怪人二十面相46

関連タイピング
問題文
(しまいにはもうおかしくておかしくてたまらぬというように、)
しまいにはもうおかしくておかしくてたまらぬというように、
(おおきなこえをたてて、わらいだしたではありませんか。)
大きな声をたてて、笑いだしたではありませんか。
(くさかべろうじんは、あっけにとられてしまいました。あけちはぞくにだしぬかれた)
日下部老人は、あっけにとられてしまいました。明智は賊にだしぬかれた
(くやしさに、きでもちがったのでしょうか。)
くやしさに、気でもちがったのでしょうか。
(「あけちさん、あんたなにがおかしいのじゃというに。」)
「明智さん、あんた何がおかしいのじゃというに。」
(「わははは・・・・・・、おかしいですよね。めいたんていあけちこごろう、)
「ワハハハ……、おかしいですよね。名探偵明智小五郎、
(ざまはないですね。まるであかごのてをねじるように、やすやすと)
ざまはないですね。まるで赤子の手をねじるように、やすやすと
(やられてしまったじゃありませんか。にじゅうめんそうというやつは)
やられてしまったじゃありませんか。二十面相というやつは
(えらいですねえ。ぼくはあいつをそんけいしますよ。」)
えらいですねえ。ぼくはあいつを尊敬しますよ。」
(あけちのようすは、いよいよへんです。)
明智のようすは、いよいよへんです。
(「これ、これ、あけちさん、どうしたんじゃ、ぞくをほめたたえているばあい)
「これ、これ、明智さん、どうしたんじゃ、賊をほめたたえているばあい
(ではない。ちぇっ、これはまあなんというざまだ。ああ、それに、)
ではない。チェッ、これはまあなんというざまだ。ああ、それに、
(さくぞうたちを、このままにしておいてはかわいそうじゃ。けいじさん、)
作蔵たちを、このままにしておいてはかわいそうじゃ。刑事さん、
(ぼんやりしてないで、はやくなわをといてやってください。さるぐつわも)
ぼんやりしてないで、早くなわをといてやってください。さるぐつわも
(はずして。そうすれば、さくぞうのくちからぞくのてがかりもつくという)
はずして。そうすれば、作蔵の口から賊の手がかりもつくという
(もんじゃないか。」)
もんじゃないか。」
(あけちが、いっこうたよりにならぬものですから、あべこべに、くさかべ)
明智が、いっこうたよりにならぬものですから、あべこべに、日下部
(ろうじんが、たんていみたいにさしずをするしまつです。)
老人が、探偵みたいにさしずをするしまつです。
(「さあ、ごろうじんのめいれいだ。なわをといてやりたまえ。」)
「さあ、ご老人の命令だ。なわをといてやりたまえ。」
(あけちがけいじにみょうなめくばせをしました。)
明智が刑事にみょうな目くばせをしました。
(すると、いままでぼんやりしていたけいじが、にわかにしゃんとたちなおって、)
すると、今までぼんやりしていた刑事が、にわかにシャンと立ちなおって、
(ぽけっとからひとたばのほじょうをとりだしたかとおもうと、いきなりくさかべ)
ポケットから一たばの捕縄をとりだしたかと思うと、いきなり日下部
(ろうじんのうしろにまわって、ぱっとなわをかけ、ぐるぐると)
老人のうしろにまわって、パッとなわをかけ、グルグルと
(しばりはじめました。)
しばりはじめました。
(「これ、なにをする。ああ、どいつもこいつも、きちがいばかりじゃ。)
「これ、何をする。ああ、どいつもこいつも、気ちがいばかりじゃ。
(わしをしばってどうするのじゃ。わしをしばるのではない。そこに)
わしをしばってどうするのじゃ。わしをしばるのではない。そこに
(ころがっている、ふたりのなわをとくのじゃ。これ、わしではないというに。」)
ころがっている、ふたりのなわをとくのじゃ。これ、わしではないというに。」
(しかし、けいじはいっこうにてをゆるめようとはしません。むごんのまま、)
しかし、刑事はいっこうに手をゆるめようとはしません。無言のまま、
(とうとうろうじんをたかてこてにしばりあげてしまいました。)
とうとう老人を高手小手にしばりあげてしまいました。
(「これ、きちがいめ。これ、なにをする。あ、いたいいたい。いたいというに。)
「これ、気ちがいめ。これ、何をする。あ、痛い痛い。痛いというに。
(あけちさん、あんたなにをわらっているのじゃ。とめてくださらんか。このおとこは)
明智さん、あんた何を笑っているのじゃ。とめてくださらんか。この男は
(きがちがったらしい。これ、あけちさんというに。」)
気がちがったらしい。これ、明智さんというに。」
(ろうじんは、なにがなんだかわけがわからなくなってしまいました。みんな)
老人は、何がなんだかわけがわからなくなってしまいました。みんな
(そろってきちがいになったのでしょうか。でなければ、じけんのいらいしゃを)
そろって気ちがいになったのでしょうか。でなければ、事件の依頼者を
(しばりあげるなんてほうはありません。またそれをみて、たんていがにやにや)
しばりあげるなんて法はありません。またそれを見て、探偵がニヤニヤ
(わらっているなんてばかなことはありません。)
笑っているなんてばかなことはありません。
(「ごろうじん、だれをおよびになっているのです。あけちとかおっしゃったよう)
「ご老人、だれをお呼びになっているのです。明智とかおっしゃったよう
(ですが。」)
ですが。」
(あけちじしんが、こんなことをいいだしたのです。)
明智自身が、こんなことをいいだしたのです。
(「なにをじょうだんをいっているのじゃ。あけちさん、あんた、まさかじぶん)
「何をじょうだんをいっているのじゃ。明智さん、あんた、まさか自分
(のなをわすれたのではあるまい。」)
の名をわすれたのではあるまい。」
(「このぼくがですか。このぼくがあけちこごろうだとおっしゃるのですか。」)
「このぼくがですか。このぼくが明智小五郎だとおっしゃるのですか。」
(あけちはすまして、いよいよへんなことをいうのです。)
明智はすまして、いよいよへんなことをいうのです。
(「きまっておるじゃないか。なにをばかなことを・・・・・・。」)
「きまっておるじゃないか。何をばかなことを……。」
(「ははは・・・・・・、ごろうじん、あなたこそ、どうかなすったんじゃありませんか。)
「ハハハ……、ご老人、あなたこそ、どうかなすったんじゃありませんか。
(ここにはあけちなんてにんげんはいやしませんぜ。」)
ここには明智なんて人間はいやしませんぜ。」
(ろうじんはそれをきくと、ぽかんとくちをあけて、きつねにでも)
老人はそれを聞くと、ポカンと口をあけて、キツネにでも
(つままれたようなかおをしました。)
つままれたような顔をしました。
(あまりのことにきゅうにはくちもきけないのです。)
あまりのことにきゅうには口もきけないのです。