悪霊 江戸川乱歩 6

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね0お気に入り登録
プレイ回数811難易度(4.5) 6403打 長文
江戸川乱歩の短編小説です
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 だだんどん 6602 S+ 7.1 93.0% 882.1 6292 468 100 2025/12/31
2 kuma 3934 D++ 4.1 94.5% 1511.6 6312 364 100 2025/12/22

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問題文

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(そしてふしぎないっちは、おかみさんも、こじきとおなじように、そのおんなのかえるところを) そして不思議な一致は、おかみさんも、乞食と同じ様に、その女の帰る所を (みていないことだ。おんなはきたときとははんたいのみちをとおってかえったのかもしれない。) 見ていないことだ。女は来た時とは反対の道を通って帰ったのかも知れない。 (あるいは、たばこてんのしゅふがようじにたっているすきにとおりすぎたのかもしれない。) 或は、煙草店の主婦が用事に立っている隙に通り過ぎたのかも知れない。 (いざりこじきのしょうげんがけっしてでたらめでなかったことがわかった。ひさしがみにやがすりの、) いざり乞食の証言が決して出鱈目でなかったことが分った。庇髪に矢絣の、 (めいじじだいのしょうせつぼんのきばんのくちえにでもありそうなむすめさんが、しょうわのがいとうに) 明治時代の小説本の木板の口絵にでもあり相な娘さんが、昭和の街頭に (あらわれたのだ。それだけでもなんとなくきちがいじみた、おばけめいたかんじなのに、) 現れたのだ。それ丈けでも何となく気違いじみた、お化けめいた感じなのに、 (そのぶきみなれいじょうがうつくしいみぼうじんのらたいさつじんじけんのげんばにでいりしたと) その不気味な令嬢が美しい未亡人の裸.体殺人事件の現場に出入りしたと (いうのでから、これがひとびとのこうきしんをそそらないわけがなかった。たとえちょくせつの) いうのでから、これが人々の好奇心を唆らない訳がなかった。仮令直接の (はんにんではないとしても、このむすめこそあやしいのだとかんがえないではいられなかった。) 犯人ではないとしても、この娘こそ怪しいのだと考えないではいられなかった。 (わたぬきけんじは、みぼうじんのじっけいやじょちゅうをとらえて、ふたりのじんぶつにこころあたりはないかと) 綿貫検事は、未亡人の実兄や女中を捉えて、二人の人物に心当りはないかと (たずねたが、ようふくのしんしのほうはあまりばくぜんとしていてけんとうがつかぬし、やがすりの) 尋ねたが、洋服の紳士の方は余り漠然としていて見当がつかぬし、矢絣の (むすめのほうは、そんなとっぴょうしもないふうていのおんなはまったくしらない、うわさをきいたことすら) 娘の方は、そんな突拍子もない風体の女は全く知らない、噂を聞いたことすら (ないとのこたえであった。) ないとの答えであった。 (いじょうがとうやそうさのひとたちがつかみえたてがかりらしいもののすべてであった。ぼくがげんばで) 以上が当夜捜査の人達が掴み得た手掛りらしいものの凡てであった。僕が現場で (けんぶんし、ごじつわたぬきけんじからききこんだことがらのすべてであった。このじけんのもっとも) 見聞し、後日綿貫検事から聞込んだ事柄の凡てであった。この事件の最も (きかいなてんだけをようやくすると、ひがいしゃがぜんらたいであったこと、ちめいしょうのほかに) 奇怪な点丈けを要約すると、被害者が全.裸体であった事、致命傷の外に (ぜんしんにろくかしょのきりきずがあって、そのちがてんでんにでたらめのほうこうへ) 全身に六ケ所の斬り傷があって、その血がてんでんに出鱈目の方向へ (ながれていたこと、げんばにきみょうなずけいをしるしたしへんがおちていて、それがゆいいつの) 流れていたこと、現場に奇妙な図形を記した紙片が落ちていて、それが唯一の (しょうこひんであったこと、じだいばなれのしたひさしがみにやがすりのわかいおんながげんばにでいりした) 証拠品であったこと、時代離れのした庇髪に矢絣の若い女が現場に出入りした (けいせきのあったことなどであるが、しかもさらにきかいなことは、じけんごやくいっかげつの) 形跡のあったことなどであるが、しかも更らに奇怪な事は、事件後約一ヶ月の
