ビデオ 後編-5-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(そしてあるしゅんかんに、ろうそくのひがきえた。)

そしてある瞬間に、蝋燭の火が消えた。

(げんじつにそんざいしているわけではない、どこかよくわからないばしょにある)

現実に存在しているわけではない、どこかよく分からない場所にある

(ろうそくがきえた。とたんにからだがうごき、おれはまどがらすにかきついた。)

蝋燭が消えた。とたんに身体が動き、俺は窓ガラスにかきついた。

(もたつきながらかぎをあけ、べらんだにでる。)

もたつきながらカギを開け、ベランダに出る。

(そしててすりをのりこえ、あまどいにしがみついてしたにおりた。)

そして手すりを乗り越え、雨どいにしがみ付いて下に降りた。

(いやなあせをかいたからだにかぜがつめたい。うでをすりむいたが、きにしていられない。)

嫌な汗をかいた身体に風が冷たい。腕を擦りむいたが、気にしていられない。

(いっかいのかくへやのかーてんごしにもれるあかりをたよりに)

一階の各部屋のカーテン越しに漏れる明かりをたよりに

(あぱーとのそとがわをかけ、ちゅうりんじょうまでたどりつく。なにもいない。)

アパートの外側を駆け、駐輪場までたどり着く。なにもいない。

(たおれているじぶんのじてんしゃをひきおこすと、)

倒れている自分の自転車を引き起こすと、

(すぐさまのってあともみずにはしりだす。)

すぐさま乗って後も見ずに走り出す。

(むがむちゅうでぺだるをこぎながらどこにむかうべきかかんがえる。)

無我夢中でペダルをこぎながらどこに向かうべきか考える。

(ひとつしかなかった。やがてししょうのいえにつく。どあをのっくする。ひらいているよ。)

一つしかなかった。やがて師匠の家に着く。ドアをノックする。開いているよ。

(しってます。ちらかったあぱーとのへやにころがりこむ。)

知ってます。散らかったアパートの部屋に転がり込む。

(いきをととのえると、ようやくすこしおちついてくる。「おい、やっちまったよ」)

息を整えると、ようやく少し落ち着いてくる。「おい、やっちまったよ」

(ししょうがらくたんしたひょうじょうで、ろうばいするおれにもたれかかるようなしせんをむけてくる。)

師匠が落胆した表情で、狼狽する俺にもたれかかるような視線を向けてくる。

(そのゆびのさきにはびでおでっきがある。)

その指の先にはビデオデッキがある。

(「きょうのきんようろーどしょー、あれだったからさ。びでおにとろうとおもって。)

「今日の金曜ロードショー、アレだったからさ。ビデオに採ろうと思って。

(それで、やっちまった」おれはついさっきまでのきょうふしんをしょうかするための)

それで、やっちまった」俺はついさっきまでの恐怖心を消化するための

(ぶつけさきもわからないままに、「なにをです」ときいてしまった。)

ブツケ先も分からないままに、「なにをです」と聞いてしまった。

(「だから、びでおにとろうとおもって、だびんぐを」「はあ?」こえがうわずった。)

「だから、ビデオに採ろうと思って、ダビングを」「はあ?」声が上ずった。

など

(「れいの、ごまんえんに」あぜんとした。いや、きょうあるってしらなくてさ、)

「例の、五万円に」唖然とした。いや、今日あるって知らなくてさ、

(あわててcmちゅうにそっこーでそのへんのびでおつっこんでろくがしたんだけど。)

慌ててCM中にソッコーでその辺のビデオつっこんで録画したんだけど。

(・・・・・・やっちまったよ。)

……やっちまったよ。

(そんなことをいいながらちからなくわらうししょうをまえに、おれはきょうふしんもふっとんでいた。)

そんなことを言いながら力なく笑う師匠を前に、俺は恐怖心も吹っ飛んでいた。

(とけいをみるとじゅういちじをおおきくすぎている。ししょうがでっきにてをのばし、)

時計を見ると十一時を大きく過ぎている。師匠がデッキに手を伸ばし、

(すこしまきもどしたあとさいせいぼたんをおすと)

少し巻き戻したあと再生ボタンを押すと

(ぜにがたけいぶが「るぱんめ、まんまとぬすみおって」という、)

銭形警部が「ルパンめ、まんまと盗みおって」という、

(きいているこっちがはずかしくなるようなまえふりを)

聞いているこっちが恥ずかしくなるような前フリを

(くらりすひめにぱすするところだった。そのままえんでぃんぐをむかえ、)

クラリス姫にパスするところだった。そのままエンディングを迎え、

(のすたるじーをかんじさせるきょくがながれてまくがおりる。そしてすなあらし。)

ノスタルジーを感じさせる曲が流れて幕が下りる。そして砂嵐。

(そのすなあらしもすぐにがつんというおととともにおわった。)

その砂嵐もすぐにガツンという音とともに終わった。

(「さんばいもーどにするのもわすれてたんだ」なきそうなこわいろをしながら、)

