フランツ・カフカ 変身④

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問題文

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(「あのへやのなかでなにかおちるおとがしましたね」とひだりがわのりんしつで)

「あの部屋のなかで何か落ちる音がしましたね」と左側の隣室で

(しはいにんがいった。ぐれごーるは、けさじぶんにおこったようなことが)

支配人がいった。グレゴールは、けさ自分に起こったようなことが

(いつかしはいにんにもおこらないだろうか、とそうぞうしようとした。)

いつか支配人にも起こらないだろうか、と想像しようとした。

(そんなことがおこるかのうせいはみとめないわけにはいかないのだ。だが、)

そんなことが起こる可能性はみとめないわけにはいかないのだ。だが、

(まるでぐれごーるのこんなといにらんぼうにこたえるかのように、りんしつのしはいにんは)

まるでグレゴールのこんな問いに乱暴に答えるかのように、隣室の支配人は

(こんどはいち、にほしっかりしたあしどりであるいて、かれのえなめるぐつを)

今度は一、二歩しっかりした足取りで歩いて、彼のエナメル靴を

(きゅうきゅうならした。ぐれごーるにしらせるため、みぎがわのりんしつからは)

きゅうきゅう鳴らした。グレゴールに知らせるため、右側の隣室からは

(いもうとのささやくこえがした。)

妹のささやく声がした。

(「ぐれごーる、しはいにんがきているのよ」)

「グレゴール、支配人がきているのよ」

(「わかっているよ」と、ぐれごーるはつぶやいた。しかし、)

「わかっているよ」と、グレゴールはつぶやいた。しかし、

(いもうとがきくことができるほどにあえてこえをたかめようとはしなかった。)

妹が聞くことができるほどにあえて声を高めようとはしなかった。

(「ぐれごーる」と、こんどはちちおやがひだりがわのりんしつからいった。「しはいにんさんが)

「グレゴール」と、今度は父親が左側の隣室からいった。「支配人さんが

(おいでになって、おまえはなぜあさのきしゃでたたなかったか、ときいておられる。)

おいでになって、お前はなぜ朝の汽車でたたなかったか、ときいておられる。

(なんともうしあげたらいいのか、わしらにはわからん。それに、しはいにんさんは)

なんと申し上げたらいいのか、わしらにはわからん。それに、支配人さんは

(おまえとじかにはなしたいといっておられるよ。だから、どあをあけてくれ。)

お前とじかに話したいといっておられるよ。だから、ドアを開けてくれ。

(へやがとりちらしてあることはおゆるしくださるさ」)

部屋が取り散らしてあることはお許し下さるさ」

(「おはよう、ざむざくん」と、ちちおやのことばにはさんでしはいにんはしたしげにさけんだ。)

「おはよう、ザムザ君」と、父親の言葉にはさんで支配人は親しげに叫んだ。

(「あのこはからだのぐあいがよくないんです」と、ははおやはちちおやがまだどあのところで)

「あの子は身体の工合がよくないんです」と、母親は父親がまだドアのところで

(しゃべっているあいだにしはいにんにむかっていった。「あのこはからだのぐあいが)

しゃべっているあいだに支配人に向かっていった。「あの子は身体の工合が

(よくないんです。ほんとうなんです、しはいにんさん。そうでなければ)

よくないんです。ほんとうなんです、支配人さん。そうでなければ

など

(どうしてぐれごーるがきしゃにのりおくれたりするでしょう!あのこは)

どうしてグレゴールが汽車に乗り遅れたりするでしょう! あの子は

(しごとのこといがいはあたまにないんですもの。やぶんにちっともそとへでかけないことを、)

仕事のこと以外は頭にないんですもの。夜分にちっとも外へ出かけないことを、

(わたしはすでにはらをたてているくらいなんです。これでいっしゅうかんもまちにいるのに、)

わたしはすでに腹を立てているくらいなんです。これで一週間も町にいるのに、

(あれはまいばんいえにこもりきりでした。わたしたちのてーぶるにすわって、)

あれは毎晩家にこもりきりでした。わたしたちのテーブルに坐って、

(しずかにしんぶんをよむとか、きしゃのじかんひょうをしらべるとかしているんです。)

静かに新聞を読むとか、汽車の時間表を調べるとかしているんです。

(いとのこざいくでもやっていれば、あのこにはもうきばらしなんですからね。)

糸のこ細工でもやっていれば、あの子にはもう気ばらしなんですからね。

(たとえばこのあいだもふたばんかみばんかかってちいさながくぶちをつくりました。)

たとえばこのあいだも二晩か三晩かかって小さな額ぶちをつくりました。

(どんなにうまくできたか、ごらんになればおどろかれるでしょうよ。あのへやに)

どんなにうまくできたか、ごらんになれば驚かれるでしょうよ。あの部屋に

(かけてあります。ぐれごーるがどあをあけましたら、すぐごらんになりますよ。)

かけてあります。グレゴールがドアを開けましたら、すぐごらんになりますよ。

(ともかく、あなたがおいでくだすって、ほんとによかったとわたしは)

ともかく、あなたがおいで下すって、ほんとによかったとわたしは

(おもっております、しはいにんさん。わたしたちだけではぐれごーるにどあを)

