シャーロック・ホームズの事件簿 高名な依頼人8

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投稿者投稿者大樹野いいね6お気に入り登録
プレイ回数4618難易度(5.0) 5812打 長文
シャーロック・ホームズの事件簿より
長文なので、読書感覚でお楽しみください

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問題文

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(さー・じぇいむずからきいたとおり、ぐらなーだんしゃくがひじょうにゆうふくな)

サー・ジェイムズから聞いたとおり、グラナー男爵が非常に裕福な

(おとこだというのは、うつくしいいえとにわをみればひとめでわかった。)

男だというのは、美しい家と庭を見れば一目で分かった。

(ながいまがりくねったばしゃみちのりょうがわはみごとないけがきで、ちょうぞうをかざった)

長い曲がりくねった馬車道の両側は見事な生垣で、彫像を飾った

(ひろいじゃりじきのひろばへとつづいていた。このあたりは、みなみあふりかが)

広い砂利敷きの広場へと続いていた。このあたりは、南アフリカが

(たいへんなかっきょうをみせていたころ、そのちのおうごんおうとよばれたじんぶつがけんせつしたものだ。)

大変な活況を見せていた頃、その地の黄金王と呼ばれた人物が建設したものだ。

(そのいっかくにはしょうとうをそなえたはばのひろいひくいいえが、ーーけんちくがくてきには)

その一角には小塔を備えた幅の広い低い家が、 ―― 建築学的には

(あくむだったがーー、いようとけんろうさをこじしていた。)

悪夢だったが ―― 、威容と堅牢さを誇示していた。

(しきょうのいすちかくひかえていればにあいそうなしつじが、わたしをまねきいれ、)

司教の椅子近く控えていれば似合いそうな執事が、私を招き入れ、

(ふらしてんのふくをきたげぼくにひきわたした。このげぼくがだんしゃくのもとへとあんないした。)

フラシ天の服を着た下僕に引き渡した。この下僕が男爵の元へと案内した。

(おおきなけーすのとびらがひらかれており、かれはそのまえにたっていた。)

大きなケースの扉が開かれており、彼はその前に立っていた。

(けーすはまどのあいだにおかれ、しゅうしゅうしたちゅうごくじきのいちぶがおさめられていた。)

ケースは窓の間に置かれ、収集した中国磁器の一部が納められていた。

(わたしがへやにはいると、かれはちいさなちゃいろのつぼをてにふりかえった。)

私が部屋に入ると、彼は小さな茶色の壷を手に振り返った。

(「おすわりください、はかせ」かれはいった。「じぶんのこれくしょんに)

「お座りください、博士」彼は言った。「自分のコレクションに

(めをとおしなおして、ほんとうにまだふそくしているものがあるのか、)

目を通し直して、本当にまだ不足しているものがあるのか、

(ぎもんにおもっていたところです。このとうじだいのしょうひんは、)

疑問に思っていたところです。この唐時代の小品は、

(ななせいきにさかのぼりますが、おそらくあなたもきょうみがあるでしょう。)

七世紀にさかのぼりますが、おそらくあなたも興味があるでしょう。

(ぞうけいもうわぐすりも、これいじょうのものはほかにないとかくしんしています。)

造形も釉薬も、これ以上のものは他にないと確信しています。

(おはなしになっていたみんちょうのさらはおもちですか?」)

お話になっていた明朝の皿はお持ちですか?」

(わたしはそれをしんちょうにとりだしてかれにてわたした。かれはつくえのまえのいすにすわると、)

私はそれを慎重に取り出して彼に手渡した。彼は机の前の椅子に座ると、

(くらくなりはじめていたのでらんぷをひきよせ、いっしんにしらべはじめた。しらべているとき、)

暗くなり始めていたのでランプを引き寄せ、一心に調べ始めた。調べている時、

など

(きいろいひかりがかおをてらしていたので、わたしはゆっくりとかれをかくにんすることができた。)

