海野十三 蠅男㊿

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※➀に同じくです。


順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 りく 5985 A+ 6.1 98.0% 674.6 4122 84 74 2024/10/20

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問題文

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(あやしきおんな)

◇怪しき女◇

(おいほむらくん。ぼくはまたきみのおかげでいのちびろいをした。おれいをいう)

「おい帆村君。僕はまた君のおかげで命拾いをした。お礼をいう」

(と、むらまつけんじは、ほむらのてをかたくにぎった。)

と、村松検事は、帆村の手を固く握った。

(ほむらはん。わたしもおれいをいわしとくんなはれ)

「帆村はん。私もお礼をいわしとくんなはれ」

(と、まさきしょちょうもうやうやしくあたまをさげた。)

と、正木署長も恭しく頭を下げた。

(ほむらはゆかしくもそれをじょうだんとうけながし、)

帆村はゆかしくもそれを冗談と受け流し、

(ばくだんのきなんはたすかりましたから、それはいいとして、ここでかんがえてみなければ)

「爆弾の危難は助かりましたから、それはいいとして、ここで考えてみなければ

(ならぬのは、はえおとこがどうしてこんなせいこうなばくだんをてにいれたかということです。)

ならぬのは、蠅男がどうしてこんな精巧な爆弾を手に入れたかということです。

(こんなものは、どこでもつくれるというものではありません。ぼくのかんがえでは、)

こんなものは、どこでも作れるというものではありません。僕の考えでは、

(はえおとこはかねてこんなばくだんをよういしてあったのだとおもいます)

蠅男はかねてこんな爆弾を用意してあったのだと思います」

(そうだ。そのとおりだろう。はえおとこはこりつしたさつじんまだ。ぎゃんぐそしきでは)

「そうだ。そのとおりだろう。蠅男は孤立した殺人魔だ。ギャング組織では

(ないとおもう)

ないと思う」

(それならまさきさんとほむらはしょちょうのほうをふりむき、ぼくははえおとこがいぜんとして、)

「それなら正木さん」と帆村は署長の方を振り向き、「僕は蠅男が依然として、

(かもしたどくとるていにでいりしているんじゃないかとおもいますよ。ばくだんは、)

鴨下ドクトル邸に出入りしているんじゃないかと思いますよ。爆弾は、

(あのていないのどこかにかくしてあるのでしょう)

あの邸内のどこかに隠してあるのでしょう」

(そんなことふかのうだすなとしょちょうはふふくであった。けいかいはおくないおくがいにあって)

「そんなこと不可能だすな」と署長は不服であった。「警戒は屋内屋外にあって

(げんじゅうにしとるのでっせ。そしてやしきには、どくとるのいじかおるはんと)

厳重にしとるのでっせ。そして邸には、ドクトルの遺児カオルはんと

(いいなずけのやまじはんが、ぶじにくらしとりますんや。もしはえおとこが)

許嫁の山治はんが、無事に暮らしとりますんや。もし蠅男が

(はいりこんだのやったら、どこかでだれかがみつけるはずだすがな)

入りこんだのやったら、どこかで誰かが見つけるはずだすがな」

(いや、このばくだんをみては、ぼくはどうしてもはえおとこが、どくとるていの)

「いや、この爆弾を見ては、僕はどうしても蠅男が、ドクトル邸の

など

(ひみつそうこなんかにでいりしているとしかかんがえられんです)

秘密倉庫なんかに出入りしているとしか考えられんです」

(ひみつそうこ?そんなものが、どこかにこしらえてありますのか)

「秘密倉庫? そんなものが、どこかに拵えてありますのか」

(もちろんぼくのそうぞうなんです。なおぼくは、このこづつみをみてかんがえました。)

「もちろん僕の想像なんです。なお僕は、この小包を見て考えました。

(はえおとこは、あまりとおくへいっていないということです)

蠅男は、あまり遠くへ行っていないということです」

(それはまた、なんです)

「それはまた、なんです」

(こづつみのけしいんをみましたか。あれはゆうびんきょくでおしたものではなく、てせいの)

「小包の消印を見ましたか。あれは郵便局で押したものではなく、手製の

(ごまかしものですよ。だからあのこづつみをもってきたゆうびんきょくのはいたつふというのは、)

胡魔化しものですよ。だからあの小包を持って来た郵便局の配達夫というのは、

(おそらくはえおとこのへんそうだったにちがいありません。はえおとこにたいするかんしは)

恐らく蠅男の変装だったに違いありません。蠅男に対する監視は

(げんじゅうなんですから、はえおとこがここへでてくるようでは、そのへんに)

厳重なんですから、蠅男がここへ出てくるようでは、その辺に

(せんぷくしているのにちがいありません)

潜伏しているのに違いありません」

(そんなら、このこづつみをもってほんしょにきたはいたつふがはえおとこやったんか。)

「そんなら、この小包を持って本署に来た配達夫が蠅男やったんか。

(そら、えらいこっちゃ。ついせきさせんならん)

そら、えらいこっちゃ。追跡させんならん」

(しょちょうさん、もうおそいですよ。いまごろはえおとこは、どっかそのへんのおくじょうに)

「署長さん、もう遅いですよ。今ごろ蠅男は、どっかその辺の屋上に

(にげついて、そこからこっちのまどをみてにやっとわらっているでしょう)

逃げついて、そこからこっちの窓を見てニヤッと笑っているでしょう」

(そうか、ざんねんやなあ)

「そうか、残念やなア」

(はえおとこがきんじょにひそむというほむらのすいりに、むらまつけんじもさんせいのいをひょうした。)

蠅男が近所に潜むという帆村の推理に、村松検事も賛成の意を表した。

(それではというので、すぐさまそうさたいがへんせいせられて、いっこうはただちに)

