谷崎潤一郎 痴人の愛 39

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね0お気に入り登録
プレイ回数474難易度(4.5) 4729打 長文
谷崎潤一郎の中編小説です
私のお気に入りです
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 りっつ 4670 C++ 4.8 96.8% 960.5 4637 151 94 2024/04/29
2 やまちやまちゃん 4218 C 4.3 96.8% 1065.2 4644 150 94 2024/05/05
3 yosi 3376 D 3.5 95.9% 1339.4 4725 202 94 2024/04/23

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問題文

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(「よいしょ!よいしょ!・・・・・・・・・よいしょ!よいしょ!」)

「ヨイショ!ヨイショ!・・・・・・・・・ヨイショ!ヨイショ!」

(「あら、なによ!そんなにおしちゃへいへぶっつかるじゃないの」)

「アラ、何よ!そんなに押しちゃ塀へ打ッつかるじゃないの」

(ばらばらばらっ、と、だれかがへいをすてっきでなぐったようでした。なおみが)

ばらばらばらッ、と、誰かが塀をステッキで殴ったようでした。ナオミが

(きゃっきゃっとわらいました。)

きゃッきゃッと笑いました。

(「さ、こんどはほにか、うわ、ういき、ういきだ!」)

「さ、今度はホニカ、ウワ、ウイキ、ウイキだ!」

(「よしきた!こいつあはわいのしりふりだんすだ、みんなうたいながら)

「よし来た!此奴あ布哇の臀振りダンスだ、みんな唄いながら

(けつをふるんだ!」)

けつを振るんだ!」

(ほにか、うわ、ういき、ういき!すうぃーと、ぶらうん、めいどぅん、せっど、)

ホニカ、ウワ、ウイキ、ウイキ!スウィート、ブラウン、メイドゥン、セッド、

(とぅー、みー、・・・・・・・・・そしてかれらはいちどにしりをふりだしました。)

トゥー、ミー、・・・・・・・・・そして彼等は一度に臀を振り出しました。

(「あっはははは、おけつのふりかたはせきさんがいちばんうまいよ」)

「あッはははは、おけつの振り方は関さんが一番うまいよ」

(「そりゃそうさ、おれあこれでもおおいにけんきゅうしたんだからな」)

「そりゃそうさ、己あこれでも大いに研究したんだからな」

(「どこで?」)

「何処で?」

(「うえののへいわはくらんかいでさ、ほら、ばんこくかんでどじんがおどってるだろう?)

「上野の平和博覧会でさ、ほら、万国館で土人が踊ってるだろう?

(おれああすこへとおかもとおったんだ」)

己あ彼処へ十日も通ったんだ」

(「ばかだなきさまは」)

「馬鹿だな貴様は」

(「おまえもいっそばんこくかんへでるんだったな、おまえのつらならたしかにどじんと)

「お前もいっそ万国館へ出るんだったな、お前の面ならたしかに土人と

(まちげえられたよ」)

まちげえられたよ」

(「おい、まあちゃん、もうなんじだろう?」)

「おい、まアちゃん、もう何時だろう?」

(そういったのははまだでした。はまだはさけをのまないのでいちばんまじめのようでした。)

そう云ったのは浜田でした。浜田は酒を飲まないので一番真面目のようでした。

(「さあ、なんじだろう?だれかとけいをもっていねえか?」)

「さあ、何時だろう?誰か時計を持っていねえか?」

など

(「うん、もっている、」)

「うん、持っている、」

(と、なかむらがいって、まっちをすりました。)

と、中村が云って、マッチを擦りました。

(「や、もうじゅうじにじゅっぷんだぜ」)

「や、もう十時二十分だぜ」

(「だいじょうぶよ、じゅういちじはんにならなけりゃぱぱはかえってこないんだよ。これから)

「大丈夫よ、十一時半にならなけりゃパパは帰って来ないんだよ。これから

(ぐるりとはせのとおりをひとまわりしてかえろうじゃないの。あたしこのなりで)

ぐるりと長谷の通りを一と廻りして帰ろうじゃないの。あたしこのなりで

(にぎやかなところをあるいてみたいわ」)

賑やかな所を歩いて見たいわ」

(「さんせいさんせい!」)

「賛成々々!」

(と、せきがおおごえでどなりました。)

と、関が大声で怒鳴りました。

(「だけどこのふうであるいたらいったいなににみえるだろう?」)

「だけどこの風で歩いたら一体何に見えるだろう?」

(「どうみてもおんなだんちょうだね」)

「どう見ても女団長だね」

(「あたしがおんなだんちょうなら、みんなあたしのぶかなんだよ」)

「あたしが女団長なら、みんなあたしの部下なんだよ」

(「しらなみよにんおとこじゃねえか」)

「白浪四人男じゃねえか」

(「それじゃあたしはべんてんこぞうよ」)

