泉鏡花 悪獣篇 14

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね1お気に入り登録
プレイ回数173難易度(3.8) 3862打 長文
泉鏡花の中編小説です
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 やまちゃん 3721 D+ 3.8 96.1% 986.3 3823 152 100 2025/12/10

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問題文

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(「せんせい、」) 「先生、」 (「はあ、どうですな。」) 「はあ、どうですな。」 (「わたしが、あの、うみへはいってしのうといたしましたのより、あなたは、) 「私が、あの、海へ入って死のうといたしましたのより、貴下[あなた]は、 (もっとおおどろきなさいましたことがございましょう。」) もっとお驚きなさいました事がございましょう。」 (「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」) 「……………………」 (なんといおうと、だまってつをのむ。) 何と言おうと、黙って唾[つ]を呑む。 (「わたしが、わたしが、こんなところにふねのなかに、ねて、ねて、」) 「私が、私が、こんな処に船の中に、寝て、寝て、」 (とないじゃくりして、) と泣いじゃくりして、 (「ねかされておりましたのに、なおびっくりなさいましてしょうねぇ、) 「寝かされておりましたのに、なお驚愕[びっくり]なさいましてしょうねぇ、 (あなた。」) 貴下。」
(「・・・・・・ですが、それは、しかし・・・・・・」とばかり、れんぺいはいうべきすべを) 「……ですが、それは、しかし……」とばかり、廉平は言うべき術を (しらなかった) 知らなかった (「せんせい、」) 「先生、」 (これぎり、こえのでないひとになろうもしれず、とてにあせをにぎったのが、) これぎり、声の出ない人になろうも知れず、と手に汗を握ったのが、 (われをよばれたので、ちからをえて、みみをかたむけ、かおをよせて、) 我を呼ばれたので、力を得て、耳を傾け、顔を寄せて、 (「は、」) 「は、」 (うらこははげしくかぶりをふった。) 浦子は烈[はげ]しく頭[かぶり]を掉[ふ]った。 (せんすべをしらずだまっても、まだかぶりを) 二十五 為[せ]ん術[すべ]を知らず黙っても、まだ頭[かぶり]を (ふるのであるから、れんぺいはぼうぜんとして、) ふるのであるから、廉平は茫然[ぼうぜん]として、 (ただこぶしをにぎって、) ただ拳[こぶし]を握って、
など
(「どうなさる。こうしていらしっては、それこそ、ひとがよってくるか) 「どうなさる。こうしていらしっては、それこそ、人が寄って来るか (わかりません。だいいち、さがしにでましたのでもよにんやはちにんではありません。」) 分りません。第一、捜しに出ましたのでも四人や八人ではありません。」 (いいもおわらず、あしずりして、) 言いも終らず、あしずりして、 (「どうしましょう、わたし、どうしましょうねえ。どうぞ、どうぞ、) 「どうしましょう、私、どうしましょうねえ。どうぞ、どうぞ、 (あなた、ひとおもいにしなしてくださいまし、はずかしくっても、) 貴下[あなた]、一思いに死なして下さいまし、恥かしくっても、 (しがいになれば・・・・・・」) 死骸[しがい]になれば……」 (なくのになかばこときえて、) 泣くのに半ば言消[ことき]えて、 (「よ、ごしょうですから、」) 「よ、後生ですから、」 (もくもれるこえなり。) も曇れる声なり。 (こころよわくてかなうまじ、とれんぺいはややきっとしたものいいで、) 心弱くて叶うまじ、と廉平はやや屹[きっ]としたものいいで、 (「とんだことを!おくさん、れんぺいがここにおるです。) 「飛んだ事を!夫人[おくさん]、廉平がここに居[お]るです。 (けして、けして、そんなまちがいはさせんですよ。」) 