ダゴン H. P. ラヴクラフ ①
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問題文
(かなりのすとれすをかんじながら、これをかいている。)
かなりのストレスを感じながら、これを書いている。
(こんやにはもう、いきていないだろう。かねも、たのみのつなのくすりもつきた。)
今夜にはもう、生きていないだろう。金も、頼みの綱のクスリも尽きた。
(これいじょう、くるしみにはたえられない。このやねうらのまどから、)
これ以上、苦しみには耐えられない。この屋根裏の窓から、
(したのうすぎたないとおりに、みをなげることにしよう。)
下のうす汚い通りに、身を投げることにしよう。
(もるひねちゅうどくがげんいんで、からだがよわり、)
モルヒネ中毒が原因で、身体が弱り、
(せいしんもだらくしたのだとかんがえないでほしい。らんざつにはしりかいた)
精神も堕落したのだと考えないでほしい。乱雑に走り書いた
(このぶんしょうをよんでもらえば、かんぜんにりかいするのはむりにしても、)
この文章を読んでもらえば、完全に理解するのは無理にしても、
(いったいぜんたいなぜわたしがぼうきゃくやしをのぞんでいるのか、けんとうはつくとおもう。)
一体全体なぜ私が忘却や死を望んでいるのか、見当はつくと思う。
(ふなにかんとくとしてじょうせんしていたていきせんがどいつのしゅうげきていにとらえられたのは、)
船荷監督として乗船していた定期船がドイツの襲撃艇に捕らえられたのは、
(ひろいたいへいようのなかでもいちだんとひろびろとして、ふねのおうらいがめったにないかいいきだった。)
広い太平洋のなかでも一段と広々として、船の往来がめったにない海域だった。
(たいせんははじまったばかりで、どいつじんどものかいぐんも、のちのようにおちぶれきっては)
大戦は始まったばかりで、ドイツ人どもの海軍も、後のように落ちぶれきっては
(いなかった。ふねはごうほうてきなせんりひんにされたといえ、のりくみいんはかいぐんのほりょとして、)
いなかった。船は合法的な戦利品にされたといえ、乗組員は海軍の捕虜として、
(そうおうのこうせいさとはいりょをもってあつかわれた。)
相応の公正さと配慮をもって扱われた。
(やつらのぐんきがじつにおおらかだったおかげで、だほされてからいつかご、)
やつらの軍規が実に大らかだったおかげで、拿捕されてから五日後、
(ちいさなぼーとにちょうきかんもつだけのみずとしょくりょうをつみ、)
小さなボートに長期間もつだけの水と食料を積み、
(ひとりにげおおすことができた。)
ひとり逃げおおすことができた。
(ようやくじゆうに、そしてひょうりゅうするみとなったが、じぶんがどこにいるのか、)
ようやく自由に、そして漂流する身となったが、自分がどこにいるのか、
(まったくわからない。すぐれたこうかいしではなかったので、たいようとほしのいちから、)
まったく分からない。優れた航海士ではなかったので、太陽と星の位置から、
(せきどうのややみなみにいるとなんとなくすいそくするしかできなかった。)
赤道のやや南にいるとなんとなく推測するしかできなかった。
(いどについてはまったくわからず、しまやかいがんせんはどこにもみえない。)
緯度についてはまったく分からず、島や海岸線はどこにも見えない。
(はれたひがつづき、やけつくようなたいようのした、なんにちもあてどなくひょうりゅうした。)
晴れた日がつづき、焼けつくような太陽の下、何日もあてどなく漂流した。
(とおりすがりのふねか、ひとがすめるりくちのきしにうちあげられるのをまっていた。)
通りすがりの船か、人が住める陸地の岸に打ち上げられるのを待っていた。
(しかしふねもりくちもみえてこず、はてしないうみのこうだいなうねりのなかに)
しかし船も陸地も見えてこず、果てしない海の広大なうねりの中に
(こりつしているじょうたいにぜつぼうをかんじはじめた。)
孤立している状態に絶望を感じ始めた。
(じょうきょうがかわったのは、ねているあいだだった。なにがおきたか、くわしくはわからない。)
状況が変わったのは、寝ている間だった。何が起きたか、詳しくはわからない。
(というのも、ゆめにうなされ、よくねむれなかったとはいえ、)
というのも、夢にうなされ、よく眠れなかったとはいえ、
(ずっとまどろんでいたからだ。ようやくめがさめると、まっくろなどろの)
ずっとまどろんでいたからだ。ようやく目が覚めると、真っ黒な泥の
(ねばねばしたなかにはんしんがのみこまれていた。みわたすかぎり、そのぬかるみは)
ネバネバしたなかに半身が飲み込まれていた。見渡すかぎり、そのぬかるみは
(たんちょうなきふくとしてまわりにひろがっていた。)
単調な起伏としてまわりに広がっていた。
(すこしはなれたところに、ぼーとがのりあげていた。)
少し離れたところに、ボートが乗り上げていた。
(けたはずれの、よそうもつかないふうけいのへんかに、まずはおどろいたのだろうと)