など
(こんにちまで、これいじょうのあたらしいてがかりはほとんどはっけんされていないのだ。) 今日[こんにち]まで、これ以上の新しい手掛りは殆ど発見されていないのだ。 (だいいちのじけんをめいきゅうにのこしたまま、だいにのじけんがおこってしまったのだ。) 第一の事件を迷宮に残したまま、第二の事件が起ってしまったのだ。 (といういみは、あねざきみぼうじんざんさつじけんは、さつじんきのえんじだしたいわば) という意味は、姉崎未亡人惨殺事件は、殺人鬼の演じ出した謂わば (まえげいであって、ほんぶたいはまだあとにのこされていた。かれのほんぶたいは、こうれいじゅつの) 前芸であって、本舞台はまだあとに残されていた。彼の本舞台は、降霊術の (くらやみのせかいにあったのだ。あくまのしょくしゅは、とおくからちかくへと、じょじょにわが) 暗闇の世界に在ったのだ。悪魔の触手は、遠くから近くへと、徐々に我が (くろかわはかせのしんぺんにせまってきたのだ。) 黒川博士の身辺に迫って来たのだ。 (ではだいいっしんはここまでにして、まだいいのこしているおおくのことがらはじびんに) では第一信はここまでにして、まだ云い残している多くの事柄は次便に (ゆずることにしよう。よがふけてしまったのだ。このほうこくだけではきみは、) 譲ることにしよう。夜が更けてしまったのだ。この報告丈けでは君は、 (もしかしたらじけんにきょうみをおこしえないかもしれぬ。たんていごっこをはじめるには) 若しかしたら事件に興味を起し得ないかも知れぬ。探偵ごっこを始めるには (あまりにとぼしいざいりょうだからね。だがだいにしんでは、いくにんかのしんりてきひがいしゃを) 余りに乏しい材料だからね。だが第二信では、幾人かの心理的被害者を (きみにおめにかけることができるだろうとおもう。) 君にお目にかけることが出来るだろうと思う。 (じゅうがつはつか) 十月二十日 (そぶえしんいち) 祖父江進一[そぶえしんいち] (いわいたんくん) 岩井坦[たん]君 ((ちゅう。ほんぶんちゅう「ちゅう」をしょうきしたかしょのじょうらんに、さのごときしゅひつの) (註。本文中「註」を小記した箇所の上欄に、左[さ]の如き朱筆の (かきいれがある。じゅしんしゃいわいくんのひっせきであろう)) 書入れがある。受信者岩井君の筆蹟であろう) (このいざりこじきをしょうにんとしてでなくはんにんとしてかんがえることはできないのか。) このいざり乞食を証人としてでなく犯人として考えることは出来ないのか。 (そふえはそのてんにすこしもふれていないが、このしゅうかいなろうふぐしゃが) 祖父江はその点に少しも触れていないが、この醜怪な老不具者が (しんはんにんだったとすれば、すくなくともしょうせつとしては、はなはだおもしろいとおもう。なぜいちおうは) 真犯人だったとすれば、少くとも小説としては、甚だ面白いと思う。なぜ一応は (それをうたがってみなかったのであろう。) それを疑って見なかったのであろう。 (だいにしん) 第二信 (さっそくへんじをくれてありがとう。きみのていしゅつしたぎもんには、きょうのてがみのてきとうなかしょで) 早速返事をくれて有難う。君の提出した疑問には、今日の手紙の適当な箇所で (おこたえするつもりだ。このてがみはぜんびんとはすこしかきかたをかえて、しょうせつかのしゅほうを) お答えする積りだ。この手紙は前便とは少し書き方を変えて、小説家の手法を (まねて、あるいちやのできごとを、そのままきみのまえにさいげんしてみようとおもう。) 真似て、ある一夜の出来事を、そのまま君の前に再現して見ようと思う。 (そういうしゅほうをとるりゆうは、そのよるのとうじょうじんぶつがいろいろないみできみに) そういう手法を採る理由は、その夜の登場人物が色々な意味で君に (きょうみがあるとおもうし、そこでとりかわされたかいわは、ほとんどまったく) 興味があると思うし、そこで取交わされた会話は、殆ど全く (あねざきみぼうじんさつじんじけんにしゅうしし、したがってきみにほうこくすべきあらゆるざいりょうが、) 姉崎未亡人殺人事件に終始し、随って君に報告すべきあらゆる材料が、 (それらのかいわのうちにふくまれていたので、そのいちやのかいごうのしゃじつによって、) それらの会話の内に含まれていたので、その一夜の会合の写実によって、 (ぼくのせつめいてきなほうこくをはぶくことができるからだ。