怪人二十面相80

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問題文
(ああ、なんというよういしゅうとうなけいかくだったのでしょう。にじゅうめんそうのまじゅつ)
ああ、なんという用意周到な計画だったのでしょう。二十面相の魔術
(には、いつのときも、いっぱんのひとのおもいもおよばないしかけが、ちゃんと)
には、いつのときも、一般の人の思いもおよばないしかけが、ちゃんと
(よういしてあるのです。)
用意してあるのです。
(「しかしあけちくん、たとえ、そんなほうほうではこびだすことはできたとしても、)
「しかし明智君、たとえ、そんな方法で運びだすことはできたとしても、
(まだぞくが、どうしてちんれつしつへはいったか、いつのまに、ほんものと)
まだ賊が、どうして陳列室へはいったか、いつのまに、ほんものと
(にせものとおきかえたかというなぞは、とけませんね。」)
にせものとおきかえたかというなぞは、とけませんね。」
(けいじぶちょうがあけちのことばをしんじかねるようにいうのです。)
刑事部長が明智のことばを信じかねるようにいうのです。
(「おきかえは、きのうのよふけにやりました。」)
「おきかえは、きのうの夜ふけにやりました。」
(あけちは、なにもかもしりぬいているようなくちょうでかたりつづけます。)
明智は、何もかも知りぬいているような口調で語りつづけます。
(「ぞくのぶかがばけたひとたちは、まいにちここへしごとへくるときに、にせものの)
「賊の部下が化けた人たちは、毎日ここへ仕事へ来るときに、にせものの
(びじゅつひんをすこしずつはこびいれました。えはほそくまいて、ぶつぞうはぶんかいして)
美術品を少しずつ運びいれました。絵は細く巻いて、仏像は分解して
(て、あし、くび、どうとべつべつにむしろつつみにして、だいくどうぐといっしょに)
手、足、首、銅とべつべつにむしろ包みにして、大工道具といっしょに
(もちこめば、うたがわれるきづかいはありません。みな、ぬすみだされる)
持ちこめば、うたがわれる気づかいはありません。みな、ぬすみだされる
(ことばかりけいかいしているのですから、もちこむものにちゅういなんかしません)
ことばかり警戒しているのですから、持ちこむものに注意なんかしません
(からね。そして、がんぞうひんはぜんぶ、ふるもくざいのやまにおおいかくされて、)
からね。そして、贋造品はぜんぶ、古木材の山におおいかくされて、
(ゆうべのよふけをまっていたのです。」)
ゆうべの夜ふけを待っていたのです。」
(「だが、それをだれがちんれつしつへおきかえたのです。さぎょういんたちは、みな)
「だが、それをだれが陳列室へおきかえたのです。作業員たちは、みな
(ゆうがたかえってしまうじゃありませんか。たとえそのうちなんにんかが、こっそり)
夕方帰ってしまうじゃありませんか。たとえそのうち何人かが、こっそり
(こうないにのこっていたとしても、どうしてちんれつしつへはいることができます。)
構内にのこっていたとしても、どうして陳列室へはいることができます。
(よるはすっかりでいりぐちがとざされてしまうのです。かんないには、かんちょうさんや)
夜はすっかり出入り口がとざされてしまうのです。館内には、館長さんや
(さんにんのしゅくちょくいんが、いっすいもしないでみはっていました。そのひとたちに)
三人の宿直員が、一睡もしないで見はっていました。その人たちに
(しれぬように、あのたくさんのしなものをおきかえるなんて、まったく)
知れぬように、あのたくさんの品物をおきかえるなんて、まったく
(ふかのうじゃありませんか。」)
不可能じゃありませんか。」
(かんいんのひとりが、じつにもっともなしつもんをしました。)
館員のひとりが、じつにもっともな質問をしました。
(「それにはまた、じつにだいたんふてきなしゅだんが、よういしてあったのです。)
