怪人二十面相34

関連タイピング
問題文
(おそろしきちょうせんじょう)
おそろしき挑戦状
(とやまがはらのはいおくのとりものがあってからにじかんほどのち、)
とやまがはらの廃屋の捕り物があってから二時間ほどのち、
(けいしちょうのいんきなしらべしつで、かいとうにじゅうめんそうのとりしらべがおこなわれました。)
警視庁の陰気な調べ室で、怪盗二十面相の取り調べがおこなわれました。
(なんのかざりもない、うすぐらいへやにつくえがいっきゃく、そこになかむらそうさかかりちょうと)
なんの飾りもない、うす暗い部屋に机が一脚、そこに中村捜査係長と
(ろうじんにへんそうしたままのかいとうと、ふたりきりのさしむかいです。)
老人に変装したままの怪盗と、ふたりきりのさし向かいです。
(ぞくはうしろでにいましめられたまま、ぼうじゃくぶじんにたちはだかっています。)
賊はうしろ手にいましめられたまま、傍若無人に立ちはだかっています。
(さいぜんから、おしのようにだまりこくって、ひとこともものをいわないのです。)
さいぜんから、おしのようにだまりこくって、一言もものをいわないのです。
(「ひとつ、きみのすがおをみせてもらおうか。」)
「ひとつ、きみの素顔を見せてもらおうか。」
(かかりちょうは、ぞくのそばへよると、いきなりしらがのかつらにてをかけて、)
係長は、賊のそばへよると、いきなり白髪のかつらに手をかけて、
(すっぽりとひきぬきました。すると、そのしたからくろぐろとした)
スッポリと引きぬきました。すると、その下から黒々とした
(あたまがあらわれました。つぎには、かおいっぱいの、しらがのつけひげを、)
頭があらわれました。つぎには、顔いっぱいの、しらがのつけひげを、
(むしりとりました。そして、いよいよぞくのすがおがむきだしになったのです。)
むしりとりました。そして、いよいよ賊の素顔がむきだしになったのです。
(「おやおや、きみは、あんがいぶおとこだねえ。」)
「おやおや、きみは、あんがいぶおとこだねえ。」
(かかりちょうがそういって、みょうなかおをしたのももっともでした。)
係長がそういって、みょうな顔をしたのももっともでした。
(ぞくは、せまいひたい、くしゃくしゃのふぞろいなみじかいまゆ、そのしたに)
賊は、せまいひたい、クシャクシャの不ぞろいな短いまゆ、その下に
(ぎょろっとひかっているどんぐりまなこ、ひしゃげたはな、しまりのない)
ギョロッと光っているどんぐりまなこ、ひしゃげた鼻、しまりのない
(あつぼったいくちびる、まったくりこうそうなところのかんじられない、やばんじん)
厚ぼったいくちびる、まったく利口そうなところの感じられない、野蛮人
(のような、いようなそうごうでした。)
のような、異様な相好でした。
(さきにもいうとおり、このぞくはいくつとなくちがったかおをもっていて、)
先にもいうとおり、この賊はいくつとなくちがった顔を持っていて、
(ときにおうじてろうじんにもせいねんにも、おんなにさえもばけるというかいぶつ)
ときに応じて老人にも青年にも、おんなにさえも化けるという怪物
(ですから、せけんいっぱんにはもちろん、けいさつのかかりかんたちにも、そのほんとうの)
ですから、世間一般にはもちろん、警察の係官たちにも、そのほんとうの
(ようぼうはすこしもわかっていなかったのです。)
容ぼうは少しもわかっていなかったのです。
(それにしても、これはまぁ、なんてみにくいかおをしているのだろう。)
それにしても、これはまぁ、なんてみにくい顔をしているのだろう。
(もしかしたら、このやばんじんみたいなかおが、やっぱりへんそうなのかもしれない。)
もしかしたら、この野蛮人みたいな顔が、やっぱり変装なのかもしれない。
(なかむらかかりちょうは、なんともたとえられないぶきみなものをかんじました。)
中村係長は、なんともたとえられないぶきみなものを感じました。
(かかりちょうは、じっとぞくのかおをにらみつけて、おもわず、こえをおおきくしないでは)
係長は、じっと賊の顔をにらみつけて、思わず、声を大きくしないでは
(いられませんでした。)
いられませんでした。
(「おい、これがおまえのほんとうのかおなのか。」)
「おい、これがおまえのほんとうの顔なのか。」
(じつにへんてこなしつもんです。しかし、そういうばかばかしいしつもんを)
じつにへんてこな質問です。しかし、そういうばかばかしい質問を
(しないではいられぬきもちでした。)
しないではいられぬ気持でした。
(するとかいとうは、どこまでもおしだまったまま、しまりのないくちびるを、)
すると怪盗は、どこまでもおしだまったまま、しまりのないくちびるを、
(いっそうしまりなくして、にやにやとわらいだしたのです。)
いっそうしまりなくして、ニヤニヤと笑いだしたのです。
(それをみると、なかむらかかりちょうは、なぜかぞっとしました。めのまえに、)
それを見ると、中村係長は、なぜかゾッとしました。目の前に、
(なにかそうぞうおよばないようなきかいなことがおこりはじめているような)
何か想像およばないような奇怪なことがおこりはじめているような
(きがしたのです。)
気がしたのです。
(かかりちょうは、そのきょうふをかくすように、いっそうあいてにちかづくと、いきなり)
係長は、その恐怖をかくすように、いっそう相手に近づくと、いきなり
(りょうてをあげて、ぞくのかおをいじりはじめました。まゆげをひっぱってみたり、)
両手をあげて、賊の顔をいじりはじめました。まゆ毛をひっぱってみたり、
(はなをおさえてみたり、ほおをつねってみたり、あめざいくでもおもちゃ)
鼻をおさえてみたり、ほおをつねってみたり、あめざいくでもおもちゃ
(にしているようです。)
にしているようです。
(ところが、そうしていくらしらべてみても、ぞくはへんそうしているようすは)
ところが、そうしていくらしらべてみても、賊は変装しているようすは
(ありません。かつてあのびせいねんのはしばそういちくんになりすましたぞくが、)
ありません。かつてあの美青年の羽柴壮一君になりすました賊が、
(そのじつ、こんなばけものみたいなみにくいかおをしていたとは、)
そのじつ、こんな化け物みたいなみにくい顔をしていたとは、
(じつにいがいというほかはありません。)
じつに意外というほかはありません。
(「えへへへ・・・、くすぐってえや、よしてくんな、くすぐってえや。」)
「エへへへ…、くすぐってえや、よしてくんな、くすぐってえや。」
(ぞくがやっとこえをたてました。しかし、なんというだらしのないことばでしょう。)
賊がやっと声をたてました。しかし、なんというだらしのないことばでしょう。
(かれはくちのききかたまでいつわって、あくまでけいさつをばかにしようと)
彼は口のきき方までいつわって、あくまで警察をばかにしようと
(いうのでしょうか。それとも、もしかしたら・・・・・・。)
いうのでしょうか。それとも、もしかしたら……。