄が違うんだ。関連性には気づきにくいだろうな。

(たかとおえきのほうはさとういちろうのもじがでていない。)

高遠駅の方はサトウイチロウの文字が出ていない。

(じっさいはさいふにかかれていたのかもしれないが、みもとをあらわすものとしては)

実際は財布に書かれていたのかも知れないが、身元を表すものとしては

(じゅうようしされていなかったのはまちがいない。)

重要視されていなかったのは間違いない。

(けいさつとしてもふたつのじけんをからめてかんがえ、どういつじんぶつのかのうせいがあるなんて)

警察としても二つの事件を絡めて考え、同一人物の可能性があるなんて

(ばかなことはおもっていなかったはずだ」)

バカなことは思っていなかったはずだ」

(「でも、このかんぽうのきじをかくのはけいさつじゃないですよ」)

「でも、この官報の記事を書くのは警察じゃないですよ」

(「あ。おっと、そうか。じちたいだったな。すまん」)

「あ。おっと、そうか。自治体だったな。すまん」

(ししょうはたちどまってじぶんのあたまをたたく。そのときおれはじゅうようなことをおもいついた。)

師匠は立ち止まって自分の頭を叩く。その時俺は重要なことを思いついた。

(「まってください。いこつはじちたいがほかんするっていうのが)

「待って下さい。遺骨は自治体が保管するっていうのが

(てんぷれーとになってますが、いひんはどうなんです。)

テンプレートになってますが、遺品はどうなんです。

(こーとは。ますくは、ぼうしは。ねーむいりのさいふは」)

コートは。マスクは、帽子は。ネーム入りの財布は」

(「ん。かいてないか。ないな。でもたしか、いひんもじちたいがほかんするって)

「ん。書いてないか。ないな。でも確か、遺品も自治体が保管するって

(きいたことがあるよ。さいしょそういったろ。ひょっとするとかそうのとき)

聞いたことがあるよ。最初そう言ったろ。ひょっとすると火葬のとき

(いっしょにやくこともあるかもしれないけど。いや、でもほんにんかくにんのための)

一緒に焼くこともあるかも知れないけど。いや、でも本人確認のための

(しょうこひんだからな、かんぽうをみてといあわせがあったときにないとまずいだろう」)

証拠品だからな、官報を見て問い合わせがあった時にないとまずいだろう」

(「じゃあ、そのねーむいりさいふはじちたいのきんこだかどこだかに)

「じゃあ、そのネーム入り財布は自治体の金庫だかどこだかに

(あるはずなんですよね」「そういうことになるね」)

あるはずなんですよね」「そういうことになるね」

(もし、さとういちろうがどういつじんぶつで、しんだあとふたたび)

もし、サトウイチロウが同一人物で、死んだ後再び

(このよにもどってくるのだとすると、しょじひんはどうなる?)

この世に戻って来るのだとすると、所持品はどうなる?

(きんこのそこでねむっているものを、もういちどそのてにとるのだろうか。)

金庫の底で眠っているものを、もう一度その手に取るのだろうか。

(おれとししょうはてわけして、のーとにでてくるしちょうそんやくばにでんわをした。)

俺と師匠は手分けして、ノートに出てくる市町村役場に電話をした。

(「あの、ふるいかんぽうをみたんですが、そちらがいこつをほかんされているひとが、)

「あの、古い官報を見たんですが、そちらが遺骨を保管されている人が、

(もしかしてじぶんのみうちかもしれないとおもいまして・・・・・・」)

もしかして自分の身内かも知れないと思いまして……」

(そんなうそをならべてじょうほうをききだし、こちらのれんらくさきを、というはなしになると)

そんな嘘を並べて情報を聞き出し、こちらの連絡先を、という話になると

(いきなりでんわをきるというじつにめいわくなせんぽうで)

いきなり電話を切るという実に迷惑な戦法で

(おれたちはきになるぶぶんをしらべあげた。)

俺たちは気になる部分を調べ上げた。

(こいちじかんたってわかったこと。1.やくしょはひきつぎがへた)

小一時間経って分かったこと。1.役所は引継ぎが下手

(2.こうむいんはめんどくさがりこのにてんだ。)

2.公務員はめんどくさがりこの二点だ。

(とにかく、まえのたんとうからこうりょしぼうにんのしごとをまともにひきついでいない。)

とにかく、前の担当から行旅死亡人の仕事をまともに引き継いでいない。

(それがさんだいまえよんだいまえと、ふるくなっていくにつれなにがどこにあるのかさっぱりだ。)

それが三代前四代前と、古くなって行くにつれ何がどこにあるのかさっぱりだ。

(「いひんですか。ふるいそうこのどこかにあるとおもいますが、)

「遺品ですか。古い倉庫のどこかにあると思いますが、

(なにぶんむかしのはなしで・・・・・・」って、そんなせりふはききあきたから。)

なにぶん昔の話で……」って、そんなセリフは聞き飽きたから。

(いいからさがせよ、といいたくなるが「しらべておりかえしでんわしますから)

いいから探せよ、と言いたくなるが「調べて折り返し電話しますから

(そちらのれんらくさきを・・・・・・」がちゃん。)

そちらの連絡先を……」ガチャン。

(れんらくさきをしられるのはまずい。なにせみうちなんてうそだからだ。)

連絡先を知られるのはまずい。なにせ身内なんて嘘だからだ。

(たしかめてみたらまちがいでした、っていうのでももんだいないとはおもうが、)

確かめてみたら間違いでした、っていうのでも問題ないとは思うが、

(こういううそでのりきるのはにがてだった。)

こういう嘘で乗り切るのは苦手だった。

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