「それじゃあたしは弁天小僧よ」

(「ええ、おんなだんちょうかわいなおみは、・・・・・・・・・」)

「エエ、女団長河合ナオミは、・・・・・・・・・」

(と、くまがいがかつべんのくちょうでいいました。)

と、熊谷が活弁の口調で云いました。

(「・・・・・・・・・やいんにじょうじ、くろきまんとにみをつつみ、・・・・・・・・」)

「・・・・・・・・・夜陰に乗じ、黒きマントに身を包み、・・・・・・・・」

(「うふふふ、およしよそんなげすばったこえをだすのは!」)

「うふふふ、お止しよそんな下司張った声を出すのは!」

(「・・・・・・・・・よんめいのあっかんをいんそついたして、ゆいがはまの)

「・・・・・・・・・四名の悪漢を引率いたして、由比ヶ浜の

(かいがんから・・・・・・・・・」)

海岸から・・・・・・・・・」

(「およしよまあちゃん!よさないかったら!」)

「お止しよまアちゃん!止さないかったら!」

(ぴしゃっとなおみが、ひらてでくまがいのほっぺたをうちました。)

ぴしゃッとナオミが、平手で熊谷の頬ッぺたを打ちました。

(「あいてえ、・・・・・・・・・げすはったこえはおれのじごえさ、おのれあなにわぶしがたりに)

「あ痛え、・・・・・・・・・下司張った声は己の地声さ、己あ浪花節語りに

(ならなかったのが、てんかのこんじだ」)

ならなかったのが、天下の恨事だ」

(「だけれどめりー・ぴくふぉーどはおんなだんちょうにゃならないぜ」)

「だけれどメリー・ピクフォードは女団長にゃならないぜ」

(「それじゃだれだい?ぷりしら・でぃーんかい?」)

「それじゃ誰だい?プリシラ・ディーンかい?」

(「うんそうだ、ぷりしら・でぃーんだ」)

「うんそうだ、プリシラ・ディーンだ」

(「ら、ら、ら、ら」)

「ラ、ラ、ラ、ラ」

(とはまだがふたたびだんす・みゅーじっくをうたいながら、おどりだしたときでした。)

と浜田が再びダンス・ミュージックを唄いながら、踊り出した時でした。

(わたしはかれがすてっぷをふんで、ふいとうしろむきになりそうにしたので、すばやくこかげへ)

私は彼がステップを蹈んで、ふいと後向きになりそうにしたので、素早く木蔭へ

(かくれましたが、どうじにはまだの「おや」というこえがしました。)

隠れましたが、同時に浜田の「おや」と云う声がしました。

(「だれ?かわいさんじゃありませんか?」)

「誰?河合さんじゃありませんか?」

(みんなにわかに、しーんとだまって、たちどまったまま、やみをすかしてわたしのほうを)

みんな俄かに、しーんと黙って、立ち止まったまま、闇を透かして私の方を

(ふりかえりました。「しまった」とおもったが、もうだめでした。)

振り返りました。「しまった」と思ったが、もう駄目でした。

(「ぱぱさん?ぱぱさんじゃないの?なにしているのよそんなところで?みんなのなかまへ)

「パパさん?パパさんじゃないの?何しているのよそんな所で?みんなの仲間へ

(おはいんなさいよ」)

お這入んなさいよ」

(なおみはいきなりつかつかとわたしのまえへやってきて、ぱっとまんとをひらくやいなや、)

ナオミはいきなりツカツカと私の前へやって来て、ぱっとマントを開くや否や、

(うでをのばしてわたしのかたへのせました。みるとかのじょは、まんとのしたに)

腕を伸ばして私の肩へ載せました。見ると彼女は、マントの下に

(いっしもまとっていませんでした。)

一糸も纏っていませんでした。

(「なんだおまえは!おれにはじをかかせたな!ばいた!いんばい!じごく!」)

「何だお前は!己に耻を掻かせたな!ばいた!淫売!じごく!」

(「おほほほほ」)

「おほほほほ」

(そのわらいごえには、さけのにおいがぷんぷんしました。わたしはいままで、かのじょがさけを)

その笑い声には、酒の匂がぷんぷんしました。私は今まで、彼女が酒を

(のんだところをいちどもみたことはなかったのです。)

飲んだところを一度も見たことはなかったのです。

(なおみがわたしをあざむいていたからくりのいったんは、そのばんとそのあくるひと)

十六 ナオミが私を欺いていたからくりの一端は、その晩とその明くる日と

(ふつかがかりで、やっとごうじょうなかのじょのくちからききだすことができました。)

二日がかりで、やっと強情な彼女の口から聞き出すことが出来ました。

(わたしがすいさつしたとおり、かのじょがかまくらへきたがったのは、やはりくまがいとあそびたかったから)

