宮沢賢治 春と修羅 序

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1 subaru 6840 S++ 7.2 94.6% 269.0 1951 111 61 2024/10/29

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問題文

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(じょ)

(わたくしというげんしょうは)

わたくしといふ現象は

(かていされたゆうきこうりゅうでんとうの)

仮定された有機交流電燈の

(ひとつのあおいしょうめいです)

ひとつの青い照明です

((あらゆるとうめいなゆうれいのふくごうたい))

(あらゆる透明な幽霊の複合体)

(ふうけいやみんなといっしょに)

風景やみんなといつしよに

(せわしくせわしくめいめつしながら)

せはしくせはしく明滅しながら

(いかにもたしかにともりつづける)

いかにもたしかにともりつづける

(いんがこうりゅうでんとうの)

因果交流電燈の

(ひとつのあおいしょうめいです)

ひとつの青い照明です

((ひかりはたもち そのでんとうはうしなわれ))

(ひかりはたもち その電燈は失はれ)

(これらはにじゅうにかげつの)

これらは二十二箇月の

(かことかんずるほうがくから)

過去とかんずる方角から

(かみとこうしついんくをつらね)

紙と鉱質インクをつらね

((すべてわたくしとめいめつし)

(すべてわたくしと明滅し

(みんながどうじにかんずるもの))

みんなが同時に感ずるもの)

(ここまでたもちつづけられた)

ここまでたもちつゞけられた

(かげとひかりのひとくさりづつ)

かげとひかりのひとくさりづつ

(そのとおりのしんしょうすけっちです)

そのとほりの心象スケツチです

(これらについてひとやぎんがやしゅらやうには)

これらについて人や銀河や修羅や海胆は

など

(うちゅうじんをたべ またはくうきやしおみずをこきゅうしながら)

宇宙塵をたべ または空気や塩水を呼吸しながら

(それぞれしんせんなほんたいろんもかんがえましょうが)

それぞれ新鮮な本体論もかんがへませうが

(それらもひっきょうこころのひとつのふうぶつです)

それらも畢竟こゝろのひとつの風物です

(ただたしかにきろくされたこれらのけしきは)

たゞたしかに記録されたこれらのけしきは

(きろくされたそのとおりのこのけしきで)

記録されたそのとほりのこのけしきで

(それがきょむならばきょむじしんがこのとおりで)

それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで

(あるていどまではみんなにきょうつういたします)

ある程度まではみんなに共通いたします

((すべてがわたくしのなかのみんなであるように)

(すべてがわたくしの中のみんなであるやうに

(みんなのおのおののなかのすべてですから))

みんなのおのおののなかのすべてですから)

(けれどもこれらしんせいだいちゅうせきせいの)

けれどもこれら新生代沖積世の

(きょだいにあかるいじかんのしゅうせきのなかで)

巨大に明るい時間の集積の中で

(ただしくうつされたはずのこれらのことばが)

正しくうつされた筈のこれらのことばが

(わづかそのいってんにもひとしいめいあんのうちに)

わづかその一点にも等しい明暗のうちに

((あるいはしゅらのじゅうおくねん))

(あるいは修羅の十億年)

(すでにはやくもそのくみたてやしつをへんじ)

すでにはやくもその組立や質を変じ

(しかもわたくしもいんさつしゃも)

しかもわたくしも印刷者も

(それをかわらないとしてかんずることは)

それを変わらないとして感ずることは

(けいこうとしてはありえます)

傾向としてはあり得ます

(けだしわれわれがわれわれのかんかんや)

けだしわれわれがわれわれの感官や

(ふうけいやじんぶつをかんずるように)

風景や人物をかんずるやうに

(そしてただきょうつうにかんずるだけであるように)

そしてたゞ共通に感ずるだけであるやうに

(きろくやれきし あるいはちしというものも)

記録や歴史 あるいは地史といふものも

(それのいろいろのでーたといっしょに)

それのいろいろの論料といつしよに

((いんがのじくうせいやくのもとに))

(因果の時空制約のもとに)

(われわれがかんじているのにすぎません)

われわれがかんじてゐるのに過ぎません

(おそらくこれからにせんねんもたったころは)

おそらくこれから二千年もたつたころは

(それそうとうのちがったちしつがくがりゅうようされ)

それ相当のちがつた地質学が流用され

(そうとうしたしょうこもまたつぎつぎかこからげんしゅつし)

相当した証拠もまた次次過去から現出し

(みんなはにせんねんぐらいまえには)

みんなは二千年ぐらゐ前には

(あおぞらいっぱいのむしょくなくじゃくがいたとおもい)

青ぞらいつぱいの無色な孔雀が居たとおもひ

(しんしんのだいがくしたちはきけんのいちばんのじょうそう)

新進の大学士たちは気圏のいちばんの上層

(きらびやかなこおりちっそのあたりから)

きらびやかな氷窒素のあたりから

(すてきなかせきをはっくつしたり)

すてきな化石を発掘したり

(あるいははくあきのそうめんに)

あるいは白堊紀の層面に

(とうめいなじんるいのきょだいなあしあとを)

透明な人類の巨大な足跡を

(はっけんするかもしれません)

発見するかもしれません

(すべてこれらのめいだいは)

すべてこれらの命題は

(しんしょうやじかんそれじしんのせいしつとして)

心象や時間それ自身の性質として

(だいよじえんちょうのなかでしゅちょうされます)

第四次延長のなかで主張されます

(たいしょうじゅうさんねんいちがつはつか)

大正十三年一月廿日

(みやざわけんじ)

宮沢賢治

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