岡本かの子『気の毒な奥様』

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投稿者投稿者由佳梨いいね7お気に入り登録
プレイ回数7834難易度(5.0) 1732打 長文
該当の男性を呼ぶため機転をきかせた案内係のユーモアある小説。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 つぅー 5640 A 5.6 99.1% 318.4 1812 16 22 2024/03/16
2 mm 2190 F+ 2.2 95.6% 784.7 1800 81 22 2024/03/16

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問題文

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(あるおおきなとかいのあみゅーずめんとせんたーにきつりつしているえいがでんどうでは、よるのぶがもうとっくに)

或る大きな都会の娯楽街に屹立している映画殿堂では、夜の部がもうとっくに

(はじまって、まんいんのかんきゃくのまえにはなやかならヴ・しーんがうつしだされていました。)

始まって、満員の観客の前に華やかなラヴ・シーンが映し出されていました。

(しょうめんげんかんのあがりぐちでは、やっとかんさんのみになったあんないがかりのしょうじょたちがたわいもない)

正面玄関の上り口では、やっと閑散の身になった案内係の少女達が他愛もない

(おしゃべりにむちゅうになっていました。とつぜん、かけこんできたおんながありました。)

おしゃべりに夢中になっていました。突然、駆け込んで来た女がありました。

(びんはほつれ、めはちばしり、ぜんしんはわなわなふるえています。しょうじょたちはおどろきながら)

鬢はほつれ、眼は血走り、全身はわなわな顫えています。少女達は驚きながら

(わけをたずねると、おんなはあわててどもりながらいいました。「わたしのおっとがこいびとといっしょに)

訳を訊ねると、女はあわてて吃りながら言いました。「私の夫が恋人と一緒に

(ここへきているのをしりました。いえではこどもがきゅうびょうでくるしんでいます。その)

此処へ来ているのを知りました。家では子供が急病で苦しんでいます。その

(こどもを、かかりつけのおいしゃさまにたのんでおいて、わたしはおっとをつれにとんで)

子供を、かかり付けのお医者様に頼んで置いて、私は夫をつれに飛んで

(きました。どうかはやくおっとをよびだしてください」しょうじょたちはどうじょうして、そのおんなやおっとの)

来ました。どうか早く夫を呼び出して下さい」少女達は同情して、その女や夫の

(なまえをたずねました。すると、さすがにおんなは、じぶんのおっとのはじをうちあけたうえで、)

名前を訊ねました。すると、流石に女は、自分の夫の恥を打ち明けた上で、

(なまえまでしらせることはちゅうちょしないではいられませんでした。おもいまどったおんなは、)

名前まで知らせる事は躊躇しないではいられませんでした。思いまどった女は、

(「なまえだけは、わたしたちのめいよのためもうされません。こいびとをつれてここへきている)

「名前だけは、私達の名誉の為め申されません。恋人を連れて此処へ来ている

(おとこですよ。こどもがくるしんでるのですから、はやくよびだしてください」としきりにせき)

男ですよ。子供が苦しんでるのですから、早く呼び出して下さい」と頻りに急き

(たてます。あんないがかりのしょうじょたちは、「なまえをつげなければだめです」といっても、)

立てます。案内係りの少女達は、「名前を告げなければ駄目です」と言っても、

(そのおんなは、「それをどうにかしてください」といってききません。これには)

その女は、「それをどうにかして下さい」と言ってききません。これには

(しょうじょたちもまったくこまってしまいましたが、そのうちさいはじけた1しょうじょが、こころえがおに)

少女達も全く困ってしまいましたが、其のうち才はじけた一少女が、心得顔に

(ふでをもってたてふだのうえに、おんなのことばをそのままそっくりかきしるして、ぶたいわきに)

筆を持って立札の上に、女の言葉をその儘そっくり書きしるして、舞台わきに

(もっていってたてました。こいびとをつれたおとこのかた、あなたのほんとうのおくさまがむかえに)

持って行って立てました。恋人を連れた男の方、あなたの本当の奥様が迎えに

(いらっしゃいました。おこさまがきゅうびょうだそうです。しきゅうしょうめんげんかんへ。がぜんとして)

いらっしゃいました。お子様が急病だそうです。至急正面玄関へ。俄然として

(ざせきはおおさわぎになりました。あちらからも、こちらからもりっぱなしんしがたち)

座席は大騒ぎになりました。あちらからも、こちらからも立派な紳士が立ち

など

(あがってしょうめんげんかんへさっとうしました。すうじゅうめいのしんしたちがさっとうしたのです。あきれて)

上って正面玄関へ殺到しました。数十名の紳士達が殺到したのです。呆れて

(しまったしょうじょたちは、よのなかのおくさまたちのことをかんがえて、じつにきのどくとおもいました。)

しまった少女達は、世の中の奥様達のことを考えて、実に気の毒と思いました。

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