大阪圭吉 デパートの絞刑吏③

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問題文

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(まずあたえられただいいちのてがかりをぶんせきけんとうしてみよう。するとただちにわたしは、)

先ず与えられた第一の手掛を分析検討して見よう。すると直ちに私は、

(はんにんはすうにんまたはひじょうにきょうりょくなひとりのにんげんである、というすいていにたっする。)

犯人は数人又は非常に強力な一人の人間である、と言う推定に達する。

(どうようにして、だいにのてがかりであるてのなかのさっかしょうは、ひがいしゃがなにものかを)

同様にして、第二の手掛である掌中の擦過傷は、被害者が何物かを

(にぎりしめてまさつさしたというじじつをめいかくにあんじする、つぎに、だいさんのてがかりである)

握り締めて摩擦さしたと言う事実を明確に暗示する、次に、第三の手掛である

(ところどころのかるいさっかしょうをけんとうしてみよう。けいはくではあるがふとくあらあらしいあのそうこんは、)

所々の軽い擦過傷を検討して見よう。軽薄ではあるが太く荒々しいあの瘡痕は、

(あきらかにないふそのほかのききんぞくるいによってあたえられたものでなく、どんじゅうでそざつな)

明かにナイフその他の貴金属類に依って与えられたものでなく、鈍重で粗雑な

(ものであり、かつまたてのなかにさっかしょうをあたえたきょうきあるいはどうせいしつのきょうきなることを)

ものであり、且つ又掌中に擦過傷を与えた兇器或は同性質の兇器なる事を

(あんじする。そうしてこのことは、あのしゅのさっかしょうをあたえるようなそのぶったいが、)

暗示する。そうしてこの事は、あの種の擦過傷を与える様なその物体が、

(はんこうのとうじげんばに、もっとげんかくにいえばかくとうしているひがいしゃのしんぺんに、)

犯行の当時現場に、もっと厳格に言えば格闘している被害者の身辺に、

(あったか、あるいは、ちょくせつはんにんがもっていたかのどちらかだ。が、このばあいわたしは)

あったか、或は、直接犯人が持っていたかのどちらかだ。が、この場合私は

(こうしゃだとおもう。なぜなら、くわえられたちからのりょうてきなさこそあれ、これらのさっかしょうは)

後者だと思う。何故なら、加えられた力の量的な差こそあれ、これらの擦過傷は

(あのけいぶきょうぶのこうさつそうこんにたいしてしつてきなきょうつうてんをもっているからだ。)

あの頸部胸部の絞殺瘡痕に対して質的な共通点を持っているからだ。

(きみはあのつちいろにへんしょくしたひふがすりやぶれて、しゅっけつしていたひがいしゃのけいぶを)

君はあの土色に変色した皮膚が擦り破れて、出血していた被害者の頸部を

(おもいだしたまえ。そうしてきわめてようちなかんさつとすいりによってすら、けいぶにさくこうの)

思い出し給え。そうして極めて幼稚な観察と推理に依ってすら、頸部に索溝の

(のこっていないてんといい、あのひふのすりやぶれかたといい、だいにだいさんのさっかしょうを)

残っていない点と言い、あの皮膚の擦り破れ方と言い、第二第三の擦過傷を

(あたえたとどういつのふとくそざつなきょうきであることはよういにうなずきえるはずだ。)

与えたと同一の太く粗雑な兇器である事は容易に頷き得る筈だ。

(したがってわたしは、これらのここのじじつのけんとうから、わたしのぶんるいしたみっつのそうこんに)

従って私は、これらの個々の事実の検討から、私の分類した三つの瘡痕に

(くわえられたそれぞれのきょうきが、はんこうにしようされたゆいいつのきょうきであることに)

加えられたそれぞれの兇器が、犯行に使用された唯一の兇器である事に

(きのうする。だからひがいしゃのもっていたあのいくかしょかのさっかしょうはかくとうのさい)

帰納する。だから被害者の持っていたあの幾個所かの擦過傷は格闘の際

(げんばにころがっていたきみょうなぶったいによってがいぶてきにうけたものではなくて)

現場に転っていた奇妙な物体に依って外部的に受けたものではなくて

など

(はんにんのてからしつようにおそいかかってくるへびのようなきょうきによってあたえられたもの)

