海野十三 蠅男⑤

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※➀に同じくです。


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問題文

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(ふいうち)

◇不意打ち◇

(いかにほむらといえども、ないしんこのおそろしいさんげきについて、おどろきのめを)

いかに帆村といえども、内心この恐ろしい惨劇について、愕きの目を

(みはらないではいられなかった。しゅじんかもしたどくとるのるすちゅうに、)

みはらないではいられなかった。主人鴨下ドクトルの留守中に、

(すとーぶのなかでやかれたはんしょうしたい?いったいどうしたすじみちから、)

ストーブの中で焼かれた半焼屍体? 一体どうした筋道から、

(こうしたかいじけんがおこったかはわからないけれど、とにかくこのいえのうちには、)

こうした怪事件が起ったかは分からないけれど、とにかくこの家のうちには、

(もっともっとひみつがふくざいしているのであろう。)

もっともっと秘密が伏在しているのであろう。

(かれはこのさい、できるだけのそうさざいりょうをみつけだしておきたいとおもった。)

彼はこの際、できるだけの捜査材料を見つけだして置きたいと思った。

(ほう、これはろうかだ。ーーむこうにけしょうしつらしいものがみえる。)

「ほう、これは廊下だ。ーー向うに化粧室らしいものが見える。

(よし、あのなかをしらべてみよう)

よし、あの中を調べてみよう」

(かれはゆうやくして、けしょうしつのとびらをおした。)

彼は勇躍して、化粧室の扉を押した。

(このいえのうちに、しゅじんかもしたどくとるのほかに、だれかいたかがわかると)

「この家のうちに、主人鴨下ドクトルのほかに、誰か居たかが分かると

(おもしろいんだがーー)

面白いんだがーー」

(かれのねらいは、さすがにけんめいだった。けしょうしつをはいったところのしょうめんに、)

彼の狙いは、さすがに賢明だった。化粧室を入ったところの正面に、

(おおきなかがみがいちまいかかげてあった。かれはそのかがみのまえにたって、だいのうえをちゅういぶかく)

大きな鏡が一枚掲げてあった。彼はその鏡の前に立って、台の上を注意ぶかく

(かんさつした。はてにはだいのうえに、ゆびいっぽんたてて、すーっとひいてみた。)

観察した。果てには台の上に、指一本たてて、スーッと引いてみた。

(するとだいのうえに、くろいすじがついた。そのゆびをはなのさきにそっともっていって、)

すると台の上に、黒い筋がついた。その指を鼻の先にソッともっていって、

(かれはくんくんとはなをいぬのようにならした。)

彼はクンクンと鼻を犬のように鳴らした。

(ふーん。これはふらんすせいのおしろいのにおいだ。すると、このいえのなかには、)

「フーン。これはフランス製の白粉の匂いだ。すると、この家の中には、

(わかいおんながいたことになる。しかもあまりまえのことではない)

若い女がいたことになる。しかも余り前のことではない」

(かれはそこで、なおもおくのほうのとびらをひらいて、なかにはいった。)

彼はそこで、なおも奥の方の扉を開いて、中に入った。

など

(しばらくすると、かれのすがたがふたたびあらわれた。そのかおのうえにはびしょうがうかんでいた。)

しばらくすると、彼の姿が再び現われた。その顔の上には微笑が浮んでいた。

(いよいよわかいおんながいたことになる。きょうはじゅうにがつついたちだ。すると)

「いよいよ若い女がいたことになる。きょうは十二月一日だ。すると

(じゅういちがつにじゅうくにちぐらいとみていいなあ。しゅじんこうがるすにしたひのぜんごだ。)

十一月二十九日ぐらいと見ていいなア。主人公が留守にした日の前後だ。

(これはおもしろい)

これは面白い」

(ろうかをでると、そこにかいだんがあった。それをあがろうとすると、ひとりのけいかんが)

廊下を出ると、そこに階段があった。それを上ろうとすると、一人の警官が

(よこあいからあらわれ、かれのあとについて、そのかいだんをのぼってゆくのであった。)

横合いから現われ、彼の後について、その階段をのぼってゆくのであった。

((せんせい、ぼくをかんしするつもりかしら?))

(先生、僕を監視するつもりかしら?)