それともうひとつは、) 僕の説明的な報告を省くことが出来るからだ。それともう一つは、 (せつめいてきぶんしょうではつたえることのできない、しょじんぶつのひょうじょうやことばのあやを、そのまま) 説明的文章では伝えることの出来ない、諸人物の表情や言葉のあやを、そのまま (さいげんして、きみのはんだんのざいりょうにきょうたいいみもあるのだ。) 再現して、君の判断の材料に供し度い意味もあるのだ。 (くがつにじゅうごにちにあねざきそえこさんのかりそうぎがおこなわれたが、そのよくよくじつ) 九月二十五日に姉崎曽恵子さんの仮葬儀が行われたが、その翌々日 (にじゅうしちにちのよる、くろかわはかせていにしんれいがっかいのれいかいがひらかれた。このれいかいはべつに) 二十七日の夜、黒川博士邸に心霊学会の例会が開かれた。この例会は別に (もうしあわせをしたわけではなかったけれど、きせずしてあねざきふじんついとうの) 申合せをした訳ではなかったけれど、期せずして姉崎夫人追悼の (あつまりのようになってしまった。) 集まりの様になってしまった。 (ぼくはかんじというなでいろいろざつようをおおせつかっているものだから、(にじゅうさんにちに) 僕は幹事という名で色々雑用を仰せつかっているものだから、(二十三日に (あねざきけをたずねたのもそのやくめがらであった)ていこくのごごろくじよりはさんじゅっぷんほどはやく) 姉崎家を訪ねたのもその役目柄であった)定刻の午後六時よりは三十分程早く (なかののはかせていをおとずれた。きみもきおくしているだろう。こふうなくろいたべいにかぶきもん、) 中野の博士邸を訪れた。君も記憶しているだろう。古風な黒板塀に冠木門、 (げんかんまでごろっけんもあるりょうがわのうえこみ、こうしど、わふうのげんかん、ろうかをとおって) 玄関まで五六間もある両側の植込み、格子戸、和風の玄関、廊下を通って (べつむねのようかん、そこにはかせのしょさいとおうせつしつとがある。ぼくはじょちゅうのあんないで) 別棟の洋館、そこに博士の書斎と応接室とがある。僕は女中の案内で (そのおうせつしつにとおった。いつものれいかいにもここがかいいんたちのまちあいじょに) その応接室に通った。いつもの例会にもここが会員達の待合所に (つかわれていたのだ。) 使われていたのだ。 (おうせつしつにはくろかわはかせのすがたはみえず、いっぽうのすみのそふぁにおくさんがたったひとり、) 応接室には黒川博士の姿は見えず、一方の隅のソファに奥さんがたった一人、 (あおいかおをしてこしかけていらしった。きみはおくさんにはあったことがないだろうが、) 青い顔をして腰かけていらしった。君は奥さんには会ったことがないだろうが、 (はかせにはにどめのおくさんで、じゅういくつもとししたのさんじゅうをこしたばかりの) 博士には二度目の奥さんで、十幾つも年下の三十を越したばかりの (わかいほうなのだ。びじんというほどではないけれど、やせがたのかおにふたえまぶたのおおきいめが) 若い方なのだ。美人という程ではないけれど、痩型の顔に二重瞼の大きい目が (めだって、どこかふけんこうらしくあおぐろいひふがねっとりとひとをひきつけるかんじだ。) 目立って、どこか不健康らしく青黒い皮膚がネットリと人を惹きつける感じだ。 (あいさつをして、「せんせいは」とたずねると、ふじんはうかぬかおで、) 挨拶をして、「先生は」と尋ねると、夫人は浮かぬ顔で、 (「すこしけがをしましたの、みなさんがおそろいになるまでといって、あちらで) 「少し怪我をしましたの、皆さんがお揃いになるまでと云って、あちらで (やすんでいますのよ」) 寝[やす]んでいますのよ」 (といって、おもやのほうをゆびさされた。) と云って、母屋の方を指さされた。 (「けがですって?どうなすったのです」) 「怪我ですって?どうなすったのです」 (ぼくはなんとなくふつうのけがではないようなよかんがして、おせじでなくききかえした。) 