ダゴン   H. P. ラヴクラフ ②

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投稿者投稿者ヒマヒマ マヒマヒいいね3お気に入り登録
プレイ回数1620難易度(4.5) 5209打 長文
大戦中、太平洋でドイツ軍に襲われた男が迷い込んだ場所は・・・
異世界で異形に遭遇した男の体験。

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問題文

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(さらによくみているうちに、いいようのないかんかくをおぼえた。とほうもなくおおきく、)

さらによく見ているうちに、言いようのない感覚を覚えた。途方もなく大きく、

(かいていにぽっかりひらいたみぞにちきゅうができてまもないころから)

海底にぽっかり開いた溝に地球ができて間もない頃から

(そんざいしていたにもかかわらず、そのきみょうなぶったいはかたちをととのえられたものりすであり、)

存在していたにも関わらず、その奇妙な物体は形を整えられたモノリスであり、

(そのきょたいはかこに、ちてきせいぶつによるさいくをうけ、そしておそらくはれいはいの)

その巨体は過去に、知的生物による細工を受け、そしておそらくは礼拝の

(たいしょうだったにうたがいないようにおもえた。)

対象だったに疑いないように思えた。

(きょうふでぼうぜんとするいっぽう、かがくしゃやこうこがくしゃのよろこびのようなたしょうのすりるも)

恐怖で呆然とする一方、科学者や考古学者の喜びのような多少のスリルも

(かんじながら、しゅういをさらにしょうさいにしらべてみた。つきはいまやてんちょうちかく、)

感じながら、周囲をさらに詳細に調べてみた。月は今や天頂近く、

(たにまをかこむたかいだんがいのうえをあやしくあざやかにかがやき、たにそこにはばひろいかわが)

谷間を囲む高い断崖の上を妖しく鮮やかに輝き、谷底に幅広い川が

(ながれているのがわかった。かわはわんきょくしておりじょうりゅうもかりゅうもみえない。)

流れているのが分かった。川は湾曲しており上流も下流も見えない。

(そしてみずは、しゃめんにたつあしのところまできていた。たにのむこうでは、)

そして水は、斜面に立つ足のところまで来ていた。谷の向こうでは、

(きょだいなものりすのどだいもなみにあらわれている。)

巨大なモノリスの土台も波に洗われている。

(ものりすのひょうめんにもじやそざつなちょうこくがきざまれているのをみることができた。)

モノリスの表面に文字や粗雑な彫刻が刻まれているのを見ることができた。

(ひぶんはしょうけいもじでかかれていたが、わたしのしらないものであり、)

碑文は象形文字で書かれていたが、私の知らないものであり、

(また、ほんでみたいかなるものともちがっていた。もじのだいぶぶんは、)

また、本で見たいかなるものとも違っていた。文字の大部分は、

(さかな、うなぎ、たこ、こうかくるい、なんたいどうぶつ、くじらなどのすいせいどうぶつをようしきかしていた。)

魚、鰻、蛸、甲殻類、軟体動物、鯨などの水棲動物を様式化していた。

(もじのなかには、かいていりゅうきによりできたへいちで、ふはいしたしがいをめにしたほかは、)

文字の中には、海底隆起によりできた平地で、腐敗した死骸を目にした他は、

(げんだいのせかいではしられていない、うみのせいぶつをあらわしているらしいものもあった。)

現代の世界では知られていない、海の生物を表しているらしいものもあった。

(とくにめをひかれたのは、ちょうこくのえがらのほうだった。)

特に目を引かれたのは、彫刻の絵柄の方だった。

(きょだいなさいずのおかげで、あいだにかわをはさんでもはっきりとみることができたが、)

巨大なサイズのお陰で、間に川を挟んでもはっきりと見ることができたが、

(いしのひょうめんにあさうきぼりのちょうこくがならんでいた。そのもちーふは、)

石の表面に浅浮き彫りの彫刻が並んでいた。そのモチーフは、

など

(がかのどれをしっとさせるようなものだった。)

画家のドレを嫉妬させるようなものだった。

(ちょうこくはにんげん、すくなくともあるしゅのにんげんをあらわしているようだった。)

彫刻は人間、少なくともある種の人間を表しているようだった。

(ただ、その「にんげん」は、かいていのどうくつでさかなのようにたわむれ、)

ただ、その「人間」は、海底の洞窟で魚のように戯れ、

(なみのしたにあるとおもわれるものりすのさいだんをおがんでいるようにみえる。)

波の下にあると思われるモノリスの祭壇を拝んでいるように見える。

(かれらのかおやすがたをくわしくのべようとはおもわない。)

彼らの顔や姿を詳しく述べようとは思わない。

(おもいだすだけできがとおくなるからだ。ぽーやぶるわーのようなさっかの)

