夢野久作 いなか、の、じけん 1
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問題文
(おおきなてがかり)
大きな手がかり
(そんちょうさんのところのこめぐらから、はくまいをよんひょうぬすんでいったものがある。)
村長さんの処の米倉から、白米を四俵《ひょう》盗んで行ったものがある。
(あくるあさはやくちゅうざいのおまわりさんがきてしらべたら、)
あくる朝早く駐在の巡査《おまわり》さんが来て調べたら、
(たわらをつんでいったらしいくるまのわのあとが、)
俵《たわら》を積んで行ったらしい車の輪のあとが、
(あまあがりのつちにはっきりついていた。そのあとをつけていくと、)
雨あがりの土にハッキリついていた。そのあとをつけて行くと、
(まちへでるとちゅうの、とあるむらはずれのいっけんやののきしたに、)
町へ出る途中の、とある村外《はず》れの一軒屋の軒下に、
(そのこめだわらをつんだくるまがおいてあって、そのよこのえんだいのうえに、)
その米俵を積んだ車が置いてあって、その横の縁台の上に、
(ほおかぶりをしたおとこがだいのじになって、)
頬冠《ほおかぶ》りをした男が大の字になって、
(ぐうぐうといびきをかいていた。ひっとらえてみるとそれは、)
グウグウとイビキをかいていた。引っ捕えてみるとそれは、
(そのかいわいでもてあましもののばくちうちであった。)
その界隈で持てあまし者の博奕打《ばくちう》ちであった。
(ばくちうちはぬすんだこめをまちへうりにいくとちゅう、)
博奕打ちは盗んだ米を町へ売りに行く途中、
(ひさしぶりにからだをつかってくたびれたので、)
久し振りに身体《からだ》を使ってクタビレたので、
(ちょっとのつもりでやすんだのが、おもわずねすごしたのであった。)
チョットのつもりで休んだのが、思わず寝過ごしたのであった。
(こしなわをうたれたままくるまをひっぱってゆくおとこの、)
腰縄を打たれたまま車を引っぱってゆく男の、
(うしろすがたをみおくったひとびとは、ためいきしていった。)
うしろ姿を見送った人々は、ため息して云った。
(「わるいことはできんなあ」)
「わるい事は出来んなあ」