思っております、支配人さん。わたしたちだけではグレゴールにドアを

(あけさせるわけにはいかなかったでしょう。あのこはとてもがんこものでしてねえ。)

開けさせるわけにはいかなかったでしょう。あの子はとても頑固者でしてねえ。

(でも、あさにはなんでもないともうしておりましたが、あのこはきっと)

でも、朝にはなんでもないと申しておりましたが、あの子はきっと

(ぐあいがわるいのですよ」)

工合が悪いのですよ」

(「すぐいきますよ」と、ぐれごーるはゆっくりとようじんぶかくいったが、)

「すぐいきますよ」と、グレゴールはゆっくりと用心深くいったが、

(むこうのたいわをひとことでもききもらすまいとして、みうごきをしなかった。)

向こうの対話をひとことでも聞きもらすまいとして、身動きをしなかった。

(「おくさん、わたしにもそれいがいにはかんがえようがありませんね」と、しはいにんはいった。)

「奥さん、私にもそれ以外には考えようがありませんね」と、支配人はいった。

(「たいしたことでないといいんですが。とはいえ、いちめんでは、われわれ)

「たいしたことでないといいんですが。とはいえ、一面では、われわれ

(しょうばいにんというものは、こうかふこうかはどちらでもいいのですが、すこしぐらい)

商売人というものは、幸か不幸かはどちらでもいいのですが、少しぐらい

(かげんがわるいなんていうのは、しょうばいのことをかんがえるとあっさりきりぬけて)

かげんが悪いなんていうのは、商売のことを考えるとあっさり切り抜けて

(しまわなければならぬことがしょっちゅうありましてね」)

しまわなければならぬことがしょっちゅうありましてね」

(「では、しはいにんさんにはいっていただいてかまわないね」と、いらいらしたちちおやが)

「では、支配人さんに入っていただいてかまわないね」と、いらいらした父親が

(たずね、ふたたびどあをのっくした。)

たずね、ふたたびドアをノックした。

(「いけません」と、ぐれごーるはいった。ひだりがわのりんしつでは)

「いけません」と、グレゴールはいった。左側の隣室では

(きまずいちんもくがおとずれた。みぎがわのりんしつではいもうとがしくしくなきはじめた。)

気まずい沈黙がおとずれた。右側の隣室では妹がしくしく泣き始めた。

(なぜいもうとはほかのれんちゅうのところへいかないのだろう。きっといまやっとべっどから)

なぜ妹はほかの連中のところへいかないのだろう。きっと今やっとベッドから

(でたばかりで、まだふくをきはじめていなかったのだろう。それに、)

出たばかりで、まだ服を着始めていなかったのだろう。それに、

(いったいなぜなくのだろう。おれがおきず、しはいにんをへやへいれないからか。)

いったいなぜ泣くのだろう。おれが起きず、支配人を部屋へ入れないからか。

(おれがちいをうしなうきけんがあり、そうなるとてんしゅがふるいしゃっきんのことを)

おれが地位を失う危険があり、そうなると店主が古い借金のことを

(もちだして、またもやりょうしんをついきゅうするからだろうか。しかし、そんなことは)

もち出して、またもや両親を追求するからだろうか。しかし、そんなことは

(いまのところはふひつようなしんぱいというものだ。まだぐれごーるはここにいて、)

今のところは不必要な心配というものだ。まだグレゴールはここにいて、

(じぶんのかぞくをみすてようなどとは、ほんのすこしだってかんがえてはいないのだ。)

自分の家族を見捨てようなどとは、ほんの少しだって考えてはいないのだ。

(いまのところじゅうたんのうえにのうのうとねているし、かれのじょうたいをしったものならば)

今のところ絨毯の上にのうのうと寝ているし、彼の状態を知った者ならば

(だれだってほんきでしはいにんをへやにいれろなどとようきゅうするはずはないのだ。)

だれだって本気で支配人を部屋に入れろなどと要求するはずはないのだ。

(だが、あとになればてきとうなこうじつがたやすくみつかるはずのこんな)

だが、あとになれば適当な口実がたやすく見つかるはずのこんな

(ちょっとしたぶれいなふるまいのために、ぐれごーるがすぐにみせから)

ちょっとした無礼なふるまいのために、グレゴールがすぐに店から

(おいはらわれるなどということはありえない。そして、ないたり)

追い払われるなどということはありえない。そして、泣いたり

(せっとくしようとしたりしてしはいにんのきをわるくさせるよりは、いまはかれを)

説得しようとしたりして支配人の気を悪くさせるよりは、今は彼を

(そっとしておくほうがずっとけんめいなやりかただ、というように)

そっとしておくほうがずっと賢明なやりかただ、というように

(ぐれごーるにはおもわれた。だが、ほかのひとびとをとうわくさせ、かれらの)

グレゴールには思われた。だが、ほかの人びとを当惑させ、彼らの

(ふるまいがむりもないとおもわせたのは、まさにこのぐれごーるの)

ふるまいが無理もないと思わせたのは、まさにこのグレゴールの

(けっしんがつかないたいどだった。)

決心がつかない態度だった。

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