悪霊 江戸川乱歩 2

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね1お気に入り登録
プレイ回数1050難易度(5.0) 7001打 長文
江戸川乱歩の短編小説です
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6252 S 6.4 96.9% 1086.2 7009 218 98 2024/10/20
2 布ちゃん 5498 B++ 5.7 95.7% 1211.0 6966 307 98 2024/11/09
3 れもん 4464 C+ 4.8 93.1% 1436.1 6918 506 98 2024/10/17
4 daifuku 3614 D+ 3.8 94.7% 1831.2 7010 392 98 2024/09/29

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問題文

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(じつをいうと、ぼくじしんもこのちなまぐさいじけんのかちゅうのひとりに)

実を云うと、僕自身もこの血腥[ちなまぐさ]い事件の渦中の一人に

(ちがいない。なぜといって、くろかわはかせのしんぺんのできごとというのは、)

違いない。なぜと云って、黒川博士の身辺の出来事というのは、

(きみもしっているれいのしんれいがっかいのぐるーぷのなかにたったことであって、)

君も知っている例の心霊学会のグループの中に起ったことであって、

(ぼくもそのかいいんのまっせきをけがしているからだ。ぼくがどういうきもちで、このじけんに)

僕もその会員の末席をけがしているからだ。僕がどういう気持で、この事件に

(たいしているか、じけんそのものはしらなくても、きみにはおおかたそうぞうできるであろう。)

対しているか、事件そのものは知らなくても、君には大方想像出来るであろう。

(くろかわせんせいやきのどくなひがいしゃのひとたちには、まことにすまぬことだけれど、)

黒川先生や気の毒な被害者の人達には、誠に済まぬことだけれど、

(きのどくがったり、とほうにくれたり、むなさわぎしたりするまえに、まずたんていてききょうみが)

気の毒がったり、途方にくれたり、胸騒ぎしたりする前に、先ず探偵的興味が

(むくむくとあたまをもたげてくるのを、ぼくはどうすることもできなかった。)

ムクムクと頭をもたげて来るのを、僕はどうすることも出来なかった。

(じけんがじつにふゆかいで、ぶきみで、ざんぎゃくで、やわたのやぶしらずみたいに)

事件が実に不愉快で、不気味で、残虐で、八幡の藪知らずみたいに

(ふかかいなものであるだけ、ひがいしゃにとってはなんともいえぬほど)

不可解なものである丈[だ]け、被害者にとっては何とも云えぬ程

(おそろしいできごとであるのにはんぴれいして、たんていてききょうみからはじつにもうしぶんのない)

恐ろしい出来事であるのに反比例して、探偵的興味からは実に申分のない

(だいざいなのだ。ぼくはついしいてもじけんのかちゅうにふみこまないではいられなかった。)

題材なのだ。僕はつい強いても事件の渦中に踏み込まないではいられなかった。

(きみがぼくにおとらぬたんていずきであることはわかっている。ぼくはきみがとうきょうにいて)

君が僕に劣らぬ探偵好きであることは分っている。僕は君が東京にいて

(まだがくせいだったじぶん、ふたりできじょうのたんていごっこをたのしんだのを)

まだ学生だった時分、二人で机上の探偵ごっこを楽しんだのを

(わすれることができない。で、ぼくはこういうことをおもいたった。まだなぞは)

忘れることが出来ない。で、僕はこういう事を思い立った。まだ謎は

(ほとんどとけていないまま、このじけんのけいかをくわしくきみにほうこくして、それを)

殆ど解けていないまま、この事件の経過を詳しく君に報告して、それを

(ごじつのためのきろくともし、また、とおくへだててながめているきみのちょっかくなりすいりなりをも)

後日の為の記録ともし、又、遠く隔てて眺めている君の直覚なり推理なりをも

(きかせてもらうというもくろみなのだ。つまり、ぼくたちはこんどは、げんじつの、しかも)

聞かせて貰うという目論見なのだ。つまり、僕達は今度は、現実の、しかも

(ぼくにとってはおんしにあたるくろかわはかせのしんぺんをめぐるはんざいじけんをざいりょうにして、)

僕に取っては恩師に当る黒川博士の身辺をめぐる犯罪事件を材料にして、

(れいのたんていごっこをやろうというわけなのだ。これはちょっとかんがえると)

例の探偵ごっこをやろうという訳なのだ。これは一寸考えると

など

(ふきんしんなくわだてとみえるかもしれない。だが、そうして、もしすこしでも)

不謹慎な企てと見えるかも知れない。だが、そうして、若し少しでも

(じけんのしんそうにちかづくことができたならば、おんしにたいしても、)

事件の真相に近づくことが出来たならば、恩師に対しても、

(そのしゅういのひとたちにたいしても、りえきにこそなれけっしてめいわくなことがらではないとおもう。)