(かいだんをあがると、そこにまたろうかがあった。にかいはたいへんうすぐらい。)

階段を上ると、そこにまた廊下があった。二階はたいへん薄暗い。

(いつもはでんとうがついていたにちがいないのだが、すいっちがてぢかにみあたらない。)

いつもは電灯がついていたに違いないのだが、スイッチが手近に見当らない。

(みぎのとっつきに、とびらがはんびらきになったへやがあった。それをおしてはいると、)

右のとっつきに、扉が半開きになった部屋があった。それを押して入ると、

(すいっちがすぐめにうつった。ぴーんとうえにあげてみると、ぱっとあかりが)

スイッチがすぐ目に映った。ピーンと上にあげてみると、パッと明かりが

(ついて、しつないのようすがはっきりした。ここはどうやらしょくどうけんきつえんしつらしく、)

ついて、室内の様子がハッキリした。ここはどうやら食堂兼喫煙室らしく、

(それとおもわせるようなじゅうきやかぐがならんでいた。なんにせよ、どうもごうせいな)

それと思わせるような什器や家具が並んでいた。なんにせよ、どうも豪勢な

(ものである。ーーわかいけいかんは、あいかわらずかれのあとについて、しつないへはいってきた。)

ものである。ーー若い警官は、相変わらず彼の後について、室内へ入ってきた。

((いよいよかんしするつもりとわかった!))

(いよいよ監視するつもりと分かった!)

(かれはちょっとふゆかいなきもちにおそわれた。だがつぎのしゅんかん、ほむらたんていは)

彼はちょっと不愉快な気持に襲われた。だが次の瞬間、帆村探偵は

(ふゆかいもなにもわすれてしまうようなものをはっけんした。それはあんらくいすのうえに)

不愉快もなにも忘れてしまうような物を発見した。それは安楽椅子の上に

(ほうりだされてあったかみそうのこばこだった。)

放りだされてあった紙装の小函だった。

(おおこれはどうだ。あかばらじるしのだんやくばこだっ。これをつかうじゅうは、ぼくのさがしていた)

「おおこれはどうだ。赤バラ印の弾薬函だッ。これを使う銃は、僕の探していた

(あめりかのぎゃんぐがこのんでつかうけいきかんじゅうじゃないか。これはぶっそうだぞおーー)

アメリカのギャングが好んで使う軽機関銃じゃないか。これは物騒だぞオーー」

(とほむらはみぶるいして、とぐちのほうをふりかえった。)

と帆村は身ぶるいして、戸口の方を振り返った。

(けいかんはけげんなかおをして、そばによってきた。)

警官は怪訝な顔をして、傍に寄って来た。

(このときろうかをへだてたむかいのくらいへやのとびらが、おともなくほそめにひらいて、)

このとき廊下を距てた向いの暗い室の扉が、音もなく細めに開いて、

(そのなかからいっちょうのふといじゅうこうがぬっとかおをだした。)

その中から一挺の太い銃口がヌッと顔を出した。

(あっ、あぶないっ!とさけんだが、すでにおそかった。)

「あッ、あぶないッ!」と叫んだが、既に遅かった。

(だだだーん、ひゅーっと、はっしゃされたじゅうだんはほむらたちのいるしつないに)

ダダダーン、ヒューッと、発射された銃弾は帆村たちのいる室内に

(うちこまれた。うわーっ、うーむ)

撃ち込まれた。「うわーッ、ウーム」

(くるしいうめきごえとともに、かんしのけいかんが、どさりとゆかうえににんぎょうのようにころがった。)

苦しい呻き声とともに、監視の警官が、ドサリと床上に人形のように転がった。

(ううん。やられたっと、こんどはほむらがぜっきょうした。すばやくあんらくいすのかげに)

「ウウン。やられたッ」と、こんどは帆村が絶叫した。素早く安楽椅子のかげに

(みをかわしたかれだったが、とたんにいちだんとびきたってひだりかたにきりをつきこんだとうつうを)

身をかわした彼だったが、途端に一弾飛びきたって左肩に錐を突きこんだ疼痛を

(かんじた。かれはゆかのうえにじぶんのからだがくずれてゆくのをいしきした。)

感じた。彼は床の上に自分の体が崩れてゆくのを意識した。

(そしてかいかからわきおこるけいかんたいのおおごえとかいだんをあらあらしくかけあがってくる)

そして階下から湧き起る警官隊の大声と階段を荒々しく駈けあがってくる

(くつおととを、ゆめごこちにきいた。)

靴音とを、夢心地に聞いた。

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