江戸川乱歩 D坂⑱
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 123 | 6207 | A++ | 6.4 | 96.1% | 509.9 | 3296 | 131 | 53 | 2024/10/25 |
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問題文
(「で、きみははんにんのけんとうがついているのですか」)
「で、君は犯人の見当がついているのですか」
(「ついていますよ」かれはあたまをもじゃもじゃやりながらこたえた。)
「ついていますよ」彼は頭をモジャモジャやりながら答えた。
(「ぼくのやりかたは、きみとはすこしちがうのです。ぶっしつてきなしょうこなんてものは、)
「僕のやり方は、君とは少し違うのです。物質的な証拠なんてものは、
(かいしゃくのしかたでどうでもなるものですよ。いちばんいいたんていほうは、)
解釈の仕方でどうでもなるものですよ。一番いい探偵法は、
(しんりてきにひとのこころのおくそこをみぬくことです。だが、これは)
心理的に人の心の奥底を見抜くことです。だが、これは
(たんていしゃじしんののうりょくのもんだいですがね。ともかく、ぼくはこんどはそういうほうめんに)
探偵者自身の能力の問題ですがね。兎も角、僕は今度はそういう方面に
(おもきをおいてやってみましたよ。)
重きを置いてやって見ましたよ。
(さいしょぼくのちゅういをひいたのは、ふるほんやのさいくんのからだじゅうにある)
最初僕の注意を惹いたのは、古本屋の細君の身体中にある
(なまきずのあったことです。それからまもなく、ぼくはそばやのさいくんのからだにも)
生傷のあったことです。それから間もなく、僕は蕎麦屋の細君の身体にも
(おなじようななまきずがあることをききこみました。これはきみもしっているでしょう。)
同じ様な生傷があることを聞き込みました。これは君も知っているでしょう。
(しかし、かのじょらのおっとは、そんならんぼうものでもなさそうです。)
しかし、彼女等の夫は、そんな乱暴者でもなさそうです。
(ふるほんやにしてもそばやにしても、おとなしそうな、)
古本屋にしても蕎麦屋にしても、おとなしそうな、
(ものわかりのいいおとこなんですからね。ぼくはなんとなく、そこに)
物分りのいい男なんですからね。僕は何となく、そこに
(あるひみつがふくざいしているのではないかとうたがわないではいられなかったのです。)
ある秘密が伏在しているのではないかと疑わないではいられなかったのです。
(で、ぼくはまずふるほんやのしゅじんをとらえて、かれのくちからそのひみつを)
で、僕は先ず古本屋の主人を捉えて、彼の口からその秘密を
(さぐりだそうとしました。ぼくがしんださいくんのしりあいだというので、)
探り出そうとしました。僕が死んだ細君の知り合いだというので、
(かれもいくらかきをゆるしていましたから、それはひかくてきらくにいきました。)
彼もいくらか気を許していましたから、それは比較的楽に行きました。
(そして、あるへんなじじつをききだすことができたのです。)
そして、ある変な事実を聞き出すことが出来たのです。
(ところが、こんどはそばやのしゅじんですが、かれは、ああみえても)
ところが、今度は蕎麦屋の主人ですが、彼は、ああ見えても
(なかなかしっかりしたおとこですから、さぐりだすのにかなりほねがおれましたよ。)
なかなかしっかりした男ですから、探り出すのにかなり骨が折れましたよ。
(でも、ぼくはあるほうほうによって、うまくせいこうしたのです。)
でも、僕はある方法によって、うまく成功したのです。
(きみは、しんりがくじょうのれんそうしんだんほうが、はんざいそうさのほうめんにもりようされはじめたのを)
君は、心理学上の聯想診断法が、犯罪捜査の方面にも利用され始めたのを
(しっているでしょう。たくさんのかんたんなしげきごをあたえて、)
知っているでしょう。沢山の簡単な刺戟語を与えて、
(それにたいするけんぎしゃのかんねんれんごうのちそくをはかる、あのほうほうです。)
それに対する嫌疑者の観念聯合の遅速を計る、あの方法です。
(しかし、あれはかならずしも、しんりがくしゃのいうように、)
しかし、あれは必ずしも、心理学者の云う様に、
(いぬだとかいえだとかかわだとか、かんたんなしげきごにはかぎらないし、そしてまた、)