けたはずれの、予想もつかない風景の変化に、まずは驚いたのだろうと
(おもわれるかもしれない。しかし、ほんとうのところ、おどろきよりも)
思われるかもしれない。しかし、本当のところ、驚きよりも
(きょうふのほうがおおきかった。まわりのくうきやくさったどろにふきつなけはいがあって、)
恐怖の方が大きかった。まわりの空気や腐った泥に不吉な気配があって、
(からだのしんまでこおるようだった。あたりにはひどいあくしゅうがただよっており、くさったしぎょや、)
体の芯まで凍るようだった。辺りにはひどい悪臭が漂っており、腐った死魚や、
(みたところなんともいいようのないもののしがいが、)
見たところなんとも言いようのないものの死骸が、
(はてしなくひろがるふけつなどろのへいげんからつきでている。)
果てしなく広がる不潔な泥の平原から突き出ている。
(かんぜんなしずけさのなか、ふもうなむげんのくうかんにやどるいいようのないおそろしさは、)
完全な静けさの中、不毛な無限の空間に宿る言いようのない恐ろしさは、
(ひょっとするとことばだけではつたわらないかもしれない。)
ひょっとすると言葉だけでは伝わらないかもしれない。
(なにもきこえず、いちめんにひろがるくろいどろのほかはなにもみえない。)
何も聞こえず、一面に広がる黒い泥の他は何も見えない。
(それでも、あたりのしずけさがかんぜんなことと、ふうけいがたんちょうなこと、)
それでも、あたりの静けさが完全なことと、風景が単調なこと、
(まさにそれらがこころにおもくのしかかり、はきけをおこさせるようなきょうふをおぼえた。)
まさにそれらが心に重くのしかかり、吐き気を起こさせるような恐怖を覚えた。
(たいようはぎらぎらとてり、くもひとつないむじひなそらはくろいといってもよく、)
太陽はぎらぎらと照り、雲ひとつない無慈悲な空は黒いと言ってもよく、
(あたかもあしもとのまっくろなぬまちをうつすかのようだった。)
あたかも足元の真っ黒な沼地を映すかのようだった。
(ざしょうしたぼーとにはうようにはいりこみながら、このじょうきょうをせつめいするりくつは)
座礁したボートに這うように入り込みながら、この状況を説明する理屈は
(たったひとつしかないときづいた。かざんがかつてないきぼでりゅうきしたことで、)
たった一つしかないと気づいた。火山がかつてない規模で隆起したことで、
(かいていのいちぶがすいめんにもちあがり、そこしれぬしんかいになんびゃくまんねんも)
海底の一部が水面に持ち上がり、底知れぬ深海に何百万年も
(かくれていたりょういきがあらわれたにちがいない。)
隠れていた領域が現れたに違いない。
(あしもとにあらわれたあたらしいとちはだだっぴろく、いくらみみをすませても、)
足元に現れた新しい土地はだだっ広く、いくら耳を澄ませても、
(かすかなみおとさえきこえない。そしてまた、しがいをあさるかいちょうもいない。)
かすか波音さえ聞こえない。そしてまた、死骸をあさる海鳥もいない。
(すうじかん、ぼーとのなかでかんがえ、おもいなやんだ。ぼーとはそくめんをしたによこたわっており、)
数時間、ボートの中で考え、思い悩んだ。ボートは側面を下に横たわっており、
(たいようがそらをうごくにつれ、わずかなひかげをつくってくれた。じかんがたつと、)
太陽が空を動くにつれ、わずかな日陰をつくってくれた。時間が経つと、
(じめんのねばつきはすくなくなった。もうすこしすれば、あるいてうごくのにじゅうぶんなほど)
地面のねばつきは少なくなった。もう少しすれば、歩いて動くのに十分なほど
(かわくようにおもえた。そのよるは、ほとんどねむれなかった。)
乾くように思えた。その夜は、ほとんど眠れなかった。
(よくじつ、しょくりょうとみずをまとめた。きえうせたうみときゅうえんのかのうせいをもとめて、)
翌日、食料と水をまとめた。消え失せた海と救援の可能性を求めて、
(りくろをいくじゅんびである。)
陸路を行く準備である。
(みっかめのあさ、じめんはかんたんにあるけるほどかわいていた。さかなのふしゅうはひどかったが、)
三日目の朝、地面は簡単に歩けるほど乾いていた。魚の腐臭はひどかったが、
(もっとじゅうようなことにかんしんがあったので、そんなささいなことは)
もっと重要なことに関心があったので、そんなささいなことは
(きにならなかった。そしてみちのもくひょうにむけ、だいたんにしゅっぱつした。)
気にならなかった。そして未知の目標に向け、大胆に出発した。
(いちにちじゅう、にしへむかってゆっくりすすんでいった。)
一日中、西へ向かってゆっくり進んで行った。
(なだらかにきふくするあれちのとおくにある、ほかのところよりもりあがっているおかを)
なだらかに起伏する荒れ地の遠くにある、他のところより盛り上がっている丘を
(もくひょうにした。そのよるはやえいし、つぎのひもおなじおかにむけてあるいた。)
目標にした。その夜は野営し、次の日も同じ丘に向けて歩いた。
