万葉集 和歌6

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(つぎねふ、やましろぢを、ひとづまの、うまよりゆくに、おのづまし、かちよりゆけば、) つぎねふ、山背道を、他夫の、馬より行くに、己夫し、徒歩より行けば、 (みるごとに、ねのみしなかゆ、そこもふに、こころしいたし、たらちねの) 見るごとに、音のみし泣かゆ、そこ思ふに、心し痛し、たらちねの、 (ははがかたみと、わがもてる、まそみかがみに、あきづひれ、おひなめもちて、) 母が形見と、我が持てる、まそみ鏡に、蜻蛉領巾、負ひ並め持ちて、 (うまかへわがせ。) 馬買へわが背。 (いづみがは、わたりぜふかみ、わがせこが、たびゆきごろも、ぬれにけるかも) 泉川、渡り瀬深み、わが背子が、旅行き衣、ひづちなむかも (まそかがみ、もてれどわれは、しるしなし、きみがかちより、なづみゆくみれば) まそみ鏡、持てれど我は、験なし、君が徒歩より、なづみ行く見れば (うまかはば、いもかちならむ、よしえやし、いしはふむとも、あはふたりゆかむ) 馬買はば、妹徒歩ならむ、よしゑやし、石は踏むとも、我は二人行かむ (つきよめば、いまだふゆなり、しかすがに、かすみたなびく、はるたちぬとか) 月数めば、いまだ冬なり、しかすがに、霞たなびく、春立ちぬとか (はつはるの、はつねのけふの、たまばはき、てにとるからに、ゆらくたまのを) 初春の、初子の今日の、玉箒、手に取るからに、ゆらく玉の緒 (みづとりの、かものはいろの、あをうまを、けふみるひとは、かぎりなしといふ) 水鳥の、鴨の羽色の、青馬を、今日見る人は、限りなしといふ
(うちなびく、はるともしるく、うぐひすは、うえきのこまを、なきわたらなむ) うちなびく、春とも著く、うぐひすは、植木の木間を、鳴き渡らなむ (うらめしく、きみはもあるか、やどのうめの、ちりすぐるまで、みしめずありける) 恨めしく、君はもあるか、やどの梅の、散り過ぐるまで、見しめずありける (やちくさの、はなはうつろふ、ときはなる、まつのさえだを、われはむすばな) 八千種の、花は移ろふ、常磐なる、松のさ枝を、我は結ばな (わがせこし、かくしきこさば、あめつちの、かみをこひのみ、ながくとそおもふ) わが背子し、かくし聞こさば、天地の、神を乞ひ祷み、長くとそ思ふ (たかまとの、ののうへのみやは、あれにけり、たたししきみの、みよとほそけば) 高円の、野の上の宮は、荒れにけり、立たしし君の、御代遠そけば (たかまとの、のべはふくずの、すえつひに、ちよにわすれむ、わがおほきみかも) 高円の、野辺延ふ葛の、末つひに、千代に忘れむ、我が大君かも (をしのすむ、きみがこのしま、けふみれば、あしびのはなも、さきにけるかも) 鴛鴦の住む、君がこの山斎、今日見れば、あしびの花も、咲きにけるかも (おほきみの、つぎてめすらし、たかまとの、のべみるごとに、ねのみしなかゆ) 大君の、継ぎて見すらし、高円の、野辺見るごとに、音のみし泣かゆ (あをうなはら、かぜなみなびき、ゆくさくさ、つつむことなく、ふねははやけむ) 青海原、風波なびき、行くさ来さ、つつむことなく、船は早けむ (あきかぜの、すえふきなびく、はぎのはな、ともにかざさず、あひかわかれむ) 秋風の、末吹きなびく、萩の花、ともにかざさず、相か別れむ
など
(あらたしき、としのはじめの、はつはるの、けふふるゆきの、いやしけよごと) 新しき、年の初めの、初春の、今日降る雪の、いやしけ吉事 (あかねさす、ひるはたたびて、ぬばたまの、よるのいとまに、つめるせりこれ) あかねさす、昼は田賜びて、ぬばたまの、夜の暇に、摘める芹これ (ますらをと、おもへるものを、たちはきて、かにはのたいに、せりそつみける) ますらをと、思へるものを、大刀佩きて、可尓波の田居に、芹そ摘みける (たかやまの、いはほにおふる、すがのねの、ねもころごろに、ふりおくしらゆき) 高山の、巌に生ふる、菅の根の、ねもころごろに、降り置く白雪 (ひたちさし、ゆかむかりもが、あがこひを、しるしてつけて、いもにしらせむ) 