ゴーゴリ 狂人日記 - 3
ニコライ・ゴーゴリ 平井肇訳
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問題文
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(これにはまったくおどろいた。)
これには全く驚いた。
(だがじつをいえば、ちかごろおれにはときどき、)
だが実を言えば、近頃おれには時々、
(ひとにはきいたりみたりできないようなことが、)
ひとには聞いたり見たり出来ないようなことが、
(よくみえたりきこえたりするのだ。)
よく見えたり聞えたりするのだ。
(「ようし」とおれははらのなかでうなずいた。)
『ようし』とおれは肚の中でうなずいた。
(「ひとつあとをつけていって、あのいぬころのすじょうをつきとめて、)
『ひとつ後をつけて行って、あの犬ころの素性を突きとめて、
(いったいあいつがどんなことをかんがえていやがるか、しらべあげてくれよう。」)
一体あいつがどんなことを考えていやがるか、調べあげてくれよう。』
(そこでおれはかさをひろげて、ふたりのふじんのあとについてあるきだした。)
そこでおれは傘をひろげて、二人の婦人の後について歩き出した。
(ふたりはごろーほわやがいへとおりぬけると、めしちゃんすかやがいへまがり、)
二人はゴローホワヤ街へ通り抜けると、メシチャンスカヤ街へ曲り、
(そこからすとりゃーるなやがいへでて、こくーしゅきんばしにかかるてまえで、)
そこからストリャールナヤ街へ出て、コクーシュキン橋にかかる手前で、
(やっとおおきないえのまえでたちどまった。)
やっと大きな家の前で立ちどまった。
(「このいえならしってるわい」と、おれはくちのなかでつぶやいた。)
『この家なら知ってるわい』と、おれは口の中で呟やいた。
(「ずヴぇるこふのもちいえだ。」)
『ズヴェルコフの持家だ。』
(まったくすてきもないいえだ!)
まったく素敵もない家だ!
(およそここにすんでいないしゅるいのにんげんはない--)
凡そここに住んでいない種類の人間はない--
(りょうりおんなやおのぼりれんがどのくらいいることか!)
料理女やお上り連がどの位いることか!
(こちとらなかまのかんりにいたっては、)
こちとら仲間の官吏にいたっては、
(まるでいぬころのようにうじゃうじゃとかさなりあって、おしあいへしあいだ。)
まるで犬ころのようにうじゃうじゃと重なり合って、押し合い圧し合いだ。
(おれのともだちがひとりここにすんでいるが、そいつはらっぱのめいじんだ。)
おれの友達が一人ここに住んでいるが、そいつは喇叭の名人だ。
(くだんのふじんれんはごかいへあがっていった。)
件の婦人連は五階へ上がって行った。
など
(「これでよし。」とおれはかんがえた。)
『これでよし。』とおれは考えた。
(「いまははいらなくてもこうしていどころさえつきとめておけば、)
『今は入らなくてもこうして居所さえつきとめておけば、
(いざというときには、ちゃんとやくにたつからなあ。」)
いざという時には、ちゃんと役にたつからなあ。』