江戸川乱歩 赤い部屋⑭
関連タイピング
-
プレイ回数12万歌詞200打
-
プレイ回数4.4万歌詞1030打
-
プレイ回数77万長文300秒
-
プレイ回数97万長文かな1008打
-
プレイ回数6.9万長文1159打
-
プレイ回数2.6万長文かな779打
-
プレイ回数1217歌詞かな1186打
-
プレイ回数427歌詞999打
問題文
(そこでしゅつりょうをやすんでいたりょうしなどがやってきて)
そこで出漁を休んでいた漁師などがやって来て
(ともだちをかいほうしてくれましたが、ひどくのうをうったためでしょう。)
友達を介抱してくれましたが、ひどく脳を打った為でしょう。
(もうそせいのみこみはありませんでした。みると、あたまのてっぺんが)
もう蘇生の見込みはありませんでした。見ると、頭のてっぺんが
(ごろくすんきれて、しろいにくがむくれあがっている。)
五六寸切れて、白い肉がむくれ上がっている。
(そのあたまのおかれてあったじめんには、おびただしいちしおがあかぐろくかたまっていました。)
その頭の置かれてあった地面には、夥しい血潮が赤黒く固まっていました。
(あとにもさきにも、わたしがけいさつのとりしらべをうけたのはたったにどきりですが、)
あとにも先にも、私が警察の取調べを受けたのはたった二度きりですが、
(そのひとつがこのばあいでした。)
その一つがこの場合でした。
(なにぶんひとのみていないところでおこったじけんですから、)
なにぶん人の見ていない所で起こった事件ですから、
(いちおうのとりしらべをうけるのはとうぜんです。しかし、わたしとそのともだちとは)
一応の取調べを受けるのは当然です。しかし、私とその友達とは
(しんゆうのあいだがらでそれまでにいさかいひとつしたこともないとわかっているのですし、)
親友の間柄でそれまでにいさかい一つした事もないと分っているのですし、
(またとうじのじじょうとしては、わたしもかれもそのかいていにいわのあることをしらず、)
又当時の事情としては、私も彼もその海底に岩のあることを知らず、
(さいわいわたしはすいえいがじょうずだったためにあぶないところをのがれたけれども、)
幸い私は水泳が上手だった為に危ない所をのがれたけれども、
(かれはそれがへただったばっかりにこのふしょうじをひきおこしたのだ)
彼はそれが下手だったばっかりにこの不祥事を惹き起こしたのだ
(ということがめいはくになったものですから、なんなくうたがいははれ、)
ということが明白になったものですから、難なく疑いは晴れ、
(わたしはかえってけいさつのひとたちから「ともだちをなくされておきのどくです」と)
私は却って警察の人達から「友達をなくされてお気の毒です」と
(くやみのことばまでかけてもらうありさまでした。)
悔やみの言葉までかけて貰う有様でした。
(いや、こんなふうにひとつひとつのじつれいをならべていたんではさいげんがありません。)
いや、こんな風に一つ一つの実例を並べていたんでは際限がありません。
(もうこれだけもうしあげれば、みなさんもわたしのいわゆる)
もうこれだけ申し上げれば、皆さんも私の所謂
(ぜったいにほうりつにふれないさつじんほうを、だいたいおわかりくだすったこととおもいます。)
絶対に法律にふれない殺人法を、大体御分り下すったことと思います。
(すべてこのちょうしなんです。)
すべてこの調子なんです。
(あるときはさーかすのけんぶつにんのなかにまじっていて、とつぜん、)
ある時はサーカスの見物人の中に混じっていて、突然、
(ここでおはなしするのははずかしいようなとほうもないへんてこなしせいをしめして、)
ここで御話するのは恥ずかしい様な途方もない変てこな姿勢を示して、
(たかいところでつなわたりをしていたおんなげいにんのちゅういをうばい、)
高い所で綱渡りをしていた女芸人の注意を奪い、
(そのおんなをついらくさせてみたり、かじばで、)
その女を墜落させて見たり、火事場で、
(わがこをもとめてはんきょうらんのようになっていたどこかのさいくんに、)
我が子を求めて半狂乱の様になっていたどこかの細君に、
(こどもはいえのなかにねかせてあるのだ「そらないているこえがきこえるでしょう」)
子供は家の中に寝かせてあるのだ「ソラ泣いている声が聞こえるでしょう」
(などとあんじをあたえて、そのさいくんをもうかのなかへとびこませ、)
などと暗示を与えて、その細君を猛火の中へ飛び込ませ、
(ついやきころしてしまったり、あるいはまた、いまやみなげをしようとしている)
つい焼殺してしまったり、或いは又、今や身投げをしようとしている
(むすめのはいごから、とつぜん「まった」ととんきょうなこえをかけて、)
娘の背後から、突然「待った」と頓狂な声をかけて、
(そうでなければ、みなげをおもいとまったかもしれないそのむすめを、)
そうでなければ、身投げを思いとまったかも知れないその娘を、
(はっとさせたひょうしにみずのなかへとびこませてしまったり、)
ハッとさせた拍子に水の中へ飛び込ませてしまったり、
(それはおはなしすればかぎりもないのですけれど、)
それはお話すれば限りもないのですけれど、
(もうだいぶんよるもふけたことですし、それに、みなさんもこのようなざんこくなはなしは)
もう大分夜も更けたことですし、それに、皆さんもこの様な残酷な話は
(もうこれいじょうおききになりたくないでしょうから、さいごにすこし)
もうこれ以上御聞きになりたくないでしょうから、最後に少し
(ふうがわりなのをひとつだけもうしあげてよすことにいたしましょう。)
風変りなのを一つだけ申し上げてよすことに致しましょう。