思い出すだけで気が遠くなるからだ。ポーやブルワーのような作家の

(そうぞうりょくもおよばないほどかれらはぐろてすくだったが、いまいましいことに)

想像力も及ばないほど彼らはグロテスクだったが、忌々しいことに

(ぜんたいてきなりんかくはにんげんによくにていた。みずかきのあるてあし、おどろくほどおおきくて)

全体的な輪郭は人間によく似ていた。水かきのある手足、驚くほど大きくて

(たるんだくちびる、ぎょろっとしたがらすのようなめだま、)

たるんだ唇、ギョロッとしたガラスのような目玉、

(そのほか、おもいだすのもきもちわるいとくちょうにもかかわらずだ。)

その他、思い出すのも気持ち悪い特徴にもかかわらずだ。

(きみょうなことに、「にんげん」とそのはいけいのちょうこくのおおきさは、)

奇妙なことに、「人間」とその背景の彫刻の大きさは、

(ひどくばらんすをかいているようだった。たとえば、かれらのひとりがくじらを)

ひどくバランスを欠いているようだった。例えば、彼らの一人が鯨を

(ころしているばめんで、くじらはにんげんよりほんのすこしおおきいだけだ。)

殺している場面で、鯨は人間よりほんの少し大きいだけだ。

(いまのべたとおり、かれらはぐろてすくでいようにおおきかった。)

今述べたとおり、彼らはグロテスクで異様に大きかった。

(しかしすぐに、それらはげんしてきなぎょぎょう・かいようみんぞくがこしらえた)

しかしすぐに、それらは原始的な漁業・海洋民族がこしらえた

(そうぞうじょうのかみがみだとおもった。ぴるとだうんじんやねあんでるたーるじんが)

想像上の神々だと思った。ピルトダウン人やネアンデルタール人が

(たんじょうするいくじだいもまえにぜつめつした、なんらかのしゅぞくによるものにちがいない。)

誕生する幾時代も前に絶滅した、何らかの種族によるものに違いない。

(もっともだいたんなじんるいがくしゃさえかんがえつかないかこのせかいをおもいもよらずかいまみて、)

最も大胆な人類学者さえ考えつかない過去の世界を思いもよらず垣間見て、

(いけいのねんにうたれた。かんがえこんでたちつくしていると、)

畏敬の念に打たれた。考えこんで立ち尽くしていると、

(がんぜんをしずかにながれるかわに、つきがきみょうなかげをおとした。)

眼前を静かに流れる川に、月が奇妙な影を落とした。

(そのとき、とつぜん、わたしはそれをみた。すいめんをわずかになみだたせて)

その時、突然、私はそれを見た。水面をわずかに波立たせて

(ふじょうしてきたそいつは、くらいすいめんをでて、しかいにすべりこんできた。)

浮上してきたそいつは、暗い水面を出て、視界に滑りこんできた。

(ぽりゅふぇますのようにいまわしいそのきょじんは、あくむにでてくるおそろしい)

ポリュフェマスのように忌まわしいその巨人は、悪夢に出てくる恐ろしい

(かいぶつのように、ものりすにむかってとっしんした。)

怪物のように、モノリスに向かって突進した。

(うろこのはえたきょだいなうでをものりすにまきつけると、きょじんはみにくいこうべをたれて、)

鱗の生えた巨大な腕をモノリスに巻き付けると、巨人は醜い頭を垂れて、

(ゆっくりしたいっていのこえをはっした。わたしはそのときにくるってしまったのだとおもう。)

ゆっくりした一定の声を発した。私はその時に狂ってしまったのだと思う。

(はんきょうらんでしゃめんとがけをのぼり、ざしょうしたぼーとのところにさくらんしながらもどったが、)

半狂乱で斜面と崖を登り、座礁したボートのところに錯乱しながら戻ったが、

(そのときのことはほとんどおぼえていない。おおくのうたをうたい、うたえないときは)

その時のことはほとんど覚えていない。多くの歌を歌い、歌えないときは

(きみょうなわらいごえをあげたとおもう。ぼーとにとうちゃくしてまもなく、)

奇妙な笑い声をあげたと思う。ボートに到着して間もなく、

(おおきなあらしがあったのをぼんやりとおぼえている。すくなくとも、らいめいと、)

大きな嵐があったのをぼんやりと覚えている。少なくとも、雷鳴と、

(しぜんがもっともあれくるったときにしかはっしないようなごうおんをみみにしたとおもう。)

自然が最も荒れ狂った時にしか発しないような轟音を耳にしたと思う。

(きがつくと、さんふらんしすこのびょういんにいた。あめりかせんのせんちょうが、)

気が付くと、サンフランシスコの病院にいた。アメリカ船の船長が、

(うみのまんなかでわたしのぼーとをみつけ、びょういんまではこんでくれたのだ。)

