江戸川乱歩 屋根裏の散歩者㉓(終)

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(「ありがとう、よくほんとうのことをうちあけてくれた」さいごにあけちがいうのでした。)

「有難う、よくほんとうのことを打明けてくれた」最後に明智が云うのでした。

(「ぼくはけっしてきみのことをけいさつへうったえなぞしないよ、ただねぼくのはんだんが)

「僕は決して君のことを警察へ訴えなぞしないよ、ただね僕の判断が

(あたっているかどうか、それがたしかめたかったのだ。きみもしっているとおり、)

当たっているかどうか、それが確かめたかったのだ。君も知っている通り、

(ぼくのきょうみはただ「しんじつをしる」というてんにあるので、それいじょうのことは、)

僕の興味はただ『真実を知る』という点にあるので、それ以上のことは、

(じつはどうでもいいのだ。それにね、このはんざいには、ひとつもしょうこというものが)

実はどうでもいいのだ。それにね、この犯罪には、一つも証拠というものが

(ないのだよ。しゃつのぼたん、はは・・・、あれはぼくのとりっくさ。なにか)

ないのだよ。シャツの釦、ハハ・・・、あれは僕のトリックさ。何か

(しょうこひんがなくては、きみがしょうちしまいとおもってね。このまえきみをたずねたとき、)

証拠品がなくては、君が承知しまいと思ってね。この前君を訪ねた時、

(そのにばんめのぼたんがとれていることにきづいたものだから、ちょっと)

その二番目の釦がとれていることに気附いたものだから、ちょっと

(りようしてみたのさ。なに、これはぼくがぼたんやへいってしいれてきたのだよ。)

利用して見たのさ。ナニ、これは僕が釦屋へ行って仕入れて来たのだよ。

(ぼたんがいつとれたなんていうことは、だれしもあまりきづかないことだし、)

釦がいつとれたなんていう事は、誰しもあまり気附かないことだし、

(それに、きみはこうふんしているさいだから、たぶんうまくいくだろうとおもってね。)

それに、君は興奮している際だから、多分うまく行くだろうと思ってね。

(ぼくがえんどうくんのじさつをうたがいだしたのはきみもしっているように、)

僕が遠藤君の自殺を疑い出したのは君も知っている様に、

(あのめざましどけいからだ。あれから、このかんかつのけいさつしょちょうをたずねて、)

あの目覚し時計からだ。あれから、この管轄の警察署長を訪ねて、

(ここへりんけんしたひとりのけいじから、くわしくとうじのもようをきくことができたが、)

ここへ臨検した一人の刑事から、詳しく当時の模様を聞くことが出来たが、

(そのはなしによると、もるひねのびんがたばこのはこのなかにころがっていて、)

その話によると、モルヒネの瓶が煙草の箱の中にころがっていて、

(なかみがまきたばこにこぼれかかっていたというのだ。けいさつのひとたちはこれに)

中味が巻煙草にこぼれかかっていたというのだ。警察の人達はこれに

(べつだんちゅういをはらわなかったようだが、かんがえてみればはなはだみょうなことではないか、)

別段注意を払わなかった様だが、考えて見れば甚だ妙なことではないか、

(きけば、えんどうはひじょうにきちょうめんなおとこだというし、ちゃんととこにはいって)

聞けば、遠藤は非常に几帳面な男だというし、ちゃんと床に這入って

(しぬよういまでしているものが、どくやくのびんをたばこのはこのなかへおくさえあるに、)

死ぬ用意までしているものが、毒薬の瓶を煙草の箱の中へ置くさえあるに、

(しかもなかみをこぼすなどというのは、なんとなくふしぜんではないか。)

しかも中味をこぼすなどというのは、何となく不自然ではないか。

など

(そこで、ぼくはますますうたがいをふかくしたわけだが、ふときづいたのは)

そこで、僕は益々疑いを深くした訳だが、ふと気附いたのは

(きみのえんどうのしんだひからたばこをすわなくなっていることだ。このふたつのことがらは、)

君の遠藤の死んだ日から煙草を吸わなくなっていることだ。この二つの事柄は、

(ぐうぜんのいっちにしては、すこしみょうではあるまいか。すると、ぼくは、)

偶然の一致にしては、少し妙ではあるまいか。すると、僕は、

(きみがいぜんはんざいのまねごとなどをしてよろこんでいたことをおもいだした。きみには)

君が以前犯罪の真似事などをして喜んでいたことを思い出した。君には

(へんたいてきなはんざいしこうへきがあったのだ。)

変態的な犯罪嗜好癖があったのだ。

(ぼくはあれからたびたびこのげしゅくへきて、きみにしれないようにえんどうのへやを)

僕はあれから度々この下宿へ来て、君に知れない様に遠藤の部屋を

(しらべていたのだよ。そして、はんにんのつうろはてんじょうのほかにないということが)

調べていたのだよ。そして、犯人の通路は天井の外にないということが

(わかったものだから、きみのいわゆる「やねうらのさんぽ」によって、)

分ったものだから、君のいわゆる『屋根裏の散歩』によって、

(ししゅくにんたちのようすをさぐることにした。ことに、きみのへやのうえでは、たびたびながいあいだ)

止宿人達の様子を探ることにした。殊に、君の部屋の上では、度々長い間

(うずくまっていた。そして、きみのあのいらいらしたようすを、すっかり)

うずくまっていた。そして、君のあのイライラした様子を、すっかり

(すきみしてしまったのだよ。)

隙見してしまったのだよ。

(さぐればさぐるほど、すべてのじじょうがきみにゆびさししている。だが、ざんねんなことには、)

探れば探る程、凡ての事情が君に指差ししている。だが、残念なことには、

(かくしょうというものがひとつもないのだ。そこでね。ぼくはあんなおしばいを)

確証というものが一つもないのだ。そこでね。僕はあんなお芝居を

(かんがえだしたのだよ、はははははは。じゃ、これでしっけいするよ。)

考え出したのだよ、ハハハハハハ。じゃ、これで失敬するよ。

(たぶんもうおめにかかれまい。なぜって、そら、きみはちゃんと)

多分もう御目にかかれまい。なぜって、ソラ、君はちゃんと

(じしゅするけっしんをしているのだからね」)

自首する決心をしているのだからね」

(さぶろうは、このあけちのとりっくにたいしても、もはやなんのかんじょうもおこらないのでした。)

三郎は、この明智のトリックに対しても、最早何の感情も起こらないのでした。

(かれはあけちのたちさるのもしらずがおに、「しけいにされるときのきもちは、いったい)

彼は明智の立去るのも知らず顔に、「死刑にされる時の気持は、一体

(どんなものだろう」ただそんなことを、ぼんやりとかんがえこんでいるのでした。)

どんなものだろう」ただそんなことを、ボンヤリと考え込んでいるのでした。

(かれはどくやくのびんをふしあなからおとしたとき、それがどこへおちたのかをみなかったように)

彼は毒薬の瓶を節穴から落とした時、それがどこへ落ちたのかを見なかった様に

(おもっていましたけれど、そのじつは、まきたばこにどくやくのこぼれたことまで、)

思っていましたけれど、その実は、巻煙草に毒薬のこぼれたことまで、

(ちゃんとみていたのです。そして、それがいしきかにおしこめられて、)

ちゃんと見ていたのです。そして、それが意識下に押込められて、

(せいしんてきにかれをたばこぎらいにさせてしまったのでした。)

精神的に彼を煙草嫌いにさせてしまったのでした。

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