その周囲の人達に対しても、利益にこそなれ決して迷惑な事柄ではないと思う。

(いまからやくいっかげつまえ、くがつにじゅうさんにちのゆうがた、あねざきそえこみぼうじんざんさつじけんが)

今から約一ヶ月前、九月二十三日の夕方、姉崎曽恵子未亡人惨殺事件が

(はっけんされた。そして、なんのいんねんであるか、そのだいいちのはっけんしゃはかくいう)

発見された。そして、何の因縁であるか、その第一の発見者はかく云う

(ぼくであった。あねざきそえこさんというのはぼくたちのしんれいがっかいのふうがわりな)

僕であった。姉崎曽恵子さんというのは僕達の心霊学会の風変りな

(かいいんのひとりで(ふうがわりなのはけっしてこのふじんばかりではないことが、)

会員の一人で(風変りなのは決してこの夫人ばかりではないことが、

(やがてきみにわかるだろう)いちねんほどまえおっとにしにわかれた、まださんじゅうを)

やがて君に分るだろう)一年程前夫に死に別れた、まだ三十を

(すこしこしたばかりのうつくしいみぼうじんだ。こあねざきしはじつぎょうかいでそうとうのしごとを)

少し越したばかりの美しい未亡人だ。故姉崎氏は実業界で相当の仕事を

(していたひとだが、そのひととくろかわはかせとがちゅうがくじだいのどうそうであったかんけいから、)

していた人だが、その人と黒川博士とが中学時代の同窓であった関係から、

(ふじんもはかせていをほうもんするようになり、いつのまにかしんれいがくにきょうみをもって、)

夫人も博士邸を訪問する様になり、いつの間にか心霊学に興味を持って、

(しんれいげんしょうのじっけんのあつまりにはかかさずしゅっせきしていた。そのうつくしいわれわれのなかまが)

心霊現象の実験の集りには欠かさず出席していた。その美しい我々の仲間が

(とつぜんきかいなへんしをとげたのだ。)

突然奇怪な変死をとげたのだ。

(そのゆうがた、ごごごじごろであったが、ぼくはつとめさきのaしんぶんしゃからのかえりがけに、)

その夕方、午後五時頃であったが、僕は勤め先のA新聞社からの帰りがけに、

(かねてくろかわせんせいからいらいされていたしんれいがっかいれいかいのうちあわせのようけんで、)

兼ねて黒川先生から依頼されていた心霊学会例会の打合せの用件で、

(うしごめくかわだちょうのあねざきふじんていにたちよった。たぶんきみもしっているとおり、あのへんは、)

牛込区河田町の姉崎夫人邸に立寄った。多分君も知っている通り、あの辺は、

(みちのりょうがわにこわれかかったたかいいしがきがそびえ、そのうえに)

道の両側に毀[こわ]れかかった高い石垣が聳[そび]え、その上に

(もりのようなじゅもくがそらをおおっていたりとんでもないところにくさのはえた)

森の様な樹木が空を覆っていたり飛んでもない所に草の生えた

(あきちがあったり、せまいみちにこけのはえたいたべいがつづいていて、そのねもとには)

空地があったり、狭い道に苔の生えた板塀が続いていて、その根本には

(ふたのないどろみぞが、よこたわっていたりする、しないのじゅうたくがいでは)

蓋のない泥溝が、横[よこた]わっていたりする、市内の住宅街では

(もっともいんきなばしょのひとつだが、あねざきみぼうじんのやしきは、そのいたべいの)

最も陰気な場所の一つだが、姉崎未亡人の邸は、その板塀の

(ならんだなかにあって、へいごしにこふうなどぞうのやねがみえているのがめじるしだ。)

並んだ中にあって、塀越しに古風な土蔵の屋根が見えているのが目印だ。

(あねざきけのもんよりはでんしゃみちよりに、つまりあねざきけのすこしてまえのすじむこうにあたるところに、)

姉崎家の門よりは電車道よりに、つまり姉崎家の少し手前の筋向うに当る所に、

(いまいったくさのあきちがあって、そのすみにげすいようのおおきなこんくりーとのくだがいくつも)

今云った草の空地があって、その隅に下水用の大きなコンクリートの管が幾つも

(ころがっているのだが、たぶんそのくだのなかをすまいにしているのだろう、ひとりの)

ころがっているのだが、多分その管の中を住いにしているのだろう、一人の

(としとったおとこのかたりんこじきが、くだのまえにいざりぐるまをすえて、おれたように)

年とった男の片輪乞食が、管の前にいざり車を据えて、折れた様に

(すわっていた。ぼくはそいつをちゅういしないわけにはいかなかった。それほどきたなくて)

座っていた。僕はそいつを注意しない訳には行かなかった。それ程汚くて

(きみのわるいこじきだったからだ。そいつはかんたんにいえばもうはつとみぎのめとじょうげのはと)

