狂人日記 - 2

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ニコライ・ゴーゴリ 平井肇訳
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1 もっちゃん先生 4766 B 5.0 94.9% 725.7 3654 195 76 2024/10/25

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問題文

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(おれはふるいまんとをきてかさをさした。)

おれは古いマントを着て傘をさした。

(なにしろ、ひどいどしゃぶりなんだ。)

何しろ、ひどい土砂降りなんだ。

(まちにはひとっこひとりとおっていない。)

街には人っ子ひとり通っていない。

(ときたまめにつくのは、きもののすそをまくりあげてあたまからかぶったかみさんか、)

時偶眼につくのは、着物の裾を捲り上げて頭から被ったかみさんか、

(かさをさしたこしょうにんか、していぐらいがせきのやまだ。)

傘を差した小商人か、使丁ぐらいが関の山だ。

(こうとうなにんげんでは、わずかにこちとらなかまのかんりをひとりみかけたくらいのものだ。)

高等な人間では、僅かにこちとら仲間の官吏を一人見掛けた位のものだ。

(そのおとこにはよつつじでであったのだが、)

その男には四つ辻で出会ったのだが、

(おれはそのおとこをみるとすぐにこうひとりつぶやいたものだ。)

おれはその男を見ると直ぐにこう独り呟やいたものだ。

(「へっ!おきやがれ、あんちくしょう、やくしょへいくようなふりをして、)

『へっ!措きやがれ、あん畜生、役所へ行くような振りをして、

(そのじつあすこへかけてゆくおんなのこのあとをおって、)

その実あすこへ駈けてゆく女の子の後を追って、

(あのここのおみあしはいけんというしたごころなんだ。」)

あの娘このおみあし拝見という下心なんだ。』

(どうしてわれわれやくにんなかまはこうふりょうばかりだろう!)

どうしてわれわれ役人仲間はこう不良ばかりだろう!

(まったく、どんなしかんにだって、ひけをとりはせん。)

全く、どんな士官にだって、引けを取りはせん。

(ぼうしをかぶったおんながとおりさえすれば、かならず、こあたりにあたってみるのだ。)

帽子を被った女が通りさえすれば、必らず、小当りに当ってみるのだ。

(こんなことをかんがえながら、ふときがつくと、)

こんなことを考えながら、ふと気がつくと、

(おれがまえへさしかかっていたあるしょうてんのみせさきへいちだいのばしゃがぴったりとまった。)

おれが前へ差し掛っていた或る商店の店先へ一台の馬車がぴったり停った。

(おれにはすぐに、そのばしゃがうちのきょくちょうのじょうようしゃだということがわかった。)

おれには直ぐに、その馬車がうちの局長の常用車だということが分かった。

(「しかしきょくちょうがかいものなどにでられるはずはない。」)

『しかし局長が買物などに出られる筈はない。』

(そうおれはかんがえた。)

そうおれは考えた。

(「きっとこれあ、おじょうさんにちがいない。」)

『屹度これあ、お嬢さんに違いない。』

など

(おれはとっさにかべへぴったりとからだをすりよせた。)

おれは咄嗟に壁へぴったりと体を擦り寄せた。

(じゅうぼくがとびらをあけると、)

従僕が扉を開けると、

(れいじょうはまるでことりのようにみがるにひらりとばしゃからおりたたれた。)

令嬢はまるで小鳥のように身軽にひらりと馬車から降り立たれた。

(ちょっとみぎひだりをごらんになる、そのたびごとにおまゆとおめがちらほらと・・・・・・)

ちょっと右左を御覧になる、その度ごとにお眉とお眼がちらほらと……

(ちぇっ、なまんだぶ、おれはもうたすからん、こんりんざい、たすかりっこない!)

ちぇっ、なまんだぶ、おれはもう助からん、金輪際、助かりっこない!

(それはそうと、なんだってまたこんなあめふりにおでましになったんだろう!)

それはそうと、なんだってまたこんな雨降りにお出ましになったんだろう!

(なるほどこれで、おんなってものはどこまでぼろっきれにめがないかってことがわかる。)

成程これで、女ってものはどこまで襤褸っ切れに眼がないかってことが分かる。

(れいじょうはおれにはきがつかれないようだった。)

令嬢はおれには気がつかれないようだった。

(それにおれのほうでもわざと、)

それにおれの方でもわざと、

(なるべくふかくまんとにくるまるようにしていたのだ。)

なるべく深くマントにくるまるようにしていたのだ。

(なにしろ、おれのまんとはひどくよごれてはいるし、)

何しろ、おれのマントはひどく汚れてはいるし、

(それにかたがいたってきゅうしきだからなあ。)

それに型が至って旧式だからなあ。

(いまはえりのながいがいとうがはやっているのに、)

今は襟の長い外套が流行っているのに、

(おれのはえりがみじかくてだぶるになっており、)

おれのは襟が短かくてダブルになっており、

(きじだってまるきりゆのしがしてないんだ。)

生地だってまるきり湯熨がしてないんだ。

(れいじょうのこいぬがみせのなかへはいりぞこねておうらいにまごまごしている。)

令嬢の小犬が店の中へ入りぞこねて往来にまごまごしている。

(おれはこいつをよくしっている。)

おれはこいつをよく知っている。

(めっじいといういぬだ。)

メッジイという犬だ。

(さて、ほんのいっぷんもたつかたたないところでおれはふと、)

さて、ほんの一分も経つか経たないところでおれはふと、

(とてもやさしいこえをみみにした--)

とても優しい声を耳にした--

(「あらこんにちは、めっじいさん!」おや、おや、おや!)