私が推察した通り、彼女が鎌倉へ来たがったのは、矢張熊谷と遊びたかったから

(なのだそうです。おうぎがやつにせきのしんるいがいるというのはまっかなうそで、)

なのだそうです。扇ヶ谷に関の親類が居ると云うのは真っ赤な嘘で、

(はせのおおくぼのべっそうこそ、くまがいのおじのいえだったのです。いや、そればかりか、)

長谷の大久保の別荘こそ、熊谷の叔父の家だったのです。いや、そればかりか、

(わたしがげんにかりているこのはなれざしきも、じつはくまがいのせわなのでした。このうえきやは)

私が現に借りているこの離れ座敷も、実は熊谷の世話なのでした。この植木屋は

(おおくぼのやしきのおでいりなので、くまがいのほうからだんじこんで、どうはなしを)

大久保の邸のお出入りなので、熊谷の方から談じ込んで、どう話を

(つけたものか、まえにいたひとにたちのいてもらい、そこへわたしたちをいれるように)

つけたものか、前に居た人に立ち退いて貰い、そこへ私たちを入れるように

(したのでした。いうまでもなく、それはなおみとくまがいとのそうだんのうえで)

したのでした。云うまでもなく、それはナオミと熊谷との相談の上で

(やったことで、すぎさきじょしのしゅうせんだとか、とうようせきゆのじゅうやくうんぬんは、まったくなおみの)

やったことで、杉崎女史の周旋だとか、東洋石油の重役云々は、全くナオミの

(でたらめにすぎなかったのです。さてこそかのじょは、じぶんでどんどんことをはこんだ)

出鱈目に過ぎなかったのです。さてこそ彼女は、自分でどんどん事を運んだ

(わけでした。うえそうのかみさんのはなしによると、かのじょがはじめてしたけんぶんにきたおりには、)

訳でした。植惣のかみさんの話に依ると、彼女が始めて下検分に来た折には、

(くまがいの「わかさま」といっしょにやってきて、あたかも「わかさま」のいっかのひとで)

熊谷の「若様」と一緒にやって来て、あたかも「若様」の一家の人で

(あるかのようにふるまっていたばかりでなく、まえからそういうふれこみだった)

あるかのように振舞っていたばかりでなく、前からそう云う触れ込みだった

(ものだから、よんどころなくさきのおきゃくをことわって、へやをこっちへあけわたしたのだと)

ものだから、よんどころなく先のお客を断って、部屋を此方へ明け渡したのだと

(いうことでした。)

云うことでした。

(「おかみさん、まことにとんだかかりあいでごめいわくをかけてすみませんが、)

「おかみさん、まことに飛んだ係り合いで御迷惑をかけて済みませんが、

(どうかおかみさんのしっていらっしゃるだけのことをわたしにはなしてくれませんか。)

どうかおかみさんの知っていらっしゃるだけの事を私に話してくれませんか。

(どんなばあいでもあなたのなまえをだすようなことはしませんから。わたしはけっして)

どんな場合でもあなたの名前を出すようなことはしませんから。私は決して

(このことについて、くまがいのほうへだんじこむきはないんです。じじつをしりたい)

この事に就いて、熊谷の方へ談じ込む気はないんです。事実を知りたい

(だけなんです」)

だけなんです」

(わたしはあくるひ、いままでやすんだことのないかいしゃをやすんでしまいました。そして)

私は明くる日、今まで休んだことのない会社を休んでしまいました。そして

(げんじゅうになおみをかんしして、「いっぽもへやからでてはならない」とかたくいいつけ、)

厳重にナオミを監視して、「一歩も部屋から出てはならない」と堅く云いつけ、

(かのじょのいるい、はきもの、さいふをことごとくまとめておもやにはこび、そこのいっしつで)

彼女の衣類、穿き物、財布を悉く纏めて母屋に運び、そこの一室で

(かみさんをじんもんしました。)

かみさんを訊問しました。

(「じゃなにですか、もうずっとまえから、わたしのるすちゅうふたりは)

「じゃ何ですか、もうずっと前から、私の留守中二人は

(ゆききしていたんですか?」)

往き来していたんですか?」

(「はあ、それはしじゅうでございました。わかさまのほうからおこしになりましたり、)

「はあ、それは始終でございました。若様の方からお越しになりましたり、

(おじょうさまのほうからおでかけになりましたり、・・・・・・・・・」)

お嬢様の方からお出かけになりましたり、・・・・・・・・・」

(「おおくぼさんのべっそうにはぜんたいだれがいるんですね?」)

「大久保さんの別荘には全体誰がいるんですね?」

(「ことしはみなさんがごほんたくのほうへおひきあげになりまして、ときどきおみえに)

「今年は皆さんが御本宅の方へお引き揚げになりまして、時々お見えに

(なりますけれど、いつもたいがいくまがいさんのわかさまおひとりでございますの」)

なりますけれど、いつも大概熊谷さんの若様お一人でございますの」

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