気味の悪い乞食だったからだ。そいつは簡単に云えば毛髪と右の目と上下の歯と

(ひだりのてとりょうあしとをもたないきょくたんなふぐしゃであった。からだのはんぶんが)

左の手と両足とを持たない極端な不具者であった。身体の半分が

(なくなってしまっているといってもよかった。そのうえやせさらぼうて、おそらく)

なくなってしまっているといってもよかった。その上痩せさらぼうて、恐らく

(めかたもふつうのにんげんのはんぶんしかないのだろうとおもわれたほどだ。ぼくはみちばたに)

目方も普通の人間の半分しかないのだろうと思われた程だ。僕は道端に

(たちどまってにさんぷんもこじきをながめつづけたが、そのあいだかれはぼくをもくさつして、)

立止まって二三分も乞食を眺め続けたが、その間彼は僕を黙殺して、

(かたほうしかないてでおれまがったせなかをぼりぼりかいていた。)

片方しかない手で折れ曲がった背中をボリボリ掻いていた。

(ぼくがこのいざりこじきをそんなにながくみつめていたのは、にんげんのふつうでない)

僕がこのいざり乞食をそんなに長く見つめていたのは、人間の普通でない

(したいにひきつけられるれいのぼくのこどもらしいこうきしんにすぎなかったが、しかし)

姿態に惹きつけられる例の僕の子供らしい好奇心に過ぎなかったが、併し

(そうしてこのこじきをこころにとめておいたことが、あとになってなかなか)

そうしてこの乞食を心にとめて置いたことが、あとになってなかなか

(やくにたった。いやそればかりではなく、ぼくとそいつとは、べつにはっきりした)

役に立った。いやそればかりではなく、僕とそいつとは、別にはっきりした

(りゆうがあるわけではないけれど、なんだかめにみえないいとでつなぎあわされているような)

理由がある訳ではないけれど、何だか目に見えない糸で繋ぎ合わされている様な

(きがしてしかたがないのだ。ことにちかごろになってこのにさんにちなどはまいばんのように、)

気がして仕方がないのだ。殊に近頃になってこの二三日などは毎晩の様に、

(あのおばけのゆめにうなされている。ひるまでもあいつのかおをおもいだすとぞーっと)

あのお化けの夢にうなされている。昼間でもあいつの顔を思出すとゾーッと

(さむけがしてなにともいえぬいやなきもちにおそわれるのだ。あねざきけのことをかくまえに、)

寒気がして何とも云えぬ厭な気持ちに襲われるのだ。姉崎家のことを書く前に、

(ぼくはなんだかあのかたわものについて、もうすこしくわしくきみにしらせて)

僕はなんだかあの片輪者について、もう少し詳しく君に知らせて

(おきたくなった。そいつのふぐのどあいは、からだのどのぶぶんよりがんめんにもっとも)

置き度くなった。そいつの不具の度合は、身体のどの部分より顔面に最も

(いちじるしかった。とうぶのにくはろちょうこつがすいてみえるほど)

著しかった。頭部の肉は顱頂骨[ろちょうこつ]が透いて見える程

(ひからびていて、びかびかひかるひっつりがあって、そのうえぜんめんに)

ひからびていて、ビカビカ光る引釣[ひっつり]があって、その上全面に

(いっぽんのもうはつものこっていなかった。みいらにはもうはつのついているのも)

一本の毛髪も残っていなかった。木乃伊[みいら]には毛髪の着いているのも

(あるが、このこじきのあたまは、みいらとそっくりなうえに、かみのけさえも)

あるが、この乞食の頭は、木乃伊とそっくりな上に、髪の毛さえも

(みあたらぬのだ。ひろくみえるひたいにはまゆげがなくて、とつぜんめのくぼがうすぐろいほらあなに)

見当らぬのだ。広く見える額には眉毛がなくて、突然目の窪が薄黒い洞穴に

(なっていた。もっともそれはみぎのめのはなしで、ひだりのがんきゅうだけはのこっていたけれど、)

なっていた。尤もそれは右の眼の話で、左の眼球丈けは残っていたけれど、

(ほそくひらいたまぶたのなかは、くろくはなくてうすじろくみえた。ぼくはひだりのめももうもくなのか、と)

細く開いた瞼の中は、黒くはなくて薄白く見えた。僕は左の目も盲目なのか、と

(かんがえたが、あとになってそれはじゅうぶんしようにたえることがわかった。)

考えたが、あとになってそれは十分使用に耐えることが分った。

(めからしたのぶぶんはまったくふしぎなものであった。ほおもはなもくちもあごも、)

目から下の部分は全く不思議なものであった。頬も鼻も口も顎も、

(どれがどれだかまるでくべつがなくて、むすうのふかいよこじわがきざまれているに)

