海野十三 蠅男51

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※➀に同じくです。


順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 kanta 4835 B 5.0 95.7% 589.4 2981 131 56 2024/02/19

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問題文

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(ちかにもぐる)

◇地下に潜る◇

(こうなったら、しとうである。)

こうなったら、死闘である。

(おそるべききかいかされたさつじんまを、いちにちいやいちじかんでもはやくつかまえることが)

恐るべき機械化された殺人魔を、一日いや一時間でも早く捕まえることが

(できれば、どれだけしみんはあんどのむねをなでおろすかはかりしれないのである。)

出来れば、どれだけ市民は安堵の胸をなでおろすか測り知れないのである。

(ほむらは、とうとういをけっして、けいさつがわとぜんぜんはなれて、ちまたにたんしん、)

帆村は、とうとう意を決して、警察側と全然放れて、巷に単身、

(はえおとこをさがしもとめて、きをつかめばいっきうちのしとうをまじえるかくごをした。)

蠅男を探し求めて、機をつかめば一騎打ちの死闘を交える覚悟をした。

(それをけっこうするにあたって、いとこのちいさなむねをいためないようにと、ほむらは)

それを決行するに当たって、糸子の小さな胸を痛めないようにと、帆村は

(かのじょのいえをたずねてじたいをせつめいした。)

彼女の家を訪ねて事態を説明した。

(いとこはほむらがこのうえきけんなしごとをすることにちゅうげんをこころみたけれど、)

糸子は帆村がこの上危険な仕事をすることに忠言を試みたけれど、

(かれのけついが、しみんをいっこくもはやくあんしんさせたいというもえるようなぎきょうしんから)

彼の決意が、市民を一刻も早く安心させたいという燃えるような義侠心から

(はっしていることをしると、それでもちゅうしするようにとはいえなかった。)

発していることを知ると、それでも中止するようにとは云えなかった。

(ほむらはん。これだけはちこうとくれやす。ひつよういじょうに、きけんなことを)

「帆村はん。これだけは誓(ちこ)うとくれやす。必要以上に、危険なことを

(しやはらへんことと、それからもうひとつは、ーー)

しやはらへんことと、それからもう一つは、ーー」

(それからもうひとつは?)

「それからもう一つは?」

(それからもうひとつはなあ、いちにちにいちどだけは、うちへでんわを)

「それからもう一つはなア、一日に一度だけは、うちへ電話を

(かけとくんなはらんか。そうしたら、うちこころやすれてねむられます。)

掛けとくんなはらんか。そうしたら、うち心安れて睡られます。

(よろしまんな)

よろしまんな」

(はっはっ、まるでぼうやとのおやくそくみたいですが、たしかにしょうちしました。)

「はッはッ、まるで坊やとのお約束みたいですが、確かに承知しました。

(ではこれで、ぼくはかえります)

ではこれで、僕は帰ります」

(あら、もうかえってだすの。まあ、きのはやいひとだんな。いまあなたのおすきな)

「あら、もう帰ってだすの。まあ、気の早い人だんな。いまあなたのお好きな

など

(うじようかんをまつがきっとりまんがな。おがみまっさかい、どうぞもういっぺんだけ、)

宇治羊羹を松が切っとりまんがな。拝みまっさかい、どうぞもう一遍だけ、

(おふとんのうえへすわってちょうだいな)

お蒲団の上へ坐って頂戴な」

(いとこは、しんけんなかおをして、いっかなほむらをかえそうとはしなかった。)

糸子は、真剣な顔をして、いっかな帆村を帰そうとはしなかった。

(ほむらはよていどおり、よるのやみにまぎれて、ふろうしゃすがたでてんのうじこうえんにはいりこんだ。)

帆村は予定通り、夜の闇にまぎれて、浮浪者姿で天王寺公園に入り込んだ。

(こらっ、おまえなんや?)

