紫式部 源氏物語 帚木 2 與謝野晶子訳
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | berry | 7538 | 神 | 7.7 | 97.7% | 767.8 | 5926 | 138 | 84 | 2024/10/23 |
2 | HAKU | 7404 | 光 | 7.7 | 95.8% | 774.4 | 5992 | 258 | 84 | 2024/10/23 |
3 | おもち | 7190 | 王 | 7.6 | 94.0% | 781.3 | 6000 | 382 | 84 | 2024/09/29 |
4 | kkk | 7009 | 王 | 7.2 | 96.2% | 821.8 | 5992 | 232 | 84 | 2024/11/13 |
5 | BEASTななせ | 6744 | S+ | 7.0 | 95.2% | 853.7 | 6058 | 300 | 84 | 2024/11/13 |
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問題文
(こんなしつもんをしているところへ、さまのかみととうしきぶのじょうとが、げんじのきんしんびを)
こんな質問をしている所へ、左馬頭と藤式部丞とが、源氏の謹慎日を
(ともにしようとしてでてきた。ふうりゅうおとこというながとおっているようなひとで)
共にしようとして出て来た。風流男という名が通っているような人で
(あったから、ちゅうじょうはよろこんでさまのかみをもんだいのなかへひきいれた。ふきんしんなことばも)
あったから、中将は喜んで左馬頭を問題の中へ引き入れた。不謹慎な言葉も
(それからおおくでた。 「いくらしゅっせしても、もとのいえがらがいえがらだから)
それから多く出た。 「いくら出世しても、もとの家柄が家柄だから
(せけんのおもわくだってやはりちがう。またもとはいいうちでもぎゃっきょうにおちて、)
世間の思わくだってやはり違う。またもとはいい家でも逆境に落ちて、
(なんのむかしのおもかげもないことになってみれば、きぞくてきなひんのいいやりかたで)
何の昔の面影もないことになってみれば、貴族的な品のいいやり方で
(おしとおせるものではなし、みぐるしいこともひとからみられるわけだから、)
押し通せるものではなし、見苦しいことも人から見られるわけだから、
(それはどちらもなかのしなですよ。ずりょうといってちほうのせいじにばかりかんけいしている)
それはどちらも中の品ですよ。受領といって地方の政治にばかり関係している
(れんちゅうのなかにもまたいろいろかいきゅうがありましてね、いわゆるなかのしなとして)
連中の中にもまたいろいろ階級がありましてね、いわゆる中の品として
(はずかしくないのがありますよ。またこうかんのぶるいへやっとはいれたくらいの)
恥ずかしくないのがありますよ。また高官の部類へやっとはいれたくらいの
(いえよりも、さんぎにならないしいのやくにんで、せけんからもみとめられていて、)
家よりも、参議にならない四位の役人で、世間からも認められていて、
(もとのいえがらもよく、とんでのんきなせいかつのできているところなどはかえって)
もとの家柄もよく、富んでのんきな生活のできている所などはかえって
(ほがらかなものですよ。ふそくのないくらしができるのですから、けんやくもせず、)
朗らかなものですよ。不足のない暮らしができるのですから、倹約もせず、
(そんなくうきのいえにそだったむすめにけいべつのできないものがたくさんあるでしょう。)
そんな空気の家に育った娘に軽蔑のできないものがたくさんあるでしょう。
(みやづかえをしておもいがけないこうふくのもとをつくったりするれいもおおいのですよ」)
宮仕えをして思いがけない幸福のもとを作ったりする例も多いのですよ」
(さまのかみがこういう。 「それではまあなんでもかねもちでなければならないんだね」)
左馬頭がこう言う。 「それではまあ何でも金持ちでなければならないんだね」