それではというので、すぐさま捜査隊が編成せられて、一行は直ちに

(かもしたどくとるていにむかった。)

鴨下ドクトル邸に向かった。

(げんじゅうなそうさのけっか、ほむらのいったとおり、はたしてひみつそうこがちかに)

厳重な捜査の結果、帆村の云ったとおり、果たして秘密倉庫が地下に

(はっけんせられた。それは、かってもとのしょっきだなのうしろにつくられていたもので、)

発見せられた。それは、勝手許の食器棚の後ろに作られていたもので、

(ぼたんひとつで、じゆうにあけたてできるようになっていた。)

ボタン一つで、自由に開け閉て出来るようになっていた。

(いっこうは、いまさらのようにおどろいたが、なかにはいってみてにどびっくりした。)

一行は、今さらのように愕いたが、中に入ってみて二度びっくりした。

(そうこのなかには、まだいつつむっつのばくだんやら、はえおとこがつかったらしいこうぐやざいりょうが)

倉庫の中には、まだ五つ六つの爆弾やら、蠅男が使ったらしい工具や材料が

(いっぱいはいっていた。)

いっぱい入っていた。

(さあ、そういうことになると、はえおとこはどないして、ここへ)

「さあ、そういうことになると、蠅男はどないして、ここへ

(でいりしたんやろ。そいつをしらべなあかん)

出入りしたんやろ。そいつを調べなあかん」

(まさきしょちょうはにわかにふるいたって、とりしらべをはじめた。かおるもやまじも、)

正木署長は俄かに奮い立って、取り調べを始めた。カオルも山治も、

(はえおとこらしいじんぶつがこのいえにでいりしていないむねをちかった。)

蠅男らしい人物がこの家に出入りしていない旨を誓った。

(けいかいちゅうのけいかんも、おなじことをしょうげんした。)

警戒中の警官も、同じことを証言した。

(おてつだいさんがひとりと、はしゅつふがひとりといるが、おてつだいさんもしらぬと)

お手伝いさんが一人と、派出婦が一人といるが、お手伝いさんも知らぬと

(こたえた。このおてつだいさんはきのさきのざいからきているひとで、せんじつまで)

答えた。このお手伝いさんは城之崎の在から来ている人で、先日まで

(きんじょのげしゅくではたらいていたみもとかくじつなおんなだとしれた。)

近所の下宿で働いていた身許確実な女だと知れた。

(はしゅつふは、あいにくがいしゅつしていた。これはみもともはっきりしていなかった。)

派出婦は、生憎外出していた。これは身許もハッキリしていなかった。

(としのころはにじゅうさん、し。なまえはたずこといった。かおはまるがおだという。)

年齢(とし)の頃は二十三、四。名前は田鶴子といった。顔は丸顔だという。

(たずこーーというんだね)

「田鶴子ーーというんだネ」

(このたずこなるはしゅつふは、いっこうがとうちゃくするちょくぜん、ちょっとくすりやにかいものに)

この田鶴子なる派出婦は、一行が到着する直前、ちょっと薬屋に買い物に

(ゆくといってでていったそうだが、それがなかなかかえってこなかった。そこで)

ゆくといって出て行ったそうだが、それがなかなか帰って来なかった。そこで

(けいかんのひとりを、そのやっきょくへはけんしてしらべさせることにした。)

警官の一人を、その薬局へ派遣して調べさせることにした。

(まもなくそのけいかんがかえってきて、)

間もなくその警官が帰って来て、

(きんじょのくすりやをし、ごけんしらべてみましたんやけれど、どのいえでも、)

「近所の薬屋を四、五件調べてみましたんやけれど、どの家でも、

(そんなじょしはきまへんというへんじだす。けったいなことですなあ)

そんな女子は来まへんという返事だす。けったいなことですなア」

(ほむらはそれをきくと、ぽんとひざをたたいた。)

帆村はそれを聞くと、ポンと膝を叩いた。

(あっ、わかりましたよ。そのたずこというはしゅつふは、もうにどと)

「あッ、分かりましたよ。その田鶴子という派出婦は、もう二度と

(このいえにかえってきませんよ)

この家に帰って来ませんよ」

(なぜだいけんじがきいた。)

「なぜだい」検事が聞いた。

(いや、そのたずこというはしゅつふは、はえおとこのじょうふのおりゅうがばけこんでいたに)

「いや、その田鶴子という派出婦は、蠅男の情婦のお竜が化けこんでいたに

(ちがいありません。はえおとこでは、とうていはいりこめないから、そこでおりゅうがばけこんで、)

違いありません。蠅男では、到底入り込めないから、そこでお竜が化けこんで、

(ひみつそうこのなかのものをもちだしていたんです。まるがおといいましたね。)

秘密倉庫の中の物を持ち出していたんです。丸顔といいましたネ。

(おりゅうをみたにんげんは、そうたくさんいないのです。ぼくはたからづかでにどもみかけて、)

お竜を見た人間は、そう沢山いないのです。僕は宝塚で二度も見かけて、

(よくしっています。まさにおりゅうにちがいありません)

よく知っています。まさにお竜に違いありません」

(な、なんというだいたんなおんなだろう)

「な、なんという大胆な女だろう」

(さあみなさん、これによっても、はえおとこはいよいよこのふきんにせんぷくしていることが)

「さあ皆さん、これによっても、蠅男はいよいよこの附近に潜伏していることが

(めいはくになったじゃありませんか。ひとつげんきをだして、はえおとこをさがしだしてください)

明白になったじゃありませんか。一つ元気を出して、蠅男を探し出して下さい」

(ほむらのことばに、いちざはきゅうにどよめいた。)

帆村の言葉に、一座は急にどよめいた。

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