カラマーゾフの兄弟 第一篇 第一 1
第一 フョードル・カラマーゾフ
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | berry | 7718 | 神 | 7.8 | 98.4% | 511.6 | 4012 | 63 | 77 | 2024/10/20 |
2 | てんぷり | 5548 | A | 5.7 | 97.0% | 703.1 | 4024 | 123 | 77 | 2024/10/19 |
3 | もっちゃん先生 | 4872 | B | 5.1 | 94.5% | 789.6 | 4081 | 234 | 77 | 2024/11/04 |
4 | てっちゃん | 4354 | C+ | 4.6 | 93.9% | 890.6 | 4144 | 266 | 77 | 2024/10/20 |
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問題文
(あれくせいからまーぞふは、ほんとのじぬし)
アレクセイ・カラマーゾフは、本都の地主
(ふょーどるぱーヴろヴぃっちからまーぞふのさんばんめのむすこである。)
フョードル・パーヴロヴィッチ・カラマーゾフの三番目の息子である。
(このふょーどるはいまからじゅうさんねんまえにきかいなひげきてきなしをとげたため、)
このフョードルは今から十三年前に奇怪な悲劇的な死を遂げたため、
(いちじ(いや、いまでもやはりまちでときどきうわさがでる)なかなかゆうめいなおとこであった。)
一時(いや、今でもやはり町でときどき噂が出る)なかなか有名な男であった。
(しかし、このじけんはじゅんじょをおってあとではなすこととして、)
しかし、この事件は順序を追って後で話すこととして、
(いまはたんにこの「じぬし」が(このちほうではかれのことをこうよんでいた。)
今は単にこの『地主』が(この地方では彼のことをこう呼んでいた。
(そのくせ、いっしょうがいほとんどじぶんのりょうちでくらしたことはないのだ)、)
そのくせ、一生涯ほとんど自分の領地で暮らしたことはないのだ)、
(かなりちょいちょいみうけることはあるけれど、)
かなりちょいちょい見受けることはあるけれど、
(ずいぶんふうがわりなたいぷのにんげんである、というだけにとどめておこう。)
ずいぶん風変わりなタイプの人間である、というだけにとどめておこう。
(つまり、ただやくざでほうらつなばかりでなく、)
つまり、ただやくざで放埓なばかりでなく、
(それとどうじにわけのわからないたいぷのにんげんなのである。)
それと同時にわけのわからないタイプの人間なのである。
(とはいえ、おなじわけのわからないにんげんのなかでも、)
とはいえ、同じわけのわからない人間の中でも、
(じぶんのりょうちにかんするこまごましたじむを、)
自分の領地に関する細々した事務を、
(たくみにしょりしていくさいのうをもったなかまなのである。)
巧みに処理していく才能を持った仲間なのである。
(しかし、それよりほかにげいはないらしい。)
しかし、それよりほかに芸はないらしい。
(じつれいについていうと、ふょーどるはほとんどむいちぶつでせけんへのりだした)
実例についていうと、フョードルはほとんど無一物で世間へ乗り出した
(--じぬしといってもごくごくちいさなものなので、よそのしょくじによばれたり、)
--地主と言ってもごくごく小さなものなので、よその食事に呼ばれたり、
(いそうろうにころがりこむおりをねらったりばかりしていたが、)
居候に転がり込む折を狙ったりばかりしていたが、
(しんだときにはげんきんじゅうまんるーぶりからのこしていた。)
死んだ時には現金十万ルーブリから遺していた。
(それでもかれはいぜんとしていっしょうがい、)
それでも彼は依然として一生涯、
(ぜんとをつうじてわからずやのひとりでおしとおしてしまった。)