犬だとか家だとか川だとか、簡単な刺戟語には限らないし、そして又、
(つねにくろのすこーぷのたすけをかりるひつようもないと、ぼくはおもいますよ。)
常にクロノスコープの助けを借りる必要もないと、僕は思いますよ。
(れんそうしんだんのこつをさとったものにとっては、そのようなけいしきは)
聯想診断のこつを悟ったものにとっては、その様な形式は
(たいしたひつようではないのです。それがしょうこに、むかしのめいはんがんとか)
大した必要ではないのです。それが証拠に、昔の名判官とか
(めいたんていとかいわれるひとはしんりがくがこんにちのようにはったつしないいぜんから、)
名探偵とかいわれる人は心理学が今日の様に発達しない以前から、
(ただかれらのてんぴんによって、しらずしらずのあいだに、このしんりてきほうほうを)
ただ彼等の天稟によって、知らず識らずの間に、この心理的方法を
(じっこうしていたではありませんか。おおおかえちぜんのかみなどもたしかにそのひとりですよ。)
実行していたではありませんか。大岡越前守なども確かにその一人ですよ。
(しょうせつでいえば、ぽおの「る・もるぐ」のはじめに、でゅぱんが)
小説で云えば、ポオの『ル・モルグ』の始めに、デュパンが
(ともだちのからだのうごきかたひとつによって、そのこころにおもっていることを)
友達の身体の動き方一つによって、その心に思っていることを
(いいあてるところがありますね。どいるもそれをまねて、)
云い当てる所がありますね。ドイルもそれを真似て、
(「れじでんと・ぺーしぇんと」のなかで、ほーむずにおなじようなすいりを)
『レジデント・ペーシェント』の中で、ホームズに同じ様な推理を
(やらせますが、これらはみな、あるいみのれんそうしんだんですからね。)
やらせますが、これらは皆、ある意味の聯想診断ですからね。
(しんりがくしゃのしゅじゅのきかいてきほうほうは、ただこうしたてんぴんのどうさつりょくをもたぬ)
心理学者の種々の機械的方法は、ただこうした天稟の洞察力を持たぬ
(ぼんじんのためにつくられたものにすぎませんよ。)
凡人の為に作られたものに過ぎませんよ。
(はなしがわきみちにはいりましたが、ぼくはそういういみで、そばやのしゅじんにたいして、)
話が脇路に入りましたが、僕はそういう意味で、蕎麦屋の主人に対して、
(いっしゅのれんそうしんだんをやったのです。ぼくはかれにいろいろのはなしをしかけました。)
一種の聯想診断をやったのです。僕は彼に色々の話をしかけました。
(それもごくつまらないせけんばなしをね。そして、かれのしんりてきはんのうをけんきゅうしたのです。)
それも極くつまらない世間話をね。そして、彼の心理的反応を研究したのです。
(しかし、これはひじょうにでりけーとなこころもちのもんだいで、)
しかし、これは非常にデリケートな心持の問題で、
(それにかなりふくざつしてますから、くわしいことはいずれゆっくりはなすとして、)
それにかなり複雑してますから、詳しいことはいずれゆっくり話すとして、
(ともかくそのけっか、ぼくはひとつのかくしんにとうたつしました。)
兎も角その結果、僕は一つの確信に到達しました。
(つまりはんにんをみつけたのです。)
つまり犯人を見つけたのです。
(しかしぶっしつてきのしょうこというものはひとつもないのです。だから、)
しかし物質的の証拠というものは一つもないのです。だから、
(けいさつにうったえるわけにもいきません。よしうったえても、おそらく)
警察に訴える訳にも行きません。よし訴えても、恐らく
(とりあげてくれないでしょう。それに、ぼくがはんにんをしりながら、)
取り上げてくれないでしょう。それに、僕が犯人を知りながら、
(てをつかねてみているもうひとつのりゆうは、このはんざいには)
手を束(つか)ねて見ているもう一つの理由は、この犯罪には
(すこしもあくいがなかったというてんです。へんないいかたですが、)
少しも悪意がなかったという点です。変な云い方ですが、
(このさつじんじけんは、はんにんとひがいしゃとどういのうえでおこなわれたのです。いや、)
この殺人事件は、犯人と被害者と同意の上で行われたのです。いや、
(ひょっとしたらひがいしゃじしんのきぼうによっておこなわれたのかもしれません」)
ひょっとしたら被害者自身の希望によって行われたのかも知れません」