『三人の糸くり女』グリム1
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問題文
(むかし、あるところに、ひとりのおんなのこがおりました。)
むかし、ある所に、一人の女の子がおりました。
(このこはなまけもので、いとをつむぐのがだいきらいでした。)
この子はナマケ者で、糸をつむぐのが大嫌いでした。
(おかあさんがいくらいっても、どうしてもいうことをききませんでした。)
お母さんがいくら言っても、どうしても言うことを聞きませんでした。
(とうとう、おかあさんはがまんがしきれなくなって、)
とうとう、お母さんは我慢がしきれなくなって、
(あるとき、はらだちまぎれにおんなのこをぶちました。)
あるとき、腹だちまぎれに女の子をぶちました。
(すると、おんなのこはわあわあとこえをあげて、なきだしました。)
すると、女の子はワアワアと声をあげて、泣きだしました。
(ちょうどそこへ、おきさきさまがばしゃにのって、とおりかかりました。)
ちょうどそこへ、お妃さまが馬車に乗って、通りかかりました。
(おきさきさまはなきごえをききつけて、ばしゃをとめさせました。)
お妃さまは泣き声を聞きつけて、馬車を停めさせました。
(それから、うちのなかへはいっていって、)
それから、うちの中へ入っていって、
(おかあさんに「おうらいまでなきごえがきこえますが、)
お母さんに「往来まで泣き声が聞こえますが、
(どうしてそんなにたたくのですか」とたずねました。)
どうしてそんなに叩くのですか」と尋ねました。
(するとおかあさんは、じぶんのむすめがなまけてばかりいることを、)
するとお母さんは、自分の娘がなまけてばかりいることを、
(ひとにしられるのがはずかしいとおもったものですから、こういいました。)
人に知られるのが恥ずかしいと思ったものですから、こう言いました。
(「このこに、いとくりをやめさせることができないものでございますから。)
「この子に、糸くりをやめさせることができないものでございますから。
(このこはねんがらねんじゅう、いとくりをしたがっておりますが、)
この子は年がら年中、糸くりをしたがっておりますが、
(わたくしどもはびんぼうで、あさをてにいれることができないのでございます」)
わたくしどもは貧乏で、アサを手に入れることができないのでございます」
(それをきいて、おきさきさまがこたえました。)
それを聞いて、お妃さまが答えました。
(「あたしはいとくりのおとをきくのがだいすきです。)
「あたしは糸くりの音を聞くのが大好きです。
(あの、いとぐるまのぶんぶんというおとをきくことより、たのしいことはありません。)
あの、糸車のブンブンという音を聞くことより、楽しいことはありません。
(おまえのむすめを、いますぐおしろへよこしなさい。)
おまえの娘を、今すぐお城へよこしなさい。
(あたしのところには、あさがたくさんありますから、)
あたしの所には、アサがたくさんありますから、
(すきなだけいとくりをさせてやりましょう」)
好きなだけ糸くりをさせてやりましょう」
(おかあさんはこころのそこからよろこびました。)
お母さんは心の底から喜びました。
(こうして、おきさきさまはおんなのこをいっしょにつれていきました。)
こうして、お妃さまは女の子を一緒に連れて行きました。
(おしろへつきますと、おきさきさまはおんなのこをうえのみっつのへやへつれていきました。)
お城へ着きますと、お妃さまは女の子を上の三つの部屋へ連れて行きました。
(みれば、どのへやにもそれはそれはみごとなあさが、)
見れば、どの部屋にもそれはそれは見事なアサが、
(ゆかからてんじょうまでぎっしりつまっています。)
床から天井までぎっしり詰まっています。
(「さあ、このあさをつむいでおくれ」と、おきさきさまがいいました。)
「さあ、このアサをつむいでおくれ」と、お妃さまが言いました。
(「これをのこらずつむいだら、)
「これを残らずつむいだら、
(あたしのいちばんうえのむすこのおよめさんにしてあげますよ。)
あたしの一番上の息子のお嫁さんにしてあげますよ。
(おまえはびんぼうですけれど、そんなことはかまいません。)
おまえは貧乏ですけれど、そんなことは構いません。
(いっしょうけんめい、せいをだしてはたらくことが、なによりのよめいりじたくですからね」)
一生懸命、精を出して働くことが、なによりの嫁入りじたくですからね」
(おんなのこは、びっくりしてしまいました。)
女の子は、びっくりしてしまいました。
(だって、こんなにたくさんのあさがあれば、)
だって、こんなにたくさんのアサがあれば、
(さんびゃくぐらいのおばあさんになるまで、)
三百ぐらいのおばあさんになるまで、
(まいにちあさからばんまでひっきりなしにつむいだって、つむぎきれませんもの。)
毎日朝から晩までひっきりなしにつむいだって、つむぎきれませんもの。
(おんなのこはひとりになりますと、しくしくなきだしました。)
女の子は一人になりますと、シクシク泣きだしました。
(そうして、みっかのあいだ、てもうごかさずになきつづけていました。)
そうして、三日のあいだ、手も動かさずに泣き続けていました。
(みっかめに、おきさきさまがやってきました。)
三日目に、お妃さまがやって来ました。
(おきさきさまは、まだなんにもつむいでないのをみますと、)
お妃さまは、まだなんにもつむいでないのを見ますと、
(ふしぎにおもいました。けれども、おんなのこは)
不思議に思いました。けれども、女の子は
(「いえをとおくはなれてまいりましたものですから、それがとてもかなしくって、)
「家を遠く離れてまいりましたものですから、それがとても悲しくって、
(まだしごとにとりかかれなかったのでございます」と、いいわけをしました。)
まだ仕事に取りかかれなかったのでございます」と、言い訳をしました。
(おきさきさまは、それもむりはないとおもいましたが、)
お妃さまは、それも無理はないと思いましたが、
(へやをでていくときに、こういいました。)
部屋を出ていくときに、こう言いました。
(「あしたには、しごとをはじめなければいけませんよ」)
「明日には、仕事を始めなければいけませんよ」
(おんなのこはまたひとりになりますと、どうしていいのかわからなくなって、)
女の子はまた一人になりますと、どうしていいのか分からなくなって、
(かなしみながらまどぎわにあゆみよりました。)
悲しみながら窓際に歩み寄りました。
(すると、むこうからさんにんのおんながやってくるのがみえました。)
すると、向こうから三人の女がやって来るのが見えました。
(そのうちのひとりは、ひらべったく、ひろいあしのうらをしていました。)
そのうちの一人は、平べったく、広い足の裏をしていました。
(もうひとりは、おおきなしたくちびるがあごまで、ぶらさがっていました。)
もう一人は、大きな下くちびるがあごまで、ぶらさがっていました。
(さんにんめのおんなは、はばのひろいおやゆびをしていました。)
三人目の女は、幅の広い親指をしていました。
(さんにんのおんなはまどのまえにたちどまって、うえをみあげて、)
三人の女は窓の前に立ち止まって、上を見上げて、
(「どうかしたのかい」と、おんなのこにたずねました。)
「どうかしたのかい」と、女の子に尋ねました。
(おんなのこは、じぶんのこまっているわけをはなしました。)
女の子は、自分の困っているわけを話しました。