黄色い光が顔を照らしていたので、私はゆっくりと彼を確認することができた。

(かれはたしかにおどろくほどにまいめのおとこだった。よーろっぱで、かれがおとこまえだという)

彼は確かに驚くほど二枚目の男だった。ヨーロッパで、彼が男前だという

(ひょうばんがたつのはきわめてとうぜんのことだった。しんちょうはせいぜいへいきんと)

評判が立つのは極めて当然のことだった。身長はせいぜい平均と

(いうところだったが、からだのせんはゆうがではつらつとしていた。)

いうところだったが、体の線は優雅ではつらつとしていた。

(かおはとうようじんとみまちがうほどあさぐろかった。このおおきなくろいものうげなめで)

顔は東洋人と見間違うほど浅黒かった。この大きな黒い物憂げな目で

(みつめれば、かんたんにじょせいをこうしがたいみりょくでひきつけることができるだろう。)

見つめれば、簡単に女性を抗しがたい魅力で引き付けることができるだろう。

(かみとくちひげはからすのはねのようにくろく、くちひげはみじかく、さきがとんがり、ていねいに)

髪と口ひげはカラスの羽のように黒く、口ひげは短く、先が尖り、丁寧に

(わっくすでかためられていた。かれのかおだちはととのってかんじのよいものだった。)

ワックスで固められていた。彼の顔立ちは整って感じのよいものだった。

(ただ、まっすぐでうすいくちびるのくちもとはべつだった。もしさつじんきのくちをみたことが)

ただ、まっすぐで薄い唇の口元は別だった。もし殺人鬼の口を見たことが

(あるとすれば、これがそのくちだった、ーーざんこくなふかいかおのきれめ、)

あるとすれば、これがその口だった、 ―― 残酷な深い顔の切れ目、

(ひきしめられ、むじひで、おそろしい。そこにくちひげをはやすのはけんめいでは)

引き締められ、無慈悲で、恐ろしい。そこに口ひげを生やすのは賢明では

(なかった。えものにたいしてちゅういをうながすしぜんのきけんしんごうになっていたからだ。)

なかった。獲物に対して注意をうながす自然の危険信号になっていたからだ。

(かれのこえはひとをひきつけるみりょくがあり、れいぎはかんぺきだった。わたしはかれのねんれいを)

彼の声は人を引き付ける魅力があり、礼儀は完璧だった。私は彼の年齢を

(30すこしすぎだろうとおもった。しかしあとでけいれきをしらべると42さいだった。)

30少し過ぎだろうと思った。しかし後で経歴を調べると42歳だった。

(「ひじょうにすばらしい、・・・・じつにみごとだ!」かれはとうとういった。)

「非常に素晴らしい、・・・・実に見事だ!」彼はとうとう言った。

(「あなたはこれのろくてんせっとをおもちとおっしゃいましたね。わたしが)

「あなたはこれの六点セットをお持ちとおっしゃいましたね。私が

(こんわくするのは、これほどみごとないっぴんをわたしがきいたことがないということです。)

困惑するのは、これほど見事な一品を私が聞いたことがないということです。

(わたしはいぎりすでこれにひってきするものがいってんあるのをしっているだけですが、)

私はイギリスでこれに匹敵するものが一点あるのを知っているだけですが、

(しかしそれはまずしじょうにでまわるはずのないものです。しつれいですが、)

しかしそれはまず市場に出回るはずのないものです。失礼ですが、

(どのようにこれをてにいれたかおきかせねがえますか?ひる・ばーとんはかせ」)

どのようにこれを手に入れたかお聞かせ願えますか?ヒル・バートン博士」

(「それがなんのもんだいでしょうかね?」わたしはできるかぎりむとんちゃくなふんいきでたずねた。)

「それが何の問題でしょうかね?」私はできる限り無頓着な雰囲気で尋ねた。

(「さらがほんものだというのははっきりしているし、かちにぎもんがあるなら)

