海野十三 蠅男㊼

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※➀に同じくです。


順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 りく 6497 S 6.6 98.3% 519.0 3428 56 50 2024/10/16

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問題文

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(しゅくしょうにんげんのひみつ)

◇縮小人間の秘密◇

(じつにきちょうなるかもしたどくとるのにっきちょうだった。)

実に貴重なる鴨下ドクトルの日記帳だった。

(ぷーんとかびのにおいがはなをうつそのきいろくなったどくとるのにっきちょうのぺーじのなかから、)

プーンと黴の匂いが鼻を打つその黄色くなったドクトルの日記帳の頁の中から、

(ながらくほむらのしりたいとおもっていたはえおとこのしょうたいがついにかおを)

永らく帆村の知りたいと思っていた「蠅男」の正体が遂に顔を

(だしたのであった。)

出したのであった。

(ほむらは、あおじろいひたいのうえにじっとりとあぶらあせをにじませながら、にっきちょうのなかに)

帆村は、青白い額の上にジットリと脂汗を滲ませながら、日記帳の中に

(したためられていたおどろくべきじゅうねんまえのひみつについて、どくとるのいじ)

認(したた)められていた愕くべき十年前の秘密について、ドクトルの遺児

(かおるとそのあいじんとのまえにせつめいをした。そのたいりゃくはつぎのようなものであった。)

カオルとその愛人との前に説明をした。その大略は次のようなものであった。

(そのにっきちょうをひらげてみると、まずどくとるがひとつのすばらしいいがくてきけんきゅうを)

その日記帳を展げてみると、まずドクトルが一つの素晴らしい医学的研究を

(おもいついて、たいへんとくいらしいぶんしょうがめについた。そこには、そのけんきゅうが)

思い付いて、たいへん得意らしい文章が目についた。そこには、その研究が

(どんなすばらしいないようをもっているのか、それにはふれていなかった。)

どんな素晴らしい内容を持っているのか、それには触れていなかった。

(そのつぎには、どくとるはそのけんきゅうざいりょうとなってくれるにんげんをなんとかして)

その次には、ドクトルはその研究材料となってくれる人間を何とかして

(えたいものだとくどくどとねつぼうのことばがつらねてあった。)

獲たいものだとくどくどと熱望の言葉が連ねてあった。

(それからしばらくぺーじをくってゆくとこんどはいよいよねんがんがかなって、ちかくしけんだいになる)

それから暫く頁を繰ってゆくと今度はいよいよ念願が叶って、近く試験台になる

(にんげんをてにいれることができるかもしれないとかいてあった。)

人間を手に入れることができるかもしれないと書いてあった。

(ときのしおたけんじせいのながとうじょうしたのも、それからいくにちとたたないのちのこと)

時の塩田検事正の名が登場したのも、それから幾日と経たないのちのこと

(だった。しおたけんじせいは、よ(どくとるのこと)のねがいをいれてしけいしゅうを)

だった。塩田検事正は、予(ドクトルのこと)の願いを入れて死刑囚を

(いったんしょけいごひきわたすからあとはそのまましなすなりいかすなりおもうようにしろと)

一旦処刑後引き渡すから後はそのまま死なすなり生かすなり思うようにしろと

(いってくれたこと、ただしこれがほかにしれるとゆゆしきだいじであるからぜったいひみつを)

云ってくれたこと、但しこれが他に知れると由々しき大事であるから絶対秘密を

(まもるようにというじょうけんをもちだされたことがしたためられてあった。)

守るようにという条件を持ち出されたことが認められてあった。

など

(それからいっしゅうかんほどして、にっきちょうのぺーじはなんのためかとおかかんほどくうはくのまま)

それから一週間ほどして、日記帳の頁は何のためか十日間ほど空白のまま

(のこされていたが、そのあとのひづけのところには、とつぜんのりもとせんしろうのながあらわれ、)

残されていたが、その後の日付のところには、突然糊本千四郎の名が現われ、

(しかもまいにちつけおちもなくそのしょうそくがつけてある。このようすからみるとすでに)

しかも毎日付け落ちもなくその消息が付けてある。この様子から見ると既に

(のりもとはどくとるていにどうきょしているらしかった。)

糊本はドクトル邸に同居しているらしかった。

(にじゅうはっさいのしけいしゅうのりもとのことについては、ずっとあとにすうぺーじをついやしてくわしく)

二十八歳の死刑囚糊本のことについては、ずっと後に数頁を費やして詳しく

(せつめいがしてあった。それによると、しけいしゅうのりもとはなんようであんないにんをごうとして)