犯人の手から執拗に襲い掛って来る蛇の様な兇器に依って与えられたもの

(なのだ。だが、すいりをこんごのかていにすすめるにあたってもっともきょうみぶかいそんざいをなす)

なのだ。だが、推理を今後の過程に進めるに当って最も興味深い存在をなす

(ものは、あのてのなかにのこされたきかいきわまるさっかしょうだよ。まさかきみ、しにんが)

ものは、あの掌中に残された奇怪極まる擦過傷だよ。まさか君、死人が

(つなひきあそびをしていたなんていうまいね。)

綱引き遊びをしていたなんて言うまいね。

(つぎに、あのむすうのかるいさっかしょうがあきらかにかくとうによってあたえられたけいしょうであることは、)

次に、あの無数の軽い擦過傷が明かに格闘に依って与えられた軽傷である事は、

(まさしくうたがうよちがない。しからばかくとうは、したがってはんこうは、どこで)

まさしく疑う余地がない。しからば格闘は、従って犯行は、どこで

(おこなわれたか?もちろん、おくがいではあれほどはんぜんたるたさつのこんせきをくわえてさつがいした)

行われたか? 勿論、屋外ではあれ程判然たる他殺の痕跡を加えて殺害した

(ものを、わざわざはこびこんでおくじょうからなげおとしついしにみせかけよう、)

ものを、わざわざ運び込んで屋上から投げ墜し墜死に見せかけよう、

(なんてなんせんすはしんじられない。しかもこのばあいげんじゅうなとじまりのもんだいがある。)

なんてナンセンスは信じられない。しかもこの場合厳重な戸締りの問題がある。

(しからばつぎのでぱーとのおくないではんこうがおこなわれたとのかいしゃくはどうか?このかいしゃくが)

しからば次のデパートの屋内で犯行が行われたとの解釈はどうか? この解釈が

(こうていされるためには、ひがいしゃがさつがいされるまでのかくとうのさい、ひとことのきゅうじょをも)

肯定されるためには、被害者が殺害されるまでの格闘の際、一言の救助をも

(もとめなかった、というおどろくべきじじつだ。したがってはんこうはさいごのばしょ、すなわちおくじょうで)

求めなかった、と言う驚くべき事実だ。従って犯行は最後の場所、即ち屋上で

(おこなわれたことになる。このかんがえかたはたしかにへいぼんである。けいさつもどうかんだろう。)

行われた事になる。この考え方は確かに平凡である。警察も同感だろう。

(が、おなじどうかんでもわたしはそのだんていをくだすまでにすくなくともほかのいち、にのもんだいを)

が、同じ同感でも私はその断定を下すまでに少くとも他の一、二の問題を

(あきらかにひていしている。たとえばさきほどわたしはひがいしゃのこうさつちめいしょうのとくちょうからして、)

明かに否定している。例えば先程私は被害者の絞殺致命傷の特徴からして、

(はんにんはすうにんまたはひじょうにきょうりょくなおとことだんていした。がこのうちの「すうにんのはんにん」は、)

犯人は数人又は非常に強力な男と断定した。がこの内の「数人の犯人」は、

(いじょうのわたしのけんとうによってすでにひていされている。ああいうそしきのしゅくちょくいんのなかでは、)

以上の私の検討に依って既に否定されている。ああ言う組織の宿直員の中では、

(まずきょうぼうということはせいりつしないからだ。したがってはんにんはちからのつよいひとりのおとこと)

先ず共謀と言う事は成立しないからだ。従って犯人は力の強い一人の男と

(いうけっかにほうちゃくする。そのきょうりょくしゃとはだれだ」「だいぶふくざつになったねえ」)

言う結果に逢着する。その強力者とは誰だ」「大分複雑になったねえ」

(きょうすけのせつめいにうっとりとしてききいっていたわたしは、とうとうそのこうふんを)

喬介の説明に恍惚(うっとり)として聞き入っていた私は、とうとうその興奮を

(ばくはつさしてしまった。きょうすけは、たばこにひをつけてぐっとひといきふかくすいこむと、)

爆発さしてしまった。喬介は、煙草に火を点けてぐっと一息深く吸い込むと、

(めをかがやかせながらことばをつづけた。「ふくざつになった?ちがうよきみ、かんたんになった)