「皿が本物だというのははっきりしているし、価値に疑問があるなら

(よろこんでせんもんかのさていをうけますよ」)

喜んで専門家の査定を受けますよ」

(「それはなっとくできませんね」くろいひとみに、さっとうたがいのひかりがよぎった。)

「それは納得できませんね」黒い瞳に、さっと疑いの光がよぎった。

(「これほどかちのあるものをとりひきするなら、ばいばいについてすべてをしりたいと)

「これほど価値のあるものを取引するなら、売買について全てを知りたいと

(おもうのはとうぜんです。これがほんものだということはまちがいない。そのてんに)

思うのは当然です。これが本物だということは間違いない。その点に

(かんしてはまったくぎもんがない。しかしかんがえてみてください、ーーわたしはあらゆる)

関しては全く疑問がない。しかし考えてみてください、 ―― 私はあらゆる

(かのうせいをこうりょにいれなければならないのでーー、あとになって)

可能性を考慮に入れなければならないので ―― 、後になって

(あなたにうるけんりがないとわかったとすれば?」)

あなたに売る権利がないと分かったとすれば?」

(「そんなしんぱいにはおよばないことは、わたしがほしょうしましょう」)

「そんな心配には及ばないことは、私が保証しましょう」

(「そうすると、とうぜんながら、あなたのほしょうがどれほどしんらいできるものかが、)

「そうすると、当然ながら、あなたの保証がどれほど信頼できるものかが、

(もんだいになりますね」「とりひきぎんこうにたずねればわかることです」)

問題になりますね」「取引銀行に尋ねれば分かることです」

(「たしかにそうでしょう。それでもこのとりひきぜんたいがすこしふしぜんだとおもえますね」)

「確かにそうでしょう。それでもこの取引全体が少し不自然だと思えますね」

(「じゃあ、べつにかっていただかなくてもけっこうです」わたしはれいたんにいった。)

「じゃあ、別に買っていただかなくても結構です」私は冷淡に言った。

(「わたしがあなたにさいしょにはなしをもちかけたのは、あなたがめききだと)

「私があなたに最初に話を持ちかけたのは、あなたが目利きだと

(きいたからです。しかしかいてはほかにいくらでもいます」)

聞いたからです。しかし買い手は他にいくらでもいます」

(「わたしがめききだとどなたからきいたのですか?」)

「私が目利きだとどなたから聞いたのですか?」

(「あなたがこのじきのほんをいっさつかいているのをしったからです」)

「あなたがこの磁器の本を一冊書いているのを知ったからです」

(「そのほんはよんだのですか?」「いいえ」)

「その本は読んだのですか?」「いいえ」

(「おやおや、それではなおさらりかいがこんなんになってきましたね!)

「おやおや、それではなおさら理解が困難になってきましたね!

(あなたはめききでしゅうしゅうかだ。これほどかちのたかいいっぴんをしゅうしゅうしている。)

あなたは目利きで収集家だ。これほど価値の高い一品を収集している。

(それなのにあなたは、じぶんのしゅうしゅうぶつのほんとうのいみとかちをかいせつしている)

それなのにあなたは、自分の収集物の本当の意味と価値を解説している

(ただひとつのほんをさんしょうしようとしなかった。これはどうせつめいがつきますか?」)

ただ一つの本を参照しようとしなかった。これはどう説明がつきますか?」

(「わたしはひじょうにいそがしいにんげんです。かいぎょういですから」)

「私は非常に忙しい人間です。開業医ですから」

(「それはこたえになっていません。しゅみをもっているにんげんはほかのしごとが)

「それは答えになっていません。趣味を持っている人間は他の仕事が

(なんであれそれをおいもとめるものです。あなたはてがみのなかでじぶんが)

何であれそれを追い求めるものです。あなたは手紙の中で自分が

(めききだとかいていました」「そのとおりです」)