(しかし、さいしょにそのおかをみつけたときとくらべ、)
しかし、最初にその丘を見つけた時と比べ、
(まったくちかづいていないようだった。よっかめのゆうがた、)
まったく近づいていないようだった。四日目の夕方、
(おかのふもとにたどりついた。とおくからみたときよりおかはずっとたかい。)
丘のふもとにたどり着いた。遠くから見た時より丘はずっと高い。
(たにがあるせいで、まわりのへいちとくらべておかのきふくがくっきりわかる。)
谷があるせいで、周りの平地とくらべて丘の起伏がくっきり分かる。
(のぼるにはつかれすぎていたので、おかのかげでねむった。)
登るには疲れすぎていたので、丘の陰で眠った。
(なぜかはわからないが、そのよるはきょうきじみたゆめをみた。かけはじめの、)
なぜかは分からないが、その夜は狂気じみた夢を見た。欠け始めの、
(げんそうてきなかたちのつきがひがしのへいげんにたかくのぼるまえに、つめたいあせをかいてめをさまし、)
幻想的な形の月が東の平原に高く昇る前に、冷たい汗をかいて目を覚まし、
(もうねむらないことにきめた。さっきのゆめをもういちどみるのは、)
もう眠らないことに決めた。さっきの夢をもう一度見るのは、
(とてもたえられないからだ。つきのひかりをあびながら、にっちゅうにあるいてきたのは)
とても耐えられないからだ。月の光を浴びながら、日中に歩いてきたのは
(ばかなことをしたとおもった。しゃくねつのたいようがなかったら、)
馬鹿なことをしたと思った。灼熱の太陽がなかったら、
(あるくのはもっとらくだった。)
歩くのはもっと楽だった。
(じっさい、にちぼつじにはちゅうちょしたが、いまならおかにのぼることができそうなきがした。)
実際、日没時には躊躇したが、今なら丘に登ることができそうな気がした。
(にもつをまとめ、おかのちょうじょうをめざしてしゅっぱつした。)
荷物をまとめ、丘の頂上を目指して出発した。
(きふくするへいげんのとぎれないたんちょうさのせいで、いいようのないきょうふを)
起伏する平原の途切れない単調さのせいで、言いようのない恐怖を
(かんじることはいぜんにかいた。しかし、ちょうじょうについておかのはんたいがわにある)
感じることは以前に書いた。しかし、頂上に着いて丘の反対側にある
(かぎりなくふかいきょうこくをみおろしたときのきょうふはさらにひどいものだった。)
限りなく深い峡谷を見下ろした時の恐怖はさらにひどいものだった。
(つきはまだひくく、くらいきょうこくのおくまでてらしてはいない。)
月はまだ低く、暗い峡谷の奥まで照らしてはいない。
(まるでじぶんがせかいのはてにたち、そのふちから、えいえんにおわらないよるの、)
まるで自分が世界の果てに立ち、その縁から、永遠に終わらない夜の、
(そこなしのこんとんをのぞきこんでいるようにかんじられた。きみょうなことに、)
底なしの混沌を覗きこんでいるように感じられた。奇妙なことに、
(きょうふをかんじながら、「しつらくえん」と、かたちのないやみのくにからのぼってくる)
恐怖を感じながら、「失楽園」と、形のない闇の国から登ってくる
(おそろしいまおうのすがたとが、こころにうかんだ。)
恐ろしい魔王の姿とが、心に浮かんだ。
(つきがそらたかくのぼるにつれ、たにのけいしゃはおもったよりきりたっていないことが)
月が空高く昇るにつれ、谷の傾斜は思ったより切り立っていないことが
(わかってきた。いわだなやろしゅつしたいしがくだっていくのにさいてきなあしばになっていて、)
分かってきた。岩棚や露出した石が下っていくのに最適な足場になっていて、
(すうひゃくふぃーとのきゅうなくだりをすぎれば、さかはおだやかになっているようだった。)
数百フィートの急な下りを過ぎれば、坂は穏やかになっているようだった。
(ふかかいなしょうどうにかられ、くろうしながらいわをはいおり、)
不可解な衝動に駆られ、苦労しながら岩をはい降り、
(そのしたのゆるやかなさかにたった。そして、いまだひかりがさしたことのないまっくらな)
その下のゆるやかな坂に立った。そして、未だ光が射したことのない真っ暗な
(そこをのぞきこんだ。ふとちゅういをひかれたのは、ぜんぽうおよそ100やーどの)
底を覗きこんだ。ふと注意を引かれたのは、前方およそ100ヤードの
(ところにそそりたつ、むかいのしゃめんにあるおおきくてきみょうなぶったいだった。)
ところにそそり立つ、向かいの斜面にある大きくて奇妙な物体だった。
(それは、こうどをますつきのひかりにてらされて、しろくかがやいていた。)
それは、高度を増す月の光に照らされて、白く輝いていた。
(きょだいながんせきであることは、すぐにわかった。しかし、そのかたちやいちが)
巨大な岩石であることは、すぐに分かった。しかし、その形や位置が
(しぜんのちからだけによるのではないといういんしょうもつよくうけた。)
自然の力だけによるのではないという印象も強く受けた。