眼を輝かせながら言葉を続けた。「複雑になった? 違うよ君、簡単になった

(のだよ。しゃーろっく・ほーむずきどりになるがね、「すべてのひていをはいじょすれば)

のだよ。シャーロック・ホームズ気取りになるがね、『凡ての否定を排除すれば

(のこれるものがこうていである」と、どうだね。そうしてはんこうはおくじょうーーこのばあい)

残れるものが肯定である』と、どうだね。そうして犯行は屋上ーーこの場合

(うえこみにあしあとのなかったことをりゅういしておくひつようがある。ーーつぎに、ところどころの)

植込みに足跡のなかった事を留意して置く必要がある。ーー次に、所々の

(とくにてのなかのきかいなさっかしょう、つよいちからをもったはんにん、しつようなきょうき。これらのてがかりを)

特に掌中の奇怪な擦過傷、強い力を持った犯人、執拗な兇器。これらの手掛を

(きそとして、さいごのちょうさをしてみよう。さあ、ひとつかくだいきょうでもしいれて、)

基礎として、最後の調査をして見よう。さあ、一つ拡大鏡でも仕入れて、

(もういちどおくじょうへのぼろう」わたしたちはたちあがってしょくどうをでた。)

もう一度屋上へ登ろう」私達は立上がって食堂を出た。

(いつのまにかはいりこんできたがいきゃくのために、あたりはへいじょうのざわめきに)

何時の間にか入り込んで来た外客のために、辺りは平常のざわめきに

(たちかえり、かいかのがっきぶからめいろうなじゃずのおとが、ぎゃらりーをゆきかう)

立ち返り、階下の楽器部から明朗なジャズの音が、ギャラリーを行き交う

(ひとびとのながれをぬってゆるやかにきこえていた。)

人々の流れを縫ってゆるやかに聞えていた。

(よんかいのめがねうりばでちゅうがたのかくだいきょうをてにいれたわたしたちは、ひとびとのなみをわけて、)

四階の眼鏡売場で中型の拡大鏡を手に入れた私達は、人々の波を分けて、

(ふたたびおくじょうへでた。じけんのあったためか、いっぱんのがいきゃくはきんそくしてあり、ただ)

再び屋上へ出た。事件のあったためか、一般の外客は禁足してあり、ただ

(すうにんのかかりいんが、わたしたちのちんにゅうにたいして、こうきのめをみはっていたにすぎなかった。)

数人の係員が、私達の闖入に対して、好奇の眼を瞠っていたに過ぎなかった。

(きょうすけはまゆねにふかいしわをきざましてくびをかたむけながら、おくじょうのすみからすみへするどいかんさつを)

喬介は眉根に深い皺を刻まして首を傾けながら、屋上の隅から隅へ鋭い観察を

(なげかけていたが、やがてわたしをうながしてしたいのらっかてんとおもわれるとうほくがわのすみへ)

投げ掛けていたが、やがて私を促して死体の落下点と思われる東北側の隅へ

(やってくると、かくだいきょうをふりまわしてさきほどよりもいっそうめんみつにてっさくやうえこみを)

やって来ると、拡大鏡を振り廻して先程よりも一層綿密に鉄柵や植込みを

(しらべはじめた。が、まもなくふっとおもいきったようにそこをはなれるとこんどは、)

調べ始めた。が、間もなくフッと思い切った様に其処を離れると今度は、

(なにごとかきおくをおもいうかべるかのように、こごえでぶつぶつつぶやきながら、にしがわの)

何事か記憶を思い浮かべるかの様に、小声でぶつぶつ呟きながら、西側の

(とらのおりにむかってあるきだした。そこできょうすけは、おおきなあふりかさんのおすとらが、)

虎の檻に向って歩き出した。其処で喬介は、大きなアフリカ産の牡虎が、

(くったくげにひるねをしているすがたをみつめながらしばらくふかいしあんにおちいっていた。が、)

屈託気に昼寝をしている姿を見詰めながら暫く深い思案に陥っていた。が、

(きゅうにむきなおって、はれわたったおおぞらのいっかくにめをやった。と、かれはそのりょうのめを)

急に向き直って、晴れ渡った大空の一角に眼をやった。と、彼はその両の眼を

(いきいきとかがやかせながら、ひがしがわのろだいへむかっておおまたにあるきだした。)

生き生きと輝かせながら、東側の露台へ向って大股に歩き出した。

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