「三倍モードにするのも忘れてたんだ」泣きそうな声色をしながら、

(ししょうは「ごまんが・・・・・・」とつぶやいた。)

師匠は「五万が……」と呟いた。

(おれはろうそくがきえたようにかんじたあのしゅんかんのしょうたいがわかり、ちからがぬけた。)

俺は蝋燭が消えたように感じたあの瞬間の正体が分かり、力が抜けた。

(こんどはここちよいだつりょくだった。こんなことでよかったんだ。)

今度は心地よい脱力だった。こんなことで良かったんだ。

(つぎからつぎへとわらいがこみあげてきた。おれはてがかりをもとめて)

次から次へと笑いがこみ上げてきた。俺は手がかりを求めて

(げんちのえきまでいったというのに。ししょうがうらみがましいめでこっちをみている。)

現地の駅まで行ったというのに。師匠が恨みがましい目でこっちを見ている。

(まぬけにもほどがある。)

間抜けにもほどがある。

(「あまりにもちらかしてるからですよ」とえらそうにちゅういする。)

「あまりにも散らかしてるからですよ」と偉そうに注意する。

(「しかもいまさらかりしろですか。さんざんみてるでしょう。)

「しかも今さらカリ城ですか。散々見てるでしょう。

(せりふをおぼえてるくらい」いいながらはっとする。そうだ。)

セリフを覚えてるくらい」言いながらハッとする。そうだ。

(ししょうはなぜか「かりおすとろのしろ」がすきで、ばめんばめんのさいぶまでおぼえていた。)

師匠は何故か『カリオストロの城』が好きで、場面場面の細部まで覚えていた。

(じりきで、ぼうとうのさつびらしゃわーのくるまのこうぶざせきに)

自力で、冒頭の札びらシャワーの車の後部座席に

(ごえもんがのっていることにきづいたというくらいなのだからかなりすごい。)

五右衛門が乗っていることに気づいたというくらいなのだからかなり凄い。

(そのししょうが、いまさらだびんぐを?おれはもういちどししょうのかおをうかがった。)

その師匠が、今さらダビングを?俺はもう一度師匠の顔を伺った。

(れいせいにかんさつすると、おちこんでいるというよりしょうすいしきっているようにみえる。)

冷静に観察すると、落ち込んでいるというより憔悴し切っているように見える。

(ちからなくわらうそのかおが、やけにとおくかんじたられた。)

力なく笑うその顔が、やけに遠く感じたられた。

(それから、おれのへやでおこったできごとをせつめいすると)

それから、俺の部屋で起こった出来事を説明すると

(ししょうはこうふんしてくるまにとびのった。)

師匠は興奮して車に飛び乗った。

(おれもむりやりつれられてあぱーとにもどると、)

俺も無理やり連れられてアパートに戻ると、

(どあのそともへやのなかもまるでなにごともなかったようなようすだった。)

ドアの外も部屋の中もまるで何ごともなかったような様子だった。

(はいつくばってどあのしたをみるが、なにかがすれたようなあとすら)

這いつくばってドアの下を見るが、何かが擦れたような跡すら

(のこっていなかった。「しょくばいだったというわけだ」びでおが。)

残っていなかった。「触媒だったというわけだ」ビデオが。

(そういってししょうはうでぐみをした。)

そう言って師匠は腕組みをした。

(げんかくだ、とあっさりかたづけられなかったことがみょうにうれしかった。)

幻覚だ、とあっさり片付けられなかったことが妙に嬉しかった。

(けっきょくびでおにまつわるじけんはそれでおわりだった。)

結局ビデオにまつわる事件はそれで終わりだった。

(なんだかあっけないきもしたが、えきにつとめるおおくのひとのくちをつぐませながら)

なんだかあっけない気もしたが、駅に勤める多くの人の口をつぐませながら

(なんじゅうねんもつづいているきかいなできごとがそのぜんぼうをあらわすなんてことは、)

何十年も続いている奇怪な出来事がその全貌を現すなんてことは、

(そうそうあってはならないものなのだろう。)

そうそうあってはならないものなのだろう。

(なにより、おれはもうこれいじょうくびをつっこみたくなかった。)

なにより、俺はもうこれ以上首を突っ込みたくなかった。

(なぜなら、びでおにのこされたじょうほうがきえてしまうことで、)

何故なら、ビデオに残された情報が消えてしまうことで、

(えんせんからとおくはなれたこのまちにあのおそろしいものがえいきょうりょくをおよぼすりゆうが)

沿線から遠く離れたこの街にあの恐ろしいものが影響力を及ぼす理由が

(なくなったというだけのことであり、げんじつにはなにもかいけつしていないのだから。)

無くなったというだけのことであり、現実にはなにも解決していないのだから。

(それはこれからもおこるのだろう。)

それはこれからも起こるのだろう。

(おれのしらないまちの、しらないえきで、あしたにも・・・・・・)

俺の知らない街の、知らない駅で、明日にも……

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