海の真ん中で私のボートを見つけ、病院まで運んでくれたのだ。

(さくらんしながらおおくのことをはなしたが、ほとんどあいてにされなかった。)

錯乱しながら多くのことを話したが、ほとんど相手にされなかった。

(たいへいようじょうでだいちがりゅうきしたことについて、きゅうじょしてくれたひとたちは)

太平洋上で大地が隆起したことについて、救助してくれた人たちは

(なにもしらなかった。それに、かれらがしんじられないだろうことについて、)

何も知らなかった。それに、彼らが信じられないだろうことについて、

(あれこれいってもいみがない。)

あれこれ言っても意味がない。

(いちど、ちょめいなみんぞくがくしゃをさがしだし、ぎょしんだごんにかんする)

一度、著名な民俗学者を探し出し、魚神ダゴンに関する

(こだいふぇりしてじんのでんせつについて、あいてにわらわれるようなふうがわりなしつもんを)

古代フェリシテ人の伝説について、相手に笑われるような風変わりな質問を

(したことがある。しかしすぐ、かれがぜつぼうてきなまでにじょうしきてきであるのがわかり、)

したことがある。しかしすぐ、彼が絶望的なまでに常識的であるのが分かり、

(しつもんをやめた。よる、とりわけ、かけはじめたつきがまんげつとはんげつになるころ、)

質問をやめた。夜、とりわけ、欠け始めた月が満月と半月になる頃、

(あのきょじんがみえる。もるひねをためしてみたが、やくぶつによってえられたのは)

あの巨人が見える。モルヒネを試してみたが、薬物によって得られたのは

(いちじてきなやすらぎだけで、わたしはぜつぼうてきなどれいのように)

一時的な安らぎだけで、私は絶望的な奴隷のように

(くすりからはなれられなくなってしまった。だからもう、すべてをおわらせるつもりだ。)

薬から離れられなくなってしまった。だからもう、全てを終わらせるつもりだ。

(いちぶしじゅうはかきおえた。どうほうたちにとってなにかのさんこうになるか、)

一部始終は書き終えた。同胞たちにとって何かの参考になるか、

(あるいはたんにばかにされわらわれるのかもしれない。)

あるいは単に馬鹿にされ笑われるのかもしれない。

(よくじぶんじしんにといかける。あそこでみたのは、)

よく自分自身に問いかける。あそこで見たのは、

(すべてではないにしろ、たんなるまぼろしだったのではないか?)

すべてではないにしろ、単なる幻だったのではないか?

(どいつぐんかんからにげだしたあと、さえぎるもののないぼーとでたいようにやられ、)

ドイツ軍艦から逃げ出した後、遮るもののないボートで太陽にやられ、

(たわごとをわめきながらみたげんかくではなかったか?こうじもんすると、)

戯言をわめきながら見た幻覚ではなかったか?こう自問すると、

(それにこたえるように、おそろしいいめーじがいつもせんめいにうかびあがる。)

それに答えるように、恐ろしいイメージがいつも鮮明に浮かび上がる。

(しんかいのことをかんがえようとすると、あのなまえもないいきものをおもいだしみぶるいする。)

深海のことを考えようとすると、あの名前もない生き物を思い出し身震いする。

(まさにこのしゅんかんにも、ぬるぬるしたかいていをじたばたはいまわって)

まさにこの瞬間にも、ぬるぬるした海底をじたばた這い回って

(いるかもしれない。いしでできたたいこのぐうぞうをあがめ、みずびたしのかこうがんでできた)

いるかもしれない。石でできた太古の偶像を崇め、水浸しの花崗岩でできた

(かいていのおべりすくに、やつらじしんのいまわしいすがたを)

海底のオベリスクに、やつら自身の忌まわしい姿を

(きざんでいるのかもしれない。やつらがなみからあがり、)

刻んでいるのかもしれない。やつらが波から上がり、

(あくしゅうのするかぎづめでもって、せんそうでひへいしたよわよわしいじんるいのいきのこりを)

悪臭のするカギ爪でもって、戦争で疲弊した弱々しい人類の生き残りを

(ひきずりおろすひがみえる。)

引きずり下ろす日が見える。

(りくちがしずみ、ぜんせかいがじごくえとかすなか、あんこくのかいていがりゅうきするひがみえる。)

陸地が沈み、全世界が地獄絵と化すなか、暗黒の海底が隆起する日が見える。

(おわりはちかい。どあのところでおとがきこえる。なにかぬめぬめしたきょたいが、)

終わりは近い。ドアのところで音が聞こえる。何かぬめぬめした巨体が、

(どあにぶつかっているようなおとだ。みつかりはすまい。)

ドアにぶつかっているような音だ。見つかりはすまい。

(かみよ、あのてが!まどに!まどに!)

神よ、あの手が! 窓に! 窓に!

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