常陸さし、行かむ雁もが、我が恋を、記して付けて、妹に知らせむ (くじがはは、さけくありまて、しほぶねに、まかぢしじぬき、わはかへりこむ) 久慈川は、幸くあり待て、潮舟に、ま梶しじ貫き、我は帰り来む (たちばなの、したふくかぜの、かぐはしき、つくはのやまを、こひずあらめかも) 橘の、下吹く風の、かぐはしき、筑波の山を、恋ひずあらめかも (あしがらの、みさかたまはり、かへりみず、あれはくえゆく、あらしをも、たしやはばかる、) 足柄の、御坂賜はり、顧みず、我は越え行く、荒し男も、立しやはばかる、 (ふはのせき、くえてわはゆく、むまのつめ、つくしのさきに、ちまりいて、) 不破の関、越えて我は行く、馬の爪、筑紫の崎に、留まり居て、 (あれはいははむ、もろもろは、さけくとまをす、かへりくまでに。) 我は斎はむ、諸は、幸くと申す、帰り来までに。 (けふよりは、かへりみなくて、おほきみの、しこのみたてと、いでたつわれは) 今日よりは、顧みなくて、大君の、醜の御盾と、出で立つ我は (しびつくと、あまのともせる、いざりびの、ほにかいでなむ、わがしたもひを) 鮪突くと、海人の燭せる、いざり火の、ほにか出でなむ、我が下思ひを (うのはなを、くたすながめの、はなみづに、よるこづみなす、よらむこもがも) 卯の花を、腐す霜林の、始水に、寄るこづみなす、寄らむ児もがも (わたつみの、かしこきみちを、やすけくも、なくなやみきて、いまだにも、もなくゆかむと、) わたつみの、恐き道を、安けくも、なく悩み来て、今だにも、喪なく行かむと、 (ゆきのあまの、ほつてのうらへを、かたやきて、ゆかむとするに、いめのごと、) 壱岐の海人の、秀つ手の占へを、象焼きて、行かむとするに、夢のごと、 (みちのそらぢに、わかれするきみ。) 道の空路に、別れする君。 (むかしより、いひけることの、からくにの、からくもここに、わかれするかも) 昔より、言ひけることの、韓国の、辛くもここに、別れするかも (しらきへか、いへにかかへる、ゆきのしま、ゆかむたどきも、おもひかねつも) 新羅へか、家にか帰る、壱岐の島、行かむたどきも、思ひかねつも (もみちばの、ちらふやまへゆ、こぐふねの、にほひにめでて、いでてきにけり) もみぢ葉の、散らふ山辺ゆ、漕ぐ船の、にほひにめでて、出でて来にけり (たかしきの、たまもなびかし、こぎでなむ、きみがみふねを、いつとかまたむ) 竹敷の、玉藻なびかし、漕ぎ出なむ、君がみ船を、何時とか待たむ (つくよみの、ひかりをきよみ、ゆふなぎに、かこのこえよび、うらみこぐかも) 月読の、光を清み、夕なぎに、水主の声呼び、浦廻漕ぐかも (やまのはに、つきかたぶけば、いざりする、あまのともしび、おきになづさふ) 山の端に、月傾けば、いざりする、海人の灯火、沖になづさふ (いはばしる、たきもとどろに、なくせみの、こえをしきけば、みやこしおもほゆ) 石走る、瀧もとどろに、鳴く蝉の、声をし聞けば、都し思ほゆ (いそのまゆ、たぎつやまがは、たえずあらば、またもあひみむ、あきかたまけて) 磯の間ゆ、たぎつ山川、絶えずあらば、またも相見む、秋かたまけて (こひしげみ、なぐさめかねて、ひぐらしの、なくしまかげに、いほりするかも) 恋繁み、慰めかねて、ひぐらしの、鳴く島陰に、廬りするかも (われのみや、よふねはこぐと、おもへれば、おきへのかたに、かぢのおとすなり) 我のみや、夜船は漕ぐと、思へれば、沖辺の方に、梶の音すなり (わがかどの、えのみもりはむ、ももちどり、ちどりはくれど、きみそきまさぬ) 我が門の、榎の実もり食む、百千鳥、千鳥は来れど、君そ来まさぬ (わがかどに、ちどりしばなく、おきよおきよ、わがひとよづま、ひとにしらゆな) 我が門に、千鳥しば鳴く、起きよ起きよ、我が一夜夫、人に知らゆな (いゆししを、つなぐかはへの、にこぐさの、みのわかかへに、さねしこらはも) 射ゆ鹿を、つなぐ川辺の、にこ草の、身の若かへに、さ寝し児らはも (つのしまの、せとのわかめは、ひとのむた、あらかりしかど、われとははにきめ) 角島の、瀬戸のわかめは、人のむた、荒かりしかど、我とは和海藻 (おきていかば、いもばまかなし、もちてゆく、あづさのゆみの、ゆつかにもがも) 置きて行かば、妹ばまかなし、持ちて行く、梓の弓の、弓束にもがも (おくれいて、こひばくるしも、あさがりの、きみがゆみにも、ならましものを) 後れ居て、恋ひば苦しも、朝狩の、君が弓にも、ならましものを (さきもりに、たちしあさけの、かなとでに、たばなれをしみ、なきしこらはも) 防人に、立ちし朝明の、金門出に、手離れ惜しみ、泣きし児らはも (あしのはに、ゆふぎりたちて、かもがねの、さむきゆふへし、なをばしのはむ) 葦の葉に、夕霧立ちて、鴨が音の、寒き夕し、汝をば偲ばむ (こもりくの、はつせをくにに、つましあれば、いしはふめども、なほしきにけり) こもりくの、泊瀬小国に、妻しあれば、石は踏めども、なほし来にけり (かはのせの、いしふみわたり、ぬばたまの、くろまのくるよは、つねにあらぬかも) 川の瀬の、石踏み渡り、ぬばたまの、黒馬の来る夜は、常にあらぬかも (みよしのの、みかねのたけに、まなくぞ、あめはふるといふ、ときじくそ、) み吉野の、御金の岳に、間なくぞ、雨は降るといふ、時じくそ、 (ゆきはふるといふ、そのあめの、まなきがごとく、そのゆきの、ときじきがごとく、) 雪は降るといふ、その雨の、間なきがごとく、その雪の、時じきがごとく、 (まおちず、あれはそこふる、いもがただかに。) 間おちず、我はそ恋ふる、妹がただかに。 (みゆきふる、よしののたけに、いるくもの、よそにみしこに、こひわたるかも) み雪降る、吉野の岳に、居る雲の、よそに見し児に、恋ひわたるかも (うちひさつ、みやけのはらゆ、ひたつちに、あしふみぬき、なつくさを、こしになづみ、) うちひさつ、三宅の原ゆ、ひた土に、足踏み貫き、夏草を、腰になづみ、 (いかなるや、ひとのこゆえそ、かよはすもあご、うべなうべな、はははしらじ、) いかなるや、人の児ゆゑそ、通はすも我子、うべなうべな、母は知らじ、 (うべなうべな、ちちはしらじ、みなのわた、かぐろきかみに、まゆふもち、) うべなうべな、父は知らじ、蜷の腸、か黒き髪に、ま木綿もち、 (あざさゆひたれ、やまとの、つげのをくしを、おさへさす、うらぐはしこ、) あざさ結ひ垂れ、大和の、黄楊の小櫛を、押へ刺す、うらぐはし児、 (それそわがつま。) それそ我が妻。 (ちちははに、しらせぬこゆえ、みやけぢの、なつののくさを、なづみくるかも) 父母に、知らせぬ児ゆゑ、三宅道の、夏野の草を、なづみ来るかも (いづのうみに、たつしらなみの、ありつつも、つぎなむものを、みだれしめめや) 伊豆の海に、立つ白波の、ありつつも、継ぎなむものを、乱れしめめや (なつそびく、うなかみがたの、おきつすに、ふねはとどめむ、さよふけにけり) 夏麻引く、海上潟の、沖つ洲に、舟は留めむ、さ夜ふけにけり (かづしかの、ままのうらみを、こぐふねの、ふなびとさわく、なみたつらしも) 葛飾の、真間の浦廻を、漕ぐ舟の、舟人騒く、波立つらしも (つくはねの、にひぐはまよの、きぬはあれど、きみがみけしし、あやにきほしも) 筑波嶺の、新桑繭の、衣はあれど、君が御衣し、あやに着欲しも (しなのなる、すがのあらのに、ほととぎす、なくこえきけば、ときすぎにけり) 信濃なる、須我の荒野に、ほととぎす、鳴く声聞けば、時過ぎにけり (あらたまの、きえのはやしに、なをたてて、ゆきかつましじ、いをさきだたね) 麁玉の、寸戸の林に、汝を立てて、行きかつましじ、寝を先立たね (きえひとの、まだらぶすまに、わたさはだ、いりなましもの、いもがをどこに) 寸戸人の、まだら衾に、綿さはだ、入りなましもの、妹が小床に (あまのはら、ふじのしばやま、このくれの、ときゆつりなば、あはずかもあらむ) 天の原、富士の柴山、木の暗の、時ゆつりなば、逢はずかもあらむ (ふじのねの、いやとほながき、やまぢをも、いもがりとへば、けによばずきぬ) 富士の嶺の、いや遠長き、山道をも、妹がりとへば、気呻吟はず来ぬ (するがのうみ、おしへにおふる、はまつづら、いましをたのみ、ははにたがひぬ) 駿河の海、おしへに生ふる、浜つづら、汝を頼み母に違ひぬ (あしがらの、はこねのやまに、あはまきて、みとはなれるを、あはなくもあやし) 足柄の、箱根の山に、粟蒔きて、実とはなれるを、粟なくも怪し (さがむねの、をみねみかくし、わすれくる、いもがなよびて、あをねしなくな) 相模嶺の、小峰見隠し、忘れ来る、妹が名呼びて、我を音し泣くな (かまくらの、みごしのさきの、いわくえの、きみがくゆべき、こころはもたじ) 鎌倉の、水越の崎の、岩崩えの、君が悔ゆべき、心は持たじ (まかなしみ、さねにわはゆく、かまくらの、みなのせがはに、しほみつなむか) まかなしみ、さ寝に我は行く、鎌倉の、美奈能瀬川に、潮満つなむか (あしがりの、はこねのねろの、にこぐさの、はなつつまなれや、ひもとかずねむ) 足柄の、箱根の嶺ろの、にこ草の、花つ妻なれや、紐解かず寝む (ときにより、すぐればたみの、なげきなり、はちだいりゅうおう、あめやめたまへ) 時により、過ぐれば民の、嘆きなり、八大龍王、雨やめたまへ (ももつしま、あしがらをぶね、あるきおほみ、めこそかるれめ、こころはもへど) 百つ島、足柄小舟、あるき多み、目こそ離るらめ、心は思へど (あしがらの、みさかかしこみ、くもりよの、あがしたばへを、こちでつるかも) 足柄の、御坂かしこみ、曇り夜の、我が下延へを、言出つるかも (さがむぢの、よろきのはまの、まなごなす、こらはかなしく、おもはるるかも) 相模道の、余綾の浜の、真砂なす、児らはかなしく、思はるるかも (さきたまの、つにをるふねの、かぜをいたみ、つなはたゆとも、ことなたえそね) 埼玉の、津に居る舟の、風をいたみ、綱は絶ゆとも、言な絶えそね (むざしのに、うらへかたやき、まさでにも、のらぬきみがな、うらにでにけり) 武蔵野に、占へ象焼き、まさでにも、告らぬ君が名、占に出にけり (むざしのの、をぐきがきぎし、たちわかれ、いにしよひより、せろにあはなふよ) 武蔵野の、をぐきが雉、立ち別れ、去にし夕より、背ろに逢はなふよ (こひしけば、そでもふらむを、むざしのの、うけらがはなの、いろにづなゆめ) 恋しけば、袖も振らむを、武蔵野の、うけらが花の、色に出なゆめ (むざしのの、くさはもろむき、かもかくも、きみがまにまに、あはよりにしを) 武蔵野の、草は諸向き、かもかくも、君がまにまに、我は寄りにしを (いりまぢの、おほやがはらの、いはいつら、ひかばぬるぬる、わになたえそね) 入間道の、大屋が原の、いはゐつら、引かばぬるぬる、我にな絶えそね (わがせこを、あどかもいはむ、むざしのの、うけらがはなの、ときなきものを) わが背子を、あどかも言はむ、武蔵野の、うけらが花の、時なきものを (なつそびく、うなひをさして、とぶとりの、いたらむとそよ、あがしたはへし) 夏麻引く、宇奈比をさして、飛ぶ鳥の、至らむとそよ、我が下延へし (つくはねの、いはもとどろに、おつるみづ、よにもたゆらに、わがおもはなくに) 筑波嶺の、岩もとどろに、落つる水、世にもたゆらに、我が思はなくに (しなのなる、ちぐまのかはの、さざれしも、きみしふみてば、たまとひろはむ) 信濃なる、千曲の川の、さざれ石も、君し踏みてば、玉と拾はむ (あひづねの、くにをさどほみ、あはなはば、しのひにせもと、ひもむすばさね) 会津嶺の、国をさ遠み、逢はなはば、偲ひにせもと、紐結ばさね (いかほかぜ、ふくひふかぬひ、ありといへど、あがこひのみし、ときなかりけり) 伊香保風、吹く日吹かぬ日、ありといへど、我が恋のみし、時なかりけり (いかほねに、かみななりそね、わがへには、ゆえはなけども、こらによりてそ) 伊香保嶺に、雷な鳴りそね、我が上には、故はなけども、児らによりてそ (しもつけの、みかものやまの、こならのす、まぐはしころは、たがけかもたむ) 下野、三毳の山の、小楢のす、目ぐはし児ろは、誰が笥か持たむ (しもつけの、あそのかはらよ、いしふまず、そらゆときぬよ、ながこころのれ) 下野、安蘇の河原よ、石踏まず、空ゆと来ぬよ、汝が心告れ
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