生徒諸君に寄せる 宮沢賢治
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問題文
(このよんがねんがわたくしにどんなにたのしかったか)
この四ヶ年が わたくしにどんなに楽しかったか
(わたくしはまいにちをとりのようにきょうしつでうたってくらした)
わたくしは毎日を 鳥のやうに教室でうたってくらした
(ちかっていうがわたくしはこのしごとでつかれをおぼえたことはない)
誓って云ふが わたくしはこの仕事で 疲れをおぼえたことはない
(かれらはみんなわれらをさったかれらにはよいいでんとそだち)
彼等はみんなわれらを去った 彼等にはよい遺伝と育ち
(あらゆるせつびときゅうようとここにはあせとふぶきのひまの)
あらゆる設備と休養と 玆には汗と吹雪のひまの
(ゆがんだじかんとそやなてびきがあるだけだ)
歪んだ時間と粗野な手引があるだけだ
(かれらはひゃくのそくりょくをもちわれらはじゅうのちからをもたぬ)
彼らは百の速力をもち われらは十の力を有たぬ
(なにがわれらをこのくらやみからすくうのか)
何がわれらをこの暗みから救ふのか
(あらゆるつかれとなやみをもやせ)
あらゆる労れと悩みを燃やせ
(すべてのねがいのかたちをかえよ)
すべての願ひの形を変へよ
(あたらしいかぜのようにさわやかなせいうんのように)
新らしい風のやうに爽やかな星雲のやうに
(とうめいにゆかいなあすはくる)
透明に愉快な明日は来る
(しょくんよこんいろしたきたかみさんちのあるりょうは)
諸君よ紺いろした北上山地のある稜は
(すみやかにそのかたちをへんじよう)
速かにその形を変じよう
(のはらのくさはにわかにたけをばいかしよう)
野原の草は俄かに丈を倍加しよう
(あらたなじゅもくやはなのぐんらくが)
新たな樹木や花の群落が
(しょくんよこんいろのちへいせんがふくらみたかまるときに)
諸君よ 紺いろの地平線が膨らみ高まる時に
(しょくんはそのなかにぼっすることをほっするか)
諸君はその中に没することを欲するか
(じつにしょくんはそのちへいせんにおけるあらゆるかたちのさんがくでなければならぬ)
じつに諸君はその地平線に於る あらゆる形の山岳でなければならぬ
(さきのはかくる)
サキノハカ 来る
(それはひとつのおくられたこうせんでありけっせられたみなみのかぜである)
それは一つの送られた光線であり 決せられた南の風である
(しょくんはこのじだいにしいられひきいられて)
諸君はこの時代に強ひられ率ゐられて
(どれいのようににんじゅうすることをほっするか)
奴隷のやうに忍従することを欲するか
(むしろしょくんよさらにあらたなただしいじだいをつくれ)
むしろ諸君よ 更にあらたな正しい時代をつくれ
(ちゅううはたえずわれらによってへんかする)
宙宇は絶えずわれらに依って変化する
(ちょうせきやかぜあらゆるしぜんのちからをもちいつくすことからひとあしすすんで)
潮汐や風 あらゆる自然の力を用ゐ尽すことから一足進んで
(しょくんはあらたなしぜんをけいせいするのにつとめねばならぬ)
諸君は新たな自然を形成するのに努めねばならぬ
(あたらしいじだいのこぺるにくすよ)
新らしい時代のコペルニクスよ
(あまりにおもくるしいじゅうりょくのほうそくからこのぎんがけいとうをときはなて)
あまりに重苦しい重力の法則から この銀河系統を解き放て
(あたらしいじだいのだーうぃんよ)
新らしい時代のダーウィンよ
(さらにとうようふうせいかんのきゃれんぢゃーにのって)
さらに東洋風静観のキャレンヂャーに載って
(ぎんがけいとうのそとにもいたって)
銀河系統の外にも至って
(さらにもとうめいにふかくただしいちしとぞうていされたせいぶつがくをわれらにしめせ)
更にも透明に深く正しい地史と 増訂された生物学をわれらに示せ
(しょうどうのようにさえおこなわれるすべてののうぎょうろうどうを)
衝動のやうにさへ行はれる すべての農業労働を
(つめたくとうめいなかいせきによって)
冷く透明な解析によって
(そのあいいろのかげといっしょにぶようのはんいにたかめよ)
その藍いろの影といっしょに 舞踊の範囲に高めよ
(そしつあるしょくんはただにこれらをきざみだすべきである)
素質ある諸君はただにこれらを刻み出すべきである
(おおよそとうけいにしたがわば)
おほよそ統計に従はば
(しょくんのなかにはすくなくともひゃくにんのてんさいがなければならぬ)
諸君の中には少くとも百人の天才がなければならぬ
(あらたなしじんよあらしからくもからひかりから)
新たな詩人よ 嵐から雲から光から
(あらたなとうめいなえねるぎーをえてひととちきゅうにとるべきかたちをあんじせよ)
新たな透明なエネルギーを得て 人と地球にとるべき形を暗示せよ
(あらたなじだいのまるくすよこれらのもうもくなしょうどうからうごくせかいを)
新たな時代のマルクスよ これらの盲目な衝動から動く世界を
(すばらしくうつくしいこうせいにかえよ)
素晴しく美しい構成に変へよ
(しょくんはこのさっそうたるしょくんのみらいけんからふいてくる)
諸君はこの颯爽たる 諸君の未来圏から吹いて来る
(とうめいなせいけつなかぜをかんじないのか)
透明な清潔な風を感じないのか
(こんにちのれきしやちしのしりょうからのみろんずるならば)
今日の歴史や地史の資料からのみ論ずるならば
(われらのそせんないしはわれらにいたるまで)
われらの祖先乃至はわれらに至るまで
(すべてのしんこうやとくせいはただごかいからしょうじたとさえみえ)
すべての信仰や徳性はただ誤解から生じたとさへ見え
(しかもかがくはいまだにくらくわれらにじさつとじきのみをしかほしょうせぬ)
しかも科学はいまだに暗く われらに自殺と自棄のみをしか保証せぬ
(だれがだれよりどうだとかだれのしごとがどうしたとか)
誰が誰よりどうだとか 誰の仕事がどうしたとか
(そんなことをいっているひまがあるのか)
そんなことを云ってゐるひまがあるのか
(さあわれわれはひとつになって)
さあわれわれは一つになって