僕は何となく普通の怪我ではない様な予感がして、お世辞でなく聞返した。 (「ゆうべおそくおふろにはいっていて、がらすであしのうらをきりましたの。) 「昨夜[ゆうべ]遅くお風呂に入っていて、ガラスで足の裏を切りましたの。 (ほんのちょっとしたけがですけれど、でも・・・・・・」) ほんのちょっとした怪我ですけれど、でも・・・・・・」 (ぼくはじっとおくさんのいようにひかるおおきいめをみつめた。) 僕はじっと奥さんの異様に光る大きい目を見つめた。 (「あたしなんだかきみがわるくって、ほんとうのことをいうと、こんなしんれいがくの) 「あたし何だか気味が悪くって、ほんとうのことを云うと、こんな心霊学の (かいなんかはじめたのがいけないとおもいますわ。えたいのしれないたましいたちが、) 会なんか始めたのがいけないと思いますわ。えたいの知れない魂達が、 (このいえのくらいところにうじゃうじゃしているようなきがして。あたし、しゅじんに) この家の暗い所にウジャウジャしている様な気がして。あたし、主人に (おねがいして、もうほんとうによしていただこうかとおもうんですの」) 御願いして、もう本当に止[よ]して頂こうかと思うんですの」 (「こんやはどうしてそんなことおっしゃるのです。なにかあったのですか」) 「今夜はどうしてそんな事おっしゃるのです。何かあったのですか」 (「なにかって、あたしあねざきさんがおなくなりなすってから、こわくなって) 「何かって、あたし姉崎さんがおなくなりなすってから、怖くなって (しまいましたの。あんまりよくあたったのですもの」) しまいましたの。あんまりよく当ったのですもの」 (うかつにもぼくはそのことをまったくしらなかったので、びっくりしたようなかおをしたに) 迂闊にも僕はそのことを全く知らなかったので、びっくりした様な顔をしたに (ちがいない。) 違いない。 (「あら、ごぞんじありませんの。うちのりゅうちゃんがぴったり) 「アラ、御存知ありませんの。家[うち]の龍ちゃんがピッタリ (よげんしましたのよ。じけんのふつかまえのばんでした。とつぜんとらんすになって、だれか) 予言しましたのよ。事件の二日前の晩でした。突然トランスになって、誰か (おんなのひとがむごたらしいしにほうをするって。ひもじかんもぴったり) 女の人がむごたらしい死に方をするって。日も時間もピッタリ (あっていますのよ。しゅじんおはなししませんでして」) 合っていますのよ。主人お話ししませんでして」 (「おどろいたなあ、そんなことがあったんですか。ぼくちっともきいてません。) 「驚いたなあ、そんな事があったんですか。僕ちっとも聞いてません。 (あねざきさんということもわかっていたのですか」) 姉崎さんということも分っていたのですか」 (「それがわかればなんとかよぼうできたんでしょうけれど、しゅじんがどんなにせめても、) 「それが分れば何とか予防出来たんでしょうけれど、主人がどんなに責めても、 (りゅうちゃんにはなまえがいえなかったのです。ただくりかえしてうつくしいおんなのひとがって) 龍ちゃんには名前が云えなかったのです。ただ繰返して美しい女の人がって (いうばかりなんです」) 云うばかりなんです」 (たつちゃんというのは、くろかわはかせがやしなっているふしぎなもうもくのむすめで、おそらく) 龍ちゃんというのは、黒川博士が養っている不思議な盲目の娘で、恐らく (にほんでたったひとりのれいかいつうしんのみでぃあむなのだ。そのむすめはいまにきみのまえに) 日本でたった一人の霊界通信のミディアムなのだ。その娘は今に君の前に (とうじょうするであろうが、かのじょがめいかいのこえによって、あらかじめあねざきみぼうじんのしのじかんを) 登場するであろうが、彼女が冥界の声によって、予め姉崎未亡人の死の時間を (つげしらせたというじじつは、ぼくをぎょっとさせた。あのめくらが、いつかのひ) 告げ知らせたという事実は、僕をギョットさせた。あのめくらが、いつかの日 (しんはんにんをいいあてるのじゃないかな、というおそろしいかんがえが) 真犯人を云い当るのじゃないかな、という恐ろしい考えが (ちらっとぼくのこころをよぎった。) チラッと僕の心を遏[よ]ぎった。
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