海野十三 蠅男④

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※➀に同じくです。


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問題文

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(くずれるはっこつ)

◇崩れる白骨◇

(これみい。こんなところに、みょうないろをしたあぶらみたよなもんがたまっとるわ)

「これ見い。こんなところに、妙な色をした脂みたよなもんが溜っとるわ」

(とおおかわぶちょうは、ひかきのさきで、かしょうのまえのれんがじきのうえにたまっている)

と大川部長は、火掻きの先で、火床の前の煉瓦敷きの上に溜っている

(あかぐろいぺんきのようなものをついた。)

赤黒いペンキのようなものを突いた。

(なんでっしゃろなさあーーこいつがにおうのやぜ)

「何でっしゃろな」「さあーーこいつが臭うのやぜ」

(といっているとき、じゅんさぶちょうのうしろからほむらがとつぜんこえをかけた。)

と云っているとき、巡査部長のうしろから帆村が突然声をかけた。

(これあたいへんなものがみえる。おおかわさん。かしょうのなかに、じんこつらしいものが)

「これア大変なものが見える。大川さん。火床の中に、人骨らしいものが

(ちらばっていますぜ?ええっ、じんこつがーー。どこに?)

散らばっていますぜ?」「ええッ、人骨がーー。どこに?」

(ほら、いまもえているいっとうおおきいせきたんのむこうがわにーー。みえるでしょう)

「ホラ、今燃えている一等大きい石炭の向う側にーー。見えるでしょう」

(おお、あれか。なるほどろっこつみたいや。これはえらいこっちゃ。)

「おお、あれか。なるほど肋骨みたいや。これはえらいこっちゃ。

(いまだしてみまっさ)

いま出して見まっさ」

(さすがはばかずをふんだじゅんさぶちょうだけあって、くちではおどろいても、たいどは)

さすがは場数を踏んだ巡査部長だけあって、口では愕いても、態度は

(しっかりしたものだ。こしをかがめると、ひかきぼうで、そのろっこつらしい)

しっかりしたものだ。腰をかがめると、火掻き棒で、その肋骨らしい

(ものをひのなかからてまえへかきだした。)

ものを火のなかから手前へ掻きだした。

(ふーん。これはどうみたって、おとなのろっこつや。どうもみぎの)

「フーン。これはどう見たって、大人の肋骨や。どうも右の

(だいにしんろっこつらしいな)

第二真肋骨らしいナ」

(こんなものがあるようでは、もっとそのへんにおちてやしませんか)

「こんなものがあるようでは、もっとその辺に落ちてやしませんか」

(そうやな。こら、えらいこっちゃ。ーーおおさこつがあった。)

「そうやな。こら、えらいこっちゃ。ーーおお鎖骨があった。

(まだあるぜ。ーー)

まだあるぜ。ーー」

(おおかわははいのなかから、じんこつをいくつもほりだした。そのかずはみんなで、)

大川は灰の中から、人骨をいくつも掘りだした。その数は皆で、

など

(いつつむっつとなった。)

五つ六つとなった。

(ーーもうありまへんな。こうっと、むねのへんのほねばかりやが、)

「ーーもう有りまへんな。こうっと、胸の辺の骨ばかりやが、

(わりあいにかずがすくないなあ)

わりあいに数が少ないなア」

(と、かれはふしんのおももちで、なにごとかをかんがえているようすだった。)

と、彼は不審の面持で、なにごとかを考えている様子だった。

(それにしてもじんこつであるかぎり、しゅじんのるすになったたてもののなかのすとーぶに、)

それにしても人骨である限り、主人の留守になった建物の中のストーブに、

(こんなものがはいっているとは、なんというおどろくべきことだろう。)

こんなものが入っているとは、なんという愕くべきことだろう。

(いったいこのほねのぬしは、なにものだろう。)

一体この骨の主は、何者だろう。

(あのひどいしゅうきからおしてかんがえると、もっとほねがみつかるはずですね)

「あのひどい臭気から推して考えると、もっと骨が見つかるはずですね」

(とほむらがいった。かれはかがんで、しばらくすとーぶのなかをいろいろなかくどから)

と帆村が云った。彼は屈んで、しばらくストーブの中をいろいろな角度から

(のぞきこんでいたが、ややあって、ひどくおどろいたようなこえをだした。)

覗きこんでいたが、ややあって、ひどく愕いたような声をだした。

(あっ。ありましたありました。ろっこつがいっぽん、すとーぶのえんどうのところから)

「あッ。ありましたありました。肋骨が一本、ストーブの煙道のところから

(ぶらさがっていますよ。えんどうのなかがあやしい)

ブラ下っていますよ。煙道の中が怪しい」

(なにえんどうのなかが・・・と、かおいろをさっとかえたおおかわじゅんさぶちょうは、ひかきぼうを)

「ナニ煙道の中が・・・」と、顔色をサッと変えた大川巡査部長は、火掻き棒を

(みぎてにぐっとにぎると、もえさかるせきたんをすこしよこにのけ、それからしたからうえに)