説明がしてあった。それによると、死刑囚糊本は南洋で案内人を業として

(いるうち、にほんからでかせぎできていたにしやまなにがしなるしょうにんのしょじきんをうばうため、)

いるうち、日本から出稼ぎで来ていた西山某なる商人の所持金を奪うため、

(かいがんのひとけのないところでこんぼうをふるってむざんにもぼくさつし、しょじきんをうばって)

海岸の人気のないところで棍棒をふるって無慚にも撲殺し、所持金を奪って

(とうそうした。だれしらぬとおもいのほか、それをおなじくこのちにでかせぎちゅうのどうきょうのひと、)

逃走した。誰知らぬと思いの外、それを同じくこの地に出稼ぎ中の同郷の人、

(たまやそういちろうにみられてしまい、のちにさいばんしょにおいてたまやのしょうげんがとりあげられ、)

玉屋総一郎に見られてしまい、のちに裁判所に於て玉屋の証言が取上げられ、

(のりもとはついにしけいをせんこくされたとある。)

糊本は遂に死刑を宣告されたとある。

(そのさつじんはんののりもとがけいしすると、しおたけんじせいのとりはからいでかれのまだなまあたたかい)

その殺人犯の糊本が刑死すると、塩田検事正の取計らいで彼のまだ生温かい

(したいはどくとるかもしたのまっていたしんだいじどうしゃのなかにはこびいれられた。)

屍体はドクトル鴨下の待っていた寝台自動車の中に搬び入れられた。

(のりもとはどくとるのてで、みごとにそせいせしめられた。しかしかれはそせいしたことを)

糊本はドクトルの手で、見事に蘇生せしめられた。しかし彼は蘇生したことを

(よろこぶまえに、みうごきならぬほどげんじゅうにしゅじゅつだいのうえにしばりつけられているわがみを)

悦ぶ前に、身動きならぬほど厳重に手術台の上に縛りつけられている我が身を

(あやしまねばならなかった。かれのめは、ぴかぴかひかるめすをてにした)

怪しまねばならなかった。彼の眼は、ピカピカ光るメスを手にした

(かもしたどくとるをみつけた。なにごと?ときつもんしようとおもったとき、)

鴨下ドクトルを見つけた。「何事?」と詰問しようと思ったとき、

(かれのびこうにはますいやくのたかいにおいがにおった。)

彼の鼻孔には麻酔薬の高い匂いが匂った。

(ーーどくとるのじっけんはそのようなこうけいのなかにはじまったのである。)

ーードクトルの実験はそのような光景の中に始まったのである。

(かもしたどくとるは、のりもとのてあしを、おしげもなくでんきめすでせつだんした。)

鴨下ドクトルは、糊本の手足を、惜し気もなく電気メスで切断した。

(そればかりではない。ふくこうをたちわって、ちょうをさんぶんのいちにちぢめた。いぶくろは)

そればかりではない。腹腔をたち割って、腸を三分の一に縮めた。胃袋は

(すっかりとりさられて、しょくどうとちょうとがれんけつされた。はいぞうとかじんぞうとか)

すっかり取り去られて、食道と腸とが連結された。肺臓とか腎臓とか

(ふたつあるないぞうのひとつはせつじょされた。ふようなほねやきんにくがとりさられた。)

二つある内臓の一つは切除された。不用な骨や筋肉が取り去られた。

(まんぞくなのはくびからうえだけだった。よじかんほどのうちについにしゅじゅつだいのうえののりもとの)

満足なのは頸から上だけだった。四時間ほどのうちに遂に手術台の上の糊本の

(からだは、みるかげもなくちいさくちぢめられた。まるでくびのしたににくいろのおとこまくらを)

身体は、見るかげもなく小さく縮められた。まるで首の下に肉色の男枕を

(くくりつけたようなきけいにんげんとなりはてた。なんというむざんなあさましいすがたに)

くくり付けたような畸形人間となり果てた。なんという無慚な浅ましい姿に

(かわってしまったのだろう。)

変わってしまったのだろう。

(かもしたどくとるは、はじめてほっといきをついた。)

鴨下ドクトルは、はじめてホッと息をついた。

(こうしてだいじっけんのためのしゅじゅつだけはおわったのである。かれはなぜこんな)

こうして大実験のための手術だけは終わったのである。彼はなぜこんな

(ざんぎゃくきわまるきけいにんげんをつくったのであろうか。)

残虐きわまる畸形人間を作ったのであろうか。

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