(とげんじはわらっていた。 「あなたらしくないことをおっしゃるものじゃ)
と源氏は笑っていた。 「あなたらしくないことをおっしゃるものじゃ
(ありませんよ」 ちゅうじょうはたしなめるようにいった。さまのかみはなおはなしつづけた。)
ありませんよ」 中将はたしなめるように言った。左馬頭はなお話し続けた。
(「いえがらもげんざいのきょうぐうもいっちしているこうきないえのおじょうさんがぼんようであったばあい、)
「家柄も現在の境遇も一致している高貴な家のお嬢さんが凡庸であった場合、
(どうしてこんなひとができたのかとなさけないことだろうとおもいます。)
どうしてこんな人ができたのかと情けないことだろうと思います。
(そうじゃなくてちいにそうおうなすぐれたおじょうさんであったら、それはたいして)
そうじゃなくて地位に相応なすぐれたお嬢さんであったら、それはたいして
(おどろきませんね。とうぜんですもの。わたくしらにはよくわからないしゃかいのことですから)
驚きませんね。当然ですもの。私らにはよくわからない社会のことですから
(かみのしなははぶくことにしましょう。こんなこともあります。せけんからはそんないえの)
上の品は省くことにしましょう。こんなこともあります。世間からはそんな家の
(あることなどもむしされているようなさびしいいえに、おもいがけないむすめが)
あることなども無視されているような寂しい家に、思いがけない娘が
(そだてられていたとしたら、はっけんしゃはひじょうにうれしいでしょう。いがいであったと)
育てられていたとしたら、発見者は非常にうれしいでしょう。意外であったと
(いうことはじゅうぶんにおとこのこころをひくちからになります。ちちおやがもういいかげんとしよりで、)
いうことは十分に男の心を引く力になります。父親がもういいかげん年寄りで、
(みにくくふとったおとこで、ふうさいのよくないあにをみても、むすめはしれたものだとけいべつしている)
醜く肥った男で、風采のよくない兄を見ても、娘は知れたものだと軽蔑している
(かていに、おもいあがったむすめがいて、うたもじょうずであったりなどしたら、それは)
家庭に、思いあがった娘がいて、歌も上手であったりなどしたら、それは
(ほんかくてきなものではないにしても、ずいぶんきょうみがもてるでしょう。かんぜんなおんなの)
本格的なものではないにしても、ずいぶん興味が持てるでしょう。完全な女の
(せんにははいりにくいでしょうがね」 といいながら、どういをうながすようにしきぶのじょうの)
選にははいりにくいでしょうがね」 と言いながら、同意を促すように式部丞の
(ほうをみると、じしんのいもうとたちがわかいおとこのなかでそうとうなひょうばんになっていることを)
ほうを見ると、自身の妹たちが若い男の中で相当な評判になっていることを
(おもって、それをあんにいっているのだととって、しきぶのじょうはなにもいわなかった。)
思って、それを暗に言っているのだと取って、式部丞は何も言わなかった。
(そんなにおとこのこころをひくおんながいるであろうか、かみのしなにはいるものらしいおんなの)
そんなに男の心を引く女がいるであろうか、上の品にはいるものらしい女の
(なかにだって、そんなおんなはなかなかすくないものだとじぶんにはわかっているがと)
中にだって、そんな女はなかなか少ないものだと自分にはわかっているがと
(げんじはおもっているらしい。やわらかいしろいきものをかさねたうえに、はかまはつけずに)
源氏は思っているらしい。柔らかい白い着物を重ねた上に、袴は着けずに
(のうしだけをおおようにかけて、からだをよこにしているげんじはへいぜいよりもまた)
直衣だけをおおように掛けて、からだを横にしている源氏は平生よりもまた
(うつくしくて、じょせいであったらどんなにきれいなひとだろうとおもわれた。このひとの)
美しくて、女性であったらどんなにきれいな人だろうと思われた。この人の
(あいてにはかみのかみのしなのなかからえらんでもあきたりないことであろうとみえた。)
相手には上の上の品の中から選んでも飽き足りないことであろうと見えた。
(「ただせけんのひととしてみればぶなんでも、じっさいじぶんのつまにしようとすると、)
「ただ世間の人として見れば無難でも、実際自分の妻にしようとすると、
(ごうかくするものはみつからないものですよ。おとこだってかんりになって、おやくしょの)
合格するものは見つからないものですよ。男だって官吏になって、お役所の
(おつとめというところまでは、だれでもできますが、じっさいてきしょへてきざいが)
お勤めというところまでは、だれでもできますが、実際適所へ適材が
(いくということはむずかしいものですからね。しかしどんなにそうめいなひとでも)
行くということはむずかしいものですからね。しかしどんなに聡明な人でも
(ひとりやふたりでせいじはできないのですから、じょうかんはかりょうにたすけられ、かりょうはうえに)
一人や二人で政治はできないのですから、上官は下僚に助けられ、下僚は上に
(したがって、たすうのちからでやくしょのしごとはすみますが、いっかのしゅふにするひとを)
従って、多数の力で役所の仕事は済みますが、一家の主婦にする人を
(えらぶのには、ぜひそなえさせねばならぬしかくがいろいろといくつもひつようなのです。)
選ぶのには、ぜひ備えさせねばならぬ資格がいろいろと幾つも必要なのです。
(これがよくてもそれにはてきしない。すこしはじょうほしてもまだなかなかおもうような)
これがよくてもそれには適しない。少しは譲歩してもまだなかなか思うような
(ひとはない。せけんのたすうのおとこも、いろいろなおんなのかんけいをつくるのがしゅみでは)
人はない。世間の多数の男も、いろいろな女の関係を作るのが趣味では
(なくても、しょうがいのつまをさがすこころで、できるならいっしょけんめいになってじぶんでつまのきょういくの)
なくても、生涯の妻を捜す心で、できるなら一所懸命になって自分で妻の教育の
(やりなおしをしたりなどするひつようのないおんなはないかとだれもおもうのでしょう。)
やり直しをしたりなどする必要のない女はないかとだれも思うのでしょう。
(かならずしもりそうにちかいおんなではなくても、むすばれたえんにひかれて、それといっしょうを)
必ずしも理想に近い女ではなくても、結ばれた縁に引かれて、それと一生を
(ともにする、そんなのはまじめなおとこにみえ、またすてられないおんなもせけんていが)
共にする、そんなのはまじめな男に見え、また捨てられない女も世間体が
(よいことになります。しかしせけんをみると、そうつごうよくはいっていませんよ。)
よいことになります。しかし世間を見ると、そう都合よくはいっていませんよ。
(おふたかたのようなきこうしにはましてたいしょうになるおんながあるものですか。わたくしなどの)
お二方のような貴公子にはまして対象になる女があるものですか。私などの
(きらくなかいきゅうのもののなかにでも、これとうちこんでいいのはありませんからね。)
気楽な階級の者の中にでも、これと打ち込んでいいのはありませんからね。
(みぐるしくもないむすめで、それそうおうなじちょうしんをもっていて、てがみをかくときには)
見苦しくもない娘で、それ相応な自重心を持っていて、手紙を書く時には
(あしでのようなかんたんなぶんしょうをじょうずにかき、すみいろのほのかなもじであいてを)
蘆手のような簡単な文章を上手に書き、墨色のほのかな文字で相手を
(ひきつけておいて、もっとたしかなてがみをかかせたいとおとこをあせらせて、)
引きつけて置いて、もっと確かな手紙を書かせたいと男をあせらせて、
(こえがきかれるていどにせっきんしていってはなそうとしても、いきよりもひくいこえで)
声が聞かれる程度に接近して行って話そうとしても、息よりも低い声で
(すこししかものをいわないというようなのが、おとこのただしいはんだんを)
少ししかものを言わないというようなのが、男の正しい判断を
(あやまらせるのですよ。なよなよとしていてやさしみのあるおんなだとおもうと、)
誤らせるのですよ。なよなよとしていて優し味のある女だと思うと、
(あまりにじゅうじゅんすぎたりして、またそれがさいきをみせればたじょうでないかと)