「それにはまた、じつに大胆不敵な手段が、用意してあったのです。
(ゆうべのさんにんのしゅくちょくいんというのは、けさ、それぞれじたくへかえったのでしょう。)
ゆうべの三人の宿直員というのは、けさ、それぞれ自宅へ帰ったのでしょう。
(ひとつそのさんにんのじたくへでんわをかけて、しゅじんがかえったかどうか、たしかめて)
ひとつその三人の自宅へ電話をかけて、主人が帰ったかどうか、確かめて
(みてください。」)
みてください。」
(あけちがまたしてもみょうなことをいいだしました。さんにんのしゅくちょくいんは、)
明智がまたしてもみょうなことをいいだしました。三人の宿直員は、
(だれもでんわをもっていませんでしたが、それぞれふきんのしょうかによびだし)
だれも電話をもっていませんでしたが、それぞれ付近の商家に呼びだし
(でんわがつうじますので、かんいんのひとりがさっそくでんわをかけてみますと、)
電話が通じますので、館員のひとりがさっそく電話をかけてみますと、
(さんにんがさんにんとも、ゆうべいらいまだじたくへかえっていないことがわかりました。)
三人が三人とも、ゆうべ以来まだ自宅へ帰っていないことがわかりました。
(しゅくちょくいんたちのかていでは、こんなじけんのさいですから、きょうも、)
宿直員たちの家庭では、こんな事件のさいですから、きょうも、
(とめおかれているのだろうと、あんしんしていたというのです。)
とめおかれているのだろうと、安心していたというのです。
(「さんにんがはくぶつかんをでてからもうはちーくじかんもたつのに、そろいもそろって、)
「三人が博物館を出てからもう八ー九時間もたつのに、そろいもそろって、
(まだきたくしていないというのは、すこしおかしいじゃありませんか。)
まだ帰宅していないというのは、少しおかしいじゃありませんか。
(ゆうべてつやをした、つかれたからだで、まさかあそびまわっているわけでは)
ゆうべ徹夜をした、つかれたからだで、まさか遊びまわっているわけでは
(ありますまい。なぜさんにんがかえらなかったのか、このいみがおわかりですか。」)
ありますまい。なぜ三人が帰らなかったのか、この意味がおわかりですか。」
(あけちは、またいちどうのかおをぐるっとみまわしておいて、ことばをつづけました。)
明智は、また一同の顔をグルッと見まわしておいて、ことばをつづけました。
(「ほかでもありません。さんにんは、にじゅうめんそういちみのためにゆうかいされたのです。」)
「ほかでもありません。三人は、二十面相一味のために誘かいされたのです。」
(「え、ゆうかいされた?それはいつのことです。」)
「え、誘かいされた?それはいつのことです。」
(かんいんがさけびました。)
館員がさけびました。
(「きのうのゆうがた、さんにんがそれぞれやきんをつとめるために、じたくをでた)
「きのうの夕方、三人がそれぞれ夜勤をつとめるために、自宅を出た
(ところをです。」)
ところをです。」
(「え、え、きのうのゆうがたですって?じゃあ、ゆうべここにいたさんにんは・・・。」)
「え、え、きのうの夕方ですって?じゃあ、ゆうべここにいた三人は…。」
(「にじゅうめんそうのぶかでした。ほんとうのしゅくちょくいんはぞくのそうくつへおしこめて)
「二十面相の部下でした。ほんとうの宿直員は賊の巣くつへおしこめて
(おいて、そのかわりにぞくのぶかがはくぶつかんのしゅくちょくをつとめたのです。)
おいて、そのかわりに賊の部下が博物館の宿直をつとめたのです。
(なんてわけのないはなしでしょう。ぞくがみはりばんをつとめたんですから、)
なんてわけのない話でしょう。賊が見はり番をつとめたんですから、
(にせもののびじゅつひんのおきかえなんて、じつにぞうさもないことだったのです。)
にせものの美術品のおきかえなんて、じつに造作もないことだったのです。
(みなさん、これがにじゅうめんそうのやりくちですよ。)
みなさん、これが二十面相のやり口ですよ。