全都を通じてわからずやの一人で押し通してしまった。
(くりかえしていうが、けっしてばかといういみではない。)
くりかえしていうが、決して馬鹿という意味ではない。
(かえってこういうわからずやのだいたすうは、かなりりこうでこうかつである。)
かえってこういうわからずやの大多数は、かなり利口で狡猾である。
(つまり「わけがわからない」のである。)
つまり『わけがわからない』のである。
(しかも、そこにはなんとなくどくとくなこくみんてきなところさえうかがわれる。)
しかも、そこにはなんとなく独特な国民的なところさえ窺われる。
(かれはにどけっこんしてさんにんのこをもった--ちょうなんのどみーとりいはせんさい、)
彼は二度結婚して三人の子を持った--長男のドミートリイは先妻、
(のちのふたりすなわちいわんとあれくせいとはごさいのはらにできた。)
のちの二人即ちイワンとアレクセイとは後妻の腹に出来た。
(ふょーどるのせんさいはやはりほんとのじぬしでみわーそふという、)
フョードルの先妻はやはり本都の地主でミワーソフという、
(ずいぶんふゆうなもんばつのいえにうまれた。)
ずいぶん富裕な門閥の家に生れた。
(じさんきんつきでしかもびじんで、おまけにはきはきしたりこうなれいじょうが)
持参金付きでしかも美人で、おまけにはきはきした利口な令嬢が
((こんなしゅるいのむすめはげんだいのわがくにではすこしもめずらしくないが、)
(こんな種類の娘は現代のわが国では少しも珍しくないが、
(ぜんせいきにおいてもそろそろあたまをもたげはじめていた)、)
前世紀においてもそろそろ頭を擡げ始めていた)、
(どうしてあんなやくざな「のらくらもの」--これがとうじのていひょうだったので--)
どうしてあんなやくざな『のらくら者』--これが当時の定評だったので--
(とけっこんするようなことができたか、)
と結婚するようなことが出来たか、
(このぎもんはあまりふかくせつめいしないこととする。)
この疑問はあまり深く説明しないこととする。
(ひっしゃはぜんせいきの「ろまんてきな」じだいにうまれた、あるひとりのむすめをしっている。)
筆者は前世紀の『浪漫的な』時代に生れた、ある一人の娘を知っている。
(このむすめはいくとしかのあいだ、ひとりのおとこになぞのようなこいをささげていたが、)
この娘は幾年かの間、一人の男に謎のような恋を捧げていたが、
(いつでもへいおんぶじにかしょくのてんをあげることができるのに、)
いつでも平穏無事に華燭の典を挙げることが出来るのに、
(けっきょくじぶんでうちかちがたいしょうがいをかんがえだして、)
結局自分で打ち勝ちがたい障碍を考え出して、
(あるあらしのよる、がんぺきらしいかんじのするたかいきしから、)
ある嵐の夜、巌壁らしい感じのする高い岸から、
(かなりふかいきゅうりゅうにみをとうじてしんでしまった。)
かなり深い急流に身を投じて死んでしまった。
(それはまったくじぶんのきまぐれからでたことで、)
それは全く自分の気まぐれから出たことで、
(ただただしょうおうのおふぇりあににたいがためなのであった。)
ただただ抄王のオフェリアに似たいがためなのであった。
(もしかのじょがひさしいいぜんからめをつけてほれこんでいたこのがんぺきが、)
もし彼女が久しい以前から目をつけて惚れ込んでいたこの巌壁が、
(それほどえのようにうつくしくなく、)
それほど絵のように美しくなく、
(そのかわりにへいぼんなひらったいきしであったなら、)
その代わりに平凡な平ったい岸であったなら、
(じさつなどはてんでおこらなくてすんだかもしれない。)
自殺などはてんで起らなくてすんだかもしれない。
(これはしょうしんしょうめいのじじつである。)
これは正真正銘の事実である。
(そしてわがろしあのこくみんせいかつにおいてさいきんにさんだいのあいだにこれとおなじような、)
そしてわがロシアの国民生活において最近二三代の間にこれと同じような、
