葬儀記 2
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問題文
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(さいじょうをでて、いりぐちのやすみどころへかえってくると、)
斎場を出て、入り口の休所へ帰ってくると、
(もうもりたさん、すずきさん、あべさんなどが、)
もう森田さん、鈴木さん、安倍さんなどが、
(かんかんひをおこしたろのまわりにあつまって、)
かんかん火を起こした炉のまわりに集まって、
(しんぶんをよんだり、だべんをふるったりしていた。)
新聞を読んだり、駄弁を振るったりしていた。
(しんぶんにでているせんせいのいつわや、ないがいのひとのついおくがときどきもんだいになる。)
新聞に出ている先生の逸話や、内外の人の追憶が時々問題になる。
(ぼくはわつじさんにもらった「あさひ」をすいながら、ろのふちへあしをかけて、)
僕は和辻さんに貰った「朝日」を吸いながら、炉のふちへ足をかけて、
(ぬれたくつからけむりがでるのをぼんやり、とおいところのものをみるようにながめていた。)
ぬれた靴から煙が出るのをぼんやり、遠い所のものを見るように眺めていた。
(なんだか、みんなのこころもちに、)
何だか、みんなの心もちに、
(どこかあなのあいているところでもあるようなきがして、しかたがない。)
どこか穴の明いている所でもあるような気がして、仕方がない。
(そのうちに、そうぎのはじまるじかんがちかくなってきた。)
そのうちに、葬儀の始まる時間が近くなって来た。
(「そろそろうけつけへいこうじゃないか」-きのはやいあかぎくんが、)
「そろそろ受付へ行こうじゃないか」-気の早い赤木君が、
(しんぶんをほりだしながら、「い」のところへどくとくのあくせんとをつけていう。)
新聞を抛り出しながら、「行」の所へ独特のアクセントをつけて言う。
(そこでみんな、ぞろぞろ、やすみどころをでて、)
そこでみんな、ぞろぞろ、休所を出て、
(いりぐちのりょうがわにあるうけつけへわかれわかれに、いくことになった。)
入口の両側にある受付へ分れ分れに、行くことになった。
(まつうらくん、えぐちくん、おかくんがこっちのうけつけをやってくれる。)
松浦君、江口君、岡君がこっちの受付をやってくれる。
(むこうは、わつじさん、あかぎくん、くめというかおぶれである。)
向うは、和辻さん、赤木君、久米という顔ぶれである。
(そのほか、あさひしんぶんしゃのひとが、ひとりずつりょうほうへてつだいにきてくれた。)
そのほか、朝日新聞社の人が、一人ずつ両方へ手伝いに来てくれた。
(やがて、れいきゅうしゃがくる。つづいて、いっぱんのかいそうしゃが、ぽつぽつきはじめた。)
やがて、霊柩車が来る。続いて、一般の会葬者が、ぽつぽつ来はじめた。
(ひとかげがだいぶふえて、そのなかにこみやさんやのがみさんのかおがみえる。)
人影が大分ふえて、その中に小宮さんや野上さんの顔が見える。
(ちゅうはばのしろもめんをくすりやのように、ふろっくのうえからかけたひとがいるとおもったら、)
中幅の白木綿を薬屋のように、フロックの上からかけた人がいると思ったら、
など
(それはみやざきとらのすけしだった。)
それは宮崎虎之助氏だった。
(はじめは、じこくがじこくだから、それにぜんじつのしんぶんに)
始めは、時刻が時刻だから、それに前日の新聞に
(そうぎのじかんがまちがってでたから、かいそうしゃはぞんがいすくなかろうとおもったが、)
葬儀の時間が間違って出たから、会葬者は存外少なかろうと思ったが、
(じっさいはそれとまったくはんたいだった。ぐずぐずしていると、かいそうしゃのやすみどころを、)
実際はそれと全く反対だった。愚図愚図していると、会葬者の休所を、
(ちょうめんにつけるのもまにあわない。)
帳面につけるのも間に合わない。
(ぼくはいろんなひとのめいしをうけとるのにぼうさつされた。)
僕はいろんな人の名刺をうけとるのに忙殺された。
(すると、どこかで「しはげんしゅくである」というこえがした。ぼくはおどろいた。)
すると、どこかで「死は厳粛である」という声がした。僕は驚いた。
(このばあい、こんなしばいじみたことをいうひとが、ぼくたちのなかにいるわけはない。)
この場合、こんな芝居じみたことを言う人が、僕たちの中にいるわけはない。
(そこで、やすみどころのほうをのぞくと、みやざきとらのすけが、いすのうえへのって、)
そこで、休所の方を覗くと、宮崎虎之助が、椅子の上へのって、
(でんどうえんぜつをやっていた。ぼくはちょいとふかいになった。)
伝道演説をやっていた。僕はちょいと不快になった。
(が、あまりみやざきとらのすけらしいので、それいじょうにははらもたたなかった。)
が、あまり宮崎虎之助らしいので、それ以上には腹も立たなかった。
(せったいかかりのひとがとめたが、やめないらしい。やっぱりみぎてで)
接待係の人が止めたが、やめないらしい。やっぱり右手で
(さかんなじぇすてゅあをしながら、しはげんしゅくであるとかなんとかいっている。)
盛んなジェステュアをしながら、死は厳粛であるとか何とか言っている。
(が、それもほどなくやめになった。かいそうしゃはみな、せったいかかりのあんないで、)
が、それもほどなくやめになった。会葬者は皆、接待係の案内で、
(さいじょうのなかへはいっていく。そうぎのはじまるじこくがきたのであろう。)
斎場の中へはいって行く。葬儀の始まる時刻が来たのであろう。
(もううけつけへくるひとも、あまりない。そこで、ちょうめんやこうでんをしまつしていると、)
もう受付へ来る人も、あまりない。そこで、帳面や香奠を始末していると、
(むこうのうけつけにいたれんちゅうが、そろってぞろぞろでてきた。そうして、)
向うの受付にいた連中が、揃ってぞろぞろ出てきた。そうして、
(そのさきにたって、あかぎくんが、しきりになにかふんがいしている。)
その先に立って、赤木君が、しきりに何か憤慨している。
(きいてみると、だれかが、うけつけかかりはそうぎのすむまで、)
聞いてみると、誰かが、受付係は葬儀のすむまで、
(うけつけにのこっていなければならんといったそうである。しごくもっともなふんがいだから、)
受付に残っていなければならんと言ったそうである。至極もっともな憤慨だから
(ぼくもさっそくこれにらいどうした。そうしてみなで、うけつけをとじて、さいじょうへはいった。)
僕も早速これに雷同した。そうして皆で、受付を閉じて、斎場へはいった。