『あらこんにちは、メッジイさん!』おや、おや、おや!

(いったいだれのこえだろう?)

一体誰の声だろう?

(ふりかえってみると、かさをさしていくふたりのふじんがめについた。)

振り返って見ると、傘をさして行く二人の婦人が眼についた。

(ひとりはおばあさんで、もうひとりのほうはわかいむすめだ。)

一人はお婆さんで、もう一人の方は若い娘だ。

(そのふたりはもういきすぎてしまったのに、)

その二人はもう行き過ぎてしまったのに、

(おれのそばでまた、こんなことをいうこえがする。)

おれの傍でまた、こんなことを言う声がする。

(「めっじいさん、あんたひどいわよ!」はって、めんような!)

『メッジイさん、あんたひどいわよ!』はって、面妖な!

(みれば、めっじいがれいのふじんたちについてきたこいぬとはなをかぎあっているのだ。)

見れば、メッジイが例の婦人達について来た小犬と鼻を嗅ぎあっているのだ。

(「ひえっ!」と、おれはおもはずはらのなかでおどろいた。)

『ひえっ!』と、おれは思はず肚の中で驚ろいた。

(「いやまてよ、おれはよっぱらってるのじゃないかしら!)

『いや待てよ、おれは醉拂ってるのじゃないかしら!

(どうも、こんなことにぶつかるのはめずらしいことだ。」)

どうも、こんなことにぶつかるのは珍しいことだ。』

(--「ううん、ふぃでりさん、そうじゃないのよ。」そういうのだ。)

--『ううん、フィデリさん、そうじゃないのよ。』そう言うのだ。

(--おれはめっじいがそういうのを、このめでちゃんとみとどけたのだ。)

--おれはメッジイがそう言うのを、この眼でちゃんと見届けたのだ。

(「あたしねえ、くん、くん、あたしねえ、くん、くん、くん、)

『あたしねえ、くん、くん、あたしねえ、くん、くん、くん、

(とってもひどいびょうきだったのよ!」)

とってもひどい病気だったのよ!』

(ひえっ!こいつめ、いぬのくせに・・・・・・いや、まったくのところ、)

ひえっ!こいつめ、犬の癖に……いや、全くのところ、

(そいつがにんげんのようにものをいうのをきいたときには、おったまげてしまったて。)

そいつが人間のように物を言うのを聴いた時には、おっ魂消てしまったて。

(だが、あとでよくよくかんがえてみれば、べつにたまげるほどのことでもなんでもなかった。)

だが、後でよくよく考えて見れば、別に魂消る程のことでも何でもなかった。

(じっさい、こんなようなことはせけんにはざらにあることなんだ。)

実際、こんなようなことは世間にはざらにあることなんだ。

(なんでも、いぎりすではいちびのさかながうきあがって、)

何でも、イギリスでは一尾の魚が浮きあがって、

(へんてこなことばでふたことものをいったのを、)

へんてこな言葉でふたことものを言ったのを、

(がくしゃがもうさんねんごしいっしょうけんめいにけんきゅうしているそうだが、)

学者がもう三年越し一生懸命に研究しているそうだが、

(いまだになんのことだかさっぱりわからないというはなしだ。)

未だになんのことだかさっぱり分らないという話だ。

(また、これもしんぶんでよんだのだが、にひきのうしがみせへやってきて、)

また、これも新聞で読んだのだが、二匹の牛が店へやって来て、

(おちゃをいっきんくれといったというはなしもある。)

お茶を一斤くれと言ったという話もある。

(だがしょうじきなところ、めっじいがつぎのようなことをいったときには、)

だが正直なところ、メッジイが次ぎのようなことを言った時には、

(おれもまったくたまげてしまつた。)

おれも全く魂消てしまつた。

(「あたしねえ、ふぃでりさん、あんたにおてがみをさしあげたのだけれど、)

『あたしねえ、フィデリさん、あんたにお手紙を差し上げたのだけれど、

(じゃあきっとうちのぽるかんがあたしのてがみをおとどけしなかったのねえ!」)

じゃあ屹度うちのポルカンがあたしの手紙をお届けしなかったのねえ!』

(ちぇっ、おどろいたね!おれはついぞこのとしになるまで、)

ちぇっ、驚ろいたね!おれは終ぞこの年になるまで、

(いぬがてがみをかくなんてことはきいたこともないわい。)

犬が手紙を書くなんてことは聞いたこともないわい。

(ぶんしょうがせいかくにかけるのはきぞくだけのげいとうだ。)

文章が正確に書けるのは貴族だけの芸当だ。

(もっとも、なかにはしょうてんのちょうつけや、のうどかいきゅうのうちにだって、)

尤も、中には商店の帳つけや、農奴階級のうちにだって、

(どうかすると、ぶんしょうをかくてあいがないでもないが、)

どうかすると、文章を書く手合がないでもないが、

(しかしあのてあいのかくのはたいていきかいてきで、くてんもなければ、とうてんもなく、)

しかしあの手合の書くのは大抵機械的で、句点もなければ、読点もなく、

(てんでぶんたいになってやしないのだ。)

てんで文体になってやしないのだ。

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