「こらッ、お前なんや?」

(ひからびたぶどうだなのしたにうずくまったとき、ろはだいにねていたおとこがむくむくと)

乾涸びた葡萄棚の下に蹲ったとき、ロハ台に寝ていた男がムクムクと

(おきあがって、ほむらにけんつくをくわせた。)

起き上がって、帆村に剣突をくわせた。

(ああ、おらあしんいりなんだ。こっちのおやぶんさんにしょうかいしてくれりゃ、)

「ああ、おらあ新入りなんだ。こっちの親分さんに紹介してくれりゃ、

(しつれいながらこいつをおれいにおまえさんにあげるぜ)

失礼ながらこいつをお礼にお前さんにあげるぜ」

(な、なんやと。おまえ、とうきょうものやな。おれになにをくれるちゅうのや)

「な、なんやと。お前、東京者やな。俺に何をくれるちゅうのや」

(ほむらはごじゅっせんだまをてのひらのうえにのせてみせた。かのおとこは、たちまちえびすがおに)

帆村は五十銭玉を掌の上に載せて見せた。かの男は、たちまち恵比寿顔に

(なって、いやにほむらのきげんをとりだした。)

なって、いやに帆村の機嫌をとりだした。

(ふーん、わしにまかしといたらええねん。だいじょうぶやがな。おやぶんのなは)

「ふーン、わしに任しといたらええねン。大丈夫やがナ。親分の名は

(とうぞういうのや。しょうかいしたる、さあいっしょについてこい)

藤三(とうぞう)いうのや。紹介したる、さあ一緒についてこい」

(ならへいというおとこのあんないで、ほむらはとうぞうおやぶんのはいかに)

楢平(ならへい)という男の案内で、帆村は藤三親分の配下に

(りんじにくわえてもらうことになった。)

臨時に加えて貰うことになった。

(かれはここでも、いささかかねをおやぶんにけんじょうすることをわすれなかった。)

彼はここでも、いささか金を親分に献上することを忘れなかった。

(あんまりぱっぱっとかねをつかうのはあかんぜと、さっそくおやぶんらしいちゅういをした。)

「あんまりパッパッと金を使うのはあかんぜ」と、早速親分らしい注意をした。

(へえ、あいすみませんです)

「へえ、相済みませんです」

(それからとうぞうおやぶんは、ほむらにいろいろとなかまのしゅうかんのはなしや、なわばりのこと、)

それから藤三親分は、帆村にいろいろと仲間の習慣の話や、縄張りのこと、

(もちばなどについて、こまごましたちゅういをあたえたのち、)

持ち場などについて、こまごました注意を与えたのち、

(さあ、これはこんやの、わしからのひきでものや。これをいちまい、おまえにやる)

「さあ、これは今夜の、儂からの引出物や。これを一枚、お前にやる」

(といって、いちまいのかみふだをくれた。)

と云って、一枚の紙札をくれた。

(ほむらがなんだろうとおもってみると、それはしんべっぷおんせんぷーるとかいた)

帆村が何だろうと思ってみると、それは新別府温泉プールと書いた

(いちまいのにゅうよくけんであった。)

一枚の入浴券であった。

(へえ、どうもこれは、ーー)

「へえ、どうもこれは、ーー」

(こんやはいってきたらええやないか。そこはとおかほどまえにたった)

「今夜入ってきたらええやないか。そこは十日ほど前に建った

(だいよくじょうけんごらくじょうや。もちろんぬかりはあらへんやろが、わしらのいくじかんは、)

大浴場兼娯楽場や。もちろんぬかりはあらへんやろが、儂らの行く時間は、

(ごごじゅうにじをまわってからでやぜ。わすれんようにな。ならへいにも、これをいちまいやる)

午後十二時を廻ってからでやぜ。忘れんようにな。楢平にも、これを一枚やる」

(おやぶんはにまいのにゅうよくけんをくだされた。)

親分は二枚の入浴券を下された。

(ほむらにとっては、はなはだめいわくなことであった。そんなことよりも、はやくはえおとこの)

帆村にとっては、甚だ迷惑なことであった。そんなことよりも、早く蠅男の

(しょざいをさがしたいのだった。だがおやぶんさまからのせっかくのくだされものである。)

所在を探したいのだった。だが親分様からの折角の下され物である。

(いかねば、あとのたたりのおそろしさもかんがえねばならない。やむなくほむらは、)

行かねば、後の祟りの恐ろしさも考えねばならない。やむなく帆村は、

(そのしんべっぷおんせんぷーるなるものに、ならへいとともにでかけるけっしんをした。)

その新別府温泉プールなるものに、楢平とともに出掛ける決心をした。

(だが、まさかそこに、たいへんなものがまちかまえていようとは、)

だが、まさかそこに、たいへんなものが待ち構えていようとは、

(ついぞきがつかなかったのである。)

ついぞ気がつかなかったのである。

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