決[け]して、決して、そんな間違[まちがい]はさせんですよ。」 (「どうしましょうねえ、」) 「どうしましょうねえ、」 (はっとふかくためいきつくのを、) はッと深く溜息[ためいき]つくのを、 (「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」) 「……………………」 (ただのどをつめてじっとみつつ、おもわずひきいれられて) ただ咽喉[のど]を詰めて熟[じっ]と見つつ、思わず引き入れられて (たんそくした。) 歎息した。 (れんぺいはふといいきして、) 廉平は太い息して、 (「まあ、あなた、おくさん、いったいどうなさった。」) 「まあ、貴女[あなた]、夫人[おくさん]、一体どうなさった。」 (「わけを、わけをいえばあなた、だまってしなしてくださいますよ。) 「訳を、訳をいえば貴下[あなた]、黙って死なして下さいますよ。 (もう、もう、こんなけがらわしいものは、みるのもいやに) もう、もう、こんな汚[けがら]わしいものは、見るのも厭に (おなりなさいますよ。」) おなりなさいますよ。」 (「いや、いやになるか、なりませんか、だまってみごろしにしましょうか。) 「いや、厭になるか、なりませんか、黙って見殺しにしましょうか。 (なにしろ、わけをおっしゃってください。おくさん、れんぺいです。) 何しろ、訳をおっしゃって下さい。夫人[おくさん]、廉平です。 (ひとにいってわるいことなら、わたしはちかってもうしませんです。」) 人にいって悪い事なら、私は盟[ちか]って申しませんです。」 (このひとのへいぜいはちかうのにてきしていた。) この人の平生は盟うのに適していた。 (「は、もうします、せんせい、あなただけならもうします。」) 「は、申します、先生、貴下[あなた]だけなら申します。」 (「いうてくださるか、それはありがたい、むむ、さあ、うけたまわりましょう。」) 「言うて下さるか、それは難有[ありがた]い、むむ、さあ、承りましょう。」 (「どうぞ、その、そのさきにせんせい、どこかへ、ひとのいない、) 「どうぞ、その、その前[さき]に先生、どこかへ、人の居ない、 (たにぞこか、やまのなかか、しまへでも、いわあなへでも、) 谷底か、山の中か、島へでも、巌穴[いわあな]へでも、 (おつれなすってくださいまし。もう、あなたにばかりもせいいっぱい、) お連れなすって下さいまし。もう、貴下[あなた]にばかりも精一杯、 (だれにもみせられますからだではないんです。」) 誰にも見せられます身体[からだ]ではないんです。」 (そでをわずかにぬれたるかお、ゆめみるようにうっとりと、) 袖を僅[わず]かに濡れたる顔、夢見るように恍惚[うっとり]と、 (あさぼらけなるすいふよう、いろをさましたなみだのあめも、) 朝ぼらけなる酔芙蓉[すいふよう]、色をさました涙の雨も、 (つゆにやどってあわれである。) 露に宿ってあわれである。 (「ひとのこないところといって、おまちなさい、ふねででもどちらへか、」) 「人の来ない処といって、お待ちなさい、船ででもどちらへか、」 (とこころあたりがないでもなかった。おきのほうへみえそめて、) と心当りがないでもなかった。沖の方へ見え初[そ]めて、 (こどものふねがもやからでてきた。) 小児[こども]の船が靄から出て来た。 (ふじんはときにあらためて、よにでたようなまなざししたが、) 夫人は時にあらためて、世に出たような目[まな]ざししたが、 (とまぶねをひとめみると、まぶちへ、さっとあおざめて、) 苫船を一目見ると、目[ま]ぶちへ、颯[さっ]と蒼[あお]ざめて、 (ぞっとしたらしくかたをすくめた、くろかみおもげに、おきのかた。) 悚然[ぞっ]としたらしく肩をすくめた、黒髪おもげに、沖の方[かた]。 (「もし、」) 「もし、」 (「は、」) 「は、」 (「まいられますなら、あすこへでも。」) 「参られますなら、あすこへでも。」 (いかにもひとはこもらぬらしい、ものすさまじきむこうのがけ、) いかにも人は籠[こも]らぬらしい、物凄まじき対岸[むこう]の崖、 (ほのおをやどしてめいめいたり。) 炎を宿して冥々[めいめい]たり。 (「あんな、あんなその、じごくのひがもえておりますような、あのなかへ、」) 「あんな、あんなその、地獄の火が燃えておりますような、あの中へ、」 (「けっこうなんでございます、」とまたうちしおれて) 「結構なんでございます、」とまた打悄[うちしお]れて (おもてをそむける。) 面[おもて]を背ける。 (よくよくのことなるべし。) よくよくの事なるべし。 (「まいりましょうか。もやがはれれば、こことむかいあった) 「参りましょうか。靄が霽[は]れれば、ここと向い合った (おなじようながけしたでありますけれども、とちゅうがうみできれとるですから、) 同一[おなじ]ような崖下でありますけれども、途中が海で切れとるですから、 (はまづたいにひとのくるところではありません。) 浜づたいに人の来る処ではありません。 (ごらんなさい、あのこどものふねを。だいじょうぶこぐですから、) 御覧なさい、あの小児[こども]の船を。大丈夫漕ぐですから、 (あれにのせてもらいましょう、どうです。」) あれに乗せてもらいましょう、どうです。」 (ふじんは、がっくりしてうなずいた、ものをいうもせつなそうに) 夫人は、がッくりして頷いた、ものを言うも切なそうに (いたくひろうしてみえたのである。) 太[いた]く披露して見えたのである。 (「おくさん、それでは。」) 「夫人[おくさん]、それでは。」 (「はい、」) 「はい、」 (といってれいごころに、さびしいえがおして、ほっといき。) と言って礼心に、寂しい笑顔して、吻[ほっ]と息。 (「そんな、そんなあなた、つまらん、) 二十六 「そんな、そんな貴女[あなた]、詰[つま]らん、 (けしからんことがあるべきわけのものではないのです。) 怪[け]しからん事があるべき次第[わけ]のものではないのです。 (けがれたからだの、ひとにかおはあわされんのとおいいなさるのは) 汚[けが]れた身体の、人に顔は合わされんのとお言いなさるのは (そのことですか。ははははは、いや、しかしとんだめにおあいでした。) その事ですか。ははははは、いや、しかし飛んだ目にお逢いでした。 (ちっともごしんぱいはないですよ。まあ、そのあしをおふきなさい。) ちっとも御心配はないですよ。まあ、その足をお拭きなさい。 (とつぜんこんなところへつけたですから、ふねをはなれるとき、ひどくおぬれなすったようだ。」) 突然こんな処へ着けたですから、船を離れる時、酷くお濡れなすったようだ。」 (れんぺいはとににてあおすきじのあるなめらかないちざの) 廉平は砥[と]に似て蒼[あお]き条[すじ]のある滑[なめら]かな一座の (いわのうえに、うみにめんしてみすぼらしくしゃがんだ、) 岩の上に、海に面して見すぼらしく踞[しゃが]んだ、 (みにただしゃつをまとえるのみ。) 身にただ襯衣[しゃつ]を纏えるのみ。 (ふねのなかでもひとめをいとって、こんがすりのそのひとえで、) 船の中でも人目を厭[いと]って、紺がすりのその単衣[ひとえ]で、 (かたからふかくつつんでいる。うらこのけだしはうみのいろ、いわばなに) 肩から深く包んでいる。浦子の蹴出[けだ]しは海の色、巌端[いわばな]に (あおずみて、しらはぎもみずにすくよう、) 蒼澄[あおず]みて、白脛[しらはぎ]も水に透くよう、 (たおれたふぜいにやすらえる。) 倒れた風情に休らえる。 (ふたりはもやのうすもよう。) 二人は靄の薄模様。 (「かまわんですから、わたしのきものでおふきなさい。) 「構わんですから、私の衣服[きもの]でお拭きなさい。 (なに、さむくはないです、さむいどころではないですが、あなた、すそが) 何、寒くはないです、寒いどころではないですが、貴女、裾[すそ]が (ぬれましたで、きみがわるいでありましょう。」) 濡れましたで、気味が悪いでありましょう。」 (「いえ、もうしおにぬれてきみがわるいなぞと、もうされますからだでは) 「いえ、もう潮に濡れて気味が悪いなぞと、申されます身体では (ありません。」と、なげたようにいわのうえ。) ありません。」と、投げたように岩の上。 (「まだ、おっしゃる!」) 「まだ、おっしゃる!」
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