(もしくはこれとせいしつをひとしくしたじじつが、)
もしくはこれと性質を等しくした事実が、
(すくなからずしょうじたこととかんがえなければならない。)
少からず生じた事と考えなければならない。
(これとおなじく、あでらいーだいわーのヴなみわーそわのこうどうは、)
これと同じく、アデライーダ・イワーノヴナ・ミワーソワの行動は、
(うたがいもなくたにんのえいきょうのはんえいであり、とらわれたるしそうのきんしょうなのである。)
疑いもなく他人の影響の反映であり、囚われたる思想の焮衝なのである。
(おそらくかのじょはじょしのどくりつをせんげんして、)
おそらく彼女は女子の独立を宣言して、
(しゃかいのやくそくや、しんせきかぞくのあっせいなどにはんたいしてすすみたかったのであろう。)
社会の約束や、親戚家族の圧政などに反対して進みたかったのであろう。
(ところでちゅうぎしごくなそうぞうりょくのおかげで、)
ところで忠義至極な想像力のおかげで、
(ふょーどるはくらいこそいそうろうであるけれど、)
フョードルは位こそ居候であるけれど、
(こうじょうのきうんにむかえるかときのとくしょくたる、)
向上の機運に向える過渡期の特色たる、
(ゆうかんにしてれいしょうてきなにんげんのひとりであると、)
勇敢にして冷笑的な人間の一人であると、
(ほんのいちしゅんかんだけでもかくしんしてしまったのかもしれない。)
ほんの一瞬間だけでも確信してしまったのかもしれない。
(そのみ、かれはいじわるのどうけいがいのなにものでもなかったのである。)
その実、彼は意地悪の道化以外の何物でもなかったのである。
(なおそのうえふるまっているのは、かけおちというしゅだんをろうしたことである。)
なおその上ふるまっているのは、駆落という手段を弄した事である。
(これがすっかりあでらいーだのおきにめしたのだ。)
これがすっかりアデライーダのお気に召したのだ。
(またふょーどるもそのとうじじぶんのしゃかいじょうのいちからいって、)
またフョードルもその当時自分の社会上の位置から言って、
(こんなきわどいしゅだんくらいかえってこちらからよういしてまっていたほどである。)
こんな際どい手段くらいかえってこちらから用意して待っていた程である。
(なぜといって、ほうほうなんかにおかまいはない、)
なぜと言って、方法なんかにお構いはない、
(ただじぶんのしゅっせのみちをひらきたくてたまらなかったからである。)
ただ自分の出世の道を開きたくて堪らなかったからである。
(めいもんにとりいってじさんきんをせしめるのは、はなはだわるくないことであった。)
名門に取り入って持参金をせしめるのは、甚だ悪くないことであった。
(たがいのあいなどというものはぜんぜんなかったらしい。)
互いの愛などというものは全然なかったらしい。
(おんなのほうにもなかったし、ふょーどるのほうでも、)
女の方にもなかったし、フョードルの方でも、
(あでらいーだのびぼうにもかかわらず、こんなかんじょうをもちあわせていなかった。)
アデライーダの美貌にも拘らず、こんな感情を持ち合わせていなかった。
(そういうわけで、おんなのほうからちょっといろめをつかえば、)
そういうわけで、女の方からちょっと色目を使えば、
(それがだれであろうと、すぐべたべたとくっつくような、)
それが誰であろうと、すぐべたべたとくっつくような、
(いんらんむひのおとこでしぬまでおしとおしたふょーどるにとっては、)
淫乱無比の男で死ぬまで押し通したフョードルにとっては、
(これこそいっしょうがいたったひとつのとくしゅなばあいであった。)
これこそ一生涯たった一つの特殊な場合であった。
(このあでらいーだばかりはじょうよくのてんからいって、)
このアデライーダばかりは情慾の点からいって、
(かれにかくべつのいんしょうをあたえなかったのである。)
彼に格別の印象を与えなかったのである。