右手にグッと握ると、燃えさかる石炭をすこし横に除け、それから下から上に

(むかってひかきぼうをずーっとさしこみ、ちからまかせにそこらをかきまわした。)

向って火掻き棒をズーッと挿しこみ、力まかせにそこらを掻きまわした。

(それはすこしらんぼうすぎるおこないではあったが、たしかにてごたえはあった。)

それはすこし乱暴すぎる行いではあったが、たしかに手応えはあった。

(がらがらというおおきなおととともに、えんどうのなかからどっとしたにおちてきたおおきな)

ガラガラという大きな音とともに、煙道の中からドッと下に落ちてきた大きな

(ものがあった。それは、どうじにしたにふきだしたくろいすすやしろいはいにへだてられて、)

ものがあった。それは、同時に下に吹きだした黒い煤や白い灰に距てられて、

(しばらくはなにものともみわけがたかったけれど、そのかいじんがやや)

しばらくは何物とも見分けがたかったけれど、その灰燼(かいじん)がやや

(しずまり、おもわずすとーぶのまえからとびのいたけいかんたちがそろそろもとのように)

鎮まり、思わずストーブの前から飛びのいた警官たちがソロソロ元のように

(ちかづいたころには、もううたがいもなく、えんどうのなかからおちてきたぶっけんが)

近づいたころには、もう疑いもなく、煙道の中から落ちてきた物件が

(なにものであるかがめいりょうになった。)

何者であるかが明瞭になった。

(はんやけしたい!)

半焼け屍体!

(それはずいぶんきみょうなかっこうをしていた。なかばほねになったにほんのあしが、)

それはずいぶん奇妙な恰好をしていた。半ば骨になった二本の脚が、

(かしょうのうえにぴーんとてんじょうをむいてつきたっていた。)

火床の上にピーンと天井を向いて突立っていた。

(それはさかさになって、このえんどうのなかにはいっていたものらしく、きょうぶやふくぶは、)

それは逆さになって、この煙道の中に入っていたものらしく、胸部や腹部は、

(もうかんぜんにやけて、ほねとはいとになり、ずっとうえのほうにあったきゃくぶが、)

もう完全に焼けて、骨と灰とになり、ずっと上の方にあった脚部が、

(はんやけのじょうたいで、そのままうえからすりおちてきたのだった。)

半焼けの状態で、そのまま上から摺り落ちてきたのだった。

(おとこかおんなか、ろうじんかわかものか。ーーそんなことは、ちょっとみたくらいで)

男か女か、老人か若者か。ーーそんなことは、ちょっと見たくらいで

(はんべつがつくものではなかった。)

判別がつくものではなかった。

(こらしもうた。けんじさんから、おおきなおめだまものやがな。)

「コラ失敗(しも)うた。検事さんから、大きなお眼玉ものやがな。

(したからつきあげんと、あのままほっといたらよかったのになあ)

下から突き上げんと、あのままほっといたらよかったのになア」

(と、じゅんさぶちょうはひかきぼうをにぎったまま、おおきなためいきをついた。)

と、巡査部長は火掻き棒を握ったまま、大きな溜め息をついた。

(もうこうなったら、しかたがありませんよ。それより、いまもえかかっている)

「もうこうなったら、仕方がありませんよ。それより、今燃えかかっている

(せきたんのひをけして、あのあしをなるべくいまのままでほぞんすることにしては)

石炭の火を消して、あの脚をなるべく今のままで保存することにしては

(いかがですかほむらはなぐさめはんぶん、いいところをちゅういした。)

如何ですか」帆村は慰め半分、いいところを注意した。

(そうだすなあとおおかわはひざをたたいて、うしろをふりかえり、おい、おまえちょっと)

「そうだすなア」と大川は膝を叩いて、後を振り返り、「オイ、お前ちょっと

(みずをくんできて、ひしゃくでしずかにこのひをけしてんか。おおいそぎやぜ)

水を汲んできて、柄杓でしずかにこの火を消してんか。大急ぎやぜ」

(それからかれは、もうひとりのけいかんにめいじて、でんわをみつけ、ほんしょにきゅうほうするように)

それから彼は、もう一人の警官に命じて、電話を見付け、本署に急報するように

(いいつけた。ほむらは、そのときそっとそのばをはずした。)

いいつけた。帆村は、そのときソッと其の場を外した。

(へやをでるとき、ふりかえってみると、おおかわじゅんさぶちょうはながいすのうえにどっかと)

部屋を出るとき、振り返って見ると、大川巡査部長は長椅子の上にドッカと

(こしうちかけ、ぼうしをぬいでいたが、いがぐりあたまからはぽっぽっぽっと、)

腰うちかけ、帽子を脱いでいたが、毬栗頭からはポッポッポッと、

(さかんにゆげがあがっているのがみえた。)

さかんに湯気が上っているのが見えた。

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