怪人二十面相54

関連タイピング
問題文
(「きみたち、あけちせんせいにごあいさつもうしあげるんだ」)
「きみたち、明智先生にごあいさつ申しあげるんだ」
(すると、ふたりのおとこは、たちまちにひきのかいじゅうのようなものすごい)
すると、ふたりの男は、たちまち二ひきの怪獣のようなものすごい
(そうごうになって、いきなりあけちをめがけてつきすすんできます。)
相好になって、いきなり明智を目がけてつき進んできます。
(「まちたまえ、ぼくをどうしようというのだ。」)
「待ちたまえ、ぼくをどうしようというのだ。」
(あけちはまどをせにして、きっとみがまえました。)
明智は窓を背にして、キッと身がまえました。
(「わからないかね。ほら、きみのあしもとをごらん。ぼくのにもつにしては)
「わからないかね。ほら、きみの足もとをごらん。ぼくの荷物にしては
(すこしおおきすぎるとらんくがおいてあるじゃないか。なかはからっぽだぜ。)
少し大きすぎるトランクがおいてあるじゃないか。中はからっぽだぜ。
(つまりきみのかんおけなのさ。このふたりのぼーいくんが、きみをいま、)
つまりきみの棺桶なのさ。このふたりのボーイ君が、きみをいま、
(そのとらんくのなかへまいそうしようってわけさ。ははは・・・・・・。)
そのトランクの中へ埋葬しようってわけさ。ハハハ……。
(さすがのめいたんていも、ちっとはおどろいたかね。ぼくのぶかのものが、)
さすがの名探偵も、ちっとはおどろいたかね。ぼくの部下のものが、
(ほてるのぼーいにはいりこんでいようとはすこしいがいだったねえ。)
ホテルのボーイにはいりこんでいようとは少し意外だったねえ。
(いや、きみ、こえをたてたってむだだよ。りょうどなりとも、ぼくの)
いや、きみ、声をたてたってむだだよ。両どなりとも、ぼくの
(かりきりのへやなんだ。そこからねんのためにいっておくがね、)
借りきりの部屋なんだ。そこから念のためにいっておくがね、
(ここにいるぼくのぶかはふたりきりじゃない。じゃまのはいらないように、)
ここにいるぼくの部下はふたりきりじゃない。じゃまのはいらないように、
(ろうかにもちゃんとみはりばんがついているんだぜ。」)
廊下にもちゃんと身はり番がついているんだぜ。」
(ああ、なんというふかくでしょう。めいたんていは、まんまとてきのわなに)
ああ、なんという不覚でしょう。名探偵は、まんまと敵のわなに
(おちいったのです。それとしりながら、このんでひのなかへとびこんだ)
おちいったのです。それと知りながら、このんで火の中へとびこんだ
(ようなものです。これほどよういがととのっていては、もうのがれる)
ようなものです。これほど用意がととのっていては、もうのがれる
(すべはありません。)
すべはありません。
(ちのきらいなにじゅうめんそうのことですから、まさかいのちをうばうようなことは)
血のきらいな二十面相のことですから、まさか命をうばうようなことは
(しないでしょうけれど、なんといっても、ぞくにとってはけいさつよりも)
しないでしょうけれど、なんといっても、賊にとっては警察よりも
(じゃまになるあけちこごろうです。とらんくのなかへとじこめて、どこか)
じゃまになる明智小五郎です。トランクの中へとじこめて、どこか
(ひとしれぬばしょへはこびさり、はくぶつかんのしゅうげきをおわるまで、とりこにして)
人知れぬ場所へ運びさり、博物館の襲撃を終わるまで、とりこにして
(おこうというかんがえにちがいありません。)
おこうという考えにちがいありません。
(ふたりのおおおとこはもんどうむえきとばかり、あけちのしんぺんにせまってきましたが、)
ふたりの大男は問答無益とばかり、明智の身辺にせまってきましたが、
(いまにもとびかかろうとして、ちょっとためらっております。)
今にもとびかかろうとして、ちょっとためらっております。
(めいたんていのみにそなわるいりょくにうたれたのです。)
名探偵の身にそなわる威力にうたれたのです。
(でも、ちからではふたりにひとり、いや、さんにんにひとりなのですから、)
でも、力ではふたりにひとり、いや、三人にひとりなのですから、
(あけちこごろうがいかにつよくても、かないっこはありません。ああ、かれは)
明智小五郎がいかに強くても、かないっこはありません。ああ、彼は
(きちょうそうそう、はやくもこのだいかいとうのとりことなり、たんていにとって)
帰朝そうそう、はやくもこの大怪盗のとりことなり、探偵にとって
(さいだいのちじょくをうけなければならないうんめいなのでしょうか。ああ、)
最大の恥辱を受けなければならない運命なのでしょうか。ああ、
(ほんとうにそうなのでしょうか。)
ほんとうにそうなのでしょうか。
(しかし、ごらんなさい、われらのめいたんていは、このききゅうにさいしても、)
しかし、ごらんなさい、われらの名探偵は、この危急にさいしても、
(やっぱりあのほがらかなえがおをつづけているではありませんか。)
やっぱりあのほがらかな笑顔をつづけているではありませんか。
(そして、そのえがおが、おかしくてたまらないというように、)
そして、その笑顔が、おかしくてたまらないというように、
(だんだんくずれてくるではありませんか。)
だんだんくずれてくるではありませんか。
(「ははは・・・・・・。」)
「ハハハ……。」
(わらいとばされて、ふたりのぼーいは、きつねにでもつままれたように)
笑いとばされて、ふたりのボーイは、キツネにでもつままれたように
(くちをぽかんとあいて、たちすくんでしまいました。)
口をポカンとあいて、立ちすくんでしまいました。
(「あけちくん、からいばりはよしたまえ。なにがおかしいんだ。それともきみは、)
「明智君、からいばりはよしたまえ。何がおかしいんだ。それともきみは、
(おそろしさにきでもちがったのか。」)
おそろしさに気でもちがったのか。」
(にじゅうめんそうはあいてのしんいをはかりかねて、ただどくぐちをたたくほかは)
二十面相は相手の真意をはかりかねて、ただ毒口をたたくほかは
(ありませんでした。)
ありませんでした。
(「いや、しっけい、しっけい、つい、きみたちのおおまじめなおしばいが)
「いや、しっけい、しっけい、つい、きみたちの大まじめなお芝居が
(おもしろかったものだからね。だが、ちょっときみ、ここへきてごらん。)
おもしろかったものだからね。だが、ちょっときみ、ここへ来てごらん。
(みょうなものがみえるんだから。」)
みょうなものが見えるんだから。」
(「なにがみえるもんか。そちらはぷらっとほーむのやねばかりじゃないか。)
「何が見えるもんか。そちらはプラットホームの屋根ばかりじゃないか。
(へんなことをいっていっすんのがれをしようなんて、あけちこごろうも、もうろく)
へんなことをいって一寸のがれをしようなんて、明智小五郎も、もうろく
(したもんだねえ。」)
したもんだねえ。」