どれがどれだかまるで区別がなくて、無数の深い横皺が刻まれているに

(すぎなかった。はなはひくくてみじかくていくだんにもよこじわでたたまれていて、ふつうの)

過ぎなかった。鼻は低くて短かくて幾段にも横皺で畳まれていて、普通の

(にんげんのはなのさんぶんのいちのながさもないようにみえたし、はなのしたにはいくほんかのひだになった)

人間の鼻の三分の一の長さもない様に見えたし、鼻の下には幾本かの襞になった

(よこじわがあるばかりで、すぐにはねをむしったにわとりのようなのどになっていた。むろん)

横皺があるばかりで、すぐに羽をむしった鶏の様な喉になっていた。無論

(そのよこじわのひとつがくちなのだけれど、どれがくちにあたるのかみわけが)

その横皺の一つが口なのだけれど、どれが口に当るのか見分けが

(つかないほどであった。つまりこのこじきのかおは、われわれとはまるでぎゃくであって、)

つかない程であった。つまりこの乞食の顔は、我々とはまるで逆であって、

(めからしたのぜんたいのめんせきが、ひたいのさんぶんのいちにもたりないのだ。これはにくがやせて)

目から下の全体の面積が、額の三分の一にも足りないのだ。これは肉が痩せて

(ひふがたるんだのと、じょうげのはがまったくないために、かおのしたはんめんが、ちょうちんを)

皮膚がたるんだのと、上下の歯が全くない為に、顔の下半面が、提灯を

(おしつぶしたようにちぢんでしまったものにちがいなかった。きみがもし)

押しつぶした様に縮んでしまったものに違いなかった。君が若し

(あるこーるづけになったつきたらずのたいじをみたけいけんがあるなら、それをいま)

アルコール漬けになった月足らずの胎児を見た経験があるなら、それを今

(おもいだしてくれればいいのだ。かみのけのまったくはえていない、しろっぽくて)

思い出してくれればいいのだ。髪の毛の全く生えていない、白っぽくて

(しわくちゃのあのたいじのかおをそのままおおきくすれば、ちょうどこのこじきのかおになる。)

皺くちゃのあの胎児の顔をそのまま大きくすれば、丁度この乞食の顔になる。

(ひふのいろは、きみはおそらくしぶがみいろをそうぞうするであろうが、あんがいそうではなくて、)

皮膚の色は、君は恐らく渋紙色を想像するであろうが、案外そうではなくて、

(もししわをひきのばしたら、ぼくなんかのかおいろよりもしろくてうつくしいのではないかと)

若し皺を引き伸ばしたら、僕なんかの顔色よりも白くて美しいのではないかと

(おもわれるほどであった。それからこいつのしんたいだが、それはかおほどでは)

思われる程であった。それからこいつの身体だが、それは顔程では

(なかったけれど、やっぱりみいらをおもいだすやせかたであった。きていたのは、)

なかったけれど、やっぱり木乃伊を思出す痩せ方であった。着ていたのは、

(めくらじまのもめんのひとえのぼろぼろにやぶれたもので、ことにひだりのそでは)

盲目縞[めくらじま]の木綿の単衣のぼろぼろに破れたもので、殊に左の袖は

(あとかたもなくちぎれてしまって、ちぎれたそでのあいだから、くろくよごれためりやすの)

跡方もなくちぎれてしまって、ちぎれた袖の間から、黒く汚れたメリヤスの

(しゃつにつつまれたうでのつけねが、かたからはえたこぶみたいに)

シャツに包まれた腕のつけ根が、肩から生えた瘤[こぶ]みたいに

(のぞいていた。そのこぶのさきがふろしきのむすびめのようにきゅっと)

窺[のぞ]いていた。その瘤の先が風呂敷の結び目の様にキュッと

(しぼんでいるのは、いっけんげかしゅじゅつのあとで、このこじきがらいびょうかんじゃではないことを)

しぼんでいるのは、一見外科手術の痕で、この乞食が癩.病患者ではないことを

(かたるものだ。どうたいはひじょうなろうじんのようにまったくふたつにおれて、ちょっとみると)

語るものだ。胴体は非常な老人の様に全く二つに折れて、ちょっと見ると

(すわっているのだかねているのだかわからないほどであったが、そのどうたいに)

座っているのだか寝ているのだか分らない程であったが、その胴体に

(おおいかくされたすきまから、ひざからうえだけのにほんのほそいももがのぞいてみえて、)

覆い隠された隙間から、膝から上丈けの二本の細い腿[もも]が窺いて見えて、

(それがどろまみれのいざりぐるまのなかにきっちりとはまりこんでいた。ねんれいは)

それが泥まみれのいざり車の中にきっちりと嵌まり込んでいた。年齢は

(どうみてもろくじゅっさいいじょうのろうじんであった。)

どう見ても六十歳以上の老人であった。

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