あまりに柔順すぎたりして、またそれが才気をみせれば多情でないかと
(ふあんになります。そんなことはせんていのさいしょのかんもんですよ。つまにひつようなしかくは)
不安になります。そんなことは選定の最初の関門ですよ。妻に必要な資格は
(かていをあずかることですから、ぶんがくしゅみとかおもしろいさいきはなくてもいいような)
家庭を預かることですから、文学趣味とかおもしろい才気はなくてもいいような
(ものですが、まじめいっぽうで、なりふりもかまわないで、ひたいがみをうるさがって)
ものですが、まじめ一方で、なりふりもかまわないで、額髪をうるさがって
(みみのうしろへはさんでばかりいる、ただぶっしつてきなせわだけをいっしょけんめいに)
耳の後ろへはさんでばかりいる、ただ物質的な世話だけを一所懸命に
(やいてくれる、そんなのではね。おつとめにでればでる、かえればかえるで、)
やいてくれる、そんなのではね。お勤めに出れば出る、帰れば帰るで、
(やくしょのこと、ゆうじんやせんぱいのことなどではなしたいことがたくさんあるんですから、)
役所のこと、友人や先輩のことなどで話したいことがたくさんあるんですから、
(それはたにんにはいえません。りかいのあるつまにはなさないではつまりません。)
それは他人には言えません。理解のある妻に話さないではつまりません。
(このはなしをはやくきかせたい、つまのいけんもきいてみたい、こんなことをおもっていると)
この話を早く聞かせたい、妻の意見も聞いて見たい、こんなことを思っていると
(そとででもひとりえみがでますし、ひとりでなみだぐまれもします。またじぶんのことで)
そとででも独笑が出ますし、一人で涙ぐまれもします。また自分のことで
(ないことにこうふんをおこしまして、じぶんのこころにだけおいておくことにがまんの)
ないことに公憤を起こしまして、自分の心にだけ置いておくことに我慢の
(できぬようなとき、けれどもじぶんのつまはこんなことのわかるおんなでないのだと)
できぬような時、けれども自分の妻はこんなことのわかる女でないのだと
(おもうと、よこをむいてひとりでおもいだしわらいをしたり、かわいそうなものだなどと)
思うと、横を向いて一人で思い出し笑いをしたり、かわいそうなものだなどと
(ひとりごとをいうようになります。そんなときになんなんですかとつっけんどんにいって)
独言を言うようになります。そんな時に何なんですかと突っ慳貪に言って
(じぶんのかおをみるさいくんなどはたまらないではありませんか。ただいちがいに)
自分の顔を見る細君などはたまらないではありませんか。ただ一概に
(こどもらしくておとなしいつまをもったおとこはだれでもよくしこむことに)
子供らしくておとなしい妻を持った男はだれでもよく仕込むことに
(くしんするものです。たよりなくはみえてもしだいにようせいされていくつまに)
苦心するものです。たよりなくは見えても次第に養成されていく妻に
(たしょうのまんぞくをかんじるものです。いっしょにいるときはかれんさがふそくをおぎなって、)
多少の満足を感じるものです。一緒にいる時は可憐さが不足を補って、
(それでもすむでしょうが、いえをはなれているときにようじをいってやりましても)
それでも済むでしょうが、家を離れている時に用事を言ってやりましても
(なにができましょう。ゆうぎもふうりゅうもしゅふとしてすることはじはつてきには)
何ができましょう。遊戯も風流も主婦としてすることは自発的には
(なにもできない、おしえられただけのげいをみせるにすぎないようなおんなに、)
何もできない、教えられただけの芸を見せるにすぎないような女に、
(つまとしてのしんらいをもつことはできません。ですからそんなのもまただめです。)
妻としての信頼を持つことはできません。ですからそんなのもまただめです。
(へいぜいはしっくりといかぬふうふなかで、あわいにくしみももたれるおんなで、なにかのばあいに)
平生はしっくりといかぬ夫婦仲で、淡い憎しみも持たれる女で、何かの場合に
(よいつまであることがつうかんされるのもあります」)
よい妻であることが痛感されるのもあります」