目利きだと書いていました」「その通りです」

(「それをたしかめるためにすこししつもんしてよろしいですか?わたしは)

「それを確かめるために少し質問してよろしいですか?私は

(もうしあげざるをえない、はかせ、ーーもしあなたがほんとうに)

申し上げざるをえない、博士、 ―― もしあなたが本当に

(はかせならですがーー、このいっけんはますますあやしくなってきた。)

博士ならですが ―― 、この一件はますます怪しくなってきた。

(あなたにおうかがいできますか、しょうむてんのうについてしっていることと、)

あなたにお伺いできますか、聖武天皇について知っていることと、

(ならのしょうそういんについててんのうがどうかんけいしているか?おやおや、)

奈良の正倉院について天皇がどう関係しているか?おやおや、

(これでおこまりですか?すこし、ほくぎおうちょうについてはなしてくれませんか、)

これでお困りですか?少し、北魏王朝について話してくれませんか、

(それと、とうじきのれきしにおけるいちづけについて」)

それと、陶磁器の歴史における位置づけについて」

(わたしはいかりをよそおっていすからさっとたちあがった。)

私は怒りを装って椅子からさっと立ち上がった。

(「いいかげんにしてくれ」わたしはいった。「わたしはこういでここにやってきたのだ。)

「いい加減にしてくれ」私は言った。「私は好意でここにやってきたのだ。

(がくせいのようにしけんされるためではない。これらのしなものにかんするちしきは)

学生のように試験されるためではない。これらの品物に関する知識は

(あなたよりもおとるかもしれない。しかしわたしはこんなにぶさほうな)

あなたよりも劣るかもしれない。しかし私はこんなに無作法な

(ききかたをするしつもんには、ぜったいにこたえん」かれはわたしをじっとみた。)

聞き方をする質問には、絶対に答えん」彼は私をじっと見た。

(めにはもう、けだるいけはいはなかった。とつぜん、そのめがぎらりとひかった。)

目にはもう、けだるい気配はなかった。突然、その目がギラリと光った。

(あのざんこくなくちびるのあいだからもしろいはがひかった。)

あの残酷な唇の間からも白い歯が光った。

(「なにがもくてきだ?おまえはていさつにやってきたな。おまえはほーむずのみっていだ。)

「何が目的だ?お前は偵察にやって来たな。お前はホームズの密偵だ。

(おれをわなにはめようとしたな。あのおとこはしにかけているというはなしだ。)

俺を罠にはめようとしたな。あの男は死にかけているという話だ。

(だからおれをみはるためにおまえをてさきとしておくりこんだ。)

だから俺を見張るためにお前を手先として送り込んだ。

(おまえはむだんでここにはいった。そして、さあえらいことになったぞ!)

お前は無断でここに入った。そして、さあえらいことになったぞ!

(はいるよりもでていくほうがたいへんだ」かれはぱっとたちあがり、わたしは)

入るよりも出て行く方が大変だ」彼はぱっと立ち上がり、私は

(こうげきにそなえてうしろにさがった。このおとこがいかりにじせいしんをうしなっていたからだ。)

攻撃に備えて後ろに下がった。この男が怒りに自制心を失っていたからだ。

(かれはさいしょからわたしをうたがわしいとおもっていたのかもしれない。きっとこのじんもんで)

彼は最初から私を疑わしいと思っていたのかもしれない。きっとこの尋問で

(かくしんをもったのだろう。しかしわたしにはかれをあざむくのがむりなのはあきらかだった。)

確信を持ったのだろう。しかし私には彼を欺くのが無理なのは明らかだった。

(かれはひきだしにてをつっこんであらあらしくてさぐりした。)

彼は引き出しに手を突っ込んで荒々しく手探りした。

(そのとき、なにかをききつけてうごきをとめ、じっとききみみをたてた。)

その時、何かを聞きつけて動きを止め、じっと聞き耳を立てた。

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